フォルクスワーゲンが360kWhを蓄電する急速充電ステーションを量産開始

2019年1月25日、フォルクスワーゲンが公式ウェブサイト上で、360kWhもの蓄電池を搭載可能な「急速充電ステーション」の量産を開始することを発表しました。

フォルクスワーゲンが360kWhを蓄電する急速充電ステーションを量産開始

【プレスリリース】
『Volkswagen Group Components to start series production of flexible fast charging station』(「フォルクスワーゲングループコンポーネント」はフレキシブル急速充電ステーションの量産を開始する)

EV用バッテリーの再活用手段でもある

このプレスリリースの中で、生産を担当する「Volkswagen Group Components」のCEOであるThomas Schmall氏は、「この急速充電ステーションは、電気自動車用電池の開発からリサイクルに至るメーカーとしての責任を果たすひとつの要素になる」という見解を示しています。この見解に続く説明によると「この急速充電ステーションはフォルクスワーゲンが開発中のMEB(電気自動車専用プラットフォーム)のバッテリーパッケージ技術に基づいており、その電池セルを使用するよう設計されています。つまり、急速充電ステーションが電気自動車のバッテリーにセカンドライフを提供します」とのこと。

世界に先駆けて100%電気自動車(BEV)であるリーフを発売した日産が「フォーアールエナジー株式会社」を立ち上げてリチウムイオン二次電池のリサイクルに取り組んでいるように、今後、本格的にBEVの量産に取り組むフォルクスワーゲンも、電池リサイクルに関するひとつの具体的な取り組み方を示したといえるでしょう。

また、1月25日のプレスリリースでは、この急速充電ステーションは1950年代からエンジン車や部品の製造を続けてきたドイツ・ハノーバーの部品工場で生産されること。急速充電ステーションの生産が、従来のエンジンやエンジン車部品の製造に代わり、雇用を保護し、技術やノウハウの展開につながることに言及しています。

最大360kWhを蓄電し、複数のEVを同時に急速充電可能

では、この『flexible fast charging station』が、どんな急速充電器なのかということについては、2018年12月27日のプレスリリースで公表されています。

【プレスリリース】
『Electrifying World Premiere: Volkswagen offers First Glimpse of Mobile Charging Station』(電動化の世界を開く! フォルクスワーゲンによるモバイル充電ステーションの提言)

12月のプレスリリースで「Mobile Charging Station」だったのが、1月に「Flexible」になっているのは、さすがに「持ち運び」は言い過ぎかな、ということになったのでしょう。ともあれ、12月の発表で注目すべきポイントは「たとえば、市内の公共駐車場、会社の敷地内、または大規模なイベントでの一時的な充電ポイントとして、必要に応じて電源に関係なく設置できる」という点です。

まだパイロットプロジェクトを経て開発中なので、今後も仕様が変わる可能性はあるでしょうが、公表された「モバイル急速充電ステーション」のスペックを整理しておきます。

ステーションが受電するのは、AC30kWです。日本国内の電力事情で考えても、高圧受電契約や設置費用が高額なキュービクル(高圧受電設備)が不要な電力の範疇なので、設置場所の柔軟性が高まります。

ただし、30kWだけでは急速充電器の出力としては不足します。そこで、電気自動車に搭載するには性能が劣化した、でも、蓄電用としては十分に性能を保った電池セルを再利用して、最大360kWhを蓄電します。プレスリリースでは、この360kWhの電力で「15台の電気自動車に充電可能(1台が1回に充電するのは24kWh程度という想定)」としています。

ステーションからは複数の充電器として出力。最大100kWの急速充電器(DC)2台と、普通充電器(おそらくAC6kW程度でしょう)2台の接続を想定しているようです。日本国内でも、利用頻度が高い高速道路SAの急速充電器では「充電待ち」の問題がクローズアップされ始めていますが、大容量を蓄電して複数台に接続できる急速充電器というアイデアは、とても合理的ではないかと感じます。

プレスリリース中で、もうひとつ注目すべき一文があります。

「急速充電ステーションの電池には、24時間充電することができます。したがって、電力のバッファリングや、ピーク時の電力系統への負担軽減にも貢献します」

日本が主導するチャデモ協議会が中国との共同開発を進めている「超高出力充電システム(最大900kWの出力を想定)」では、系統電力から高圧で受電することが想定されていますが、この急速充電ステーションのように「大容量蓄電」を組み合わせて考えれば、よりコストパフォーマンスの高い超急速充電システムの実現が可能ではないでしょうか。

再生可能エネルギーの活用という点でも、大容量蓄電池が急速充電インフラを兼ねて普及させやすいことには、大きなメリットがあるでしょう。Volkswagen Group Components の技術開発責任者である Mark Möller氏も「電気自動車は持続可能な方法で発電された電力で充電された場合にのみ、CO2に中立な移動手段だといえます。この急速充電ステーションは太陽光や風力エネルギーで充電することができ、その電力で電気自動車を充電できるのです」と述べています。

JFEの蓄電池内蔵型急速充電器は新東名岡崎SAなどに設置されています。

日本では、JFEテクノス株式会社が蓄電池内蔵型の急速充電器をリリース(蓄電量は12kWh)しています。また、ヨーロッパではポルトガルの「efacec」社が38kWh(その他容量は受注生産)の蓄電池を備えた急速充電器を発売しています。横浜の日産グローバル本社では、初期型リーフ発売直後から4台分(96kWh)の電池を活用して太陽光発電の電気を蓄電しているという報道もありました。さらに、テスラではアメリカ国内を中心に、太陽光発電設備や蓄電池を備えたスーパーチャージャー施設をすでに何カ所か設置しているようです。でも、360kWhという程の大容量を備えた「ステーション」というコンセプトのプロダクト構想はまだ聞いたことがありません。

【2011年7月/日産のプレスリリース】
『太陽光で電気自動車を充電』

いいアイデアはどしどし採用して、ブラッシュアップするのが伝統的な日本の強み。大容量蓄電池を備えた急速充電ステーションというアイデアは、まさにフォーアールエナジー&日産がチャレンジすべきとも感じるのですが、中古電池の供給量など、実現へのハードルがまだ高いのでしょうか。ともあれ、急速充電インフラは発展途上。今回のフォルクスワーゲンの決断を契機として、ユーザーが使いやすく、コストパフォーマンスに優れ、自然エネルギー普及にも貢献できるような製品が増えることを期待しましょう。

(文:寄本好則)

この記事のコメント(新着順)5件

  1. kumasan さま、ヒラタツさま、コメントありがとうございます。

    私見ですが、自然エネルギー普及を中心とした新しい社会の仕組みづくりに貢献できる可能性が高いことは、EVの大きな魅力だと思っています。iMiEVや初代リーフがデビューした2010年ごろにも、GSユアサが京都の工場近くのコンビニに蓄電型の急速充電器を設置するなど、とくに太陽光発電施設との連携が注目されそうになっていたのですが、FIT政策で「普通に売電でいいだろう」という風潮が広がり、溜めて使う、溜めて回すといった一手間かける方法への動きが吹っ飛ばされていた、と理解しています。

    EVの本格普及というフェーズになって、電池のリユースという価値が大きくなって、さらにいろんな試みが広がるといいな、というのが、このニュースに触れた第一印象でした。

    VWが明確な姿勢を示したことで、「次」が続いてくるのでは、と期待しています。また、こうしたニュースがあったら取り上げてみたいと思います!

  2. EVの急速充電ステーションは、高出力化を加速する必要があるのと同時に電力インフラの蓄電設備としての役割を持たせる事が重要になってきそうです。更に再エネ発電を併設する事でEVの価値が格段に上昇するのではないでしょうか?

    1. 当方電験(電気主任技術者)3種持ちのi-MiEV(M)乗りで本職は高圧受電設備保守業です。
      岐阜県南部は日照時間の長さから再生可能エネルギーの太陽光発電所が多いですが、天候変動による配電線の電圧変動が激しく電力会社も何かと苦労していると聞きました。
      それで太陽光発電所が止まることも珍しくなく、業務柄頻繁に故障対応が必要になっています。これでは本業もあがったりでして。
      これでは再生可能エネルギーとしての価値が半減するので、廃棄バッテリーをバッファーにして電圧変動を抑制する技術が開発されれば有難いと思います。
      ソーラーパネルの直流を交流へ変換するパワーコンディショナーの使用電圧は400V前後が多く、リーフの中古バッテリーをそのまま使えるケースもありそうです…ただそれが一般化すると中古EVが出回らなくなる恐れもありますが!!(爆)
      ※200kWクラスのパワーコンディショナーで200kWh前後の蓄電池構成とすると初期型リーフ換算で33%劣化として12台分必要です。

      あと仕事仲間同士で「太陽光発電所にEV急速充電設備を設けたらどうだ?」と冗談半分で会話していますww
      ※あったらコワイ~EVがつながっているソーラー発電所~(嘉門達夫風に)

    2. ヒラタツ様、横から失礼いたします。

      >「太陽光発電所にEV急速充電設備を設けたらどうだ?」

      実際にちゃんと太陽光パネルからパワコン経由で電気を引っ張っているかどうかは分かりませんが、以下のような場所はあります。別系統かな。。
      愛川太陽光発電所 愛川ソーラーパーク
      https://evsmart.net/spot/kanagawa/l144011/v6962/
      さいたま市・東和 やまぶきエネルギーパーク
      https://evsmart.net/spot/saitama/l111007/q111104/v7650/
      あわじ佐野新島太陽光発電所
      https://evsmart.net/spot/hyogo/l282260/v11708/
      吉野ヶ里メガソーラー発電所 (てるてるの森)
      https://evsmart.net/spot/saga/l412104/v7475/

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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