九州電力が発表したマンション入居者向けEVシェアリングサービスに突っ込んでみた

九州電力は2020年4月22日に、マンション入居者用の電気自動車(EV)のカーシェアリングサービス「weev(ウィーブ」」を発表しました。スタートは2020年12月で、九州や首都圏に竣工するマンションでのサービス提供を予定しています。

九州電力が発表したマンション入居者向けEVシェアリングサービスに突っ込んでみた

※冒頭写真は仙台ロイヤルパークホテルの『e-シェアモビ』ステーション(本文のサービスとは関係ありません)。

EVをより手軽に、安心して利用できることを目指す

現在、EVを使った一般向けのカーシェアには、日産の「e-シェアモビ」、タイムズ24の「タイムズカーシェア」、横浜の「チョイモビ」などがあります。これらは一般向けのサービスですが、九州電力が始めるのは、マンション入居者用に特化したシェアリングサービスです。

名前は「weev(ウィーブ)」なので、weとEVの組み合わせだなということはなんとなくわかるのですが、ニュースリリースを見たところ、詳しいことはほとんど書かれていません。

【公式ニュースリリース】
電気自動車シェアリングの新サービス「weev(ウィーブ)」を開始します

リリースで九州電力が強調しているのは、まずはマンション入居専用のカーシェアなので利用者が限定されているため「安心」して使えるということ、自宅マンションの駐車スペースから乗り出せるので「便利」だということ、そして、月々の定額負担がなく使った分だけの料金で済むので「リーズナブル」だということの3点です。

これだけではサービスの具体的な内容がよくわからないので、なにはともあれ、九州電力に聞いてみました。

5年で300台の導入を目指す

回答していただいたのは九州電力の広報グループ。突然の電話でしたが、すすっとお答えいただけました。ざっくりとQ&A形式で紹介しましょう。

ーーーまず、今後の計画を教えてください。
●台数は5年で300台を目指しています。物件数はまだ公表できるものはありません。
ーーー1カ所に何台くらいを置く予定ですか?
●詳細は決まっていませんが、1~2台になる予定です。このあたりはこれから詰めるので、流動的です。
ーーーサービス開始は12月ということですが?
●はい、そうです。ただ、12月というのは、導入が決まっている新築マンションの竣工のタイミングがその時期ということです。他にも営業をしている物件はあるので、もしかすると少し早くなる可能性もあります。
ーーー現在までにどのくらいの台数が決まっているのでしょうか?
●20台程度は決まっています。それぞれのマンションに導入する台数はこれからですが(規模によっては)複数台になる可能性はあります。
ーーー車種は日産・リーフとテスラ・モデル3になるという報道がありました。
●はい、その予定です。
ーーーちなみに、なぜモデル3とリーフになったのでしょうか?
●1回の充電で走ることのできる距離や、価格を勘案して、ということです。もっとも車種は、当面は2車種ですが、今後は増える可能性もあると思います。
ーーーモデル3とリーフ、マンションにどちらを置くか、選ぶことはできるのでしょうか?
●ウィーブは、マンションの管理組合やデベロッパーとの契約になります。その時に、リーフにするかモデル3にするか、車種を選んでいただくことはできます。
ーーーそうすると、2車種の割合がどうなるかが気になるのですが。
●それぞれの割合はまだお答えできるものはありませんが、特段、どちらかに偏っているということはないと聞いています。
ーーーカーシェアを使う時の料金はいくらになりますか。
●時間料金が15分で200円と、距離料金が1kmあたり5円の合計です。会員は、そのマンションの入居者であればだれでも、無料で登録できます。
ーーー会員数はどのくらいを想定していますか。
●まだ今は言える段階ではありません。
ーーーマンションの規模はどのくらいを想定していますか。
●現在は100戸以上のマンションを対象にしています。配置する車は、100戸以上は1台、200戸を超える場合は複数台を配置していく予定です。充電器は、車の台数と同じ数を設置します。
ーーー車を配置した場合、電気料金はどうなるのでしょうか。
●ウィーブの契約は、基本的にはマンションの共用部と同じ電気料金の契約になります。つまり管理組合やデベロッパーが料金を支払う形になります。

『日産リーフ e+ G』
TESLA『Model 3』

計算してみると利用料金はとても安い印象

ひと通りの質問をしながら、「おや?」と思ったのは、契約段階でリーフにするか、モデル3にするかを選べるということ。この2車種だと価格帯もそれなりに違うし、海外市場での売れ行きもまったく違います。端的に言って、モデル3に人気が集まるのではないかという気もしましたが、現実にはそうでもないようです。理由はちょっとわかりませんが。

ところでざっくりと利用料金を試算してみると、例えば1時間借りて10kmほどを走るとすると、時間料金が800円と、距離料金が50円で合計850円になります。

車の置き場所が自宅マンションにしかないので乗り捨てができないのが少し不便なのと、必ず往復での利用が前提になるため距離よりも利用料金が増えそうですが、2時間になっても利用料金は1600円です。距離料金は、少しくらい伸びても数十円~百数十円程度ですし、月額の会員料金が無料なのは魅力的です。

なにより利用者の範囲が限定されていると、利用マナーや充電残量などの安心度も高まりそうです。

また広報担当者の話では、まだ決まったわけではないとしつつ、V2Hの設備導入を計画中だとのことでした。今のところテスラにV2Hの機能はついてないので、このサービスはリーフ限定です。リーフとモデル3の割合が偏っていないのは、これが理由のひとつかもしれません。

世帯数が100を超えるマンションにリーフ1台から電力を供給するというのはバランスが悪いですが、共用部分での活用であれば消費電力量は限定的なので、EVの利活用としては意味がありそうです。屋上などへの太陽光発電設備とともに設置できると、管理組合の新たな収益源にもなりそうです。

ここ数年、マンション入居者に向けたカーシェアのサービスを目にすることが増えつつあります。カーシェア事業者ではタイムズカーシェア、オリックスカーシェアといった大手や、カレコ・カーシェリングクラブなどがマンション入居者用のカーシェアを手がけていますが、一般のカーシェアではEVが利用できる一方で、マンションについてはEVに特化したものはまだ聞いたことがありませんでした。

いろいろな形でEVの利用可能範囲が広がって、身近な車になるのは大歓迎です。マンションに限らずカーシェアできるEVが増えるといいですね。

(取材・文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)11件

  1. YasukawaHiroshi 様
    情報ありがとうございます。i-MiEV(M)で充電料金を試算してみました。
    月に1000km走るとして、必要な電力量は87.5kwh。
    i-MiEV(M)の走行距離は、10.5kwhで120kmです。
    ●急速充電の場合は15分で充電量80%に達するので、15分充電を繰り返す。その場合、1000km走るための充電時間は156.25分。
    ☆三菱自動車販売店(50kw)の場合
    三菱自動車 電動車両サポートのベーシックならば、5円 / 分なので781.25円。基本料金が500円なので、781.25円+500円=1281.25円
    三菱自動車 電動車両サポートのプレミアムならば、5円 / 分なので781.25円。基本料金が1500円(無料充電500円含む)なので、781.25円+1500円ー500=1781.25円
    ☆NCSカテゴリーA(50kw)の場合
    三菱自動車 電動車両サポートのベーシックならば、12円 / 分なので1875円。基本料金が500円なので、1875円+500円=2375円
    三菱自動車 電動車両サポートのプレミアムならば、8円 / 分なので1250円。基本料金が1500円(無料充電500円含む)なので、1250円+1500円ー500=2250円
    ●普通充電(200V)の場合は、4.5時間で10.5kwh充電できる。その場合、1000km走るための充電時間は、2250分。
    三菱自動車 電動車両サポートのベーシックならば、1.4円 / 分なので3150円。基本料金が500円なので、3150円+500円=3650円
    三菱自動車 電動車両サポートのプレミアムならば、無料なので0円。基本料金が1500円(無料充電500円含む)なので、1500円。
    ●紹介された小規模マンションの場合
    119円/hなので、4462円。

    自宅マンションに充電器があるのは便利ですが、コストを考えるとi-MiEV(M)の場合最も安いのは、ベーシックの1281.25円です。最も高いのが小規模マンションの4462円になります。一方、普通充電の限るとプレミアムの1500円が最安です。以上から、コストだけをみると三菱で急速充電を繰り返したほうが時間も短く安いですね。NCSカテゴリーAでも、プレミアムなら2250円で済みます。
    なお、リーフの場合は料金体系が異なるので、当然違った結果になるでしょう。また、夜間電気料金で充電する場合も比較対象に入れたほうがいいかもしれません。

    1. seijima様、87.5kWhの充電コストを見ればいいんですよね?
      119円は3.2kWですから、
      87.5/3.2×119=3254円
      ですね。これは、マンション共用部の電気料金が25.7円であった場合なので、高圧受電のマンションなどではもう少し(2割くらい?)安くなると思います。

      いずれにしろ三菱自動車さんのカードも日産さんのカードも、コスト度外視のカードですから、毎月何百kWhも何十万人が充電し続けたら、改悪せざるを得なくなると思います。

    2. 119円、つまり1時間は3.2kWなんですか?私は4.5時間で10.5kwhをフル充電するという前提で計算しています。つまり、1時間で2.33kW。この数値が上がるのなら、私が計算した普通充電の料金は下がりますね。
      三菱の電動車両サポートは安いので、日産のZEPS3で計算したほうがいいかもしれませんね。

    3. seijima様、はい、seijima様の計算式がちょっと分からなかったのですが、前回お出しした記事での計算は、16A基準で計算しており、1時間充電する場合は3.2kWhが車に入ります。もちろん実際にはこの90%程度しか充電はできないと思います(交流で充電する場合は車載充電器でのロスが発生)。直流(=急速充電)の場合、このロスは急速充電器側で発生しますので、充電器が10kWhと言ったら、車載のバッテリー側でもほぼ10kWhとなります。なぜ「ほぼ」かというと、バッテリーそのものも、充電器ほどではないにしろ、内部抵抗による充電ロスが発生するからです。
      マンションに個別課金機付き充電器を付けるのは、共用部からどうしても電気を引っ張らないといけない場合です。例えば、普通充電器用に別の200Vが電力会社から特例で引き込める場合には、共用部の回路は通りませんから、独自で課金を組むことが可能です。前回ご紹介した記事のような場合には、共用部から電気を分けてもらう必要があり、そのためには他の方の理解を得るために個別課金機を付けて、会計をしっかりする、ということが必要になってきます。この課金機は1分単位で課金してきますので、流す電流ごとに、料金を決める必要があります。例えばいつも使う車が15Aまでしか出せないなら、3kWでの料金を決める必要があり、6.4kWで充電できる車なら、6.4kWでの料金を決める必要があります。また料金には、課金会社の取り分を含める必要がありますので、必ず電気料金よりは高くなりますね。
      料金の設定は、充電器ごと、マンションごとに自由に可能です。マンションによっては、電気料金+課金会社の取り分+管理組合の取り分=充電料金、としているところもあるようです。管理組合はこの取り分を積み立て、将来的な回路の保守に使うことも可能です。電気の配線ですから10年とかのレベルでは引き直し等は必要ないと思いますが、特に屋外部があるような場合には、保守費用を積み立てておくことは悪い考えではないと思います。

    4. YasukawaHiroshi 様
      試算の根拠ですが、i-MiEV(M)のスペックに従っています。
      走行性能は、10.5kwhで120kmなので、電費11.43km/kw
      急速充電(50kW)の充電性能は15分で80%充電なので0.56kw/分。
      80%以降はスピードが落ちるので、80%までの充電を繰り返すという設定です。
      普通充電(200V)の充電性能は、4.5時間でフル充電なので、2.33kw/時

      当該マンションの場合、119円(1時間)で3.2kWということですが、i-MiEV(M)の充電性能が2.33kw/時しかないので、そこまでしか受電できず私の試算のようになるのではないでしょうか。それともi-MiEV(M)で、3.2kW/時の受電が可能なのでしょうか?

      三菱自動車 電動車両サポートで試算してみると、メーカーの充電サービスの負担と差があるので、メーカーがかなり値上げしないとマンションにおける充電サービスは難しいような気がしました。ZEPS3だと少し違うかもしれませんが。

    5. seijima様、普通充電でも急速充電でも、電池が満充電になる直前は充電方式がCC(充電電流一定)からCV(充電電圧一定)に切り替わり、必要電力も変化します。例えばi-MiEVの場合200V 15Aが充電仕様ですので、CCでの充電電力は3kWとなります。ただ満充電に近づくとCVになり、電流はどんどん下がりますので、3kW→0kWまでだらだらと下がって最後は充電完了となります。seijima様の場合、最後のだら下がりの部分を平均しているので、3kWに達していないのだと思いますが、普通に電力計なり電流計を接続していただければ、ほぼ満充電になるまでは3kWが継続して使われていることがお分かりいただけると思います。
      また料金設定は、課金機のメーカーによりますが、自由に設定が可能です。119円は3.2kWの例ですので、i-MiEVのように3kWまでの車両については、現時点の例では111円でいいと思います。
      計算方法は以下の通りです。まずこちらのマンションでの低圧受電の第3段階電気料金は25.7円/kWh。これに30%の課金業者のマージンが載りますから、
      25.7 / 0.7 = 36.7円 管理組合に損をさせるわけにはいきませんから切り上げて37円/kWh。これが、ユーザーが課金業者に支払っても誰にも損失が出ない金額になります。3kWで充電するわけですから1時間あたりに直すと、
      37 x 3 = 111円/1時間
      実際には分単位で課金することになると思います。

      またマンションでの自宅充電と、建物外での公共の充電器における普通充電は比較すべきものでもないと思います。

      申し訳ないのですが、マンション充電に特化したトピックで、ご質問がございましたら、こちらの記事の下に書き込んでいただいても良いでしょうか?そうすると、他の方にも有益な情報になると思います。
      https://blog.evsmart.net/home-charging/case-study-2-mechanical-parking/

  2. ※すまいせん、さきほどの投稿、以下に差し替えてください。
    集合住宅でのEV普及で問題になるのが集金方法です。現在は住宅や事業者単位で電気が供給されお金を払っているわけですが、住宅や事業者とは別に電気を供給する場所を設けて、利用ごとに個人単位でお金を支払うシステムは作れないのでしょうか。
    電力会社と契約すると利用料金はマンションの管理組合が支払うことになります。管理組合が個人から利用料金を集金しなければなりませんが、これが面倒です。支払いを直接自分のIDで電力会社に行うようにすれば、集金の問題は解消できます。
    そのために集中的に配電と個人の認証を行う機器を開発して、充電ケーブルの本数や取り回しはある程度自由にできるようにしてほしい。
    もちろん、これをe-Mobility Powerがやってもかまわないと思います。母体は電力会社なので、ぜひやってほしいと思います。

  3. 電気技術者として突っ込ませてください(笑)
    たしか九州電力は再生可能エネルギー特に太陽光発電の余剰電力が大きく土日など工場停止日はメガソーラーからの発電を止めるよう要請していたはずです…ここに電気自動車のカーシェアが入る余地が出てきたというか。
    以前から僕は一介の電気屋として「太陽光発電の発電量不安定を電気自動車の蓄電池で緩和できないか?」と考えており、ソーラー発電所の近くに駐車場があればそこへVtoHなど電力充放電装置を取付け蓄電所としての機能を持たせる案を考えていました…カーシェアの常置場所が都会でなく地方のソーラー発電所駐車場になる可能性だって否定はできませんよ!?当然配備される可能性が高いのは日産リーフe+とか(笑)
    本気で社会を良くしようと考えると、エンジン車より電気自動車は可能性が大きいのは明らか。排気ガスも電力事情も好転するのなら車体価格を気にせず導入すべきだと思います…それにひきかえ政府の対応といったら以下略(爆)

    田舎でのカーシェアは駅前レンタカーとしての機能も果たしそうですね…特に秘境の湯治場へ行くとなるとバスもない場合がありうるので猶更だと思いませんか!?もっとも地域NPO団体が自家用有償旅客運送に電気自動車を使うのであれば話は別ですが?

  4. 都内でもマンションの空き駐車場にタイムズカーシェア、よく見かけるようになりましたよね。空き駐車場の有効活用、管理会社の新たな収入源としてすごくいいと思います。
    私としてはこのマンションの空き駐車場のEVカーシェア、大賛成です。マンションの空き駐車場にあるカーシェア、みなさん短距離短時間で使用されることが多いからか燃料が減っていることが多いんですよね。私も何度かエンプティ点灯してる状況に出くわしてます。給油してあげようかと思っても時間料金が増えたり距離料金が増えたりでなかなかできず…。
    満充電状態が続いてしまうのでバッテリには悪そうですが(テスラならここも調整できますが)、帰ってきて普通充電器に接続して返却処理というのはある意味カーシェアの理想ですね。

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この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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