テスラ一強の全日本EV-GPにHonda eやIONIQ 5、アリアが登場〜土屋圭市選手も初参戦

日本国内で唯一といっていい本格的な電気自動車レースシリーズである「全日本EV-GPシリーズ」。2024年の第2戦が筑波サーキットで開催されました。ここ数年テスラ一強が続く中、今回はさまざまな車種が初参戦。Honda eオーナー篠原知存氏のレポートです。

テスラ一強の全日本EV-GPにHonda eやIONIQ 5、アリアが登場〜土屋圭一選手も初参戦

軽さは正義! Honda eを300kg軽量化

日本電気自動車レース協会(JEVRA/関谷正徳理事長)が主催する2024全日本EV-GP(グランプリ)シリーズ第2戦に、ホンダアクセスチームのHonda eが参戦。Honda e仲間と筑波サーキットまで応援に行ってきました。日産アリア(ARIYA)やヒョンデ IONIQ 5も初参戦して、EVレースが盛り上がりを見せています。

EV-GPは2010年から開催されていて、15シーズン目の今年は年間6戦を予定。モーター出力によってEV-1(モーター出力250kW以上)、EV-2(150kW以上250kW未満)、EV-3(150kW未満)に区分され、ほかにEV-S(SUV限定)、EV-R(エンジンで発電するレンジエクステンダー)、EV-P(開発車両やレース専用車両)、EV-C(エンジンをモーターに換装した車両)など計8クラスで競われます。レースは全クラス混走。連休初日の4月27日に筑波サーキット(コース2000)で行われた今季第2戦「筑波55kmレース」では、15台がスターティンググリッドに並びました。

私は初観戦だったのですが、EVシフトの流れとともに出走車両は変化してきたそうです。当初は三菱i-MiEVやテスラ ロードスター、コンバージョンEV(エンジン車を改造した電気自動車)などがエントリー。その後、日産リーフ全盛期を経て、テスラ モデル3が発売された後はモデル3一強時代が到来。昨年の最終戦からハイパワーのテスラ モデルSプラッドも加わって、テスラの牙城はますます盤石という様相を呈しているとのこと。

そんな中に「打倒テスラ」を掲げて参戦したのが、株式会社ホンダアクセスの社員有志による部活動チーム「モデューロレーシング Honda e」です。じつは昨年の最終戦もほぼノーマルのHonda eで参加していましたが、今年はフルカスタムした新型車で改造範囲が広いEV-Pクラスへのエントリー。カタチは市販車と変わらないのですが、徹底した軽量化が施されていて、近くで見たらタダモノではないことがすぐわかります。

外装は一部を除いてすべてカーボン繊維と樹脂の複合材(CFRP)に換装。ウインドウもガラスからアクリルに変わっていて、内装もすべて取り払われて鉄板むき出し状態です。走行用バッテリーやモーターなどの駆動系は市販車のままですが、ノーマルで約1540kgある車両重量は約1230kgと約300kgも軽くなっています。レースにおいて「軽さは正義」だそうで、これぞ羊の皮を被った狼。

あれ、どこかで見たことが……と思った方もいるかもしれません。はい、コロナ禍でバーチャル開催になった「東京オートサロン2021」に出展されたHonda eベースのドラッグレーサー「e-DRAG」に使われていた車両です。社内の別チームによるプロジェクトが終了して、「使っていいよ」と了解を得て再改造したそうです。

軽量化されていたボディは生かして、直線重視のセッティングだった足回りをサーキットでレースができるように再チューン。「Honda eはノーマルで前後重量配分が50対50なんですが、これだけ軽量化しても50対50だったのが驚きでした」とモデューロレーシング監督の黒石田利文さん。設計の良さがわかりますね。

予選タイムは、1分9秒868。全体の8位からのスタートとなりました。ちなみに1~7位はすべてテスラ勢です。

PPのプラッドが最後尾になる波乱のスタート

意外すぎるポールtoフィニッシュを演じたKIMI選手のモデルSプラッド。

決勝は、1分0秒995でポールポジションを獲得したモデルSプラッドのKIMI選手がスタートに手間取り、最後尾から追い上げるという波乱の幕開け。しかしKIMI選手は次々に先行車を抜き去って数周でトップを奪います。序盤戦の見どころは、1000馬力マシーンが発揮した圧倒的なスピードでした。

サーキットでのEVレース、排気音もしないし、どんな感じなんだろう、とあれこれ想像していたのですが、甲高いモーター音と、ボディーが風を切る音は、相当な迫力です。コーナリングでタイヤが軋む音は、排気音がない分だけ強調されて、限界に挑んでいることがはっきり伝わってきます。

Honda eはレース序盤、さっそくテスラと熱いバトルを演じました。ゼッケン55番のモデル3(モンドスミオ選手)に先行して、1分11~12秒台のハイペースで周回。観客席からは「なに? あのHonda e、速えー」と驚きの声も上がっていました。その後、モンド選手には先を譲ったものの、別のモデル3とモデルSプラッドがトラブルでリタイア。一時は5位まで順位を上げる快走ぶりでした。

バッテリー温度上昇と小容量で苦心のレース展開

ただし後半は、EVレースならではの問題に悩まされました。バッテリー温度が上昇し過ぎたことによる出力制限です。ドライバーの渋谷和則選手によると「目一杯アクセルを踏んでもパワーが半分ぐらいしか出ない」という状況に。

なので、アクセルをオフにして惰性で車を走らせる「リフト・アンド・コースト」というテクニックなどを駆使して、なるべくタイムを落とさず、かつバッテリー温度を上げすぎない、という繊細なドライビングを強いられたそうです。

終盤には、出場車両の中で最少の35.5kWhというバッテリー容量も壁に。ゴールした時に0%というのが理想的なのですが、レース展開に計算違いがあり、最終ラップで電欠に陥ってスピードダウン。フルカスタムHonda eのデビュー戦は、総合7位という結果となりました。

レース終了後のお助けチャージ

その際、ピット裏で動けなくなったHonda eに、充電しましょうか? と声をかけたのが、可搬式急速充電器「ローディーV2」を積んだベルエナジーのトヨタbZ4Xでした。他チームのために待機していたそうですが、使わなかったのでどうぞ、とチャージ。微笑ましい救出劇だったので、付記しておきます。

Honda eは、今季の残り4戦にも引き続き参戦を予定。最高速アップ、ブレーキの改善、ドライバーの冷却(エアコンがない)などの課題に取り組むそうです。「これまでエンジン車でレースをしてきましたが、静かに闘志を燃やして頭を使いながらレースをするのがEV-GPの良さですね。私たちの部活動には合っています。なんとかしてテスラとやりあえるクルマに仕上げたいと思っています」と黒石田さんは話していました。

モデルSプラッドのKIMI選手が圧巻の2連勝

総合優勝のKIMI選手(GULF RACING Plaid)。

総合優勝はテスラ モデルSプラッドのKIMI選手で、第1戦に続いての連続V。2~4位もテスラ モデル3で、この日もテスラの牙城は崩れませんでしたが、Honda eに加えてヒョンデ IONIQ 5と日産アリアの初参戦と健闘も話題になっていました。今後、トラック性能が大幅にパワーアップされたIONIQ 5 Nやアリア NISMOの参戦にも期待です。

観客席で何人かのEV仲間と会いましたが「友達が出るから」「自分のと同じ車が走るから」というのが観戦の理由。私もHonda eが出ると聞いて見にきたわけで、「身近な共感」が市販車ベースのマシンが走るEV-GPの魅力ですね。

マイカーと同じクルマがコーナーを駆け抜けていくのを見ているだけでニヤニヤしてしまいます。他車オーナーのみなさんもきっとそういう気持ちでは。出場者と観客の距離が近いのもいい感じです。あちこちで出場車両を囲んで歓談の輪ができていました。私たちもレース後にモデューロHonda eやスタッフの皆さんと一緒に記念撮影させてもらいました。

2位の地頭所光選手(TAISAN BIR TESLA 3)。

ドリキン土屋圭市選手の参戦にも注目

初参戦で3位の土屋圭市選手(TAISAN BIR TESLA 3)。

今回は、ドリフトキングこと土屋圭市選手がモデル3で初参戦したのも注目を集めました。土屋選手はEVをサーキットで走らせる(レース参戦する)のは初めてだったとか。「スイッチみたいにオンオフがはっきりしたブレーキは慣れるのが大変」といいつつ、予選4位決勝3位とさすがの好成績。「今後はEVレースも広がって、いずれは二極化していくのでは」と話していました。

小峰猛彦選手(モタスポ .Net RPJ IONIQ5)は総合6位。

IONIQ 5で出場して総合6位に入った小峰猛彦選手にも話を聞きました。「どこまでポテンシャルがあるのか試してみたくて、あえて完全ノーマルです」。ベストタイムは予選時の1分12秒015。車重には悩まされたものの、ずっと全開でもバッテリー温度を気にせずに走行できたとのこと。なんと小峰選手、話題の怪物マシン「IONIQ 5 N」をポチったとか。「9月の富士スピードウェイ(第5戦)に間に合うといいのですが」と話していました。参戦が楽しみですね。

総合8位の折戸聡選手(RWORKS ARIYA B9e4)。

日産アリアB9 e-4ORCEを初参戦させた折戸聡選手は、長くEV-GPにかかわっていて、これまではノートe-powerでEV-Rクラスに参戦するなどしていたそうです。アリアにはGTRの前輪ブレーキとローターが移植されていました。「せっかくSUV限定のEV-Sクラスを作ってくれたので、もっと参加車両が増えて欲しいと思っています」。驚いたのは20数周を全開走行して、総合8位に入ったにもかかわらず、アリアB9はバッテリー充電率を46%も残していたこと。「このまま無充電で帰宅できますね」と笑っていました。

スターティンググリッドで記念撮影!

残念ながら完走できなかったのですが、ゼッケン10番のテスラ ロードスター(久保凛太郎選手)も要注目の一台でした。EV-GPの初代チャンピオンマシンなのだそうです。不動状態に陥っていたのを、バッテリーを交換するなどして再生してエントリー。EV史を実感できる新旧混走のレースというのは、ほんとに素敵です。

EV-GP観戦はオフ会にもぴったり

あと、初観戦して新鮮だったのは、予選と決勝の間に設定される「充電タイム」でした。11時からの公式予選を終えたあと、すべての出場車両を満充電にして、バッテリーも冷却する必要があるので、16時の決勝までぽっかりと時間が空きます。チームは忙しそうですが、観客はのんびりまったり。観戦に来ていたHonda eオーナーズクラブの仲間と、あれこれ話し込む時間もありました。EV-GPはオフ会にぴったりかもしれません。

仲間のHonda eとともに、モデューロレーシングドライバーの渋谷和則選手。

EV-GPシリーズ第3戦は6月29日(土)に袖ヶ浦フォレスト・レースウェイ(千葉県)で開催されます。Honda eオーナーのみなさん、よかったら一緒に応援しましょう。青いHonda eを見かけたら声をかけてくださいね。IONIQ 5やアリア、テスラオーナーのみなさんもぜひサーキットへ。EVの全開走行、なかなか見る機会はないですし、かなり面白いです。

詳細なレザルトや今後の日程は日本電気自動車レース協会(JEVRA)のホームページに掲載されています。

取材・文/篠原知存

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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