トランプ政権が自動車排出基準を過去のレベルに戻す

電気自動車に買い替えるにしろガソリン車に乗り続けるにしろ、排出ガスを減らして温暖化を少しでも食い止めようとするのが世界の潮流になっている中、アメリカのトランプ政権が時代に逆行する政策を発表しました。CleanTechnicaから全文翻訳でお送りします。

トランプ政権が自動車排出基準を過去のレベルに戻す

アメリカ環境保護庁からの発表はこちら
※冒頭画像はホワイトハウスの公式サイトから引用。

元記事:Trump Finalizes Auto Emissions Rollback by Steve Hanley on 『CleanTechnica

排出基準は昔の水準に逆戻り

これはエイプリル・フールの冗談ではありません。コロナ・パンデミックの渦中においてもトランプの悪政は続き、オバマ政権時代に定められた自動車排出基準を台無しにしてしまいました。前の経済危機の際に、政府から養分を吸うため大騒ぎしていた主要自動車メーカーはその時の基準に合意しましたが、直後に合意案の水準を低くするためロビー活動を始めました。3月31日、遂に彼らは願いを叶えました。しかもかなりのおまけ付きで。

素晴らしいニュースです!私達が作った新しい安全車両規制により、アメリカ家庭ではより安全で手が届きやすく、環境に優しい車を買うことができます。古くて安全ではないおんぼろ車を手放しましょう。より安全でベターなアメリカの車を作り、雇用を生み出しましょう。アメリカ産を買おう!

以前の基準に戻すのを正当化するために使われた論理はこういうものです:排出ガスをコントロールするにはお金がかかる。過去10年ほどの自動車価格増加分はすべて、これらの厄介な排出基準に合わせるために生じたものだ。新しい車は古い車よりも安全である(トランプワールドにいる超頭脳明晰集団によると、車をより安全に作るためのコストはまったくかからないらしいです)から、排出基準を過去のレベルに引き戻せば、より多くの人が新しく、安全な車を手に入れることができる。(そして自動車メーカーは、結果として何十億ドルの収益をまんまと手に入れられる、でもそんな事は気にするな)

悪政に論理は通じない

ツイートを1つ送るだけの時間があれば、小学生でもこのうわべだけの理屈を透かして見られるでしょうが、論理とはこの悪政と相容れないものです。政府によるすべての規制は悪いものだ。だから社会や環境にかかるコストがどれだけになろうとも、ビジネスが利益を上げられるように、すべての規制は可能な限り追いやられなければならない。今日作れるお金がある。数百年や数十年起こらないかもしれない惑星のオーバーヒートなんて知るもんか。事が起こった際に生きている人に心配させておけば良い、自分達には関係がない、と。

ニューヨーク・タイムズによると、今より多くの排出ガスを許容すると、新車が寿命を迎えるまでの間に、今までの基準下より10億トン多い二酸化炭素が既に負担過多の大気へ加えられます。もしくはEUの基準がアメリカで適用された仮定に比べても、数億トン余計になります。

より低い排ガス基準は、「政権がトランプ大統領の公約である規制環境の改革を実行するため、そして前政権が経済にもたらした影響をなかったことにするための最重要事項だ」と、エネルギー研究所(The Institute for Energy Research)の代表であるトーマス・J・パイル氏は言います。研究所自体は、フェイク・ニュース支持者の集まりで拡大を続けているコーク・インダストリーズの手下です。

すべての人が同意するわけではありません。デラウェア州代表の上院議員であり、上院環境委員会のランキング・メンバーでもあるトーマス・R・カーパー氏は、「これは完全に無責任なケースだ」と言っています。

既存の基準下では、平均的な自動車群の燃費が2025年までに54mpg(23km/ℓ)まで向上するとされています。しかし新しい基準では、40mpg(17km/ℓ)までしか伸びません。多くの人がこれらの数値が実行不可能な程高いと見るでしょうが、実は罠があるのです。

平均の燃費はEPA(環境保護庁)に見直された以前の古い公式を使って算出され、かなり甘い数値になっているのです。もし企業平均燃費(CAFE)の数値が新しい計算式で出されていたら、54mpgではなく38pmg(16km/ℓ)というのが現実的な数値でしょう。今日路上を走っている車で既に2025年基準を越えているものは多くあります。

キャデラック・エスカレード。画像はGM公式サイトより。

他のワイルドカードとしては『フットプリント・ルール』と呼ばれるものがあり、車体が大きくなるにつれ、目標値はより低く課されます。アメリカではSUVやトラックの売り上げが増えてきており、38mpgという数値でさえ愚かなピックアップトラックやキャデラック・エスカレードなどには適用できません。またしても、アメリカはリーダーシップではなく利己主義を選び、世界のリーダーを構成する1カ国という評判を回復するところから一歩遠ざかったのです。

(翻訳・文/杉田 明子)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 色々情報をありがとうございます。このような論文を拝見したりすると、自分の視野も広がり楽しいですね。
    皆さんの記事も、電気自動車を軸としてエネルギー、政治や社会構造へとひろがるものが多く、いつも勉強させていただいています。

  2. ありがとうございます。水電解の効率は原理的に40%くらいでしたかね。

    米海軍は原子力空母を核として世界の戦地へ派遣されますが、原子力空母以外の船舶や航空機、車両のほとんどはエンジンで動作します。そのため、海軍が行動し続けるためには本土からはるか現地へ石油を供給し続ける必要があり、その負担やリスクが大きいものと思います。

    そのため、原子力空母の(事実上無限の)原子力エネルギーをもとに、(水素ではなく)炭化水素燃料をつくり、既存の船舶や航空機、車両向けのエンジン向け燃料とする仕組みを構築しようという記事なのかなと認識していますがどうでしょうか。

    もしこの記事がそうであれば、そのような「エネルギーから石油を作る」技術についてのご知見があればと思い質問させて頂いた次第です。例えば以下のような記事も関連があるのかなと思いますがどうでしょうか。
    https://wired.jp/2008/01/15/太陽光利用で、co2から液体燃料を作る/

    (エネルギー効率という意味では、エネルギーを水素へ変え、炭化水素へ変え、燃焼してエネルギーを取り出すので効率は低いでしょうが、米海軍のように有用性があれば実現化する事もあるのかなと)

    1. 松平けん 様、有用なリンクをありがとうございます。
      私もあまりよく知らないのでちょっと調べてみましたが、例えばエタノールなどはすでに米国ではガソリンに混ぜ込まれて使用されているので、将来的に再生可能エネルギーで燃料を生産するもしくは、エネルギーを貯蔵してあとで使う、というシナリオは検討されているようです。
      https://dx.doi.org/10.1371%2Fjournal.pone.0022113
      こちらの論文では、生成したバイオ由来燃料(バイオエタノール・バイオブタノール・バイオディーゼル・水素など)を使って車を走らせる場合、どの方法が効率が高いか、という点を比較しているようです。これを見ると驚くほどのBTF(バイオマスから燃料への変換)および、ご存知の通りエンジンまたは電気自動車という変換の組み合わせが存在しているようです。私の読解力はあてになりませんが(汗、当論文では、Figure 7のように、いったん燃料をsyngas(一酸化炭素と水素の混合ガス)→燃料電池スタック、もしくは燃やして水蒸気を作って発電して電気自動車を動かすのが効率の上では良さそうと結論付けています。
      ただそれじゃ松平様がおっしゃるような貯蔵ができませんよね。
      密度はどうか分かりませんが、私はこの論文で初めてS-FCVというのを知りました。
      https://en.wikipedia.org/wiki/Sugar_battery
      お砂糖の燃料電池ですね。これなら貯蔵もできるのかも。残念ながら化石燃料を途中で経由するプロセスは、今までのエコシステムが使えるので楽ではあるのですが、あまり効率自体は良くないようです。
      排出を減らすという主目的のもと、現行の(安くなった)化石燃料の使用に対し炭素税等のペナルティが課せられない限り、液体の炭化水素燃料をバイオマスで作る試みは、効率の点から現時点ではまだブレークスルーがなさそうに思えました。

  3. いつも記事拝見させていただいており、大変勉強になっています。
    トランプ政権以前のエネルギーに関する以下記事で、米海軍研究試験所が炭化水素燃料の開発を進めているとあります。これらの分野の記事について皆様のご意見を伺いたいです。
    自分の認識では、「石油からエネルギーは取り出せるが、エネルギーから石油を取り出せないという現状を脱却し、原子力空母などのエネルギーから炭化水素燃料をつくり、既存の航空機や船舶を動かす」という意味かと思っていましたが正しいでしょうか。
    記事には「海水を燃料に変える」とあり、水が石油になるような錯覚を覚える書き方ですが、正しい解釈を知りたいです。皆様はご知見ございますでしょうか。
    https://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n201404150166

    1. 松平様、コメントありがとうございます。記事を拝見すると水素とはっきり書いてますので、これは水電解のことだと考えられます。この装置は日本でもホンダなどが、自治体の災害対策用などに一般販売しており、技術的には確立されています。
      問題は効率です。結局、海水にはエネルギーがありませんから、それを水素に分解するにはエネルギーが必要で、もちろん水素を取り出すのに必要なエネルギーは、水素から得られるエネルギーより大きいのです。
      お分かりの通り、産業ベースでは、見込みのない技術と言えます。ただし、災害対策などでやむなく燃料が必要で、電力は送電されている場合、電力を無駄遣いして水素燃料を得ることはできる、ということだと思います。しかしこれも、電気自動車があるなら、電気が来ているならそれをそのまま充電するだけで走れるので、水素を介する意味はないと思います。
      ちなみに電気から水素を水電解で作る場合、その水素を動力として(=水素燃料電池自動車)車を走らせると仮定すると、電気自動車と比較して効率は約1/3となります。

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この記事の著者


					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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