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フォルクスワーゲンがエントリーモデルの電気自動車『ID. EVERY1』を公開/価格は約323万円〜

フォルクスワーゲンがエントリーモデルの電気自動車『ID. EVERY1』を公開/価格は約323万円〜

フォルクスワーゲンは電気自動車(EV)のエントリーモデルとなる『ID. EVERY1(アイディ. エブリイ1)』のコンセプトカーを発表しました。価格は2万ユーロ〜。2027年に市場投入の予定です。

目次

都市部で活躍しそうなサイズ感

フォルクスワーゲンは2025年3月10日に、コンパクトな電気自動車(EV)のエントリーモデルと位置付けた新型EV『ID. EVERY1(アイディ. エブリイ1)』を正式に発表しました。2027年に発売することを目指しています。

ID. EVERY1は2月10日に労使会議で従業員にお披露目されていました。今回は初の一般公開になります。

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ベースグレードの車両価格は2万ユーロ(約323万円)からです。フォルクスワーゲンが2026年に2万5000ユーロで投入予定の『ID. 2all(アイディ. 2オール)』の弟分になります。円安のため日本円にすると少し高い印象を受けますが、欧州ではエントリーモデルの決定版になりそうな価格設定です。

ID. EVERY1は、ID. 2allと同じFWDのモジュラーエレクトリックプラットフォーム(MEB)をベースにしています。ID. EVERY1のサイズは全長3880mmで、2023年まで生産されていた前身モデルの『up!』の3600mmと、ID. 2allの4050mmや現行『Polo(ポロ)』の4074mmの中間になります。

日本車と比べると、4050mmのトヨタ『アクア』よりもコンパクトです。都市部のモビリティーに最適ではないでしょうか。

EVが大衆車になる第一歩か

フォルクスワーゲン乗用車部門のトーマス・シェーファーCEOはID. EVERY1について、「ボリュームセグメントで最も幅広いモデルラインナップの構築を目指す私たちの取り組みを完成させる最後のピース」だと位置付け、「あらゆるお客様に適切な駆動システムを備えた適切な車を提供できるようになる」と述べています。

これまでのEVは高価格なプレミアムクラスが中心でしたが、ID. EVERY1でユーザー層を拡大し、フォルクスワーゲン(ドイツ語で「国民車」の意)の名前の通りEVを大衆車にしていく第一歩になりそうです。

ID. EVERY1とID. 2allを含めて、フォルクスワーゲンは2027年までに9車種のEVを発表する予定です。

ユーザー中心の車作りを目指す

ID. EVERY1の特徴について、フォルクスワーゲンは「人に焦点を当てる」こと、「高いカリスマ性とアイデンティティを備えた特徴的なデザイン」、「新しいMEB」を挙げています。

ひとつめの「人に焦点を当てる」に関して、フォルクスワーゲンブランドのカイグリュニッツ技術開発担当取締役は、ユーザーが定義する車という意味の「カスタマー・ディファインド・ビークル(CDV)」をキーワードにして「私たちがこれまで以上に、お客様の希望、関心、好みを車両開発の中心に据えていることを示した」と述べています。

自動車業界では「ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)」という言葉がよく使われていますが、この言葉が定義する車がどんなものなのかはメーカーによって差があり、具体的に何を指しているのかまだ明瞭ではありません。

フォルクスワーゲンが提示した「CDV」は、そんな流れに対するアンチテーゼにもとれます。

一方で、フォルクスワーゲンはEVも含めた次世代車のソフトウェア開発に苦労しているという話も伝わっています。2023年10月にはロイターが、フォルクスワーゲンのソフトウェア部門「カリアド」で人員削減の計画があると報じるなど、内製を目指していた計画が思うように進まない状況が報じられていました。

ソフトウェア開発の難渋とCDVという新たな概念が出てきたことの関連性は推測するしかありませんが、ユーザー第一というあたりまえの視点が出てきたことは、ユーザー目線で見ると歓迎できることではないでしょうか。

もちろんソフトウェア部分の進化も取り入れていて、ID. EVERY1の量産バージョンは、今後のフォルクスワーゲングループ全体で採用される新しいソフトウェアを採用する最初のモデルになります。これにより、車のライフサイクル全体で継続的に、新しい機能を搭載できるようになるとしています。

好感の持てるデザインと新しいMEB

ヒョンデ『インスター』と同様に前席までフルフラットになるようです。

ID. EVERY1のデザインは、前身モデルであるup!の印象的なデザインを引き継いでいるようです。デザイン責任者のアンドレアス・ミントはデザインの目標は「大胆でありながらも親しみやすいモデルを製作すること」だったとし、「人々が共感できる個性とアイデンティティが与えられた」と自負しています。

デザインについて好みはそれぞれなので一概には言えませんが、コンセプトモデルの形状は全体的にすっきりしていて、塊感があるほか、4ドアなのはファミリーユースにも歓迎されそうな印象です。

プラットフォームはID. 2allとも共通のMEBです。ID. EVERY1のコンセプトモデルの出力は70kWで、最高速度は130km/hと発表されています。航続距離は「少なくとも」250kmとのこと。

航続距離が250kmとして、電費が1kWhあたり7〜8kmだとすると、バッテリー搭載量は40kWh前後でしょうか。日本円で323万円くらいなので、まあ、妥当なバッテリー搭載量と感じます。

2万ユーロの高性能な小型車が最高峰の自動車

なおトーマス・シェーファーCEOは発表会のスピーチで、ID. 2allについては、すでに発表されているスポーツバージョンの『GTI』だけでなく、SUVタイプも投入予定だと明らかにしました。

シェーファーCEOは、発表会でこんなことも話していました。

「(ID. 2allのシリーズを発表したときに)誰もが“やっと、まともなフォルクスワーゲンが戻ってきた”と言っていたが、同時に、“しかし正直なところ、これだけでは不十分だ。あなたたちはフォルクスワーゲンだ。誰もが買えるフォルクスワーゲンを提供すべきだ”とも言っていた。つまりエントリーレベルのEVが必要だったということだ」

ですよねえ、と思いました。さらにシェーファーCEOは言います。

「もしあなたが、スーパーカーが自動車工学の最高峰だと思っているなら、それは間違いだ。真のチャンピオンズ・リーグは、航続距離が長く、最先端のソフトウェア・アーキテクチャを備えた高品質の車を2万ユーロ前後で開発・製造できる人たちのものなのだ」

チャンピオンズリーグは、欧州の強豪クラブが集まる最高峰のサッカーリーグです。そこで戦える車は、2万ユーロの最高の性能を持つEVだということです。ID. EVERY1への自信を表している言葉だと思います。

できれば日本でも売ってほしいところですが、世界でも希有な国産車崇拝市場では時間がかかりそうです。このサイズは日本にこそ合っていると思うのですが、これまでも欧州の小型車が日本で人気になった例はあまりない上、日本市場はEVの弱さでは先進国中トップレベルです。

でも小型EVが売れれば、EV市場は確実に広がります。踊り場と言われていますが、高価格帯の車ばかり、そんなに多く売れるわけもありません。いろいろな意味で、ID. EVERY1には期待しかありません。早く来い来い、2027年です。

文/木野 龍逸

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この記事を書いた人

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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