レーシングドライバー 太田哲也氏が語る「EVレース」の難しさ&面白さとは?

電気自動車は環境に優しいだけのクルマではありません。リーフ(ZE1)ニスモでレースに参戦したレーシングドライバーの太田哲也氏に、EVレースならではの難しさや楽しさについて聞きました。

レーシングドライバー 太田哲也氏が語る「EVレース」の難しさ&面白さとは?

日本一のフェラーリ遣いがEVレースに参戦

太田哲也選手と言えば、日本一のフェラーリ遣いの異名を取り、国内外のレースで活躍。「クラッシュ」という映画にもなった、1998年の全日本GT選手権第2戦での多重クラッシュによる熱傷で生死の境をさまよったレーシングドライバーであり、現在は日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員でもあります。

そんな太田選手は事故から5年後にはサーキットへ復帰しており、ここ2年ほど日産リーフでサーキットを走っています。それが「LEAF e-Trophy(LeTS)」というシリーズです。その前身となるリーフチャンピオンレースは2017年にスタートしたシリーズで、2020年からLEAF e-Trophyの名称に変更となり、現在は一般社団法人 日本電動自動車振興会(JEV)が主催、リーフ以外のEVでも参加が可能なようです。

この新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け、LeTSも開催の見合わせが続いていましたが、ようやく、2021年11月14日(日)に茨城県にある筑波サーキット・コース2000で、「EV Day 1114」として久しぶりの開催となりました。

今回は、レース形式ではなく、20分間の走行2本によるタイムアタック形式です。参戦車両はL1(日産リーフZE0)、L2(リーフZE1)、E3(テスラ、ポルシェ、ジャガー、アウディ等、最高出力161kW以上の車両)、ER(コンバートEV、プロトタイプおよびトミーカイラZZ)、MV(最高出力160kW以下のモーター駆動車)というクラス分けがなされています。今回は8台の日産リーフ、そしてテスラ モデル3が2台、そしてトミーカイラZZなどが参戦しました。

太田選手は、このシリーズを運営しているJEVの桒原照旺代表から誘われて2018年のシーズン途中から参戦を開始しました。

EVレースのポイントはバッテリー残量だけじゃない

今回、太田選手が参戦する車両はZE1のリーフ ニスモ(バッテリー容量40kWh)となります。「ボディの下部にバッテリーが敷き詰められていて、重心が低くて動きが、FFというよりもフォーミュラっぽいところもあって、乗っていて独特の感じがあって面白い」と、リーフという車両の素性については高評価です。

EVレースに出場するにあたり、最初は「バッテリー残量の問題だと思っていた」と太田選手はいいます。

「エコランでの駆け引きのレースだと思っていたんだけど、実はそうではなかった。バッテリーの残量ではなく、バッテリーの温度が上昇してセーフモードに入ってしまうことがレースを左右する。そこにEVの弱点があるんだってことがよくわかったんだよね。筑波で最初のレースでは7周くらい全開で走るとセーフモードに入っちゃって、順位を落としてしまったりして……」と、EVレースの勝負のポイントを解説してくれます。

「今回はタイムアタックだからいいけど。レース形式の場合、予選と決勝を一日で行なうワンデーイベントになる。タイトなスケジュールのなかで、予選を目いっぱい走って放電して決勝のために急速充電して、とバッテリーの温度を上げちゃダメで、できるだけ走らない、できれば1周でアタックするのが一番いいわけ」

バッテリーの残量ではなく、温度が勝負のポイントになるということです。

「でも走り出すときはタイヤが冷えてるじゃない? 普通ならタイヤを温めていってタイムアタックをすればいいんだけど、温めるためにアクセル踏んでいったら、それもバッテリーの温度が上がっちゃう。だからコースインの周回もゆっくり目にバッテリーの温度を上げないままキープして、計測1周目でアタックしなきゃならない。でもね、タイヤが温まらない中で1周目にアタックするって結構難しいんだよ。
昔、グラチャンとかCカーってレースでは、QFタイヤ(予選用のワンラップアタック用スペシャルタイヤ)ってのがあってね、予選のための1周だけタイムの出るタイヤなんだけど、それもコースインしてドロドロ走って行って計測ラップ前の最終コーナーから踏んでいってアタックをしてた。そのタイヤ履いて初めて突っ込む第1コーナーでブレーキングポイントはしっかり奥までガマンして行かなきゃいけない。タイヤのグリップが効くのかどうか、止まれるかどうかわからないってところで。まぁ、信じるしかないんだけどね。昔はそんな予選をしていたよ。それをね、このリーフのアタックでは毎回思い出す(笑)」

さらに、「いかに制御を入れないまま最大Gまで持っていけるか」っていうところが一つのポイントだということです。

「リーフはいわゆる車両制御関係をオフにすることができるんだけど、それらの制御を切っていても完全に切ることはできなくて、最後には制御が入ってしまう。僕はコーナーに入る際に昔からの癖で突っ込むだけ突っ込んで頭の向きを一気に変えるという走りをしちゃうんだけど、そうすると大きなGに反応して横滑り制御が入ってしまう。これがデータロガーで見る限り0.3秒くらい遅くなってしまう」

EVならではの繊細な制御が、タイムアタックする走りでは邪魔になることがあるんですね。

「(コーナーの処理を)鋭角的に、ではなく、ジンワリGを移動させる。最大に曲げるのをクリッピングの手前に持ってくるイメージかな。一気に向きを変えようとすると制御が入っちゃう。制御もコーナーの入り口で入る分にはまだいいんだけど、出口側で入ると最悪で、加速が鈍っちゃう。出口で制御が入らなければ、アクセル踏んでGが抜けていく分には余計な制御は入らないからタイムも落ちない」

つまり、滑らかなコーナリングがタイムアップにも繋がるということでしょう。

「EVでのドライビングには、制御を回避しながら速く走らせる独特のテクニックが必要で、頭を使うことが多くて、それがかえって面白い。また、ガンガン練習するんじゃなくて、いかに短い時間で車両の状態を掴んで、ドライビングをアジャストして、コースに対応していくかが大切になる。ものすごいスピードで考えなきゃならないし、楽しいよ」

今年のアタックではベストタイムを更新

今年のLeTSにおける太田選手の結果は、午前中の1本目のアタックでは「久しぶりに乗ったんでいきなり制御が入りまくってしまって(笑)」と1分12秒を切れなかったものの、午後はしっかりリーフの走り方にアジャストして1分11秒886のタイムを記録。自身のリーフでのベストタイムの更新もできました。

「EVを使用したこうしたモータースポーツシーンでの走行は、実は山道など一般公道での走行にも通じることが多い。こういった現場でのデータがフィードバックされてEVの実用的な部分に返ってくれればいいと思う」と、これからのEVの在り方についてもイメージを持っているようです。

LEAF e-Trophyシリーズの2021年シーズンはこの11月の大会で終了。2022年シーズンからはレース形式で再開される予定です。

(取材・文/青山 義明)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 11/14筑波サーキットに自分も行ってきました。
    EVの走行もコロナの影響で、しばらく開催を控えておりましたが、久々のサーキット走行で、ガソリン車の様なエンジン音は無いものの、低重心からの安定した走行やコーナーからの立ち上がりの速さはEVならではです。
    コースレコードでガソリン車を超える可能性もあります。
    音も今後、騒音にならない程度で心地良いサウンドをEVから出してサーキットを走るのもアリかもしれません。

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					青山 義明

青山 義明

自動車雑誌制作プロダクションを渡り歩き、写真撮影と記事執筆を単独で行うフリーランスのフォトジャーナリストとして独立。日産リーフ発売直前の1年間にわたって開発者の密着取材をした際に「我々のクルマは、喫煙でいえば、ノンスモーカーなんですよ。タバコの本数を減らす(つまり、ハイブリッド車)のではないんです。禁煙するんです」という話に感銘を受け、以来レースフィールドでのEVの活動を追いかけている。

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