公共用のEV普通充電器で日本最速級となる最大9.6kWの高出力タイプがEV充電エネチェンジから登場、運用が開始されました。早速、筑波サーキットに設置された初号機を試してきました。利便性の向上は間違いなく、適切な場所への普及が進めばEV充電の常識が変わるかもしれません。
稼働初日に9.6kW普通充電を体験

そもそも、日本で標準的だった普通充電器(AC)の出力は3kW(200V×15A)です。最近増えてきている6kW(200V×30A)の充電器は「高出力」「倍速」などと言われています。新登場の9.6kWは「3倍速」以上ということになりますね。
今回、「EV充電エネチェンジ」を運営するミライズエネチェンジ株式会社が茨城県下妻市の筑波サーキットに設置した9.6kW普通充電器は、昨年12月の展示会『Startup JAPAN EXPO 2025 in 大阪』で紹介されるなどして、注目を集めていました。その第1号機が茨城県下妻市の筑波サーキットに設置されて、2026年1月19日(月)から運用をスタート。稼働初日はサーキット休業日だったのですが、取材ということで一般利用者よりも一足早く体験させてもらうことができました。
とはいえ、私のマイカーであるHonda eは、普通充電の受け入れ電力が最大6.6kW。せっかくの高出力が猫に小判なので、ヒョンデ KONA(コナ)に乗っている寄本編集長にもレポートに付き合っていただくことに。KONAは普通充電の受け入れ電流が48A(200V×48A=9.6kW)あって、9.6kW器の恩恵を十分に受けられるはずです。時間を決めて現地集合することにしました。
このほど筑波サーキットに新設された普通充電器は9.6kW器2口と、6kW器が8口の計10口。9.6kW器は6kW器5口とともに、サーキット事務所などがあるP2駐車場の一角に設置されています。残りの6kW器3口はメインスタンドの裏側にあるP4駐車場に並んでいます。(これとは別に既存の急速充電器も稼働中)。
9.6kW器での充電はアプリからの利用限定

充電手順のスマホ画面例。編集長はうっかり71分で止めてしまったのを後悔……(理由は後述)。
私たちの待ち合わせ時刻にはちょうど、ミライズエネチェンジの担当者も現地に来ていて、担当者のマイカーであるヒョンデ IONIQ 5(同じく普通充電最大受け入れ電流48A)で作動確認をすると聞いて、まずはIONIQ 5とKONAのヒョンデ2台で充電を試してみることにしました。
「EV充電エネチェンジ」は白地に赤いロゴがイメージカラーですが、9.6kW器は落ち着いた環境色になっています。6kW器との違いは色だけではなく、9.6kW器の充電器本体には液晶ディスプレイもついています。充電器を識別するQRコードも、ステッカーなどが貼られているのではなくて、そのディスプレイに表示されるようになっていました。
また、6kW以下の充電器では使えるe-Mobility Powerなどの充電カード(提携カード含む)は9.6kW器では今のところ非対応で、「EV充電エネチェンジ」アプリでの利用限定となっています。

EV充電エネチェンジの6kW器は充電カードでも利用可能。
2台同時でもフル出力を発揮

認証の手順は6kW器と同様で、充電プラグを車につなぎ、QRコードを読み込めばすぐに充電がスタート。問題なく作動しました。ディスプレイには経過時間と充電電力量(kWh)、充電出力(受け入れ中の電力)が表示されます。これは便利です。
6kW器は青ランプの点灯で通電を示す仕組みですが、リアルタイムで充電出力までわかるのはうれしい改良。車内でもユーザー向けアプリでも充電出力や電力量が表示されないHonda eのような車には、とくにありがたいことです。

ディスプレイを覗くと、ヒョンデ2台の充電出力はそれぞれ9.9kW台(!)が表示されていました。9.6kWを超えているのは「電圧が210Vくらい出ているから」ではないかと推察。複数口設置の充電スポットでは電源の関係で出力制限が行われることもありますが、筑波サーキットでは全部の充電器が稼働してもスペック通りの出力で充電できるそうです。
「道の駅などの古い急速充電器にはそもそも最大出力が20kW程度の機種もあって、10kWぐらいしか出ないこともある。普通充電といいながら、確実に10kW近くで充電できるのはいいですね」と寄本編集長。
そういえば筆者も、2023年10月に千葉県内の某道の駅で出力25kWの急速充電器を使ったときに、30分で約5.3kWhしか入らなかったことがあります。低速充電器、と呼びたくなりましたっけ。
充電しながら、そんなことをあれこれ話しているうちに、EVsmartで動画を担当しているテスカスさんもテスラ モデル3で到着。ヒョンデコンビと交代して、私のHonda eとモデル3を並べて充電してみることにします。テスラの普通充電は、そもそも家庭用のウォールコネクターが最大9.6kWなので、ヒョンデの2台と同じように問題なく最大値で充電できていました(J1772アダプターが必要。また、モデル3、モデルYのRWDグレードは最大32Aとなっていて9.6kWでの充電はできません)。ちなみに、テスラのデスティネーションチャージングステーションにも、ユーザーは限定されますが9.6kW以上の出力のものがあります。

9.6kW2口を順番に、4車種で試してみました。
Honda eは残念ながら、というか、そりゃそうだよねって話ですが、最大時で6.50kWの表示でした。それでも6kW器で充電するよりはちょいと多めに入っています。Honda eの欧州向けカタログには「On Board Charger Capacity 6.6kW AC」と表記されているのですが、公表値通りの性能を確認することができました。
9.6kWの充電料金は88円/10分

充電中のモデル3のディスプレイ表示。しっかり48Aで入ってます。電圧は206Vになっていました。
コストパフォーマンスはどうでしょうか。9.6kWの充電料金は88円/10分。EV充電エネチェンジは、6kWが55円/10分、車両側の制限などで3kWだったら27.5円/10分と、充電出力に比例させた料金設定です。9.6kWでもその原則がキープされています。課金は時間制なのですが、条件によって実際の出力が大きく変動する急速充電とは違い、普通充電の場合は充電器のスペック通りの出力で充電できる(電源の状況などで出力制限が導入されるケースもありますが)ので、実質的には従量制課金と変わりません。つまり、充電器の出力を問わず1kWhあたり約55円相当ですね。
急速充電のような30分制限もありません。レースを観戦したり、サーキットで行われるイベントに参加している間は原則つなぎっぱなしでOK。1時間で10kWh近く充電されるというのは、かなりメリットが大きいと思います。
ただし、レースなどのイベント開催時は充電器を使いたいEVユーザーもたくさん集まるはずですから、満充電放置はしないように注意したいところです。
この出力なら「プチ経路充電」にも有効だと実感
100kW超といった超高出力で急速充電ができる大容量バッテリーのEVは、自宅や宿泊施設以外でちまちま普通充電を使ったりしないかもしれませんが、Honda e(35.5kWh)のような小容量バッテリー車だと、観光している間やカフェタイムのちょい足しチャージを経路充電的に利用することで、EV旅はとても快適になります。
9.6kWという「高速普通充電」は、充電インフラの可能性を広げてくれそうです。6kW器もまだ普及の道半ばなので少し気が早いかもしれませんが、いずれ9.6kW充電が一般的になれば、軽EVやマイクロモビリティのような小容量バッテリー車の使い勝手は一気に高まるはず。電動バイクでのツーリングにも十分な出力でしょう。

前述のように、日本のEV用普通充電器はかつて出力3kWが主流でした。でも、9.6kWの普通充電器設置開始を伝えるEV充電エネチェンジのプレスリリースでは、目的地充電用の普通充電器における6kW出力の割合は、2022年6月時点でわずか0.03%だったのが、2026年1月には約65%になったことが紹介されています。急速充電だけじゃなく、普通(目的地)充電インフラもどんどん進化してきているんですね。
バッテリーをたくさん積んで航続距離を伸ばし、超高速の急速充電網で利便性を高めるのも進化ではありますが、休憩などのたびにちょこちょこ充電しながら走らせる軽快なモビリティも魅力的です。充電インフラの未来図について、いろいろ考えさせてくれる体験になりました。
一方で、今回充電を試したヒョンデやテスラ、アウディ、BMWなど輸入ブランドのEVには最大9.6kW(48A)に対応している車種が多いものの、国産メーカーのEVは新型リーフやbZ4Xを含めて最大6kW(約30A)になっているのが現実でもあります。
2023年には「アウディが宿泊施設に8kW(40A)のEV用普通充電器を無償設置」なんてニュースもありました。2024年2月には、JARI(日本自動車研究所)の普通充電器における認証基準の上限が、これまでの6kWから10kW(50A)へと引き上げられました。今回のような9.6kW器が「公認」のインフラとして普及する土壌はすでに整っています。
充電インフラの選択肢を広げ、そのメリットをより多くのEVユーザーが存分に活用するためにも、充電インフラと車両がともに進化していくことに期待したいところです。
サーキットでのEVオフ会も大歓迎

メインスタンドに近いP4駐車場にも6kW器3口を設置。
この日は、筑波サーキット業務課の担当者がテストを見守ってくれていたので、充電器設置の狙いを聞いてみました。
「筑波サーキットでは日本電気自動車レース協会(JEVRA)が主催するEV-GPや、eレース協会のEV Dayなども毎年開催していて、EVで来場されるお客様も増えています。充電器を増設することで、サービス向上につながれば、という思いです。いずれはEVオーナーズミーティングなどを開いていただけるとうれしいですね。土日にはサーキットで何かしらイベントをやっていることが多いですし、ミーティングにサーキット体験走行を組み合わせたりすることもできますよ」
1時間ほど(71分)KONAを充電した寄本編集長は「自宅を出てきた時のSOC(バッテリー残量)に戻った」とニコニコ顔でした(東京〜筑波サーキットは約80km)。私のHonda eは、9.6kWはオーバースペックなので主に6kWのほうを使って2時間ほど充電しましたが、同じく出発時よりSOCが増えていて、東京=筑波を経路充電なしで楽々往復することができました。
ついでにプチお得情報も。度々利用しながら今まで気付いていなかったのですが、EV充電エネチェンジの料金設定は10分単位です。つまり充電開始から11分で止めると、20分相当の料金が課金されてしまいます。10分、20分、30分……とジャストタイムで打ち切るのがお得、というより損をしない方法です。
ミライズエネチェンジでは、2026年度以降、この9.6kW器をラインアップに加え、新たな選択肢として展開していくとのこと。「すべての拠点へ一律に導入するのではなく、施設特性や利用ニーズを丁寧に見極め、高出力のメリットが最大化される場所から戦略的に導入を進めていく」(同社担当者)方針だそうです。
EVユーザー的に考えてみると、2〜3時間程度の滞在が多いと思われるショッピングセンターのような場所に9.6kW器が増えると便利だと思います。また、高速道路SAPAや道の駅の「充電選択肢」に加われば、急速充電器のような30分制限を気にすることなくゆったりとレストランでの食事やショッピングを楽しめます。
9.6kW器のさらなる普及に期待していますが、いまのところ利用可能なのはここの2台だけ。3月28日(土)には、市販EVで競うシリーズ戦「EV-GP」の2026年開幕戦が筑波サーキットで開催予定です。レース観戦のついでに、新型充電器の使い心地を試してみるのはいかがでしょうか。
取材・文/篠原 知存






コメント