日産が「フォーミュラE」に2030年まで参戦を発表〜極限レースでEV技術進化に期待

日産自動車は2024年3月28日に、「FIAフォーミュラE世界選手権」に2030年までコンストラクターとして参戦を続けることを発表しました。長期の参戦継続の狙いはどこにあるのか。発表会の様子を速報でお伝えします。

日産が「フォーミュラE」に2030年まで参戦を発表〜極限レースでEV技術進化に期待

長期戦略にフォーミュラEも組み込みか

初の日本開催、日本では初の公道を使ったフォーミュラカーの国際レースと初物づくしの「FIAフォーミュラE世界選手権」がいよいよ東京にやってきました。「2024 Tokyo E-Prix」です。

今年で10シーズン目に入った世界選手権のフォーミュラEは、サーキットで速さだけを競うレースとは違い、エネルギーマネジメントをしながら、いかに効率よく、速く走るかが勝負を分ける、ちょっとユニークなレースです。この考え方が日本に定着するかどうかはこれからですが、電気自動車(EV)に力を入れているメーカーの参戦はここ数年で増えてきました。

現在、パワートレインを供給しているマニュファクチャラーは、ジャガー、ポルシェ、日産、ステランティス、マヒンドラ・レーシング、ERT(エレクトリック・レーシング・テクノロジーズ)です。

さらに2024-25シーズンからは、ヤマハがローラと組んで参入してくることも発表されました。

そうした中、日産は3月28日に、2030年シーズンまで継続して参戦することを発表。シーズン13から16までの登録書をFIAと交わしました。

日産は2024年度から2030年度の間に計34車種の電動モデルを市場に投入することを発表しています。その中で、フォーミュラEを、電動化技術を開発するための重要なプラットフォームのひとつと位置付けて参戦しています。

日産の内田誠最高経営責任者(CEO)は長期参戦にあたり、「レースで磨いた電動化の技術や知見は、将来のより良いクルマづくりにおいて大きな意味を持つ」とし、「EVレースの未来とともに、持続可能な社会の実現を目指した取り組みを推進する」と抱負を述べました。

長期参戦で次世代マシンの開発にメリット

ところで、なぜ日産は2030年までの長期参戦を今の時期に決めたのでしょうか。

フォーミュラEは、現在はGen3と呼ばれる第3世代のマシンを使用しています。最高出力は350kWで駆動は後輪のみですが、回生ブレーキは前後輪で作動します。回収能力はフロントが250kW、リア350kWの合計600kWと超強力です。ワンメイクのバッテリーの小型化により最低車両重量がドライバーを含んで854kgと、Gen2より50kg以上軽くなっているのも大きな変化です。

さらに2026-27年のシーズン13から、日産が延長を決めた2029-30年のシーズン16までは第4世代のGen4マシンを導入することが決まっています。Gen4では、回生量は最大700kW、最大出力は600kWになる見込みです。

つまり日産の参戦契約は、Gen4マシンによるレースに照準を合わせたことになります。

マシンのレギュレーション変更は、開発スケジュールに大きな影響を及ぼすため、長期参戦による開発への影響は大きそうです。

日産フォーミュラEのゼネラルマネージャー、トマソ・ヴォルペ氏は発表時の記者会見で長期参戦のメリットについてこう述べました。

「ベネフィットは、今から開発を始められること。2026年後半にホモロゲーションの変更があり、開発はより長期になるうえ、とても複雑なものになる。複数年前から最適化を進められるのはメリットだ。2030年までフルコミットメントするのなら(参戦延長の決定を)待つ理由はないと考えた」

四駆化の進展にも期待

またパワートレイン開発を担当している西川直志・チーフパワートレインエンジニアは、「日産としては四駆化のフルオープンをプッシュしていきたい」と期待感を示しました。日産は電動四輪駆動のe-4ORCEを手がけていることもあり、「この技術を活用してより速い車が作れるのではないか」と考えているそうです。

一方、市販車と競技用マシンでは必要な技術が大きく違うため、部品の転用ができるわけではありません。

そうしたことがあるとはいえ、西川氏は、市販車のように騒音、振動、コストなどを気にする必要がないので「制約なくパフォーマンスを突き詰めることで、市販車開発では思いもつかないような新しい何かを見つけることができ、そこで得られたことを市販車に適用する方法を考えることができる」と、技術面での意義を語りました。

レースマシンと市販車開発の両輪がうまくかみ合わえば、相互作用が期待できるということですね。

市販EVに関しては、どんなスペックがいいのかというパッケージングの根本的な部分でも、各社がまだ試行錯誤している印象を受けます。同時に回生のとりかたなど、電費向上に関する技術的なことも、考え方がまとまっているようには見えません。

極限が求められるレースを通して試行錯誤中のEVにフィードバックがあることで、大きく進歩することを期待したいと思うのです。

ちなみに日産は今シーズン、第4戦までで、カスタマーチームのマクラーレンが1勝したほか、日産フォーミュラEチームのオリバー・ローランド選手が2度、表彰台に上がっています。自国開催の東京での上位入賞も期待できそうなのであります。

市街地レースを楽しんでほしい

ということで日産が長期参戦を決め、前述したようにヤマハも来シーズンから参戦することを発表したことで、残るはホンダか?などと妄想してしまいます。ヤマハがレースをするというと、オッサン世代には後ろにトヨタの影がちらつくので、なおさらホンダが気になります。

ホンダはフォーミュラワン(F1)をやっているので忙しいとは思うのですが、せっかくならEVレースにもきてほしいなあと思ってしまいます。

ということで「2024 Tokyo E-Prix」、いよいよ本番が始まります。3月29日にはフリープラクティス、30日の土曜日には本番です。

音がしないからつまらないという声も漏れ聞こえますが、狭いコースをコマネズミが突っ走るようなフォーミュラEのレースは、独特のおもしろさがあると思っています。

あとはエネルギーマネジメントの勝負が見どころ。ゴールと同時にバッテリー残量が「0%」になるという超絶技巧を見ると、ドライバーとチームスタッフの技術戦略の高さを感じてドキドキします。

まあ確かにこういうのは、ボードゲームや、チェス、将棋などと似ている部分があって玄人向けではあります。

それも踏まえて、パワートレイン開発担当の西川氏は、お客さんはどこを楽しんでいいのかわかりにくいかもしれないと言いつつ、こう言っていました。

「実際、フォーミュラEの市街地レースを間近で見るとものすごい迫力で、電気自動車でもだんだん音がかっこいいって思えるような世界観がある。その迫力を感じていただいて、フォーミュラE自体の認知度が上がってくれると一番いい」

なにはともあれ、30日15時の決勝レーススタートをお楽しみに!

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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