ヤマハが「EV用電動モーター試作開発受託を開始」のニュースから読み解く期待と懸念

2021年4月12日、ヤマハ発動機株式会社から「ハイパーEV向け電動モーターユニットの試作開発受託を開始 ~最大出力350kWクラスの電動モーターを新たに開発~」というニュースリリースが発信されました。電気自動車用高性能モーターの可能性に、はたして何を期待するべきなのか。自動車評論家の御堀直嗣氏が読み解きます。

ヤマハが「EV用電動モーター試作開発受託を開始」のニュースから読み解く期待と懸念

※冒頭画像は電動モーターユニット試作品(350kWクラス)。
※記事中画像提供/ヤマハ発動機

圧倒的な高出力を誇る電動モーター

ヤマハ発動機が、ハイパーEVなどへ向けたモーターユニット試作の開発受託を始めることを表明した。

その仕様は、永久磁石埋め込み型同期モーターで、最大出力は300kW、冷却は油冷で行う。この仕様は、まだ開発中なので変更の可能性があり、また出力や冷却方法は顧客の要望に応えるとのことだ。また、減速ギアやインバーターを一体化した小型構造である点が特徴でもある。小型であることにより、複数のモーターを車載することも可能になるという。

300kWは、馬力(PS)換算すると約408PSとなり、参考として画像が添えられた4つのモーターによる4輪駆動では、1600PSオーバーといったとてつもない高性能EVを実現してしまう予測が成り立つ。ちなみに、ポルシェ『タイカン・ターボS』という最上級モデルでは、2基のモーターにより、オーバーブースト時に560kW、約761PSの性能である。


ユニット活用イメージ。

電動モーター開発にも意欲的なヤマハ発動機

ヤマハは、これまで東京モーターショーなどで、モーターを利用した次世代モビリティの提案などを行ってきた経緯がある。しかしここまで超高性能なモーター駆動系を明らかにするのは初めてではないか。

この発表から思い起こしたのは、かつて、ヤマハがトヨタ2000GTの直列6気筒エンジンの開発を行ったことだ。また、ヤマハはトヨタのプロトタイプレーシングカーであるトヨタ7のV8ターボエンジン開発にも関わってきた。すでに50年以上前の話だが、トヨタとヤマハはそのようなつながりを持っていた。それを無理やり結び付ければ、トヨタのEVスポーツカーやレクサスが2019年の東京モーターショーでコンセプトカーとして公開したEVのLF-30エレクトリファイドのような車種に適合しそうなモーターであり、EV時代の高性能車、高級車への期待を膨らませる発表といえる。

一方、EVを象徴する高性能車が生まれることに疑念や反対をさしはさむつもりはないが、まだ普及さえ道半ばの現在、ほかにも挑戦すべき技術や開発、あるいは施策が示されることを期待する気持ちが私には強い。

【関連ページ】
電動モーター紹介ページ(ヤマハ発動機)

ヤマハ 電動モーターユニット(開発者インタビュー)※YouTube

誘導モーターの開発にも期待したい

同じような高性能化に際して、テスラは誘導モーターを利用してタイカンと遜色ない加速性能を実現している。もちろん、強烈な加速を何度も繰り返すのは難しく、タイカンはそれを何度も繰り返せるところがEVスポーツカーの証だとする。だが、速度無制限区間のあるドイツのアウトバーン以外では、何度も超高速で加減速する利用は現実的ではない。テスラの性能で十分だと感じる消費者が多いからこそ、年間40万台規模のEVメーカーへ成長してきたのだと思う。

また、アウディe-tronや、メルセデス・ベンツEQAも誘導モーターを採用した。テスラをはじめ、それら誘導モーター利用の様子に、EVに本気で取り組み、また本当に普及させようとする意志を私は感じる。

誘導モーターは、レアアースに分類されるネオジム磁石を一般的に用いる永久磁石式同期モーターに比べ、レアアースを使わない昔ながらの方式だ。材料は鉄芯と銅線からなり、電磁石を使う。

永久磁石式同期モーターは、1997年にトヨタがプリウスを発売したころから日本の自動車メーカーが積極的に開発し、小型高性能であることを特徴としている。今回のヤマハのモーター駆動系も、小型高性能が売りだ。それは、かつてソニーがトランジスタラジオを生み出した精神にも通じるだろう。ことに、エンジンとモーターを併用するハイブリッド車では、小型高性能は重要な要素といえる。

しかしEVになれば、エンジンなどは不要になり、永久磁石式同期モーターより外観寸法が大きめとなっても、それほど車載に不自由しないのではないか。それよりも、資源の不安が少なく、汎用性の高いモーターで、適正価格の実用性を備えたEVが生み出されることへの期待は大きい。モーター駆動であれば、標準的な性能であっても、十分な加速性能と静粛性を備え、上質で高性能な走りを堪能することができるのである。

エンジン車の時代から、日本は独自技術の優秀さで競い、際立ってきた。それに対し、欧米の自動車メーカーは、共通の部品メーカーから同じエンジン部品や変速機を仕入れながら、独自の個性を活かしたクルマづくりをしてきた。独創の技術がないと個性を見せられない日本と、価値という概念を明確にすることで個性を磨いてきた欧米との違いが、EVの時代になっていっそう顕著となり、勝敗の分かれ道になるのではないだろうか。

そして最終的にどちらを選ぶかは消費者である。

すでにエンジン車でも、馬力というような数値にこだわらない消費形態となっている。EVになれば、なおさらその傾向は強まり、乗り味が問われることになるだろう。そのとき、消費者はどれだけ馬力が大きいとか、モーターの仕組みがどうということはこだわらないはずだ。

ところで誘導モーターは、まだ製造面で全自動にしきれない側面がある。EVで使われる三相誘導モーターは、銅線の巻き方が複雑で人の手を借りなければならない部分がある。そこを、全自動化しようと試みる日本人がいる。そして特許を申請しはじめている。技術という側面では、この生産技術の革新が、誘導モーターの普及により大きな効果を促すのではないかと期待する。それによって手ごろな価格で手に入れられるEVがより多く誕生すれば、買いたいと思う消費者が増えるだろうし、また共同利用の事業に乗り出そうという人にも複数台のEVの仕入れを促す。

リチウムイオンバッテリーのギガファクトリー建設競争も起きているように、EVは普及のための施策や戦略を進める時代に踏み出しているといえる。先ごろ、佐川急便が中国製の軽EVを7200台導入するとの話も出た。そうしたとき、全個体電池を含め高度な技術開発にこだわるあまり、現時点で実用的かつ消費者のニーズを満たす電気自動車を世に問う動きが少ない日本は、最終的に置いて行かれてしまうことにならないだろうか?

(文/御堀 直嗣)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. こんにちは…世界の工業製品は新者開発が技術の華とされやすいようですが、一方で製品化にあたりコストを抑える工夫も必要というジレンマがありますよね。
    そこで思い出したのが「枯れた技術の水平思考」概念。任天堂のゲーム機がモロ該当なのでご存知の方も多いかもしれません。
    枯れた技術とは低スペックゆえに割安でも技術的に安定していて採用しやすく、水平思考とは普段とは別の用途というか今まで採用例が無いものへも使っていく工夫。
    誘導電動機は電気主任技術者国家試験(通称電験)でしょっちゅう問題に出てきたので見事に枯れた技術、方や永久磁石の同期電動機は電験の問題で見かけず割と新しい技術といえそう。既に鉄道車両で実績あるからあとは小型化という水平思考だけで済むやないですか!?
    その任天堂も言うなればファブレス企業、製造は部品メーカーなどに任せる傾向にあり(実際ファミリーコンピューターはシャープ製)斬新なアイデアを盛り込むことでそのうち任天堂が自動車業界へ殴りこみを書けるかもしれまへんよ!?オマハは部品メーカーに相当する訳で。
    電気自動車が出る前から投資家は自動車メーカーより部品メーカーに注目せよと言うてました…そんな時代が来たんやねホンマ。

  2. アルファロメオ4Cでテストしていましたね。4CのEVで箱根走ったら楽しそうです!

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この記事の著者


					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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