第99回『パイクスピーク』決勝レポート〜モデルSプラッドがクラス優勝

第99回パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムの決勝が現地時間6月27日(日)に開催されました。はたして、電気自動車勢の活躍は? 青山義明氏の現地レポートをお届けします。

第99回『パイクスピーク』決勝レポート〜モデルSプラッドがクラス優勝

パイクスピークの基礎知識

パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(通称:パイクスピーク)は、アメリカコロラド州にあるパイクスピークという山を舞台に行われている、インディ500に続く世界で2番目に古い歴史を持つレースです。

パイクスピークは標高4302mの高さを誇り、このヒルクライムレースも、別名「The Race to the Clouds(雲へ向かうレース)」とも呼ばれています。スタート地点の標高は2862mで、標高差1440m、全長12.42マイル(約20km)のコースを誰が一番速く走り切るか、1台ずつタイムアタックして競う単純明快なレースです。

標高が上がるにつれて酸素が薄くなる高山での走行のため、頂上付近では内燃機の出力が30%近くダウンするといわれています。その点EVなら出力は酸素濃度の影響を受けないメリットがあります。

これまでEVでの参戦といえば、日本人選手でも「チーム・ヨコハマ EVチャレンジ」のオリジナルEV「サミットHer02」でEVクラスを制した塙郁夫選手であったり、2012年からは、モンスター田嶋こと田嶋伸博選手や、三菱自動車工業がi-MiEV Evolutionを参戦させ、TRD-USAが奴田原文雄選手を起用して参戦した「TMG EV P002(2012年エレクトリッククラス優勝)」であったり、ホンダはSH-AWDコンセプト(ドライバーは山野哲也選手)を持ち込んだりと、国産EVが市販化された前後のタイミングでパイクスピークへのEV参戦が盛況になった印象があります。

奴田原文雄選手の「TMG EV P002」(2012年)。
2016年のモンスター田嶋選手。

その後、日本勢の参戦は下火になったものの、毎年EVの参戦はあり、現在のコースレコードはフォルクスワーゲンが2018年に持ち込んだEVのI.D.Rパイクスピーク(ドライバーはロマン・デュマ選手)の7分57秒148です。

パイクスピークには村祭り的な雰囲気も

そんなパイクスピークも今回で99回目を数えます。記念すべき100回大会のひとつ前ということでいろいろと期待は高まりますが、2輪部門の開催を停止していることもあって、参加台数は伸び悩み気味ではあります。

ちなみに、今年開催されたパイクスピークの車両区分としてのクラス分けは、ここ数年と同じく、エキシビジョン、オープンホイール、パイクスピークオープン、パイクスピークトロフィ、タイムアタック1、アンリミテッドという6つのクラスに分けられました。

一時期はEV用の「エレクトリック」クラスがありましたが、今年はありません。また、タイムアタック1があって、タイムアタック2がなくなっています。数年前まで、市販車無改造のタイムアタック2、市販車改造のタイムアタック1という区分になっていました。では、市販車のまま出場するならどのクラス? となると今の選択ではエキシビジョンクラスってところに落ち着きます。

伝統あるパイクスピークですが、「村祭り」的なイベントという側面があり、クラス分けについても、なんというか「寛容」です。日本的な感覚ですとわかりにくいのですが、運営上の振り分けでクラスを成立させることに重点を置いているためと推測できます。明確にわかるのはオープンホイールくらいでしょう。詳細に車両を見ていくと、クラス分けに合致しているのか? と「?」の付く車両も実際にはありますが、そこはアメリカです。細かいところは気にするなって感じで盛り上がります。もちろんレース翌日には表彰式が行われますので、そこできちんと各クラス3名が表彰台に上がることになります。

エレクトリッククラスがなくなって、EVとしての記録はなくなるのか? というとそういうことでもなくて、EV市販車やEV改造車の記録はクラス分けとは関係なく残されます。ですので、エントラントも特にクラスを気にしているふうでもありません。それより、たとえば今回はエキシビジョンクラスが一番最初に走行することがわかっていますので、気温や路面温度が低い朝早いタイミングで出走したほうが良いのか、あえてアンリミテッドクラスを選択して、もう少し遅いタイミング(天候悪化のリスクが高まりますが)で出走するか、といったところに注目しているエントラントの声も聞きました。

『NISSAN LEAF e+ KAI』は残念ながら出走断念

出走を断念した『NISSAN LEAF e+ KAI』。

今回の大会には4台のEVがエントリーしています。が、そのうちの1台、日本から参戦のサムライスピードの日産リーフe+のモーターを前後に2基搭載した4WD仕様にした車両(ドライバーは大井貴之選手)は、電気系トラブルのため練習走行で車両を走らせることができず、予選および本戦に進むことはできませんでした。

3日間にわたって行われた予選、そして最終調整の練習走行日を経て、迎えた6月27日(日)の決勝ですが、前夜に降った雪の影響で、頂上付近は一面雪景色に変わってしまっていました。早朝から除雪作業が行われましたが、最終的にはコースを短縮するという判断となりました。パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムのコース短縮は2006年以来となります。

競技区間はスタート地点からからミドルセクションの終わりまでの約9.29マイルへと変更となりました。凍結路面での走行はなくなったものの天候は良好とは言えず、時折厚い雲がコースにかかり、視界を遮るような濃い霧に雪も混じる中での各選手のアタックとなりました。

テスラモデルS Plaidがエキシビジョンクラスで優勝

出走した3台のEVのうちで、予選で最も速かったランディ・ポブスト選手のモデルSプラッド(#42 2021年式Tesla Model S Plaid)は、6分57秒220のタイムで、エキシビジョンクラス優勝を果たしました。

ポブスト選手は走行後「クルマはすごく良かった。ビルシュタイン製でアンプラグドパフォーマンスが手を入れたサスペンションは、ドライバーの走りを学習して調整してくれるもので、すごく良かった。ヨコハマタイヤも良かった。後半リアタイヤが温まりすぎて、ルーズになったけれど、ね。バッテリーの冷却も問題なかった。自分としてはしっかりプッシュして走ったけれど、まだまだクルマの性能は引き出せてないと思えるほど、とても力強いクルマだった。まだ買って2週間のクルマだよ。今日のこの素晴らしい結果に満足しているよ」とコメントしてくれました。

ランディ・ポブスト選手。

一方、2台のモデル3はともにトラブルを抱えることとなってしまいました。ジョシュア・アラン選手(#88 2021年式Tesla Model3)は「最後のセクションで、4輪がドリフトした直後にアクセルが全然吹けなくなってしまってパワーダウン。それがなぜ起きたのかわからないけれど、しかたなくグレンコーブ(森林限界に近いミドルセクションのスタート地点)を越えたところで一度クルマを止めてリセットしたよ。で、その後は心配だったので攻めなかった。でもクルマ自体はとてもよかったし、ゴールできてよかった」とコメントしてくれました。アラン選手のタイムは8分16秒778でクラス5位の結果となりました。

ジョシュア・アラン選手のゴールシーン。

日本人ドリフトレーサーの吉原大二郎選手(#90 2018年式Tesla Model3)も「なぜかわからないんですが、スタート直前に出力が出ない症状が出ちゃって。でもスタートの車列に並んでいたんで、再起動を試して出走できずリタイヤしてしまうかもしれないことを考えると、それは出来ず、そのままスタートしました。結局スピードが回復することなく、後ろからやってくるランディに追い越されないか冷や冷やしながら走りました」とコメント。そのタイムは完走した52台のうちの最下位(11分41秒162)という結果となってしまいました。

トラブルに見舞われた吉原大二郎選手。

ポブスト選手のモデルSプラッドだけがきちんと成績を残しましたが、EV勢4台の全体としてはやや残念な結果となりました。今年の短縮コースでの最速タイムは、ロビン・シュート選手(#49 2018年式Wolf GB08 TSC-LT)の5分55秒246。ポブスト選手のモデルSプラッドは全体で10位のタイムでした。

●公式サイトのリザルト(PDF)

さて、編集部から「プラッドのタイムはすごいのかどうか評価を知りたい」とリクエストをもらったのですが、コースが短縮されてしまったのでなかなか難しいお題です。

昨年のデータを参照にすれば、モデル3でのターゲットが11分を切れるか(フルコースで)というところだったと思います。昨年は新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、6月ではなく8月の開催となっており、少し気候が異なりますので単純に比較はできないのですが。

そういったことを踏まえたうえで、ランディ・ポブスト選手の昨年と今年の予選タイムを見てみたいと思います。パイクスピークの予選セッションは一番標高が低いところでの距離5.16マイルでの計測となります。

ポブスト選手は、昨年アンプラグドパフォーマンスの仕上げたテスラモデル3で出場しています。予選セッションでは3回走行して、4分15秒961、4分12秒429、4分14秒416というタイムを記録しています。

今年は同じくアンプラグドパフォーマンスのモデルSプラッドで、4分11秒146、4分10秒342、4分14秒100というタイムでした。これを見る限りベストタイムでいえば2秒ほど上回っています。気候の違いはあるものの4kmで1秒も速くなる、それも車両重量は大きく増えた車両で、と考えると相当な進化だと言えますね。

念のため、今年EVSのパーツを盛り込んだモデル3で参戦した吉原大二郎選手のタイムを見てみましょう。彼は、アメリカで活躍するドリフトレーサーで、昨年トヨタ86で10分05秒006のタイムで走行し、アンリミテッドクラス優勝(総合9位)を果たしている、腕のたしかな実力派ドライバー。彼の乗るモデル3はちょっと個体として気になる点があったようですが、今年の予選タイムは4分17秒058、4分15秒653、4分21秒908という結果でした。

ポブスト選手のゴール後のコメントなど考え合わせても、モデルSプラッドが速く、まだまだポテンシャルを秘めていることは間違いなさそうです。

100回目を数える来年のパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムは2022年6月26日(日)が決勝日となる予定です。

(取材・文/青山 義明)

ランディ・ポブスト選手の走行動画

【編集部追記】ランディ・ポブスト選手が自身のYouTubeチャンネルで、オンボード映像を含む決勝の走行動画を公開してました。エンジン音もなく、強烈に速いモデルSプラッドの走りを実感できます。なにより、チームスタッフや観客も含め、みんなパイクスピークを楽しんでますね。

Going Plaid! Randy Pobst’s Winning Run at PPIHC 2021

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この記事の著者


					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

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