VW、BMW、ダイムラーは完全電気自動車に集中 — FCVは今後10年は見込みなし

フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラーは今後、電気自動車(EV)に集中する方向を表明しました。トヨタ、ヒュンダイ、ホンダがこだわり、日本のマスコミが「究極のエコカー」という枕詞を付けるのが好きな燃料電池車(FCV)は、「今後10年は普及する素地がない」と言い切りました。

VW、BMW、ダイムラーは完全電気自動車に集中 — FCVは今後10年は見込みなし

Electrive.net(2019年3月21日:原文はドイツ語)やHandelsblatt(同3月20日:同、ドイツ語)が伝えたところによると、フォルクスワーゲン(VW)のヘルベルト・ディース(Herbert Diess)氏、BMWのハラルド・クリューガー(Harald Krüger)氏、そしてダイムラーのディーター・ゼッシェ(Dieter Zetsche)氏の3首脳が電話会談した結果、「EUの環境基準を満たすにはバッテリー式電気自動車(BEV)しかない」ことと、「燃料電池車はインフラの進展を見る限り、今後10年は普及の見込みがない」という点で一致しました。

日本が躍起になっている「水素自動車(FCV)」と「水素ステーション」ですが、どうやら欧州では、いや世界では、今後10年は「バッテリー式電気自動車(BEV)」が主流になりそうです。
日本が躍起になっている「水素自動車(FCV)」と「水素ステーション」ですが、どうやら欧州では、いや世界では、今後10年は「バッテリー式電気自動車(BEV)」が主流になりそうです。

トヨタのミライは増えているようには見えませんし、ホンダはまもなく水素自動車(FCV)「クラリティー」の2019年モデルを出すようですが、日本国内はまだしも、世界ではガラパゴス化しない!と言えるのでしょうか。そうしたなか、アウディだけはFCVに未練があるようです。CEOのブラム・ショット(Bram Schot)氏は2週間ほど前、「FCVが(来る将来)普及し始める時に、我が社もその一角を占めていたい」との想いを独・シュトゥットガルト・ナハリヒテン(Stuttgarter Nachrichten)紙のインタビューで吐露しており、同時にFCV部門への投資も発表していました。

VW、BMW、ダイムラーの3社は同時に、ドイツ自動車工業界(VDA)に対して、充電インフラを拡充させ、電気自動車の普及に対して資金を振り向けるべきだと促しています。VWの強気の背景には、このところVWは「VDA内でのVWの立ち位置が必ずしも同社の実力と業界への貢献を反映していない」として、VDAから離脱すると圧力を掛けていたこともあるようです。

また一方で『SüddeutscheZeitung(南ドイツ新聞)』は、VWが「CO2削減目標を達成する唯一の方法」として「エレクトロモビリティの推進を強く望んでいること」とともに、「2万ユーロ未満の車両に無料で充電できるようにすること」、「全長4m以下の小型車への補助金を厚くする」といった小型車優遇の主張をしていることを指摘。ダイムラーやBMW、アウディなど大型セダンが主力であるメーカーとの温度差があることも伺えます。

来月(2019年4月)には、ドイツの首相のもとでモビリティー・サミットが開かれる可能性が高いのですが、そこでは電動モビリティーの拡大に対して、様々な条件が議論されることになるでしょう。ともあれ、欧州勢の主力メーカーはどうやらFCVを見切ったようです。少なくとも2030年頃までは、BEVが環境対応車の主流になりそうです、日本以外では。

(箱守知己)

この記事のコメント(新着順)12件

  1. BMWは2025年までにFCEVを出す計画だそうです
    https://www.electrive.com/2019/07/04/bmw-planning-small-series-fuel-cell-x5/

    VWの子会社のアウディも水素燃料電池の開発を活発化させている
    https://www.autocar.jp/news/2019/05/03/368195/
    アウディの燃料電池はヒュンダイとのクロスライセンスによるものですが,フォルクスワーゲン・グループ全体に波及させることを前提としているそうです

    まあ欧州メーカーが当面本当に普及させるつもりなのはマイルドハイブリッドのようです

    BorgWarnerによる最新の世界市場予測 2019年5月28日
    ttps://response.jp/article/2019/05/28/322852.html

    > 世界の新車市場では、ハイブリッド車に対する高い需要が示唆されているという。
    > このセグメントの世界市場規模は、2017年の年間300万台から、
    > 2023年には年間2600万台に増加すると予測されている。
    > 2017年以降の6年間で、市場規模はおよそ9倍に拡大する見通しだ。
    2017年:ハイブリッド=300万台,EV+PHEV=90万台
    2023年:ハイブリッド=2600万台,EV+PHEV=560万台

    中国がHV優遇にシフトしましたがマイルドハイブリッドも対象になるなら,欧州メーカーの中国での電動化戦略も大きく変わることになるでしょうね

    1. 先ほどもコメントいたしましたが、私の意見は、中国の今回の政策は、ハイブリッド優遇ではなく、救済措置だと思います。
      FCVはこれからも、量産されることはないでしょう。

  2. 太陽光発電のコストですが、電力としてちゃんと使えるようにするコストは入ってるのですか?あれは本来僻地すぎて送電線コストが嵩むところでバッテリーと組み合わせて使うものです。今のように一般の電力網に直で接続多数とかでは迷惑施設であり、やってはいけない事です。
    水素その他の形に安く電気を変換して貯蔵できなければ増やしてはいけないものです。

    1. タカモトクニナガ様、コメントありがとうございます。確かに系統連携のコストは大きく馬鹿にできないと思います。しかし各国で僻地でしか太陽光発電を使用していない、または必ず蓄電池とペアじゃないと設置できない、という事例は聞いたことがなく、また実際に九州などでは太陽光発電のおかげでピーク時の電力の一部(80%)を担うところまで来ています。
      https://www.isep.or.jp/archives/library/11271
      そういう意味で系統に接続する容量が不足する日本の電力会社は、海外の電力会社に比べて企業努力が足りないのかもしれません。

  3. これでドイツ勢の車の価値は下がり今後10年は業績悪化だろう。家電と化した車の減価償却は遥かに短くなる。

  4. 10年では無理でしょう。そんなことは誰でも分かっています。
    それに中国の動きにも注目すべきですね。日本以上にFCVの開発と普及に積極的。
    中国は国策で2030年に100万台が目標とのこと
    https://www.afpbb.com/articles/-/3211692
    https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2018/1120.html

    まぁ、仮にFCVが普及するとしても2030年以降のことであって、直近でEV vs FCVでどちらが先に普及するか云々は無駄な議論です。

    今後、再生可能エネルギーが世界中に広まっていくことは確実です。
    知っておかなければならないことは、再エネが増えれば増えるほど水素の重要性が高まるということです。

    日中の太陽光エネルギーを夜間に利用するような短周期の充放電には二次電池が最適です。しかし、気象条件の良い時の余剰エネルギーを大量に蓄積して、気象条件が悪いシーズンにまとめて使うような、数ヶ月〜数年のような長周期の利用には二次電池よりも水素の方が向いています(これをPower to Gasと呼ぶ)。再エネの普及は二次電池とPower to Gasのセットで考えるのが基本。これは世界の共通認識になっている。

    また再エネの普及が一定程度以上に進むと、今度は安価な再エネ同士での価格競争が起こる。例えば、かつては日本のエネルギー資源として国内の炭鉱で石炭を採掘していましたが、今では利用されていません。これは日本の石炭資源がなくなったからではなく、単純に輸入石炭の方が安価になったからです。
    地球上には再エネとしての効率は良いけれども人口の少ない僻地であるために利用されていないエネルギーがたくさんあります。石炭と同じ理由で、日本で太陽光パネルで発電をするよりも、北欧の風力発電を水素に変換して輸送して利用した方が、エネルギーとして安価になる可能性がある。

    まあ日本の場合は再エネの本格普及前に大量に水素が入ってきますけどね。

    2020年からオーストラリアのビクトリア州から褐炭由来のCO2フリー水素の大量調達・大量供給が始まる。これは川崎重工,電源開発,岩谷産業,丸紅の共同事業で、2隻のタンカーがオーストラリアと日本を往復し、1年あたりFCV300万台分の水素の輸入が開始される。
    この褐炭由来水素はCO2を排出せずに製造可能で、なおかつ輸送コストを考慮しても国内の太陽光や風力発電よりも低コストな特徴がある。
    ビクトリア州には日本の総発電量の240年分相当の水素を生み出すことができる褐炭資源が存在していて、もうここだけで日本のエネルギー問題は当面は解決してしまうくらいの分量なのですよ。
    故に経済産業省は相当な力を入れてこのプロジェクトを支援している。
    詳しく知りたければ「CO2フリー水素」で検索をどうぞ。

    1. silicate様、コメントありがとうございます。
      >中国は国策で2030年に100万台
      とのことですが、
      https://www.statista.com/statistics/425481/china-annual-new-energy-vehicle-production-by-type/
      現状、電気自動車はすでに昨年「年間」100万台、
      https://www.statista.com/statistics/960994/electric-vehicle-sales-by-segment-selected-world-regions/
      2030年には「年間」550万台に達すると考えられています。桁が違いますし、そのころFCVの強みはあまりなくなっていると言えると思います。

      >数ヶ月〜数年のような長周期の利用
      様々な発電方式がある中で、そもそも蓄電はあまり効率は良くないわけです。可能ならば、発電した電気はすぐ使ってしまった方がいい。そういう意味で、長周期の利用のために蓄電するというのはあまり意味がないと思います。地方自治体の緊急エネルギー備蓄として可能性はあると思いますが、一般の電力会社が商用で利用するのはちょっと考えにくいです。

      あとCO2フリー水素について。CCSはまだ2030年でもコストの課題を抱えています。1トンのCO2に対応する(褐炭由来の)水素量が分からないので教えていただきたいのですが、仮にその倍くらい?と考えると45.5kgくらい。1kgあたり22円くらい(現状は44円)。これも1000円とは書いてなくて1000円台とありますから、実際にはその二倍かもしれません。
      https://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170307003/20170307003-1.pdf
      こちらの報告書にも、「2020 年代後半にはロードマップの目標である水素のプラント引き渡しコスト30円/Nm3、発電コストにして17円/kWhを目指す。このコストは、石炭火力発電にCCSを組み合わせたコストと比較すると、CO2フリーの発電コストとして優位性を持つ可能性がある」とあり、おっしゃる海外からのサプライチェーンが主力化できるのは2020年ではなく2020年代後半に、可能性がある、という表現になっています。2020年から大規模な水素の輸入が始まる、ということですが、ソースを教えていただけますか?

      ちなみに太陽光発電の日本におけるコストは、海外サプライチェーンCO2フリー水素の17円/kWhの半分以下、2030年時点で7円/kWhです。
      https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/025_01_00.pdf

    2. > 2030年には「年間」550万台に達すると考えられています。
      > 桁が違いますし、そのころFCVの強みはあまりなくなっていると言えると思います。

      > 長周期の利用のために蓄電するというのはあまり意味がないと思います。

      欧州がPower to gasに積極的な理由はそれなりに根拠があるだと思いますが,いかがでしょうか? 調べればわかることなので,いちいちソースは出しませんが.,,

      あと私が言いたいことは,化石エネルギーから再生可能エネルギーへのシフトが少しずつ進む,過渡的な状態ではなく,例えば50年後〜100年後のような,再エネが圧倒的に増えた時代を想像してくださいということです.
      2030年のような直近の話ではないです.
      下記にもう一度書きます.

      再エネの普及が一定程度以上に進むと,今度は安価な再エネ同士での価格競争が起こる.例えば,かつては日本のエネルギー資源として国内の炭鉱で石炭を採掘していましたが,今では利用されていません。これは日本の石炭資源がなくなったからではなく,単純に輸入石炭の方が安価になったからです.
      石炭を輸入することになるなんて,戦前の日本人には考えられなかったはずです.

      同じことが再エネでも起こる可能性がある.
      地球上には再エネとしての効率は良いけれども人口の少ない僻地であるために利用されていないエネルギーがたくさんあります.
      石炭と同じ理由で,日本で太陽光パネルで発電をするよりも、北欧の風力発電を水素に変換して輸送して利用した方が、エネルギーとして安価になる可能性がある.

      > 2020年から大規模な水素の輸入が始まる、ということですが、
      > ソースを教えていただけますか?

      国際的な水素サプライチェーンの構築実証は2020年に始まります.https://www.meti.go.jp/press/2018/03/20190312001/20190312001-1.pdfhttps://www.sankei.com/premium/news/170905/prm1709050001-n1.html
      > 太陽光発電の日本におけるコストは、海外サプライチェーンCO2フリー水素の17円/kWhの半分以下、2030年時点で7円/kWhです。

      2030年のような直近の話ではなく,50年後〜100年後のコストはどうなっていますか?
      誰も試算などできないし,否定もできませんよね?
      だから研究開発,実証実験を進める必要があるのですよ.

    3. silicate様、コメントありがとうございます!
      再エネの価格競争が始まって、コストが下がったら、当然国内の再エネのコストも下がるわけで、仮に水素がほぼ0円で手に入っても、それを運ぶコストはそこそこあり、どうやっても国内再エネの電力より安くなりそうにないかと思います。割と簡単に計算できませんかね?

      >>構築実証
      研究することはいいと思いますよ。それが将来、何かの役に立つかもしれないので。漂う自動車に水素を使うのは、電力のコストという点で可能性はゼロだと思います。

    4. > 漂う自動車に水素を使うのは、電力のコストという点で可能性はゼロだと思います。

      Batteries and fuel cells for emerging electric vehicle markets
       Nature Energy 3(4):279-289 · April 2018

      二次電池および燃料電池EVの将来市場の展望
      Nature誌のレビュー

      Figure 7
      2040年のFCEVはLi-ion EV並みにコストが低減される
      普通自動車は450km以上の航続距離でPlug-in hybrid FCEVが
      トラックは250km以上の航続距離でFCEVが
      それぞれLi-ion EVよりも安価になる

      EV推進派は認めたく無いのでしょうが,
      FCEVの将来性を否定するのは勿体無いことがわかりますね

    5. silicate様、コメント及び論文の参照をありがとうございます。ブローシャーだけ入手できそうなので拝見しますね。ただ論文を参照するとき、気にしなければならないのは前提条件です。
      例えばFCVの前提が再生可能エネルギーであれば、エネルギー効率が1/3であるFCVはEVよりTCO(車両とガソリン代と維持費の合計)が安くなるわけはないと思います。もとの電力を三倍使ってしまっている時点で。
      そういう意味で後ほどブローシャー見てからコメントしますが、この調査は車両コストだけを比較しているのかもしれませんね。

  5. 水素ステーション、自宅から半径20km範囲内に建設中ですが…いざ出来たとしても補給のためにそこまで行くのは面倒ですね。せめてガソリンスタンド並に普及してくれないと誰も手を出さないと思います。
    しかも燃料電池自体重たいので現在の主流である軽自動車に積むのは難しいと思います…逆に三菱i-MiEVなどBEVが作りやすいのは自明の理ですが!
    それはコンパクトカーも同じで、日産のe-POWER車などがFCVになるとは考えにくいです…むしろ高性能大容量電池待ちともいえる状態。
    FCVは燃料電池の存在が大きく、容易にコンパクト化できない致命的な欠点を持っています。それに水素貯蔵タンクも大きくなるのでトータルで見ると蓄電池に負けることもありえますし。
    こんなものを推進したお役所やそれにまんまと乗っかるトヨタにはひたすら疑問を感じるばかり。
    いまやEV急速充電器はガソリンスタンドの半分くらいはあり、待ち時間の要素を差し引いても自宅充電の利便性を考えると個人的にEVに軍配を上げたくなります。
    ましてi-MiEV(M)だと15分で80%まで充電できるので道の駅やディーラーでの充電もトイレ休憩感覚で済みますし…電池の充電受入能力さえ上がって10分程度で充電できる車種が増えてくれれば水素自動車なんて考えられなくなります!!

    リチウムイオン電池への心配がなくなる一方、問題なのは水素への危惧。
    一般人は新しいものに恐怖を感じるなど大概保守的。自分は逸般人ながら化学専攻なので水素の取り扱いを誤ると大変危険なのは承知です!!水素ステーションが些細な取扱ミスで最悪爆発したらどうなるのか!?考えただけでもパニックになりそうなのでここではやめておきます。
    自身がアイミーブMに乗っているのも発火の危険が少ない東芝SCiB搭載車だからという単純な理由からです。

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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