VWはノーコメント、国軒高科は協議を認める
フォルクスワーゲンの動きは、2020年1月17日にロイター通信が関係者の話として報じました。フォルクスワーゲンは2028年までに70モデルの電気自動車やプラグインハイブリッド車を市場に投入する計画です。2019年12月27日には、それまで年間100万台としていた電気自動車の年間生産台数目標を、150万台に引き上げました。
【ロイターの記事】
Exclusive: Volkswagen to buy 20% of Chinese battery maker Guoxuan amid electric push – sources
EV生産を強化する上で最も大きなポイントになるのが、バッテリーの調達です。フォルクスワーゲンは2019年9月にスウェーデンのノースボルト社とEV用バッテリーの合弁会社を設立することを発表しています。生産量は年間16GWhと大規模ですが、生産開始は2023年末以降になる予定です。
他方でフォルクスワーゲンは、EVやPHEVの生産量を考えると2025年以降に欧州とアジアの両地域で年間150GWh以上の需要があるという見通しを示しています。またフォルクスワーゲングループの調達部門役員のStefan Sommer氏は2019年10月にロイターの取材に対して、次のように述べています(関連記事リンク)。
「(バッテリー確保に)多くの投資をしています。しかしサムスン、CATL、LG化学、SKイノベーションのような大きな会社でも、そこまで巨額の資金を投資したがりません。市場の行き先を見ていないからです。私達はポーランドのLG、ドイツのCATLなどヨーロッパ最初のバッテリー工場を見ていますが、技術が備わった従業員の数が足りていません。全員がラーニング・カーブを通らなければいけない段階です。このせいでバッテリー供給に遅れが出るでしょう。しかし他に選択肢はないのです」
国軒高科の株式取得に向けた動きは、こうした流れの一環と言えそうです。technodeによれば国軒高科の年間生産量は2019年に3.43GWhで、業界トップのCATLの1割程度にすぎませんが、中国でEVを生産、販売する上では現地調達が必要だと考えたのかもしれません。
ロイターは、国軒高科の時価総額は28億ドルで、20%は約5億6000万ドルになると伝えています。国軒高科の株式は創設者のLi Zhen氏が管理するZhuhai Guoxuan Trading Ltdが25%を保有しているので、フォルクスワーゲンは第2位の株主になります。
フォルクスワーゲンはこの件について、1月21日時点でコメントを出していません。一方の国軒高科は1月20日にニュースリリースで、フォルクスワーゲンが株式を取得することについての協議を進めていることを認めました。
加えて国軒高科のニュースリリースでは、フォルクスワーゲンとバッテリーに関する技術、製品、資本について、将来にわたる戦略的協力を話しあっているとしています。ただし、ニュースリリース発表時点では合意に達していないことを明記しています。
【国軒高科のニュースリリース】
『关于媒体报道的澄清公告』
株式取得までするのはなぜなのか
ところで、フォルクスワーゲンは、なぜ株式取得まで視野に入れたバッテリーの調達体制構築を考えているのでしょう。ちなみにフォルクスワーゲンは、ノースボルト社は合弁会社にしていますが、バッテリーを購入している韓国のLGやSKイノベーションなどのサプライヤーについては、そこまでの関心を示していません。
理由として考えられるのは、供給元の確実な確保と、サプライチェーンの透明性確保です。
フォルクスワーゲンは中国で、上海のSAIC(上海汽車集団)との合弁事業で年間30万台、仏山市のFAW(中国第一汽車集団)との合弁事業で30万台、合肥市のJAC(安徽江淮汽車)との合弁事業で10万台のEV生産を計画しています。
【関連記事】
『フォルクスワーゲンが中国の電気自動車工場でIDの試作段階に入る』
このうちJACの拠点は今回の国軒高科と同じ合肥市です。またJACとの合弁事業だけは、フォルクスワーゲンがEV戦略の中で採用するMEBプラットフォームを使わず、独自の「SOL」という新ブランドからEVを発売する計画のようです。
ここからは完全に推測です。もしMEBを使わないとすると、価格帯も性能も他のモデルとは違うものになる可能性があります。中国市場に合わせた廉価版のEVになるかもしれません。そうしたモデル向けに国軒高科のバッテリーを使うとすると、合理性があるように感じます。
つまり、幅広いモデルに使うことができるバッテリーの調達可能量を増やすのはもちろんですが、EVのラインナップを拡充するためにも、合弁会社と同じ地域でバッテリー生産ができる会社を確保するのはメリットがあるということなのかもしれません。
別の視点から見てみると、現代企業にとって必須のグリーン調達や、ライフサイクルでのCO2排出量を管理する上では、株式を取得して発言権を強化する必要があったということかもしれません。
パリ協定の詳細は詰められていませんが、企業がCO2削減に取り組むのは投資を集めるための最低条件になりつつあります。そのために、生産工程の透明化について、投資家や社会からの要請はこれからは今以上に強まります。
加えて、自動車のCO2排出量がライフサイクル全体で捉えられるようになれば、CO2排出の比重が大きいバッテリーの生産過程を自動車メーカーが把握することが重要になります。
例えばBMWによるバッテリー素材の直接調達は、サプライチェーンの透明化促進策でもあります。BMWは2019年11月にCATLとサムソンSDIと調達契約を結んだほか、12月には中国の採掘会社とリチウムの供給契約を締結。コバルトの直接調達にも乗り出しています。
フォルクスワーゲンも国軒高科の株式取得ができれば、一般的に透明性が高いとは思われない中国系メーカーで、素材調達から生産時にかけてのグリーン化を進めやすくなると思われます。
いずれにしろ、フォルクスワーゲンが計画している年間150万台というEVの生産計画を確実に進めるためには、中国での生産強化や経営に意見を言える仕組み作りが重要なのは間違いありません。
(文/木野 龍逸)