モデルチェンジしたV60にもPHEVが発表。ボルボの2019年電化計画はどこまで進んだか?

PHEVを次世代の本命と見込む欧州メーカーは少なくないが、ボルボ・カー・ジャパンは先頃モデルチェンジを迎えたミドルレンジ車種、V60には2種類のPHEVパワートレインを投入することを明らかにした。

モデルチェンジしたV60にもPHEVが発表。ボルボの2019年電化計画はどこまで進んだか?

これまでの「T6」320ps仕様に代わって、253psのガソリンターボ&スーパーチャージャーエンジン+87psの電気モーターという合計340ps(251kW)という、新たな「T6ツインエンジン」が登場したのだ。

ドイツ車メーカーがPHEV化をハイエンド車種に留め、48Vシステムのマイルドハイブリッドを続々増やしている一方で、電力供給に難のない北欧やCO2削減でイニシアチブをとりたがっているフランスでは、PHEVこそ次世代の本命と見込む動きが強まっている。実際に欧州18カ国では昨2017年、新車販売総数の6%をBEVとPHEVが占めるまでになってきたのに対し、ドイツ市場でその割合は4%と、電化に対する市場のためらいは拭い切れない。裏を返せば、ドイツ以外の国が自動車パワートレインの電化において主導的な役割を果たす可能性は、相変わらず捨てきれないのだ。

数日前に日本市場での発売開始が正式にアナウンスされた新しいボルボV90にも、欧州車のPHEV化を促す新たな動きをはっきりと示してきた。2019年に全車種で電化モデルを用意すると公言しているボルボは、SUVや大型ステーションワゴンなど重量のあるモデルではディーゼルを残すものの、V60より下のラインナップではディーゼルを今後、ラインナップしないことにした。また3年前に上陸したXC90以来、ボルボはSPAプラットフォーム採用モデル(V90、S90、V90クロスカントリー、XC60)にはすべて、「T8」というPHEVパワートレインをトップグレードに頂いてきた。それに続くもっともパワフルな純ガソリンエンジンが「T6」と呼ばれ、ターボ&スーパーチャージャーのツイン過給による320ps・400Nm仕様だった。

ところが今回、より量販ボリューム帯を担うV60は、PHEVパワートレインを「T6」にも拡大してきたのだ。つまりボルボでいう「T8ツインエンジン」と「T6ツインエンジン」という、ふたつのPHEVパワートレインが選べることになる。やや混乱しがちだが、ボルボのいう「ツインエンジン」とは内燃機関と電気モーターのことで、それこそPHEVを指す。

2L直噴ガソリンのエンジンは旧T6同様のツイン過給ながら、「T5」253ps仕様をベースに電気モーター87psを組み合わせ、計340ps・590Nmとされた。トランスミッションはアイシンAW製の8速ATで、駆動方式は電子制御によるAWDとなる。

V60は導入当初、ガソリンエンジンの「T5」グレードのみとなるものの、その「T6ツインエンジン」モデルは2019年春よりデリバリー開始予定で、車両価格は高級グレードである「Inscription」で749万円となる。405ps・640Nm仕様の「T8ツインエンジン」のInscriptionは819万円とアナウンスされており、価格差60万円のうちに2台のPHEVを揃えることになったのだ。ちなみにV60の初期導入モデルとなる「T5 Inscription」はAWDではなくFFとはいえ、車両価格599万円とじつに150万円の価格差がある。

価格差を鑑みるとPHEVであるT6ツインエンジンが割高のようにも思えるが、おそらくはT8ツインエンジンと同様の96セルのリチウムイオンバッテリーを搭載し、XC90用は9.84kWh、V90用は9.65kWhと容量は少しだけ違っているが、おそらくは後者とほぼ同じ仕様のものを載せてくることが予想される。

ボルボはまだV60のバッテリー容量を公表しておらず、出力やトルクについても申請予定値としている。V90 T8ツインエンジンが「ピュアモード」と呼ばれるゼロエミッション走行モードでは、実質的に40㎞前後の航続距離を備えており、V60の方が車体が数十kgレベルとはいえ軽くなる分、ほぼ同等の性能を維持、もしくは伸びる可能性もある。ちなみに「T5モメンタム」というFFベース・モデルでは、V90が1740kg、V60は1700kgジャストと、その差は-40kgとなる。

これがPHEVにになると、どのぐらい違ってくるかといえば、V90のT8ツインエンジンはベース・モデル比で+270kg、XC90では+280kg。とはいえ、これらは前車軸と後車軸の両側に電気モーターを備えるT8ツインエンジンの話なので、後車軸側だけのV60のT6ツインエンジンでは+200kg程度に収まるのではないか。

また、ご存知のように昨年、ボルボは2019年までに全車種に電化パワートレインを揃えると宣言したが、それ以前に2020年までに新世代ボルボでの事故死傷者をゼロにするというコミットメントも掲げている。これまでの衝突してからの衝撃をコントロールするだけでなく、現在では衝突に至るまでの3段階で安全性を確保するという考え方にシフトしている。ひとつ目が、ナビゲーションなど目的地へ至るまでの段階。ふたつ目は、ニアミスやヒヤリハットを含む、衝突寸前の段階。いわゆる緊急ブレーキ支援や危機的状況によるステアリング修正舵はこの段階にあたる。そしてみっつ目が、エアバッグや衝撃吸収ボディといった衝突してからの段階だ。
いわば先のふたつの段階はセンサーやチップセンサーなど、高度にインテリジェント化された部分で、プログラムコードやバッテリーが必要になることは自明の理でもある。

V60は、PHEVパワートレインという観点でも、予備予防的なADAS機能を含めた安全性確保という面でも、電化の重要性をことさら意識し、強力に推し進めたエポックメイキングな一台といえそうだ。(文・南陽一浩)

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					南陽 一浩

南陽 一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。出版社勤務を経てフリーランスのライターに。2001年に渡仏しランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学にて修士号取得。パリを拠点に自動車・時計・男性ファッション・旅行等の分野において、おもに日仏の自動車専門誌や男性誌に寄稿。企業や美術館のリサーチやコーディネイト、通訳も手がける。2014年に帰国、活動の場を東京に移し、雑誌全般とウェブ媒体で試乗記やコラム、紀行文等を担当。

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