自動運転の「Waymo」が初の大型外部投資を受け入れ

自動運転で知られるアメリカの「ウェイモ(Waymo)」は米IT大手Googleの兄弟会社ですが、今回、外部からの初の大型投資を受けることが明らかになりました。米国や中国を中心に居並ぶ自動運転スタートアップから「頭一つ抜きん出る」可能性が高まりました。

自動運転の「Waymo」が初の大型外部投資を受け入れ

Waymo社は、Googleから独立した自動運転車を開発している企業です。「Google社」本体と並んで「Alphabet社」の傘下にあります。Alphabet社はいわゆる「持ち株会社」。Waymo社は、2009年にグーグルが始めた「自動運転開発プロジェクト(Google Self-Driving Car Project)」が発展して、2016年12月に分社化して誕生した企業です。

Google Self-Driving Car
Google Self-Driving Car

よって、GoogleとWaymoは兄弟会社と言えます。「グーグルの自動運転車」と言うと、この卵みたいな形の小さくて可愛らしい実験車を思い出しますね。今はもっと進化していますが……。

【関連記事】
自動運転車の商用運転が開始、GOOGLE、メルセデス、日産自動車、テスラは?(2016年8月23日、少し前の記事です。)

Waymoが初の第三者割当増資を受け入れ

今回 Waymoは、「シルバーレイク(Silver Lake)」、「カナダ年金制度投資委員会(Canadian Psnsion Plan Investment Board)」、「ムバダラ社(Mubadala Investment International)」など外部からの出資を受け入れました。いわゆる「第三者割当増資」です。Waymoが2020年3月2日(現地時間)に、同社の公式ブログ”Waypoint”で伝えています。

巨大IT企業の強みである地図データとGPSに加え、車両に搭載したカメラやセンサー類を連動させ、精密かつ安全な自動運転を実現しようとするWaymo。その自動車版「WAYMO ONE」のイメージカット。ドライバー席およびコ・ドライバー席は無人である。同社の公式サイトより転載。

この初の「22億5千万ドル(日本円でおよそ2369億円)」の追加投資には、上記のほか「マグナ・インターナショナル(Magna International)」、「アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz)」といった自動車製造会社・投資会社のだけでなく、全米で新車・中古車と自動車パーツを販売する自動車関連企業「オートネーション(AutoNation)」、そして前述のAlphabetも加わっています。

 

【ここから追記】

おっと、「マグナ・インターナショナル」には触れておかないといけませんね。カナダに本部を置く自動車部品・自動車製造会社ですが、ただ者ではありません。

自動車部品製造では世界で第3位(1位:独のボッシュ、2位:日本のデンソー)の規模を誇り、VW、BMW、メルセデスといったドイツ勢はもとより、GM、クライスラー、フォードモーターといったアメリカ勢、それに日本や東欧などの自動車製造にも大きく関わっている会社です。

マグナ・シュタイア社の本拠地は、オーストリアのグラーツにある。シュタイア・プフ時代からの拠点だ。マグナ・シュタイア社の公式サイトより転載。

傘下には、あの「シュタイア・プフ(Steyr Puch)」社を源流に持つ「マグナ・シュタイア」社もあります。こちらはオーストリアに本拠があります。世界広しといえども、自社の工場と技術だけで「完成車」を作れる部品メーカーなど、なかなかありません。

メルセデスのGクラス(ゲレンデ・ヴァーゲン)も同社の作品。マグナ・シュタイア社の公式サイトより転載。

シュタイア・プフと言えば、往年のFIAT500(チンクエチェント)の一部を製造していて、プフ社オリジナルのチンクにはなんと水平対向エンジンが搭載され、本家FIATのチンクより低重心で運動性が高いと言う評判もありました。同じFIATですが、天才設計者「ジョルジェット・ジウジアーロ」の名作の一つであるFIAT Panda(初代、型式は141)の4WD版のドライブトレーンを設計したのもプフ社でした。さらに、メルセデスの「Gクラス(ゲレンデ・ヴァーゲン)」も、BMWのSUVである「X3」もプフ社の製造です。

ジャガーのBEVであるI-paceも、マグナ・シュタイアの製造。マグナ・シュタイアの公式サイトより転載。

さらに忘れてはならないのが、BEVの世界にで一翼を担う「Jaguar I-pace」も、このマグナ・シュタイアの製造なのです。こんな世界的メーカーも投資に加わっているわけですから、注目が集まるわけですよね。

【追記おわり】

 

WaymoのCEOであるジョン・クラフチック(John Krafcik)氏は以下のように述べています。

2016年のWaymo発足時から同社を率いるCEOのジョン・クラフチック(John Krafcik)氏。1962年生まれ、スタンフォード大学卒・MIT卒で、トヨタとGMの合弁会社「NUMMI社」を皮切りに、Ford社で13年間、Hyundai Motor AmericaのCEO、ネット自動車売買の「Truecar社」を経てGoogleに入社、Waymo立ち上げに際しCEOに就任した経歴を持つ。Waymoの公式サイトより転載。

私たちは、チームスポーツのように私たちの使命にとり組んでいます。それは、OEMや納入のパートナー企業、運用のパートナー企業、世界で最も経験豊かなドライバーを育てて展開するコミュニティーと連携しながら行ってきました。

今日Waymoは、金融投資家と、社会を根底から変えるような革新的製品を生み出そうとするテクノロジー企業への投資とサポートに数十年の経験を持つ戦略的パートナーとを加えながら、そのチームを拡大しようとしています。こうした資本と優れたビジネスの才覚を、Alphabet社とともにWaymoに注入することで、Waymoのドライバーが世界中に展開するのを支援するため、人材・技術・企業活動を私たちは深化させることができるでしょう。

今回の投資に応じたシルバーレイクのco-CEO、エゴン・ダーバン(Egon Durban)氏は、こう話しています。

シルバーレイクのエゴン・ダーバン(Egon Durban)氏。同社の公式サイトより転載。

Waymoは自動運転技術の世界では実績あるリーダーであり、自動運転車両を用いて公共の「ライドヘイリングサービス(ride-hailing service:自動車による送迎サービスであり、いわゆる相乗りのライドシェアとは異なる)」を行っている唯一の会社であり、また完全自動運転という経験を着実に拡大し続けている会社でもあります。

私たちは、道路をより安全な場所にしようと責任を持って取り組んでいるWaymoと深く連携しており、米国内だけに留まらずその外の世界にまでWaymoドライバーが進歩し拡大してゆくことに協力できることを心待ちにしています。

Waymoへの大型投資を実現させた実績

さて、今回の投資ラウンドが実現したのは、Waymoが最近達成した一連の実績への評価とも言えそうです。Waymoの自動運転システム”Waymo Driver”は、これまで25の都市の公道を「2千万マイル(3千2百万km)」以上走行し、シミュレーションでも「100億マイル(160億km)」以上を走行しました。

Waymoの第5世代「Waymo Driverシステム」。2020年3月4日にWaymoが公式ブログWaypoint上で発表したもの。Waymoの公式サイトより転載。

世界初の「『レベル4』自動運転」車両の量産のために設置された「Waymoデトロイト工場」の技術者たちは、第5世代の自動運転システム・ハードウェア”Waymo Driver”と統合された、全く新しい「電気自動車」と「クラス8トラック」を出荷しました。これらの車両は、より強力になったコンピューターと、より優れたセンサー技術を装備しています。

当ブログの読者の皆さんには釈迦に説法ですが、「レベル4」の自動運転とは、「高速道路などの『特定の場所』に限りますが、システムが周囲の交通状況を把握して運転操作の全てを行う」というものです。そして、下位の「レベル3」との決定的な違いは、「緊急時でもシステムが対応を行う」点です。

世界初の「公共自動運転車両による『ライド・ヘイリング・サービス』」である”Waymo ONE”は、米アリゾナ州で、すでに数千人の顧客に対してサービスを提供しています。大都市のサンフランシスコよりも広い地域、大都市フェニックス周辺で、2019年11月からは、いよいよ「非常時対応のセーフティー・ドライバー」を乗せない、「完全無人」のタクシーの運行を開始しています。

乗用車のWAYMO ONEに対し、大型トラックや牽引トラックの自動運転を実現する「WAYMO VIA」。物流の世界にパラダイムシフトをもたらす可能性が高い。WAYMOの公式サイトより転載。

さらに、Waymoの”Waymo Driver”システムは、物流の主役である大型トラックや牽引トラックの世界にも”Waymo VIA”と呼ぶ自動運転車両を展開しています。2019年5月末には、アリゾナ州の高速道路(フリーウェイ)での実験が再開され、2020年1月末にはテキサス州とニューメキシコ州の間でテストを開始すると表明しています。自動運転タクシーでの実績が、いよいよ大型トラックにも応用されようとしています。

おわりに〜”driverless car”の可能性

ところで、私が本業で接している学生に「自動運転って英語で何て言う?」と訊くと、「”automatic car”かな?」のようなイマイチなものに始まり、ちょっと気の利く学生は「”autopilot car”ですか?」ぐらいは返ってきます。「難しくは”autonomous (driving) vehicle”とか言うんだけど、それを知らなくても”self-driving car”とか言えるじゃん。それに”driverless car”とかも言うよ」と話すと、中には目を輝かし始める人もいます。

私としては”Unmanned Ground Vehicle”みたいな堅い表現も嫌いじゃないんですが、これだと火星探査ロボットみたいに、そもそも人が乗っていない形になっちゃいますね。

若い人たちには、「英語をスキルアップしたいなら、『自分の知ってること・興味のあること』を、英語で読んだり聞いたりしたら?」と話すようにしています。ちょっと余談でした。

Waymoの自動運転車両のようなものが、日本や世界の「限界集落」の人の移動や物流を支えてくれるような未来も、早く見てみたいものですね。

(文/箱守知己)

この記事のコメント(新着順)2件

    1. hogohoge様、コメントありがとうございます。
      ゴリってのはゴリラのことでしょうか?以前Waymoが(恐らくGoogle時代に)悩んでいたのは、落ち葉が地面に敷き詰められ、風でふわふわ浮いたりするのを何なのか判定できず、避けようとしたりする、というエピソードはありましたが、今はどこの自動運転の会社のソフトウェアでも(ましてや量産されているテスラのオートパイロットでも)動物や自転車、人などの障害物はちゃんと判定できています。問題はその速度や精度、予測、そしてどこまでリスクを取るかなのだと思います。現時点でも、日本では右折、海外では左折が自動運転では非常に難しいという報告をちらほら見ます。

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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