「学生フォーミュラ日本大会」が3年ぶりの開催〜EV部門に過去最多14チームが挑戦

学生フォーミュラ日本大会が2022年9月6日(火)~10日(土)の5日間にわたって、静岡県の「小笠山総合運動公園(通称エコパ)」で開催されました。コロナ禍で2年間は本大会が開催中止、3年ぶりの本格開催となったわけですが、今回、EVクラスに過去最多の14チームがエントリーしました。はたして結果は? 現場で感じたことを報告します。

「学生フォーミュラ日本大会」が3年ぶりの開催〜EV部門に過去最多14チームが挑戦

「3年ぶり開催」は学生にとってハードルの高い一戦に

この「学生フォーミュラ」とは、記事カテゴリは「電気自動車 レース」にも分類しましたが、サーキットで速さを競うような競技ではありません。学生が「自ら構想・設計・製作した車両により、ものづくりの総合力を競う」主旨の大会です。1981年にアメリカで開催された「Formula SAE」が、その始まりとなり、現在は、世界各国でほぼ同一のルールで開催されている競技会で、日本では2003年から毎年開催されてきており、今回が第20回大会となります。

【関連サイト】
学生フォーミュラ公式サイト

新型コロナウィルス感染症拡大の影響もあって、2020年は大会の開催中止、2021年は車検/動的審査の中止と、この学生フォーミュラも多大な影響を受けてしまっています。本大会の開催は実に3年ぶりとなりました。基本的に4年(自動車大学校など修業年限が2年の学校も参加)で卒業する学生にとって2年間の大会中止は非常に大きな影響を及ぼしているようで、学生自体が入れ替わってしまって、学生フォーミュラの本大会に来るのは初めてという学生が大半という状況でした。

実際に本大会を見てみると、主催者が危惧する以上にきびしい内容だったと言えます。というのも、大会開催のブランクに加えて、コロナ感染対策の影響で学生たちの活動環境は厳しくなっていることです。車両を製作する活動場所自体の立ち入りが制限されたり、多人数が集まっての活動自体が抑制されたり、と学生生活のなかでどのように学生フォーミュラの活動時間を確保できるか、といったところも学校によってさまざま。さらに新入生が入ってこないという状況も一部ではあったようです。

車検を受ける静岡大学チームのEVフォーミュラマシン。

近年の学生フォーミュラ日本大会は国内外から100チーム以上のエントリー(2019年大会は120チーム)がありました。今年の大会では当初から参加は98チームという制限があり、また参加校を日本国内限定としたこともありますが、エントリーは70台に届かず、という状況でした。エントリーの少なさだけではなく、大阪大学や名古屋工業大学といった強豪校でも技術車検をなかなか通過できないというような状況を招いていました。

EVクラスへの変更が相次いだのも、今年の大会のトピックです。これまでも、この学生フォーミュラ日本大会ではICV(ガソリン自動車)とEV(電気自動車)の2クラスが設定されていましたが、今回、上智/青山学院大学、静岡大学など、新たに4チームがICVクラスからEVクラスにクラス変更しました。これにより、日本大会では過去最高の国内14チームがEVクラスに挑戦するということになりました。

EVシフト? しかし参戦辞退の学校も……

審査風景のひとコマ。

多くのチームがEVへ移行、と書くと日本の学生フォーミュラ大会でもEVシフトが進んでいる、と思われるかもしれませんが、世の中そんな単純でもなさそうです。たしかにEVクラスへエントリーをしたものの、車両製作が間に合わない、駆動させることができない、というチームも多かったようです。

本大会開催前に「E14 横浜国立大学EV」が「コロナ禍に起因するメンバーの経験や人員の不足と、EV移行のハードルの高さにより作業が思う様に進まなかったこと」を理由に正式に参戦辞退を発表しています。また、残った13チーム中過半数の7チームが、車両が完成したことを証明するシェイクダウン証明が提出できていないという状況でもありました。

また今回の大会では静的審査については、事前のオンライン開催(デザインファイナル審査のみ現地開催)となりました。実際の車両を持ち込むことなく書類上の審査です。これまでエコパスタジアムの部屋を使って同時に静的審査(デザイン審査、プレゼン審査、コストと製造)を行っていましたが、今回は本大会開催前に静的審査は終了しており、エコパの会場では車検審査と動的審査のみが行われる形となりました。

静的審査までの段階で、EV勢では「E01 名古屋大学EV」チームが暫定3位(デザインファイナル審査待ち)という好ポイントを獲得していました。EV勢で2番手に入った「E02 豊橋技術科学大学EV」が総合21番手につけていました。ゼッケンを見ればわかる通り、強豪校です。さすがに静的審査の書類はしっかりと仕上げてきたようです。

が、実はこの2校は車検で苦戦を強いられます。会場での審査はまず車検からスタートするのですが、機械車検、EV車検それぞれでこの強豪校をはじめ、スタックするチームが続出です。長時間にわたって車検審査を受けるチームによって、用意されたEV車検ブースには常にマシンがいるような状態になっていきます。

それでも大会2日目の終了間際、2台のEVマシンがレインチェックまで進みます。レインチェックをクリアできればブレーキテストを受け車検はクリアとなり、動的審査に進むことができます。雨の中、テントの下でマシンに水をかけるというシュールな風景となりましたが、これを通過したのが、「E06 静岡理工科大学EV」そして「E08 トヨタ東京自動車大学校EV」の2校です。翌3日目に「E04 静岡大学EV」もレインチェックまでは進むことができました。

完走を果たしたトヨタ東京自動車大学校チームのマシンとドライバー。

動的審査は、アクセラレーション、スキッドパッド、オートクロス、そして最終日の早朝に用意されたEV枠のエンデュランス審査とあるわけですが、大会2日目にレインチェックを通過した2チームは翌3日目に車検を通過。これらの動的審査を経て、最終的な動的審査であるエンデュランス競技にまでたどり着くことができました。

走らせるだけではない大会の厳しさ

大会4日目には、来年のEVクラス参戦に向けた特別フォローアップとして講演に立つこととなったのが、神奈川大学大学院M2の木俣 葵さんです。その講演に先立ち、筆者に学生フォーミュラEVマシンの製作について、厳しい状況を教えてくれました。まず、提出を求められるESF(エレクトリカル・システム・フォーム)では、200ページにも及ぶ膨大な書類を書き上げねばならず、提出期限も他の審査の書類と近いというハードルの高さを指摘しています。

大会までのスケジュールとしては、2月の参加申し込み後、まず3月中旬には等価構造計算書(SES)の提出が求められます。ここで指摘されたESF、そして故障モード影響度解析(FMEA)の提出は、そのひと月半後となる5月上旬が締め切りとなります。その後、コストと製造審査提出物、デザイン審査提出物、プレゼンテーション審査提出物が6月にあります。このESFの提出は相当学生を苦しませるのだそうです。また、EVクラスには、ICVとは異なるEV車両のみに課される車検が別にあることも、現地で時間を割かれる原因となっています。

実際に参加チームに話を聞いてみると、「E11 日産京都自動車大学校EV」のチームリーダーは「ICVとEVの車検の量と時間が違うので厳しいですね。機械車検だけでいうと我々はほぼ一発でクリア、時間にして1時間半くらいで終了できました。一方のEV車検はしっかり準備して行ったのですが時間がどうしてもかかってしまって……。あとESFですけど、180ページのものを作ったのですが、それでも内容が薄すぎてESFの合格ラインを満たしていなかったのです。これが内容をちゃんと満たしていれば、車検で省略できる部分もあって、そこで時間を削ることができたら、時間内に車検をクリアし走ること(動的審査に進むこと)ができたかなと思っています」とコメントしてくれました。

日産京都自動車大学校チーム。

主催者からは、2 年間のブランク後の現地大会であり、「多くのチームに現地大会を経験してほしい」という想いから数々の救済措置も取られました。事前のシェイクダウンや時間内に車検が通過しなかったチームにも、フォローアップ走行や公式模擬車検会なども開催されました。実際に車両が完成しなかったチームも来年に向けた模擬車検を受けていました。

社会情勢を考えるとEVに舵を切るべきだということで、今回EVへクラス変更したチームのひとつである「E10 愛知工業大学EV」はケーブルなどのパーツが届かず、さらに予想外の問題点が発生し、予定がどんどん狂っていき、結果作業時間が無くなってしまったという。ゼロからのEVクラス参戦は大変だったというのがその感想。EV2年目の「E07 ものつくり大学EV」もコンテナの製作が間に合わず、安全装置も時間切れでできていない状態でしたが、出来上がったシャシーだけでも、ということで模擬車検を受け、来年に向けた課題出しをしていました。

動的審査に進出した2チームのコメント

静岡理工科大学チームの走行シーン。

今回、エンデュランス審査を完走し、EVクラス優勝を果たしたのは「E06 静岡理工科大学EV」(389.90点/総合13位)でした。2009年の第7回大会からEV車両を製作してきた実績があり、第11回~13回大会でEV部門3連覇を達成しているチームです。スロベニアのEMRAX社のEMRAX228モーター他、バッテリー、インバータも昨年から使用しているものを引き継ぎつつ、車両に問題のあった箇所を改善して新しく設計をし直して今大会に臨みました。そのコンセプトは、優れた加速性能と高い運動性能と信頼性をイメージした「ハヤブサ」でありました。

静岡理工科大学チーム。

静岡理工科大学の五十嵐洋太チームリーダーは「大会までまともに走れてなくて、大会がほぼぶっつけ本番で、不安しかなかったです。車両も動作が不安定なところがあって、電気的なシステムで苦労する部分がけっこう多く、電気的なエラーが急に出たりすることは昨年も経験していますし、不安はずっとありましたけど。最後まで持ってくれて走り切れたのは自分でも驚いていますし、本当に良かったなと感じています」とコメントしてくれました。

EVクラス2位には「E08 トヨタ東京自動車大学校EV」(359.39点/総合17位)が入りました。2017年からずっとDCモーターでEVクラスに挑戦してきており、今回も433㎏と他のマシンの倍近い重量級マシンながらしっかりと走り切りました。チームリーダーの中原侑星さんは「機械車検でトラブルがあったり、走行中にホーンが鳴りっぱなしだったり、トラブルもいっぱいあったんですが、みんなで協力してうまく解決し、目標のひとつであるエンデュランスの完走(チーム初)、そして総合順位40位以内という目標もクリア、と良い結果を残すことができてひと安心です」とコメントしてくれました。

トヨタ東京自動車大学校チームの走行シーン。

ICVに比べハードルが高く、マシン製作にも課題の多いEVクラスですが、それでも、東京大学や名古屋工業大学が次大会からのEVクラスへの移行を計画しているということです。今後も学生フォーミュラのEVクラスに注目していきたいと思います。

(取材・文/青山 義明)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 自分も某自動車会社に在籍中、フォーミュラ的な乗り物を数人でイチから作ったことがあるがとにかくものすごく大変だった・・図面に関してはもう、書いても書いても終わらない・・検討項目も部品もネズミ算のように”増えてゆく”・・。企業内でしかもそれで散々飯食ってきた自分でもそうなのだから、まして経験の少ない学生チ―ムが制作が間に合わない!というのは当然。これを改善するには、複数の学校の合同チームを認めてリソースを確保、例えばコアな部分は共通だが各学校独自の部分で差別化するとかどうだろうか?と思ってしまった。現実のメーカーだってサクラとEKクロスEVでそれやってるのだから・・ あるいはFormulaEみたいに基本的な部分は手慣れたメーカーが製作した共通部品で車検とか不要にしておいて、ソフト設計とかエネマネとか空力とかに創造性発揮できるようにしても開催意図に反しないのではないだろうか? 現実では買い物部品の組み合わせに嫌悪感を示す人は居るけれど、それをうまく使いこなし目的を達成するのは、都合の良い専用部品を安易に作るより難易度は高く即戦力的な技術と自分は思います。ただそれだと部品コストが上がっちゃうからそこは、学生を育てる意味で企業がフンパツしてくれないとですが・・

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					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

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