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トヨタが『bZ4X』を大幅にアップデートして発売/電気自動車との生活が「当たり前の景色」となるための大きな一歩

トヨタが『bZ4X』を大幅にアップデートして発売/電気自動車が「当たり前の景色」となるための大きな一歩

トヨタがブランド唯一のEVである『bZ4X』を一部改良して発売しました。航続距離は最大567kmから746kmへ32%も向上。また480万円に抑えたグレードを新たに設定。価格、航続距離、充電といった「EVへの不安」を克服する性能を磨き上げ、EVと暮らす新しいライフスタイルの「選択肢」を広げてくれる1台になりました。

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あわてず騒がず。そっと示されたEV普及に向けたトヨタの本気

2025年10月9日、前日の新型日産リーフ日本仕様の発表を受けて立つように、トヨタが現状のラインナップで唯一のBEVである『bZ4X』を一部改良して発売することを発表しました。「一部改良」とはいえ、搭載する駆動用バッテリーの総電力量は従来の71.4kWhから74.7kWhに増量。バッテリー増量は5%弱ですが、WLTCモードの一充電走行距離は、最大567kmから746km、32%ほど伸びました。

ただし、報道陣を招いた発表会などはなし。公式サイトの車種ページで、静かにそっと「bZ4Xを一部改良」というテキストリンクが設置された程度です。とはいえ、急速充電性能の改善を含めたEV性能の成熟と向上は、フルモデルチェンジに匹敵するレベルです。

日本のEV普及が進展することを願うEVsmartブログとしては、今回のbZ4Xのアップデートには「EV性能の成熟と改良」以上に注目すべきと感じる点がありました。それは、トヨタがBEVと向き合う姿勢の変容です。

ハイブリッドを中心に据えた「マルチパスウェイ(全方位開発)」戦略を電動化=カーボンニュートラル達成の方針として明示しているトヨタは、ことに日本国内のEVシフトには慎重な姿勢を崩していませんでした。でも、今回の新型bZ4Xに関する発信では、BEVを新しいライフスタイルの主要なツールとして活用し、電気自動車があるライフスタイルをアピールするところから日本のEVシフトを進めようとする意欲が感じられます。

この時代の、当たり前の景色へ。

具体的に挙げると、まず、公式サイトの新たな車種ページのキャッチコピーが「この時代の、当たり前の景色へ。」です。改善されたbZ4Xの性能や特長に優先して、当たり前にEVがある「新しい暮らし」をアピールしています。

いろんな記事で繰り返し提言しているように、EVを快適に活用するためには「エンジン車とは異なる乗り物」であることを理解して、EVに合ったライフスタイルを楽しむ気持ちが大切です。EVはいろんな意味で気持ちいいので、新しいライフスタイルやEVに慣れてしまえば、化石燃料を燃やして走る「エンジン車には戻れない」と感じる人が大多数であるのは周知の通り。トヨタは、bZ4Xのアップデートに当たり、車種としての性能向上やパフォーマンスをアピールするだけではなく、EVがある生活を「当たり前の景色」にするための理解を広げようとしているのです。

車種ページに紐付いた特設ページでは「SWITCH ON YOUR LIFE with bZ4X」と題して、刷新されたフロントフェースや水平基調でスッキリしたインテリアなどの「デザイン」、スムーズでパワフルな加速、安定性や静粛性の向上といった「ドライビング」の特長とともに、航続距離や急速充電性能、純正の6kW充電器を用意したことや「TEEMO」という新たな充電サービスを始めることが「BEV LIFE」として紹介されています。

「SWITCH ON YOUR LIFE with BEV」と言い換えてもいいでしょう。たんにエンジン車が果たしてきた役割を置き換えるだけではなく、BEVだからこそ実現できる新しいライフスタイルへの理解を広げ、何ができるのか示すのは、とても大切な切り口だと感じます。

BEVを「より魅力的な選択肢」にするために

今回、トヨタの広報ご担当部署から説明を受ける際にいただいた資料では、一部改良のポイントとして『BEVを「より魅力的な選択肢』にするためにという見出しが最初に提示されていました。

具体的には、ユーザーの声を元にした課題として「家での充電(普通充電)」、「外での充電(急速充電)」、「クルマ」という視点を挙げた上で、「BEVをより魅力的な選択肢に」するためになされた改善点が示されています。

トヨタ説明資料から引用。

いわく「トヨタはモビリティカンパニーとして、BEVをより魅力的な選択肢とするため、クルマだけでなく、充電など環境面も含めて取り組みを実施」するとの説明が付加されています。世界のトヨタが「BEVを魅力的な選択肢にする」と明示してくれるのは、ニッポンのEVユーザーとして、とても心強く感じます。

新充電サービス「TEEMO」(改めて別記事で詳報予定)は月額基本料金は無料でeMPネットワークの充電スポットまで利用できるプランが用意されていて、新型bZ4X購入者には、系列のTEEMO充電器での充電が1年間無料(2回/月・30分/回を上限)になるキャンペーンが設定されました。

また、これも新型bZ4X購入者限定で、純正の「トヨタ6kW充電器」の本体購入費用に対し、TOYOTA Wallet QUICPay残高10万円分を還元するキャンペーンを実施(関連ページ)します。

充電無料や充電器設置をサポートするキャンペーンは他社のEVでも珍しくはない事例ですが、「SWITCH ON YOUR LIFE」というメッセージとともに、BEVをより上手に活用するための方法をサポートする意図が示されているところに、トヨタがBEVに向き合う姿勢の進展を感じます。

バッテリー控えめの廉価版バージョンを揃えたのが素敵

さらに、EVsmartブログとして賛辞を贈りたいと感じるのが、搭載するバッテリーの総電力量を57.7kWhと控えめ(これでも日常の実用的には十分に大容量ですけど)にして、価格を480万円に抑えた「Z FWD」グレードが設定されたことです。公表されている今年度のCEV補助金は新型bZ4X全車種で90万円ですから、実質購入価格は390万円と、400万円以下で買えるEVになりました。

大きなバッテリーを搭載すれば航続距離は延びますが、クルマは重く高くなり、EV普及はままなりません。これもまたEVsmartブログでは繰り返し提言しているのが、一般的なロングドライブニーズを踏まえても、大衆的EVのバッテリー容量は大きくても50kWh程度、安心して走り抜ける航続距離が350kmもあれば十二分。いたずらに航続距離を増やすことを目指すより、多くの人が買いやすいEV車種を増やして欲しい! という叫びに、トヨタが応えてくれたカタチになりました。480万円(実質390万円)というのも決して安くはないですが、今までのことを思えば大きな前進。東京都など独自の補助金制度がある自治体では、さらにお手頃です。

「マイカー購入価格は年収の4〜5割以下が目安」という定説や、高齢者を除く世帯の平均所得が約667万円(2023年※厚労省統計より)であることから、私は「実質300万円程度以下で新車購入できるEV車種が増えたらEV普及は加速する」と考えています。新型リーフの発表会では、2026年2月ごろ発表予定の「B5」が実質350万円を目標にしていることが明示されました。1月に発売されるスズキ「eビターラ」は49kWhの「X」が約399万円。CEV補助金が87万円で実質312万円です。「もうひと声!」って印象はあるものの、今までなかなか出てこなかった国産EVの車種が増え、買いやすい価格の選択肢がさらに増えてくれることを期待しています。

コストパフォーマンスがググッとアップ

新型bZ4Xは「魅力的な選択肢」となり得たのか。車両価格やコストパフォーマンスをいくつかのEV車種と比較しておきましょう。まずは、車両価格です。

eビターラはちょっと車格が異なりますが、先に引き合いに出したのでご参考まで。上から価格順に並べて、bZ4Xを赤。スバルと日産、日本メーカーの車種を緑に。輸入ブランドEVのうち、ボルボEX30、BYD SEALION 7、ヒョンデ IONIQ 5を比較対象としています。

車両価格のグラフでも、バッテリー容量を抑えた「G FWD」が、日本で買えるEVの中でもお手頃価格帯であることがわかります。500万円以下、EV普及のためにさらに望めば新車価格400万円以下の選択肢がさらに増えることを期待したいところです。

先日、『「ZE0の呪い」が解けた!【朗報】新型「日産リーフ」に日本で蔓延るEVへの偏見粉砕を期待』の記事でも紹介した、車両価格をバッテリー容量で割った「円/kWh」のコストパフォーマンス指標の比較です。BYDやヒョンデに比べるとまだ高めではありますが、リーフもbZ4Xも旧型ではもっと高めでした。全体としておおむね6〜8万円/kWh程度が市販EVの相場感として収れんしつつあり、トヨタをはじめ日産やスズキも世界で勝負できるレベルになってきていると読み取れます。

もうひとつ。車両価格をWLTCモードの一充電走行距離で割った「円/km」でコストパフォーマンスを示す指標の比較です。バッテリー74.7kWhのbZ4X Z FWD が見事にトップになりました。説明資料によると今回の改良によって「eAxleのエネルギーロスを約40%削減」したとのこと。寒冷期の急速充電前にバッテリーを温める「バッテリープレコンディショニング」機能を搭載するなど、EV性能の向上はトヨタの面目躍如といった印象です。

実際に長距離試乗や急速充電を試してみるのが楽しみです。

さらなる大衆EVなどのバリエーション拡大を期待

2022年5月の発売当初、個人ユーザーはサブスクのみでデビューしたbZ4Xについて、EVsmartブログでは「メーターにSOC(電池残量)の%表示がない」とか「急速充電出力にすぐ制限が掛かる」「電費性能を改善すべき」といった疑問や要望を提示してきました。今回の大幅なアップデートで、新型bZ4Xが魅力ある価格やEV性能を実現したことに、まずは拍手を贈りたいと思います。

その上で、繰り返しになりますが本格的なEV普及を進めるために必要なのは大衆車です。2025年上半期(2025年1月~6月)、日本市場における車名別新車販売台数(軽は除く)で上位を占める、ヤリス、カローラ、シエンタなど(ベストテンのうち8車種がトヨタ!)を検討する顧客に、営業マンが自信をもっておすすめできるEV車種が出てくれば、日本のEV普及は一気に加速するでしょう。

2025年度4月〜9月 乗用車ブランド通称名別新車販売台数
※軽および輸入車は除く(日本自動車販売協会連合会統計データより)

1位:トヨタ ヤリス(7万5349台)
2位:トヨタ カローラ(6万2852台)
3位:トヨタ ライズ(5万0111台)
4位:トヨタ ルーミー(4万8712台)
5位:トヨタ シエンタ(4万6816台)
6位:ホンダ フリード(4万1235台)
7位:トヨタ アルファード(3万9849台)
8位:トヨタ ヴォクシー(3万9050台)
9位:トヨタ ノア(3万8434台)
10位:日産 ノート(3万7070台)

さらに、アルファードやヴォクシーといった車種に相当するEVミニバンなど、EVとして魅力的な車種のバリエーションが広がれば、日本市場はもとより、EVが中心となっていく世界の自動車市場における王座を守り続けることができるはず。

日本の屋台骨を支えるトヨタの、次の一手に期待しています。

取材・文/寄本 好則

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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