99回目の『パイクスピーク』開幕〜2モーターのリーフやモデルSプラッドも参戦へ

6月27日(日)に決勝を迎えることとなっている第99回パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(通称:パイクスピーク)のレースウィークがスタートしました。2012年の大会から、EVの可能性を確認できる場所として、ウォッチを続けてきた青山義明が現地からお伝えします。

99回目の『パイクスピーク』開幕〜2モーターのリーフやモデルSプラッドも参戦へ

※冒頭写真は『NISSAN LEAF e+ KAI』シェイクダウン時の走行風景。

全コース走行は決勝日の一発勝負

パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムが今年も無事に開催となりそうです。レースウィーク初日となる現地時間6月21日(月)、早朝から公開車検がスタートし、参戦する全チームが車両を持ち込み、ドライバーもやってきて和やかな雰囲気の中、99回目を数える今大会が始まります。

このパイクスピーク、単純に山を登るタイムを競うものです。きわめてシンプルに、スタート地点からゴール地点まで誰が速く駆けあがれるか? という点だけ、です。レギュレーション上では安全性を確保するために極太のロールケージの装着を義務付けられたりしますが、横並びで車両のスペックを合わせる必要もなく、レースは決勝日の走行一発勝負です。練習走行や予選はありますが、それはコースの一部のみを使うもので、全コースを通して走行するのは決勝レースのみ。天候の悪化に見舞われれば「今年はツイてなかったね。また来年がんばりなさい」というスタンスで、目を三角にしながら、でもどこかでのんびりとした雰囲気を持つイベントとなっています。

その歴史は長く、世界でもっとも古くから行われている歴史ある自動車レースといえば「インディアナポリス500マイルレース(インディ500)」となりますが、これが1914年から始まっています。で、パイクスピークは1916年のスタートと、インディ500に2年遅れていますが、世界で2番目に長い歴史を持つレースとなります。

標高4300m以上の頂上を目指すタイムアタック

タイムアタックの舞台は、パイクスピークの山々に設けられたパイクスピーク・ハイウェイという有料観光登山道路を完全に封鎖して使用されます。競技区間としてはその料金所からさらに上がった標高9390Ft(約2862m)の地点がスタートポイントとなり、そこから頂上までの12.42マイル(約20km)の区間となります。ゴール地点はパイクスピークの頂上(標高14115Ft=約4302m)となっており、高低差1440mあり、20kmの区間に156ものコーナーが存在しています。路面はレース開催当初はダート路面でしたが、徐々にアスファルトが敷かれ、2012年にはパイクスピークハイウェイが完全に舗装されています。

2021年の開催となる第99回パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムには、最終的には4輪車両59台がエントリーし、この日の車検に臨みました。車検は公開となっており、コロラドスプリングスの街中にあるワールドアリーナの駐車場がその会場となっています。

車検の様子。

コースを進んでいくほどに酸素が薄くなっていく高地であることから、内燃機関車ではその出力が30%も低下すると言われています。そんな標高の高さによる空気の薄さ、さらには全走行距離20kmという極めて短い競技距離、夏でも降雪があるほどの比較的涼しい環境、と電動車両の優位性がしっかり発揮されるレースイベントであると言えます。そのためか早くから電気自動車の参戦がありました。このレースにEVが最初に登場したのが1981年のことです。参戦した車名は「シアーズXDH-1」、ドライバーはジョー・ボール選手、タイムは32分7秒41という記録が残っています。

そして初めてEVで20分の壁を破ったのが、ホンダR&Dが持ち込んだシビックワゴン(キャティ・エンディコット選手)で、タイムは15分44秒71でした。1994年のことです。このシビックは今もパイクスピーク博物館に展示されています。

EVで初めて20分の壁を破ったシビックの改造EV。

近年、そのレーススケジュールといえば、決勝日の前週の月曜が車検日。その後火曜から木曜までが練習走行と予選、そして金曜日に最終調整のできる練習日があって、その金曜の夕方からは、そのパイクスピークの麓の街であるコロラドスプリングスのダウンタウンでファンフェスタと呼ばれるイベントが行われます。

そして完全な休息日となる土曜日を間に挟み、日曜日の朝から決勝走行となります。レース日は基本的にはアメリカの独立記念日前後となっており、昨年はCOVID-19の影響があって8月の開催でしたが、今年は通常通りの独立記念日前週となる6月27日が決勝日となります。

今年は2モーターのリーフやモデルSプラッドも参戦

今回参戦する電気自動車は全部で4台。

テスラモデル3は2台。日本人ドライバーで現在はアメリカでドリフト競技に挑戦している吉原大二郎選手(エキシビジョンクラス)が乗るevasivemotorsportsの2018年式モデル3。そして昨年に引き続いてモデル3を持ち込むQuickshoe Racingのジョシュア・アラン選手(エキシビジョンクラス)は昨年同じ車両で参戦するもクラッシュして決勝に進めず、今回こそということで参戦します。

吉原大二郎選手がドライバーを務めるモデル3。
ジョシュア・アラン選手。

昨年モデル3でエキシビジョンクラス優勝したアンプラグドパフォーマンスというテスラ・チューナーは今年モデルS Plaid(ドライバーはランディ・ポブスト選手)に車両を変えてこれに参戦。昨年EVで最速であったブレイク・フラー選手(タイムは11分2秒802/エキシビジョンクラス優勝)は残念ながら今年の参戦はありません。

アンプラグドパフォーマンスのモデルSプラッド。

そして日本から参戦するサムライスピードが持ち込んだ日産リーフは、リーフe+に搭載しているモーターを前後に2基搭載した4輪駆動モデルに改造を行なった車両(シェイクダウン記事を紹介しました)となっています。バッテリーはリーフe+のもの(1台分)をそのまま使用します。その参戦クラスは何でもありのアンリミテッドクラスへの参戦となります。

車検を受けるサムライスピードの『NISSAN LEAF e+ KAI』。

サムライスピードの2個イチLEAFは大井貴之選手にドライバーチェンジ

サムライスピードは、これまで長年日本のトップラリーストである奴田原文雄選手にそのステアリングを託してきましたが、今回は奴田原選手が翌週に全日本ラリー選手権に出場するため、自主隔離期間に重なってしまうことから参戦を断念。代わりに、モータージャーナリストでもあるRacing YouTuberの大井貴之選手が急きょ参戦することとなりました。

大井貴之選手。

大井選手はこれまでパイクスピークへの参戦はないのでルーキー扱いとなるのですが、さまざまなカテゴリーのレースに参戦してきているベテランドライバーです。大井選手は「パイクスピークは昔から知っているけれど、遠い国のできごとで、すさまじい羽根つきのクルマが走っている、すげーなこれって思っていただけで、まるっきり自分事ではなかったんです。もともとダートにあこがれてクルマに乗り始めたところもあるので、その究極のところだとは思っていたので、今回話をいただいて、行く行くって感じです」とパイクスピークへの想いを語ってもらいました。

ただ、急遽の代役のため、まだ車両の理解もパイクスピークへの走行も手探りの状態。22日からの練習走行でぶっつけ本番というカタチですが、チャレンジすることとなります。

第99回パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムは、22日から3日間練習走行及び予選セッションが行われ、金曜日に最終の練習走行が予定されています。そして27日に決勝を迎えることとなります。決勝レースのレポートは改めてお届けする予定です。

(取材・文/青山 義明)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. パイクスピークもほとんどが舗装されているということなのでダート走行を考慮しなくてもよくなったとか。
    三菱や出光とのコラボ、タジマモータースの参戦が無いのが寂しいですが
    元々MiEV EVO(特にⅡ)という世間離れしたデザインだったのでなんだかなぁという感じでした。
    日本で電動軽車両主体のラリーなんてほのぼのしてて?面白そうですけどね。

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					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

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