集合住宅・マンションに電気自動車用充電器を設置する 【第1回】理事会を通す 編

「電気自動車には興味あるけどマンションだから無理……」 日本に本格的市販EVが登場してほぼ10年、いまだによく耳にする言葉です。でもあきらめる必要はありません! 集合住宅へのEV用充電器導入に成功した事例をEVsmartブログが独自取材。実現までの方策などを段階別にお伝えします。第1回は「理事会を通す」編です。

集合住宅に電気自動車用充電器を設置する — その1「理事会を通す編」

はじめに

これまでも、集合住宅に住みながら電気自動車(EV)を所有し、無理なく運用している方はいらっしゃいます。たいていは「一定の月額を払えば、ディーラーなどの急速充電器で充電し放題」といった「日産自動車のゼロ・エミッションサポートプログラム(旧来のZESP、現行のZESP2)」などに入っている人たちや、スーパーチャージャーでの充電に費用がかからないテスラ モデルS、Xを所有する人たちです。

しかし、しばらく取材してみてはっきり見えてきたのが、集合住宅に住んでいることでEVの購入をためらったり諦める人も結構いらっしゃることです。背景には、日本にある全てのマンションのうち、EV充電器が付いている物件は「1%未満」しかないと言われている現状があります。(こうした統計はなかなか実施されないので、正確な数字や動きは見えにくいです。)

そうしたなか、セキュリティーやバリアフリーの点で有利、また便利でもあるという理由で、集合住宅に住みたいと考えるEVオーナーも少なくないようです。最近のマンションは建物に入る時に、鍵が無いと入り口の扉が開けられないだけでなく、専用のトークンやICカードが無いとエレベーターも動かせない物件が増えて来ました。また、駅から距離のある戸建て住宅を売却して、駅近のマンションに移り住む年配の家族も増えていますし、それを支援するようなサービスを提供する鉄道会社系デベロッパーもあります。

集合住宅に住んでいても、スマートフォンのように、自宅に戻ったらEVにプラグをつないでおけば、翌朝には満充電になっている「自宅充電」は確かに便利ですよね。旅先の宿や遊びに行った遊園地などでの充電が「目的地充電」、移動の途中の充電が「経路充電」と呼ばれているのに対して、自宅での充電は「基礎充電」と呼ばれます。基礎とカテゴライズされるほど基本的かつ重要な充電形態なのです。

マンション住まいでも、たとえば理事会に提案してアンケートを取ってみて、今後EVを買いたいと考えている人が複数いれば、充電器を導入できるかも知れません。今ならマンションへの充電インフラ設置には補助金も出ますし、充電器が付けば、マンションの「資産価値が上がる」と言えますし、今後を見据えて今のうちに「投資」しておくのも悪くないでしょう。

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集合住宅の機械式駐車場に200V充電器を設置する工事が行われているようす。設置工事会社だけでなく、機械式駐車機メーカーにも加わってもらってトラブルの出ない完璧な状態に仕上げる。
集合住宅の機械式駐車場に200V充電器を設置する工事が行われているようす。設置工事会社だけでなく、機械式駐車機メーカーにも加わってもらってトラブルの出ない完璧な状態に仕上げる。

このシリーズでは、集合住宅に実際にEV用充電器を設置した事例をもとに、いま集合住宅にお住まいの皆さん、そして今後お住まいになる予定の皆さんにとって、「どうすれば充電器を設置できるか」の参考になるよう、できるだけ具体的にお伝えしてみようと思います。

設置を実現するまでに乗り越えなければならないもの

集合住宅と言っても、住民が区分を所有するいわゆる「分譲マンション」のほか、「賃貸マンション」、これらより一般的に小規模な「アパート」と呼ばれるものまで、いくつかの種類があります。少し調べてみたところ、賃貸マンションへの導入事例は少数ありましたが、アパートへの導入事例は今のところ見当たりません。

管理組合の理事は、マンションの区分所有者が交代で務めるのが主流なので、プロではない人たちが運営する。様々な職種が居て、面白いシナジー効果が出ることもある。
管理組合の理事は、マンションの区分所有者が交代で務めるのが主流なので、プロではない人たちが運営する。様々な職種が居て、面白いシナジー効果が出ることもある。

このシリーズでは、集合住宅に、これまで充電器を30台以上設置して運営してきた、いわば「集合住宅への充電器導入・運用に関するコンサルタント会社」のこれまでの事例をもとに、区分所有型の「分譲マンション」にEV用充電器を導入した具体的なプロセスをお伝えします。

一般的に、集合住宅に電気自動車(EV)用の充電器を設置するためには、以下のような段階を踏むのがふつうです。

1. 「理事会」へ上程する
2. 理事の「承認」を取り付ける
3. 理事会が「総会」での「議案」として提出する
4. 総会での「承認」
5. コストを負担する
6. 補助金を申請する
7. 実際に設置工事を行う
8. 課金システムを運用する
9. メンテナンスを行う
10. トラブル時に対処する

結構な段階がありますね。さらに、5.と6.に関して、資金調達が何とかなったとしても、7.の工事業者はどうやって選ぶかや、とくに8.の課金方法などは、大抵はこうした分野の「素人」である理事会の手に負えるものではないでしょう。管理組合の理事は、区分所有者が交代で行うことが多いので、課金やメンテナンス、トラブル解決などの「引き継ぎ事項」が増えることは望ましくありませんね。

全てをカバーしてくれるサービス

このシリーズで紹介する導入例は、いずれも、集合住宅へのEV用充電器導入に特化したコンサルタント会社「ユアスタンド株式会社(本社:神奈川県横浜市神奈川区)」が関わったものです。ユアスタンド社は、上記1.から10.までの全ての場面をカバーしてくれます。「初めて耳にした」という方も少なくないでしょう。2018年3月創業と、まだ新しい会社なのです。

ユアスタンド社は、最初の充電池設置の「企画」の段階から、理事会で理解していただくための進め方や、充電器設置を理事会提案の「議案」にして、住民の皆さんに理解いただいて「総会」で「議案を可決」し、実際に「設置工事」を行うところはもちろん、運用開始後は「課金システム」を動かして、機器の「メンテナンス」を行い、トラブルが発生した時はその「対処」もしてくれます。

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充電器設置後に管理組合がすることは特にない

そして何よりありがたいのが、充電器が稼働してしまえば、集合住宅の理事会・管理組合が行わなければならないことはとくにありませんし、費用負担も発生しません。費用を負担するのはEVに充電できる「受益者」だけです。こうした利便性が、設置を進める鍵になっています。

さらに、充電が行われる度に、マンションの管理組合は、修繕積立金に追加できる「収入」が得られます。管理組合は課金作業も充電器のメンテナンスなどもせずに、自動的に入ってくる収入が得られる形です。

世の中の大多数のマンション(駐車場付)にとって、修繕積立金の大きな収入源は駐車場利用料であるのが現状ですから、駐車場が空きにならないように、利便性を高めておく観点からも、充電器の設置は意味があると言えるでしょう。

理事会を通すには?

それでは、今回のお題である「理事会を通す」ことについて、その手順と要点を見てみましょう。理事の皆さんに、「うちのマンションにEV用充電器を付けることがいかに意味があるか」を、分かりやすく説明して、理解していただくことが主目的です。

理事からよく訊かれることに、「本当にEVは普及するの?」というものがあります。日本の既存メディアは(どこかの大企業に忖度してか)海外の進んだEV環境や、急速な普及の実情を伝えようとしません。だからEVsmartブログでは、日本の読者の皆さんにこうしてお伝えしているのですが、EVに取り立てて興味がない一般の人はそういう認識のようです。よって、オランダやノルウェー、カリフォルニアなどの情報を同時に紹介しておくことも意味があります。「世界がEV主流になれば、日本専用のガソリン車を自動車メーカーが作ると思いますか? 輸出の方がはるかに割合の大きい日本の自動車メーカーが……」なんてダメ押ししておくのも良いでしょう。

1. まず調査

マンションの構造上、設置できないマンションもあります。まずはユアスタンド社に相談することから始めたほうが良いでしょう。駐車台数などの規模、機械式か平置きかといった駐車場の形態、建物との位置関係や電源の位置などによっても提案が細かく変わってきます。

都市部に多い機械式駐車場の場合は、駐車機メーカーとの調整も必要になってきます。もっとも、調整はユアスタンド社がやってくれるので、管理組合に負担はありません。

2. 総会までの充分な時間

ユアスタンド社にお聞きしたところ、理事会への提案も、総会に向けた議案作りについても、「余裕をもって相談してほしいです」との答えが返ってきました。マンションの理事会は「月に1回」が基本です。筆者は知りませんでしたが、もっと少ないところもあるようです。

総会を見据えていくと、理事会で3〜4回の審議を重ねておかないと難しいでしょう。よって、総会まで最低でも「3ヶ月」、余裕を持って取り組むには「半年」は取っておきたいところです。

そして、総会、「通常総会」のことですが、これは年に1回が基本です。つまり、年に1回しかチャンスが巡って来ない、ということです。(もちろん「臨時総会」を招集して審議を行う手もありますが、これはあくまで緊急の審議を行うもので、通常の手段ではありません。)

理事会から「議案」として区分所有者の「総会」に提案される。ここが最大のヤマ場、可決されればめでたく充電器は設置され、集合住宅の住民でも「自宅充電」が可能になる。
理事会から「議案」として区分所有者の「総会」に提案される。ここが最大のヤマ場、可決されればめでたく充電器は設置され、集合住宅の住民でも「自宅充電」が可能になる。

3. 管理組合の支出

補助金を使った場合、管理組合には「短期的な支出」の必要が出ます。補助金の常ですが、お金が戻ってくるのは「後日」になります。建て替えが必要、ということです。

ただし、充電器稼働後には管理組合がしなければならない業務は無いので、長期的には管理組合としての支出はかなり抑えられます。補助金が手厚い東京都の場合、理事会が負担するのは「消費税分」ぐらいになるのが通例だそうです。先日取材した都内のマンションでは、13万円を少し下まわる額でした。これは規模や条件によって変化しますし、東京都以外では補助金の関係で負担額は大きくなります。

もちろん、稼働後の費用は「受益者負担(充電者負担)」ですから、管理組合が払うものはありません。

4. 利便性向上と収入源確保

マンションの管理会計を考えるとき、定期的に入って来る「駐車場利用料」は収入の主力なっています。これが、区分所有者が定期的に払って積み立てる「修繕積立金」に追加され、大きな貢献をしている形です。よって、「空き」を出さないことが大変重要です。

日本社会全体が高齢化していますし、マンションでも住民の高齢化で駐車場の空きが発生しています。こうしたなか、一人でも多くの住民に駐車場を利用してもらうために、「利便性」を高めておく必要があります。

EV用充電器は、利便性向上に意味がある施設です。これまで駐車場を利用していなかった住民が、EVが充電できることでEVを購入する可能性もあります。「クルマ離れ」で自動車が減っていくことのほうが、マンションとしては「大きな損失」につながるので、少しでも利便性を高めておくことは意味があります。

そして、繰り返しになりますが、住民が充電器を利用するたびに、管理組合には収入がもたらされます。つまり、稼働後はとくに何もしなくても、額は大きくありませんが収入が得られる、ということです。

おわりに

今回の取材を通して分かったことは、共同住宅の条件は千差万別で、対処法も多種多様だということでした。同時に、マンションの駐車場の空きを出さないこと、住民の利便性を向上させること、そして管理組合が収入の手立てを一つでも多く用意しておくことが肝要である点が共通であることも分かりました。

電源や充電器設置場所に関しては、じつはマンションには乗り越えるべき障壁はほとんどありません。最大の山は理事会と総会、つまり区分所有者の「理解」です。
電源や充電器設置場所に関しては、じつはマンションには乗り越えるべき障壁はほとんどありません。最大の山は理事会と総会、つまり区分所有者の「理解」です。

今後は、総会をどう切り抜けるかや、実際の工事はどうなるか、稼働後の利用の様子はどうかなど、続編でお伝えする予定です。

最後に筆者のボヤキですが、EV用充電器の設置と運用のビジネスモデルを考える際に、最大の邪魔になっているのは「電気事業法」です。長年独占してきて、今はやや寡占ですが、大手電力会社しか電気を販売できないことが、EV普及に対しても阻害要因になっていることも見えてきました。我が家もいわば「小規模太陽光発電所」ですが、うちで作った電気は「クリーンな電気だけでEVを走らせたい」という人にだけ売りたい、と常々考えています。

(箱守知己)


8 thoughts on “集合住宅・マンションに電気自動車用充電器を設置する 【第1回】理事会を通す 編”

  1. 機械式の駐車場にもEV用充電器が設置できる場合があるとは驚きです。

    ところで、マンションやアパートの駐車場に充電器を設置する場合と違い、一戸建ての自宅駐車場に充電器を設置する場合には、家で使う電気との関係でブレーカーが落ちたりすることなどはあるのでしょうか?

    一般的な家庭用の電力契約ですと60Aが上限ですが、エアコン・IHクッキングヒーター・電子レンジ等を同時並行で使用しているようなときは、ブレーカーが落ちたりする場合があります。

    1. 次はEVにしたい 様、コメントありがとうございます。アンペアブレーカーは基本的に関東方面の契約で関西にはなかったりするのですが、一応関東ということで書いてみますね。
      普段ブレーカーが落ちるような使い方をしている場合、電気自動車の充電をそれの時間帯からは外すことをおすすめします。例えばおっしゃるような機器は午後10時位になるとあまりパワーを使わなくなると思いますので、10時とか11時位から充電を開始するように設定します。
      多くの場合、これで朝までには充電が終わりますので、ブレーカーが飛ぶことはありません。しかし例えば午後9時から朝6時まで充電できたとしても、9時間で27kWhとなりますので、リーフ40kWh以上の車種や、テスラ、アイペイスなどでは満充電にすることはできません。この場合は朝起きたら手動で充電を(スマホから)中断するか、例えばテスラの場合は簡単なツールで充電中断時刻を設定することも可能で、自動化できます。

      最近は楽天でんきのように基本料金が無料の電力会社も出てきていますので、戸建てであれば、電気自動車用に契約アンペア数を大きく取るのも手だと思います。それならどれだけ電力を使おうが、基本料金に影響することはありません。

  2. 2016年に自分が理事の700戸のマンションにEV充電を導入しようとしましたが断熱しました。
    理由は高齢者は保守的で変化を嫌うため賛同を得られませんでした。
    そもそもEVを理解できないようでした。
    マンションでも高齢者が少ない物件でないと普及は難しいです。
    日本の縮図を見ているようでした。

  3. 普通と特別の意味は忘れましたが、機械式駐車場の交換のタイミングでした。年一回の決議です。

  4. 町田市のマンションの理事長です。面白い企画ですね。
    今、まさに電気自動車用充電器を設置しようとしているところです。
    慌てずに平成31年度の国と東京都の補助金を使用する予定です。
    ただ、実際にはかなり面倒で、電気の一括受電による余剰電力の問題や、
    配電盤からの電気工事のためにコア抜きなど、
    まだ工事会社は決まっておりません。
    また見積もりを取ると、補助金外の工事費用が発生して(コア抜きは補助金外です)、
    自分のところでは50万ほど持ち出しが必要になってます。
    急速充電器も検討しましたが、急速充電器の補助金額が
    実際の機種代金よりもかなり少なくなっており、
    現状難しかったです。
    「ユアスタンド株式会社」にも見積もりを依頼してみます。
    情報ありがとうございます。

    1. まさ様、コメントありがとうございます。コア抜き必要だと結構大変ですね。状況がここでは確認できないのでちゃんとしたことは言えませんが、ぜひユアスタンドさんにも相談してみてください。現状検討しているコア抜き、または急速にして特例を使用して別引き込み、もあり得るかと思います。急速になっちゃうと欧州車のプラグインハイブリッドが充電できないという問題もあります。。
      うまく行くことをお祈りいたします。

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