パイクスピーク2024決勝/電気自動車のフォードF-150スーパートラックが総合優勝

今回が102回目の開催となるパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムの決勝レースが行われ5台のEVが出場、フォードのEVであるF-150ライトニングスーパートラックが総合優勝を飾りました。ヒョンデIONIQ 5 N TAスペックは総合3位です。青山義明氏による現地レポートをお届けします。

パイクスピーク2024決勝/電気自動車のフォードF150スーパートラックが総合優勝

標高が上がって酸素が薄くなってもEVには関係ない

パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(通称:パイクスピーク)は世界で2番目に古いレースといわれ、今大会は2024年6月23日(日)、無事に決勝が開催されました。このレースはアメリカコロラド州にあるパイクスピークという標高4302mの山を舞台に、誰がこの山を一番速く駆けあがることができるかを競うヒルクライムイベントです。

タイムアタックするコースはパイクスピーク山に上るための観光登山道路であるパイクスピーク・ハイウェイを使用します。登山道路の途中に設けられたスタート地点の標高が2862mで、ゴール地点は頂上なので標高4302m。標高差1439m、全長約20kmのコースを駆け上がります。

高度が上がるにつれ空気(酸素)は薄くなっていくので、内燃機関の車両では出力が落ちていき、ゴール付近では約30%の出力ダウンを余儀なくされるということですが、もちろんEVではそれがありません。2012年にはコース全面にアスファルトが敷かれたため、その後急速にタイムの向上が見られ、現在の歴代最速タイムは2018年にフォルクスワーゲンの電気自動車I.D.Rパイクスピーク(ドライバーはロマン・デュマ選手)の出した7分57秒148となっています。

練習走行から天候に大きく振り回されることに

決勝レースを前に、予選&練習走行日が3日間用意されました。予選&練習走行日は、コースをロアセクション、ミドルセクション、アッパーセクションの3区画に分け、エントラントも3グループに分け、3日間かけて各グループが全セクションを走行します。

ところが練習走行3日目となる6月20日(木)はパイクスピーク山に降雪があって、トップセクションとミドルセクションの走行はキャンセルとなりました。予選はロアセクションのタイムがそのまま適用されるので、無事に全グループの予選タイムは計測できました。

その予選でトップに立ったのは、ロマン・デュマのフォードF-150(#150 2024年式Ford F-150 Lightning SuperTruck)で、タイムは3分32秒831でした。「FAST15」と呼ばれる上位15名の予選通過者の中には、EVがもう一台、ダニ・ソルドのアイオニック 5 N TA Spec(#198 2025年式Hyundai Ioniq 5 N TA Spec)が4分01秒514のタイムで8番手に食い込みました。

予選トップ&総合優勝を飾ったロマン・デュマ。

ランディ・ポブスト氏が急遽アイオニック 5 N TA specで参戦

今回、この大会には、5台のEVが出走します。そのうち、3台をエキシビジョンクラスに投入するのがヒョンデですが、そこに大きな変更がありました。ソルドと同じ仕様のアイオニック 5 N TA specの49号車に、過去5年間で4回優勝したロビン・シュートを起用し、練習走行初日の予選ではシュートが走行をしていたのですが、練習走行2日目に急遽、ジャーナリストで過去にはテスラでこのPPIHCに参戦していたランディ・ポブストがロビン・シュートに代わって(チームからは個人的な事情でドライバーが交代となったというリリースが出ています)49号車に乗ることとなりました。

ヒョンデチームのドライバー。右端が急遽参戦となったポブスト。

決勝レースの出走順は、複雑なルールが適用され、エキシビション部門は、予選タイムに基づき遅い順に出走、残りのフィールドの上位 25% は、予選タイムの遅い順に出走。そしてそれ以外の車両は予選タイムに基づいて、速い順に走行します。

つまりエキシビションの4台のEVがまず走行することになり、ヒョンデのポブストがトップで走行を開始し、続いてガードナー・ニコルズ(#21 2024年式Rivian R1T)、ロン・ザラス(#13 2025年式Hyundai Ioniq 5 N)、ダニ・ソルド(#198 2025年式Hyundai Ioniq 5 N TA Spec)と立て続けにEVのアタックが開始されます。パイクスピーク・オープンクラスで、ポールタイムを出したデュマ(#150 2024年式Ford F-150 Lightning SuperTruck)は少し離れた18番手スタートとなりました。

ここ数年にないほどの好天に恵まれた決勝日

決勝当日、朝から山頂の天候は晴れ。「これまでで一番良い天気じゃないか?」と30年以上この山に通うカメラマンもいうほど、過去に例のない好天といえたと思います。特にここ数年は天候悪化によるコース短縮が頻発していたので、特にそう感じるのかもしれません。この日のパイクスピークは朝から快晴で、標高4302mから眺める日の出はまさに神々しいまでの美しさ。この天気は一日中続き、午後になると雲は多くなってきたものの、雨やヒョウが降り出すことなく最終車両のアタックまで、そして全エントラントが山を下りるまでドライコンディションが保たれました。

この日のスタートを切るのは、まず「ミリタリーコンボイ」という軍用車両のパレードがあり、今回のペースカーである「2024年式アキュラZDX Type S」が走行を開始。そして午前7時半にグリーンフラッグが振られます。レースカーは約4~5分おきにスタートし、全61台が走行する今回、赤旗がない場合少なくとも午後2時頃にはレースは終了するが、ここ5年間では平均2~3時間のレース赤旗中断の時間があり、最初のグリーンフラッグからレース終了までは平均約9時間となっています。

好天に恵まれた今回、すんなりいくかに思われたレースは赤旗に次ぐ赤旗で、なかなか進行していきません。トラブルが起きた車両の後ろでアタックをしていた車両も同時にアタックを取りやめ、スタート地点に戻るため、中断時間は長くかかります。最終車両(スイーパー)として今回採用された「BMW i5 M60(ドライバーはクリント・ヴァショルツ)」がチェッカーを受けたのは午後4時38分のことでした。

EV勢で最初に走り出したアイオニック 5 N TA仕様49号車(ドライバーはポブスト)は9分55秒551と、10分を切るタイムで駆け上ってきました。ポブストにとっては、昨年テスラ モデルS Plaidで出した9分54秒901に若干届かないタイムとなったわけですが、遜色ない走りを見せました(最終的な総合順位は8位となりました)。

続いて走行をしたニコルズのリヴィアンR1Tは10分53秒883とポブストから1分弱の遅れとなりました。昨年初出場した際のリヴィアンR1Tのタイムは11分23秒983ですからタイムはしっかり向上しており、今年は総合28位という結果となりました。ちなみに走行初日からトラブルを抱えていたリヴィアンR1Tはこの決勝後も「ブレーキ廻りのトラブルが改善していない」とのことで積載車に積んだ状態で山を下りました。

ヒョンデ・アイオニック 5 Nの市販バージョン、ザラスが駆る13号車は10分49秒267のタイムで総合26位でした。そして、この前半のハイライトといえるスペイン出身のWRCドライバー、ダニ・ソルドの登場です。過去2年ラリージャパンにもヒョンデから参戦をしているドライバーなので、日本での認知も高いドライバーといえます。このソルドがアイオニック 5 N TAで出したタイムは、同じ仕様の車両に乗るポブストを25秒近く上回る9分30秒852という圧倒的なタイムで、この時点での暫定トップとなりました。このタイムに対して、ソルドは「すごく良かったよ」と喜んではいました。

そして、赤旗中断が何度も続く中、午前9時半を過ぎたところでようやくポールシッター、ロマン・デュマの駆る150号車フォードF-150ライトニングスーパートラックが走行を開始します。しかし、スタート直後の3つ目のコーナーで車両のシステムがシャットダウンするトラブルに見舞われて一旦ストップ、マシンを再起動させるハプニングがありました。

デュマの直前にアタックを開始したクリスチャン・メルリ(#313 2024年式Wolf Aurobay GB08 2.0 HP)が9分04秒454でソルドを抜いて暫定トップタイムを記録していました。デュマはハプニングがあったロアセクションでメルリから18秒ほど遅れたものの、ミドルとアッパーセクションで追い上げます。叩き出したタイムは8分53秒553。このタイムは昨年「SuperVan 4」で出した8分47秒682にはとどかなかったものの、パイクスピーク オープンのクラス優勝ならびにオーバーオール(総合)での優勝となり5度目の「King of the Mountain」の称号を受けることになりました。

●PPIHC公式サイトのリザルト(PDFファイル)はこちら

最終的に60台が出走した102回目のパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムでは、47台がタイムを記録。EVでのオーバーオール優勝は、2015年の「Drive eO PP03(9分7秒222/リース・ミレン)、2018年の「VW I.D.Rパイクスピーク(7分57秒148/ロマン・デュマ)」に続く、3度目の記録となりました。

取材・文/青山 義明

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					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

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