第99回『パイクスピーク』レポート第2弾〜テスラの3台が予選で好タイムをマーク

第99回パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(通称:パイクスピーク)の予選が3日間にわたって開催されました。今回パイクスピークに参戦しているEVは4台ですが、その様子を青山義明が現地からお伝えします。

第99回『パイクスピーク』レポート第2弾〜テスラの3台が予選で好タイムをマーク

予選はコースを分割して3日間開催

コロラド州にあるパイクスピークという山を舞台に、1916年から開催されているヒルクライム・レースがパイクピーク・インターナショナル・ヒルクライムです。その競技はこの山を誰が一番速く登るか、を競うものです。その決勝前にエントラントのための練習走行の時間が設けられています。

その舞台となるのは、パイクスピークの頂上へアプローチするパイクスピーク・ハイウェイという有料観光登山道路。それを完全封鎖して決勝が行われますが、事前の練習走行は、パイクスピーク・ハイウェイの営業が始まる早朝に行われます。

1日3時間ほどの練習走行では、コースをアッパー・ミドル・ロアの3つに分割し、エントラントもクラスごとに3つのグループに分け、それぞれのグループが順に3分割のコースを3日間に分けて走行するというカタチとなっています。そのロア・セクションの走行はそのまま予選セッションとなります。

車検日の翌日となる22日(火)は、パイクスピーク・オープン・クラス、23日(水)はエキシビジョン、オープンホイール、ポルシェ・パイクスピーク・トロフィの3クラス、24日(木)はタイムアタック1とアンリミテッドクラスが予選を行いました。

EVのトップタイムはやはりモデルSプラッド

練習走行&予選の3日間を終えて、ロアセクションでのベストタイムは、山の男の称号を何度も受けているポール・ダレンバック選手(#98 2006年式PVA-003 Dallenbach Special)の3分52秒497でした。

注目のテスラ モデル3とモデルSプラッドが参戦するのがエキシビジョンクラスで、23日にこのクラスの予選が行われました。テスラ3台のうち、最も速かったのはやはりモデルSプラッドでした(4分10秒342)。これに続くのが吉原大二郎選手のモデル3(4分15秒653)。もう一台のモデル3でアタックしたジョシュア・アラン選手は4分33秒940というタイムでした。

EV勢の中でトップのタイムを出したランディ・ポブスト選手は、レーシングドライバー兼モータートレンド誌のジャーナリストとして活躍しています。そもそもポブスト選手はこれまでに様々な車両でこのパイクスピークへの挑戦を続けてきた選手で、テスラでの参戦も、アンプラグドパフォーマンスの社長とのポッドキャストでのやり取りの中で生まれたものだと言います。

ランディ・ポブスト選手。

テスラで出たらどうかというポブスト選手の提案に乗る形で、昨年はモデル3での参戦となりました。昨年は練習走行中、アッパーセクションでのクラッシュもありましたが、11分4秒131(#42 Unplugged Performance Tesla Model 3 Ascension-R)のタイムでエキシビジョンクラス2位の結果を残しています。

「ヨコハマのレーシングスリックタイヤはもともと車重の設計以上にこのモデルSは重いからか、今日はオーバーステアの現象が出てしまった。それで空気圧を下げたけれどもグリップは良くなったものの、そのオーバーステアの症状は改善しなかった。それでアライメントを変更したがそこで今日の走行はタイムアップとなってしまった。明日ミドルセクションで最終的な調整を行なう予定だ。とにかくパワーはあるし、とても楽しめているよ」とポブスト選手。決勝でのさらなる活躍を期待しています。

吉原選手は『86』から『モデル3』に乗り換えてチャレンジ

埼玉のARTISAN SPIRITSのエアロを身に纏ったシルバーのテスラモデル3を駆る吉原選手は、昨年トヨタ86で10分5秒006のタイムでアンリミテッドクラス優勝を果たしています。イベイシブ・モータースポーツ(Evasive Motorsports)のトヨタ86はこれまで9度パイクスピークに挑戦していましたが、なかなか頂上にたどり着くことができませんでした。

吉原大二郎選手。

2019年にこのイベイシブの86を駆り、ルーキーとしてこのパイクスピークに参戦した吉原選手もその年はリタイアを喫しましたが、昨年は無事に頂上にたどり着くことができ、しかもクラス優勝を果たすことができました。

そして今年、チームは86を長いこと使用してきたこともあって、昨年末テスラモデル3での参戦を検討したということです。昨年のパイクスピークでのテスラの活躍もあり、EVの伸びシロもまだまだあるだろうということ、そしてメインスポンサーであるTURN14ディストリビューションも「これからEVに力を入れたい」ということで今回の参戦につながったということです。

予選を終えて吉原選手は「このテスラはプロダクションベースで、足回りやエアロパーツをいじっていますが、動力部分はいじってないです。昨年も皆さん苦労していましたが、バッテリーのマネージメントが難しくて、バッテリー残量が減ってしまうとパワーが落ちてしまうこと、バッテリーが熱を持ってしまうというところで、クーリングは強化しているのですがなかなか思った通りに行かず……。予選はもうちょっと速く走れるかなと思ったんですけどね。目標は4分10秒くらいで走れたらと思っていたんですが、いまいちでしたね。決勝は去年のプロダクションモデルのタイム11分2秒を上回る10分台にいれたいですね。目標としては10分30秒くらいに行ければいいんですが……、この感じでは難しいですかね〜」とコメントしてくれました。

ジョシュア・アラン選手。

ジョシュア・アラン選手は、若いころはイタリアでフォーミュラ・フォードに乗り、2004年からはマセラッティのテストドライバーとして車両開発に関わってきたドライバーです。2007年にアメリカに戻り、ACプロパルジョンでエンジニアとして活躍していました。現在は自身で開発関連の会社を立ち上げています。そのACプロパルジョン在籍当時、このパイクスピークに挑戦していた塙郁夫選手の「TEAM YOKOHAMA EV Challenge」にもモーター担当として関わっていたということです。昨年もテスラモデル3でこのパイクスピークに参戦したのですが、決勝に出られなかったことから今年もルーキーとして参戦となります。

「スリックタイヤを使ったけれど、ADVANのA052で走ったほうがタイムが良かった。なぜなら我々はタイヤウォーマーを持ってなくて…。A052のほうがマージンも取れて自信を持って走れたよ。それでいいタイムが出せた。今日はロアセクションだけだったけれど、バッテリーもモーターも温度の異常はなかった。100%ではないけれど、タイヤもよくて自分としては満足できるいいペースで走れた。決勝に向けて特にトラブルもなくいい調子だよ。昨年は実現しなかったけれど、レースで頂上まで無事に到達することが第一目標。そのために練習走行でも無理をせずに走っていくよ」とアラン選手もコメントしてくれました。

サムライスピードの改造リーフは電気系トラブルで走行できず

日本から参戦となったサムライスピードの大井貴之選手は、電気系トラブルのため車両を走行させることができず、予選に出走することはありませんでした。

予選3日間はこれで終了。25日(金)にはもう1日練習走行が予定されており、26日(土)は完全な休息日。そして27日(日)は朝7時半から決勝走行となります。ちなみにこの予選はスタート順を決めるものとなるのですが、今年の大会は、まずエキシビジョンクラスの7台がタイム順に走行、続いてポルシェ・パイクスピーク・トロフィクラスの5台がタイム順にスタートした後に、それ以外の全クラスの車両の予選タイム順にスタートすることとなります。

(取材・文/青山 義明)

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					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

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