『タイプ2』が真新しいEVになって復活
フォルクスワーゲンは2022年3月9日(現地時間)、オンラインで新型の電気自動車(EV)『ID. Buzz(アイディー・バズ)』と、商用タイプの『ID. Buzz Cargo』を2022年秋から欧州で発売することを発表しました。いろいろ調べてたら少し遅くなってしまいましたが、気になるポイントを紹介します。
一部の国では5月から先行予約を受け付けます。価格はまだ発表されていません。また具体的にどこの国で先行予約が始まるかということも、まだ発表されていません。
日本の予定についてフォルクスワーゲン広報に確認したところ、「日本も人気が高い国のひとつなので、ぜひという声はいただいている」ものの、具体的なことについては「現時点では未定」とのことでした。待望の1台なのは間違いないので、本国に向かって導入実現をお祈りしたいと思います。
発表されたデザインは、最終形ではないものの、ほぼ量産型と言っていいようです。リリースには「生産車に近いコンセプトカー」と注釈があります。
フォルクスワーゲンを背負って立つモデルか
『ID. Buzz』と『ID. Buzz Cargo』は、すでに周知だとは思いますが、1950年代から60年代にかけて北米などで人気を集めた『タイプ2』、愛称『Bulli(ブリー)』を現代の技術で復活させたEVです。発売について、フォルクスワーゲン乗用車ブランドのラルフ・ブラントシュテッター取締役会会長はこう話しています。
「『ID. Buzz』は、電気の時代における本物のアイコンモデルです。このモデルは、フォルクスワーゲンだけが作ることができるクルマです。(中略)1950年代、フォルクスワーゲン『Bulli』は自動車の世界に、自由、独立心、エモーショナルな感情といった、まったく新しい感覚をもたらしました。『ID. Buzz』は、このライフスタイルを、現代へと移植します」
フォルクスワーゲンにとって『Bulli』が特別な車であることが、このコメントから感じられます。
そしてブラントシュテッター会長は、「このモデルは、私たちのACCELERATE』戦略の主要なテーマを、初めて1つの製品にまとめたクルマです」と結びました。
『ID. Buzz』は、フォルクスワーゲンの中長期戦略を背負って立つ車ということですね。万が一にもコケられないというプレッシャーは相当なものと思いますが、外野としては楽しみしかありません。
電池搭載量は77kWhで170kW充電に対応
では21世紀の『Bulli』はどんな車なのでしょうか。現時点で公表されている内容をざっと紹介します。
『ID. Buzz』と『ID. Buzz Cargo』は、どちらもフォルクスワーゲンのEV用プラットフォーム、MEB(モジュラー エレクトリック ドライブ キット)を採用しています。フラットな床面は、このタイプの車には最適です。
乗車定員は、『ID. Buzz』は5人、『ID. Buzz Cargo』は2人~3人です。3人の場合はベンチシートになります。個人的には1BOXのベンチシートは大好きです。
バッテリーは、搭載容量は82kWhで、実用域は77kWhです。モーターの最高出力は150kW、駆動は後輪駆動です。モーターも当然後輪の車軸並びに搭載しているので、いわばRRです。やっぱりタイプ2はこれですよね。
ちなみにフォルクスワーゲンは2011年3月のジュネーブショーで、『Bulli』をEVにしたコンセプトカーを発表したことがありました。この時は前輪駆動でした。当時の記事を見るとバッテリーは40kWhです。
それから10年が経ち、きちんとRRになり、バッテリー容量も増えたのは、電動車技術の進歩を示しているようです。『Bulli』がFFではサマになりません。
充電の対応出力は、急速充電がCCSの170kW、普通充電は最大11kWです。嬉しいことにV2Hに対応しています。ただ詳細はまだ発表されていませんし、CHAdeMO対応でどうなるのかも未知数ではあります。
また、将来的にプラグ&チャージ(充電プラグを接続するだけで認証&課金が行われるシステム)にする方針も発表されました。コネクターを接続するだけで車が認識されて課金なり充電なりが実行されるというのは、ガソリン車には真似できない、EVならではのメリットです。今後は、やらないなんて選択肢はありえないのではないでしょうか。ただしこれも欧州向けの発表なので、日本のCHAdeMOでどうなるのかは不透明です。
大きな荷室が特徴的な商用タイプ
車のサイズは、全長4712mm×全幅1985mm×、全高1937mm(または1938mm)です。ホイールベースは2988mmと長大です。このホイールベースの長さもあって、商用車の『ID. Buzz Cargo』の荷室は奥行きが2.2m、幅が1.7mあります。
なので、日本規格で言えばサブロクの板も余裕で積めます。リリースではユーロパレットを2枚、横積みできると記載しています。
こんなふうに結構大きな車ですが、回転径は11.1m。かなり小回りがきくようです。後輪駆動の恩恵が大きいのでしょう。東京区部の細道を走るには幅が広い気はしますが、シボレーのアストロやダッジバンも東京では見かけるし、それよりは小さいし、ずっと小回りがきくので扱いやすそうです。
生産工場は、ドイツのハノーバーにあるフォルクスワーゲン商用車ブランドの工場です。今のところは、基本的に「メイド・イン・ジャーマニー」になります。
ソフトウエアの更新はOTAで行います。安全性については、他の車両や輸送インフラからの情報を統合してリアルタイムで危険を特定する「Car2X」という地域警告システムを標準装備します。このあたりは、ほかの『ID.』シリーズと共通です。
価格は700万円~800万円?
さて、前述したように『ID. Buzz』と『ID. Buzz Cargo』の価格はまだ発表されていませんが、EVsmartブログ的に勝手に予想してみます。EVは、コストの多くをバッテリーが占めるのでバッテリー容量から推測してみます。税金も含めて日本とは条件が違うため単純比較はできないので、参考程度に見てください。
参考にしたのはイギリスでの、『ID.』ファミリーの価格(税込み)です。イギリスは『ID. Buzz』と『ID. Buzz Cargo』の販売予定があります。1ポンドは160.42円にしています(2022年3月31日時点)
●ID.3 Life
価格:3万5385ポンド(約568万円)
バッテリー容量:58kWh
1kWhあたりのコスト:約9万8000円
●ID.4 Family
価格:4万4945ポンド(約721万円)
バッテリー容量:77kWh
1kWhあたりのコスト:約9万4000円
●ID.5 Tech
価格:5万550ポンド(約811万円)
バッテリー容量:77kWh
1kWhあたりのコスト:約10万5000円
1グレードしかない『ID.3』のほかは、77kWhを搭載しているグレードの中でも最も値段の安いモデルを参照してみました。
こうしてみると、アウディ Q4 e-tron やボルボ C40 Recharge に比べても、円安のせいか全体にバッテリーのコストが少し高い気がしますが、気を取り直して結果を『ID. Buzz』と『ID. Buzz Cargo』に当てはめてみます。
『ID. Buzz』と『ID. Buzz Cargo』は搭載しているバッテリー容量が77kWhなので、同じモジュールを使っているシリーズ他車から類推すると、700万円前半~800万円前半というところでしょうか。
装備が違うのであくまでも推測ですが、77kWh搭載グレードの中ではもっとも安い『ID.4 Family』でも約721万円なので、乗用車の『ID. Buzz』なら最低でもこの程度になりそうです。
商用車の『ID. Buzz Cargo』はもう少し安くなるかもしれませんが、バッテリーコストが価格決定の大きな要因だと考えると、それほど違いはないかもしれません。
ちなみに1充電あたりの航続距離は、『ID.4 Family』はWLTPで313マイル(約500km)です。そうすると、日本でも90kWクラスの高出力急速充電に対応してくれればそんなに走れなくてもいいので、バッテリー容量を減らした低価格バージョンがあるといいなあと思うのです。
まあ、どちらにしてもおいそれと買える価格ではありませんが、価格に対する感覚は日本と欧米先進国の物価の違いも関係しているかもしれません。ランチ1回が日本円で2000円程度になる欧米から見ると、日本よりも割安感がありそうです。
アメリカなどでは旧車のコンバートも
最後に、余談です。フォルクスワーゲンは『ID. Buzz』発表にあたって、俳優のユアン・マクレガーさんをアンバサダーに起用しました。ちょっと昔の映画ですが「トレイン・スポッティング」とか、最近ではスター・ウォーズ三部作でオビ=ワン・ケノービ役で出演していましたね。
マクレガーさんは子どもの頃から家に『フォルクスワーゲン・ビートル』があり、自分でも何台も乗り継いでいて、今は『T1』シングルキャブトラックをEVにコンバートして日常的に使っているそうです。なるほど、アンバサダーにぴったりです。
The world premiere of the ID. Buzz(YouTube)
そんなマクレガーさんの車遍歴を『ID. Buzz』と『ID. Buzz Cargo』の発表イベントで紹介していたのですが、そういえばフォルクスワーゲンは、ドイツ・シュツットガルトに本社を置く「eClassics」と提携し、『ビートル』や『タイプ2』などをEVにコンバートする事業も手がけているのでした(マクレガーさんの車をコンバートしたのは米国の別の会社です)。
業務提携を発表したのは2020年3月で、1966年の『T1 サンバ・バス』をフル電動の『e-BULLI』にコンバートするサービスの提供開始を発表しています。コンバート費用は6万4900ユーロ、今のレートで約885万円です。
現在の「eClassics」の公式サイトを見ると、『e-Bus T1』と『T2』、それに『e-Beetle』の3車種のコンバートを手がけているようです。コンバート用のパーツは、フォルクスワーゲンから『ID.』シリーズのものが提供されているそうです。
コンバートのサービスは欧州限定のようですが、いつか世界中で実現してほしいと思います。旧車が最新のメカニズムで蘇って使い続けられるのは心躍ります。
ということで、日本では『ID. Buzz』と『ID. Buzz Cargo』の導入も、旧車からEVへのコンバートサービスも未導入ですが、先を楽しみに待ちましょう。楽しみをあとにとっておくと、うれしさが倍増するかもしれません。
(文/木野 龍逸)
ワーゲンバスといえばオシャレなバンの代名詞やないですか!アニメ「ふたりはプリキュア」シリーズにも古い型式(TYPE-2!?)が出てきましたし、それに近いイメージなら男女を問わず人気になると思いますよ!?
日本での大きな問題は受電方式の違い。電気事業法の低圧49kW以下規定により充電速度は現状期待できませんが電池容量的に60kWhあれば問題ないでしょう。日本向け仕様を想定するのも面白いです。
CHAdeMO/V2H/V2Gなどに対応していれば移動商店にも対応できます。午前中にソーラーつき自宅兼事務所で充電して昼下がりに移動販売に出かける、そんなワークライフバランスを満たす素質のあるクルマと感じました。バンの特性上電気管理技術者としても注目の一台ですが問題は車幅かな!?(1.8m以下に抑えれば日本でも売れるはず)。
もちろんコダワリ深いユーザーも一定数いますし、駆動系部品が壊れてレストアを諦めている旧車ユーザーにはコンバートEV化もアリ。割高な価格をいかに工夫して下げるかも課題ですよ!?案として日産リーフ中古部品流用(結構出回っている)がありますが、RR仕様を考えるとホンダe/テスラ車のほうが適任かな!?(さすがにアイミーブ中古部品では力不足と感じる)。
電気に詳しい自動車エンジニアが増えれば旧車レストア市場も盛り上がると思いますよ!?こちらも可能な限り模索して見ます。