ボルボの高性能車ブランド「ポールスター」が、電気自動車「ポールスター2」を発表

ボルボ傘下の高性能車ブランド「ポールスター」社は2019年2月27日、同社2台目の「ポールスター2」を発表しました。完全電気自動車(BEV)で2モーター・4WDの同車は、78kWhのバッテリーを積んで最大442km(EPA推定)の航続距離を達成、ナビやインフォテインメント・システムはグーグルのアンドロイドOSで動き、音声指示が幅広く可能になっています。ポールスター社は同日、予約を開始しました。

ボルボの高性能車ブランド「ポールスター」が、電気自動車「ポールスター2」を発表

2月27日、ポールスター社のCEOのトーマス・インゲンラート氏が、「ポールスター2」の発表プレゼンテーションを行いました。カジュアルな服装で黒い背景のスクリーン前に立ち、分かりやすく話す姿に、筆者などは今は亡きアップルの創業者スティーブ・ジョブス氏のプレゼンを思い出してしまいました。ネット上に公開されているので、47分ほど見続ける余裕がある方はこちらをどうぞ(注:全編英語でのプレゼンです)。このニュースは従来の内燃車メディアをはじめ、いくつものメディアが「0-100mが何秒」などと、EV乗りにとってはあまり重要でない情報を中心に伝えていますが(笑)、当ブログでは少し調べてみましたので、例によって「EV目線」で、取りこぼされている情報を中心にお伝えします。

約40分のプレゼンテーション動画です。

電池は?

基本は「パウチ型のセル」をベースに組まれています。それを12枚入れて「1モジュール」として、それを27個組み合わせて合計「324セル(12×27=324)」を搭載しています。モジュールの接続形式などは発表されていません。

モジュールの積み方ですが、フロアトンネルの部分や、後席の下などは2段に積まれています。1段目の下と、1・2段目の間には、熱移動を司る「クーリング・プレート」が設置されています。この電池によって、最大「442km(EPA推定)」の航続距離を達成しています。ポールスター社はプレゼンではWLTP値を使って「500km」と発表しています。

電池ユニットは、車体下部から装着されています。インゲンラート氏は「レゴ(LEGO)のように」カチャッと嵌め込んでいる」と表現しています。このユニットによって、2つのことが達成されています。

  1. この電池ユニットは車体剛性の向上に貢献しています。このユニットが無い、従来のフロアの組み方に比べ、強度が35%アップしたそうです。
  2. 電池ユニットの構造と、接合方法の工夫により、ロードノイズを74.3dBから3.7dB減少させることに成功しています。

モーターは?

78kWhのバッテリーが駆動するのは、150kW・330Nmを発揮する2台のモーターです。前後のアクスルに1台ずつ同じモーターが搭載されているので、合計で300kW・660Nmの出力になり、馬力に換算するとおよそ408psにあたります。

エクステリアは?

車体・車輪はワイド&ローの、脚を踏ん張ったようなどっしりとしたデザインですが、好評の「ボルボXC40」と同様の「コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー(CMA)」を採用して作られています。全体に「三角形を組み合わせた、レーダードームのような模様」が随所に散りばめられています。ポールスター社はこれを「3Dエッチド・デザイン(3D Etched Design)」と名付けています。車体色は6色が用意されています。チーフデザイナーは、あの大好評のXC40も手掛けたマクシミリアン・ミッソーニ氏です。

ヘッドライトは、片側ユニット内に84個のLEDが設けられ、ミリセカンドの短さで情報を更新するレーダーと連動して対向車への灯光を避ける制御が可能になっています。「ピクセルLEDテクノロジー」と同社が呼ぶこの技術のお陰で、前方の5台までの車輌を認識して光を不必要に上方に当てないことが可能で、常に「ハイビーム」のままで走行することができます。ポールスター社では、このハイビーム多用を可能にしたお陰で、未然に事故を防げる可能性が増えたとしています。

サイドミラーは、同じ鏡面を持つ従来型より30%小型化され、空力の向上に貢献しています。普通のドアミラーでは、ミラーのハウジングは固定で、中に設置されたミラーを動かすのが当たり前ですが、それだとハウジング自体は大きくなってしまいます。ポールスター社では、ハウジングとミラーは固定とし、ハウジング自体を軽量化して動かして視界を調整する「逆転の発想」を採用しました。

インテリアは?

ドライバーがスマートフォンを持って「ポールスター2」に1.5mまで近づくと、車体四隅に設置されたアンテナがこれを探知し、ドアハンドルに手が触れた瞬間にドアが解錠されます。中に乗り込むと、電源キーなどは見当たりません。じつはシート底面にセンサーが組み込まれており、ドライバーの持つスマートフォンが「車内」に位置していることと、「シートに人が座っている重さ」の双方が探知されると、ポールスター2の電源がオンになります。同社ではこれを「フォン・アズ・キー(Phone as Key)」機能と呼んでいます。このあたりは、流石にテスラを意識していますね。

センターには11インチのタッチスクリーンが縦に置かれ、テスラ・モデルS・Xと似た眺めです。このスクリーンには「グーグル(Google)」の「アンドロイド(Android)」がOSとして使われ、EV専用にチューンされた「グーグル・マップ」のほか、グーグルの提供する「Googleアシスタント」「Spotify」などのサービスが使え、ソフトウェアの自動アップデートも行われます。グーグルが発売しているスマート・スピーカーと同じように、かなり賢い音声認識機能が使えます。プレゼンでインゲンラート氏は、音声指示でSpotifyを呼び出し、”At Last”という曲をかけてみせました。このインフォテインメント・システムはアンドロイドで動いているので、アンドロイドのスマートフォンとの連携は当然ですが、ご安心ください、iPhoneもちゃんとつながるそうです!!

インテリアに関しては、自動車産業では初の「ヴィーガン」素材だけで作られたシートも用意されています。これは、グラスルーフやブレンボのブレーキシステムなどを装備した価格の高いモデルに搭載されます。動物由来ではない素材(ヴィーガン・マテリアル)で作られたシートと内装の「ウィーブ・テック」版は、近年の高性能なスポーツウェアをヒントに、ダイビング・ギアなどにも使用される堅牢で汚れに強い素材で作られていますが、デザイン性も良いとのことです。この「ヴィーガン・インテリア」のシートは、クルマ1台分で従来のレザー張りよりも4kgも軽くなっています。

筆者が大学で組んで働いている同僚のオーストラリア人は、ヴィーガンになってから40年あまり経つ人で、一緒にインド料理を食べに行っても、動物由来のものはヨーグルトすら食べません。普段クルマにはそれほど関心は無いものの、「クルマにヴィーガン素材が初めて使われた」と話したところ、興味を持って訊いてきました。そしてとても感心して、「流石に北欧だ、未来志向だね」としきりに褒めていました。

このほか通常の内装「テキスタイル・インテリア」には布張りのシートと内装が用意されますが、こちらも1台分でレザー張りより8kgの軽量化に成功しています。

装備の特徴は?

ディスクブレーキには「ブレンボ(Brembo)」が驕られています。定番の赤ではなく「金色」に塗られているので、ホイールのスポークの隙間からとても目立ちます。車内のシートベルトも金色に合わせられています。サスペンション・システムには「オーリンズ」のダンパー、ホイールは20インチの鍛造が採用されています。

車内に目を転ずると、オーディオには「ハーマン・カードン」のプレミアム・オーディオシステムや、天井全体を覆うグラスルーフなどが装備された車種も選べます。

地味な点ですが、インゲンラート氏が「スポック・ブロック」とか呼んでいたパーツ(スクリーンに文字が特に出ませんでした)を今回取り付けたお陰で、オフセット衝突時のフロントサスペンション・パーツがキャビンやバッテリーユニットに突き刺さる・ぶつかることを回避できるようにしている点も評価できます。フロントのタイヤハウス後部に付けられた部品ですが、これがなかなか効果的なようです。キャビンと共に、電気自動車ではバッテリーの保護はとても大切ですよね。

価格は?

39,900ユーロ(およそ500万円)から、59,900ユーロ(760万円ほど)までが用意されています。発売当初は高価なモデルのほうが供給されますが、こちらにはヴィーガン・インテリア、ハーマン・カードンのオーディオシステム、グラスルーフ、ピクセルLEDヘッドライトなどがフル装備されています。

ポールスター2にも、ポールスター1と同様の「サブスクリプション」も用意されています。2〜3年といった利用期間に応じて料金を支払うことで、デポジット無しで、諸費用など全て込みで、車輌の配送・引き取り、台車貸し出しまでカバーされます。

デリバリーは?

さて、発表当日の2月27日に予約を開始したポールスター2ですが、製造は2020年2月に中国で始めます。よって、デリバリーは来年後半からでしょうか。まずは中国、カナダ、カリフォルニア(なぜかアメリカとは表現していません、意図を感じますね)と、欧州の6ヶ国(イギリス、スェーデン、ノルウェー、オランダ、ドイツ、ベルギー)に供給するそうです。フランスは入ってないのですね。左ハンドル車だけでなく、右ハンドル車も生産するという情報もあります。

プレゼンの最後には、開発スタッフを乗せた実車が会場に現れました。もちろん、あの有名な「ワンちゃん」も乗っていました。ワンちゃんを降ろす時にリアを開けたのですが、セダンに見えたポールスター2は、じつはハッチバックでした。筆者など、往年のサーブ900を思い出してしまいました。

明確でなかったことは?

さて、今回のプレゼンでは今ひとつはっきり分からなかったことを、以下に箇条書きにしておきます。

  1. 「自動運転」に関する言及はありませんでした。
  2. 大手というか、世界最大の充電ネットワークが使えると言っていましたが、どの充電ネットワークと提携するかは不明です。
  3. 電池の組成は全く触れられていないので不明です。NMC622あたりでしょうか。
  4. 熱移動システムに関しても、詳細は不明です。リヴィアンのように、モーターとインバーター、バッテリー、キャビンなどの熱ループが相互に熱を交換し合う、そうしたシステムが積まれていることを期待したいです。
  5. 充電が何kWまで対応するかも特に触れられていませんでした。200V、220Vや240Vの交流はどうなのかや、急速充電は350kWはまだしも、テスラ並みの120kWまで対応しているのかなど、今後知りたいことがいくつもあります。

何はともあれ、最近人気の高まっているボルボの系列から電気自動車が発売されることは大きなニュースです。今後も注目してゆきましょう。

(箱守知己)

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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