氷上の電気カートレースに3年連続出場
ERK(Electric Racing Kart)は、レーシングカートの車体にモーターとバッテリーを積んだマシンで競うゼロカーボン・モータースポーツ。ERK Cup Japanというサーキットでのシリーズ戦は今年で13年目です。その電動カートに特製スパイク付きタイヤを履かせて、スケートリンクでレースをしようというのがERK on ICE(氷上電気カート競技会)。毎年開催されていて今年で5回目を迎えました。
私は3年前にビギナークラスに初参加して、簡単にドリフト走行ができる面白さと、想像以上のスピード感にハマってしまい、連続3回目の参加です。ただ、成績は散々で、2年前はスピンして敗戦、雪辱を期した昨年もスタートに失敗したあげくに2回もスピン。経験を積んだはずなのに、だんだん成績が悪くなるのはどういうことでしょう。今年は三度目の正直で、くるくる回ったりせずに走り切り、できれば勝っちゃいたいところです。
開催日は2024年9月23日(祝)で、会場は横浜市港北区のKOSÉ新横浜スケートセンター。今回はHonda eではなくバイク(エンジンのほう)で会場入りしました。レースに出場するために、どうせヘルメットと手袋は持参するわけだし、なにより駐車料金が安上り(1日200円)なので。
さて、受付でパンフレットをもらって気づいたのですが、去年より出場者数が増えています。今回、ビギナークラスに28人、エキスパートクラスに28人、競技車両を提供したオーナーのチームが出場するオーナーズクラスに7チーム(13人)がエントリーしています。
会場ではEVオーナーが和気あいあい
たくさん参加していたのが、テスラオーナーズクラブ(TOCJ)のみなさん。EVごはんの石井啓介さんとユーチューバーのミヤタネットさんが声をかけたところ、今季のEV-GPで最終戦を残してEV-2クラス優勝(総合2位)を決めることになったモンドスミオさんらクラブメンバーが続々と参加を表明。10人以上のテスラオーナーが参戦する運びとなったそうです。
かくいうHonda eオーナーズクラブも、青eの私と赤eの松本さんの2人が参戦。クラブ代表の片岡英明さん(黄e)も、レースには出ないものの模範走行やレースの実況解説のために来場しています。みんなで観戦しながら、ワイワイガヤガヤと語り合う、オフ会のような楽しい時間になりました。
開会式は正午から。日本EVクラブの舘内端代表幹事が「今年も楽しみましょう」と開会を宣言しました。早速、私が出場するビギナークラスのレースです。申し込み時に4人1組でグループ分けがされていて、私はE組。さらに当日受付時に抽選でグリッド順が決まりました。
3回目のレースで、なんと壁に激突……
ビギナークラスは、スケートリンクを反時計回りで2周します。安全を考慮して、スピードスケートのチームパシュート(団体追い抜き)のように、2台ずつリンクの反対側からスタートする方式。A、B、C組と順番にレースが進んでいきます。自分が走る時のことをイメージしながらレースを見守ります。
いよいよE組。カートに乗り込みます。先導のペースカーについて半周走るあいだに、なるべく挙動を確認したいところ。まずは発進。氷上ではアクセルを踏み込んではいけません。じわっと触るように。空転したらすぐ戻してまたじわり。スピードが乗るまではその繰り返し。この秘技は、片岡さんと一緒に模範走行を披露したドリフト名人のモータージャーナリスト、斎藤聡さんからアドバイスしてもらいました。初めて試してみましたが、うまくいきそうです。
ブレーキのかかり具合も試して、ハンドルも左右に振ってみます。いろいろ確かめたいのですが、半周はあっという間。すぐにスタートラインに着いてしまいました。でも、相手はみんなビギナーです。こっちはもう3回目。今回は秘技もあるし、勝てそうな気がしてきました。なんならエキスパートクラスでもよかったかもしれません。
スタート。緑の旗が振り下ろされるのと同時に、じわじわアクセルを意識したのですが、静止状態からはやっぱり「ギャッ」と空転。でも、すぐに修正できました。斎藤さん、ありがとうございます。一気に抜くことはできませんでしたが、同走車のすぐ後ろについて、追い越しのチャンスをうかがいます。
と言いつつ、ドリフトさせたくなって、ついコーナーでアクセルを開け気味に……いかんいかん。2年続けて失敗してるんだからな、と右足に言い聞かせてペースをキープ。無事に2周目に入ったところで、先行車がスピンしました。
ほらね、アクセル開け過ぎたらダメなんですよ、と思ったのは一瞬のこと。追突を避けようとアウト側にハンドルを切ったら、あれれ、なぜ目の前に壁が!? なすすべもなく、壁に正面から突っ込んでしまいました。動けなくなったので、スタッフさんに引っぱり出してもらい、再スタート。なんとかゴールはできたものの、もちろん最下位です。三度目の正直のつもりが、二度あることは三度あるという、残念な結果となったのでした。
E組で1位になったのは、大場恭弘さん。テスラ モデル3のオーナーです。レース後に聞いてみると、氷上カートは初参戦とはいえサーキットでのレース経験は豊富でフォーミュラカー(FJ1600)にも乗っていたとか。「トラクションのかかり具合もいいし、コントローラブルで奥が深い。めちゃめちゃ楽しいオモチャですね。アスファルトの上ではなかなか試せないドライビングを体験できるのが面白かったです」。うーむ、話を聞いていると壁ドンしなくても負けていたような気がしてきました。
レースに続いてビギナークラスの表彰式が行われました。各組1位のドライバーは、二瓶栄次さん、清水優さん、岡部智仁さん、小池豊和さん、大場恭弘さん、中島彰さん、木村啓人さん。それぞれにメダルが手渡されます。あのメダルはいつになったらゲットできるのやら。
エキスパートクラスはさすがのレース運び
続いてエキスパートクラスのレースです。同じ2周勝負なのですが、こちらは4台同時のマススタート。より駆け引きが難しくなります。競り合いでカートが接触するシーンなどもありましたが、みなさんレース経験者なので、やはりコーナリングが抜群にうまい。それは無理でしょ、と思うぐらい進入速度が高く、きれいにテールを流して向きを変えています。速度を落とし過ぎないコーナリング。カッコいい。これがやりたいんですけどねえ。
エキスパートクラスの各組1位は、寺田大さん、山本幸宏さん、木村順さん、木村啓人さん、大矢卓さん、大塚薫さん、田中利緒さんでした。
最後はオーナーズクラスです。大会にレース車両を提供しているチームが競うイベントで、6チームが参加(1チーム欠場)。ドライバーを交代して2回レースをして、合計ポイントを競います。
優勝したのは、第1レースで三井優介さん、第2レースで及川紗利亜さんがともに1位を得た「Team Pn LAB」でした。2人とも前列イン側からスタートして、安定した快速走行で逃げ切っていました。
それもそのはず。三井さんはTEAM SPOONでスーパー耐久やスーパーGTを走るプロドライバー。「楽しかったですね。スリックタイヤでウェット路面を走るとか、実車でもあり得る挙動。車を速く走らせる練習にもなると思います」。
及川さんもモータースポーツ界の有名人。KYOJO CUP(女性ドライバー限定のプロレースシリーズ)に参戦中で、歯科医師でもあり、元ミスユニバーズジャパン準グランプリとしてボランティア活動もしているそうです。ERK Cup Japanシリーズにも参戦経験があって、今大会は先導ドライバーや表彰式のプレゼンターも務めてくれていました。
「氷上は初めてだったので、ちょっと不安でした。でも、楽しく車をコントロールしながら走ることができました。ERKは、未来につながるモータースポーツとして可能性を感じますね」(及川さん)
レース終了後に、大会初の試みとして「大抽選会」が行われました。オリジナルグッズなどが当たったほか、目玉商品は「ERK試乗権」。その場でERKに乗ってリンクを走っていいよ、というものです。なんと8人の当選者に私も入って、しっかり練習走行をさせてもらいました。来年こそ優勝、いや、回ったりぶつかったりせずに完走したいです。
それにしても、スケートリンクをカートが猛スピードで走っているというのは、ほんとに不思議な光景です。でも突拍子もないことをやっているわけではありません。とにかくエキサイティングですし、お話を聞いたモータースポーツ経験者が口を揃えていたように「極限状態での車の挙動を安全に学べる」機会にもなっているんですね。
会場で配られた出場者向けのアンケートには「年3回ぐらいの競技会をシリーズで開催したいと考えています」という項目もありました。もちろん「参加したい」と回答しました。ERK on ICEが、もっとメジャーになってほしいと思います。
ちなみに、オーナーズクラブの仲間である赤eの松本さんは、いまサーキット用のERKを製作中。自分で運転するのは氷上レースだけで十分ですが、ERKの世界も面白そうです。そのうちにサーキットでのERK Cup Japanも見にいきたいと思っています。
私のHonda e(2021/4/29~2024/9/23)
総走行距離:6万1964km
平均電費:8.8km/kWh
累計充電回数:急速427回、普通119回
取材・文/篠原知存
写真提供/一般社団法人日本EVクラブ