パイクスピークに参戦する電気自動車『日産リーフe+』(改造型)がシェイクダウン

世界屈指のヒルクライムレース(タイムアタック)である『パイクスピーク』に参戦する、『日産リーフe+』2台分のモーターなどを使って全輪駆動に改造したニュー・マシンがシェイクダウン。ジャーナリストの青山義明氏がレポートします。

パイクスピークに参戦する電気自動車『日産リーフe+』(改造型)がシェイクダウン

※冒頭写真は2018年に7分57秒148という驚異的なコースレコードを樹立したフォルクスワーゲンのEVプロトタイプ『I.D.R パイクスピーク』。

標高約4300mまで駆け上る『パイクスピーク』

2012年にEVクラスで優勝した奴田原選手の走行シーン。

今年で99回目を数えるパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(通称:パイクスピーク/6月27日決勝)に、今回、日本からエントリーしている唯一のチームであるサムライスピードとドライバー奴田原(ぬたはら)文雄選手が、5月7日(金)、埼玉県にあるGOLDEX本庄モーターパークで、今年のマシン『NISSAN LEAF e+ KAI』のシェイクダウンを行ないました。

パイクスピークは、アメリカ・コロラド州にある標高4301mの山で、この登山道路パイクスピーク・ハイウェイの一部を舞台に、標高2862mのスタートラインから頂上である4301mのゴールまで「誰が一番速く山を登れるか」を競う単純明快なレースです。毎年初夏に開催されるイベントで、その初開催は1916年となり、インディ500(インディアナポリス500マイルレース)に続く、世界で2番目に歴史のあるレースとなります。競技区間は全長約20㎞、156のコーナーを持つコースとなっており、1台ずつタイムアタックします。

この道路は、普段は観光有料道路として使用されており、レースの時だけ一般車は完全閉鎖されます。決勝日前のレースウィーク中の練習走行は、一般開放前の早朝のみとなっており、さらに練習走行はそのコースを3つのセクションに分けて開催されます。そのため、スタートからゴールまでを通して走ることができるのは決勝日の決勝レース1本のみとなります。

このレースはダート路面のイメージが強いですが、2012年にはすでに全面舗装化となっています。参戦車両は実にさまざまで、2輪4輪ともに参戦ができていましたが、近年2輪ライダーの死亡事故が続いたため、昨年から2輪の参戦受付を一時中止しており、現在は4輪のみの参戦となっています。

このパイクスピークといえば、日本人選手であるモンスター田嶋こと田嶋伸博選手が長年挑戦を続けていて、2011年には「誰も切ることができない」と言われていた10分の壁を初めて破ったことで注目されました(9分51秒278/スズキSX4)。ですが、その後コースが全面舗装されたことでタイムはどんどん削られていき、現在、最速記録は2019年にフォルクスワーゲンの電気自動車I.D.R PikesPeak(ドライバーはフランス人のロマン・デュマ選手)が出した7分57秒148となっています。

【関連動画】
GoPro HD: Pikes Peak 2011 Monster Tajima’s World Record‬(YouTube)

(編集部注※モンスター田嶋さんは『出光興産とタジマモーターが超小型EVと次世代モビリティサービス開発の新会社を設立』でお伝えしたタジマモーター社長の田嶋さんです)

標高約2800〜4300mという高地のヒルクライム。酸素が薄いのでエンジンには厳しく、電気自動車が真価を発揮する舞台としても知られています。

2モーター全輪駆動の『NISSAN LEAF e+ KAI』

今回『NISSAN LEAF e+ KAI』で参戦予定の奴田原文雄選手は、2006年に東洋人初のFIAモンテカルロラリー優勝という輝かしい記録も持つトップラリーストです。現在も全日本ラリー選手権に参戦を続けており、先日開催となった全日本ラリー選手権第3戦「ツール・ド・九州in唐津」では3位に入り、GRヤリスに初表彰台をもたらしました。

2019年の参戦マシン。

これまでパイクスピークにもたびたび参戦しており、2012年には#230 トヨタ・モータースポーツTMG EVP002を駆り、10分15秒380のタイムで、EVクラス優勝(総合6位)を果たしています。それ以後もEVでは、2018年に日産リーフ(40kWhモデル)、2019年に日産リーフe+で参戦したものの、ともに出走のタイミングが悪く、天候悪化のタイミングと重なってしまって頂上のゴールまでの走行ができていません。

サムライスピードは長年この奴田原選手を起用してパイクスピークへの参戦を続けているチームで、昨年は、EV開発を行うGLMのトミーカイラZZに、その2台分のバッテリーを搭載したスペシャルモデルでの参戦を予定していました。しかし、新型コロナウィル感染拡大の影響を受けて、参戦を断念していました。

今季はさらに強力なモデルでの参戦を計画。車両チョイスを再び日産リーフとして参戦することとなりました。といっても、過去参戦してきた日産リーフのプロダクトモデルではなく、リーフのモーターを2台分搭載した4WDモデルに改造しています。

シェイクダウンした今年の参戦マシンと奴田原選手。

駆動用バッテリーはリーフe+に搭載していた62kWhのものを使用。購入してきたもう一台のリーフe+からモーターとインバーターを移植し、2台のEM57モーターで前後の軸を回す仕組みとなっています。

本当はこの2つのモーターを独立制御したいところなのですが、フロントの信号でそのままリアも駆動させており、ガソリン車でいうところのデフロック状態での走行となるようです(前後は繋がってはいませんが……)。左右の回転差の収束のためATSの1.5WayのLSDを減速ギヤのケースに収めております。

もう1台のリーフから移植したリアの駆動部。

以前からこのサムライスピードのマシンに使用している大王製紙のセルロースナノファイバー(CNF)を今回もボディ外板のルーフ、前後ドア等に使用。現在開発が進むこの素材は植物バイオマスから取り出した天然由来の繊維で、エコなアイテムとなっています。これらの使用で車両の軽量化を進めていますが、レギュレーションで決められたパイクスピーク専用のロールケージはパイプ径も大きく重量は重いため、なかなか軽量化には結びついていない厳しい状況のようです。

ルーフ部分には大きく穴が開けられ、荷室上部に置いたリアの駆動モーター&インバーター冷却用のラジエターに送風するようにもなっています。さらにサンデン製の冷却システムをバッテリー用に搭載するので、そのバッテリー冷却用のラジエターをリア下部に装着し、後席ウインドウからの風を取り込んでいます。

足回りはエリアスポーツがこのリーフ用に製作したモデルを使用。ダンパーはしっかりと動く足にしたいということで、少し長めのケースとなっており、これに柔らかめのバネ(フロント9㎏/リア10㎏)を組み合わせてこのシェイクダウン走行を行なっており、スプリングレートの見極めもこのテストの項目となっていました。

このEVチャレンジの充電関連のサポートについてはベルエナジー社が担当しています。これまではアメリカ・フリーワイヤーテクノロジー社のモビという移動式充電池を使用していましたが、今回ベルエナジーが持ち込んだのは、アメリカ・スパークチャージ社のローディーという充電ユニットでした。

ポータブルの充電装置も採用。

カセット型の充電池一つのカセットで3.5kWhの容量を持っています。カセットは最大4台まで縦積みが可能で、カセットの接続はケーブルなど使用せず、そのまま積んだ状態で接続され、その最上段に充電ユニットを乗せればOKというシンプルなもの。直流で最大20kWでの出力が可能ということです。質量はカセットが30㎏、充電ユニット部分が20㎏ほど。ちなみに充電時間はカセットひとつにつき家庭用100V充電で4時間ほどといいます。これから日本市場への導入を考えているということでした。

この日のテストでは、リアのブレーキの調整や、バッテリー温度が予定より早く上昇してしまうなどマイナートラブルがいくつか発生し、テストをこなせなかった部分があったものの、本番に向けて解決すべき課題も見つかったということです。

『NISSAN LEAF e+ KAI』は、この後すぐにアメリカに向けて送られることとなります。アメリカに入ってから、カラーリング、そしてこのテストの結果を反映させた車両の最終仕上げを行なうこととなります。

パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムは、現地時間6月20日(月)に車検日となり、21日(火)から4日間練習走行日が設けられており、この奴田原選手が参戦するアンリミテッドクラスは22日(水)が予選です。今回もゼッケン230(ふみお)をつけて参戦となります。

(取材・文/青山 義明)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 車の出来よりも充電用のローディーに心奪われました。
    大容量化が進むポータブルバッテリーですがEVに充電するとなるとあくまでも100Vなので時間がかかってしまうのが難点です。
    充電ユニットとバッテリーが分離しているのは重量の問題があるからでしょう。
    バッテリー1台で3.5kWHで4台接続すると14kWhもありますから16㎾hのMiEV1回分なわけですが総重量150kgは壮観ですな。
    値段が気になりますね。
    仮にバッテリーを1台として総重量50kgですか、、、
    そうは言っても車の充電が主目的では使い勝手が悪いので微妙な製品ですね。

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					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

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