Honda eの航続距離はWLTCモードで283km
EVに乗っていると、よく聞かれるのが「どれぐらい走れるの?」。いや、聞かれるだけじゃない。私だってよく聞いている。最近は大容量バッテリーを搭載して航続距離500kmを超える車種も続々発売。でも、私のHonda e(バッテリー容量35.5kWh)の一充電航続距離はWLTCモードで283km、JC08モードでは308kmだ。
「街なかベスト」の割には走るね、と思われるかもしれないが、リアルにはそんなにいかない。EVsmartブログの執筆陣に加わる時に、記事ではEVの最大航続距離は実態に近い概算値で記している、と説明があった。豊富な実例をもとに計算式ができていて、航続距離は「WLTCモード×0.8」が平均的だという。
つまり、Honda eのリアルな最大航続距離は283×0.8=226.4kmということ。もちろん乗り方や走行ルートによって差は出るが、2年と少し乗ってきて「たしかにそれぐらい」と感じる。ギリギリまで走るのは怖いので、200km程度を目安にしてきた。
てなわけで、連載の第1回で「一充電203kmがほぼ限界だと思う」なんて書いたのだが、ばにらさんというHonda eユーザーから「もっと走れますよ」とコメントをいただいて、236.9km走行(平均電費9.7km/kWh)のメーター写真を送ってもらい、節電術も教えてもらった。ちょうどジャパンEVラリー白馬に参加することになっていたので、早速試してみたくなったのだ。
白馬まで無充電ならWLTCモードを達成だが……
東京湾岸の自宅から白馬村役場までは約282km。無充電でたどりつければ、WLTCモード値を達成。とはいえ、白馬村役場は標高701m。だけでなく、中央道経由なら諏訪湖の手前で最高標高1015m、上信越道でも群馬・長野県境付近で標高932mの場所を越える必要がある。なかなか厳しい条件だ。どれぐらい走れるのか。
自宅マンションの共用充電器で満充電にしてからスタート。中央道ルートを選んだ。首都高霞ヶ関ICから新宿方面へ。ばにらさんからコースティング(惰性走行)を活用するノウハウを聞いていたものの、ルートのほとんどを占める高速道路ではACCが最強。なのでチャレンジといっても、今回はほとんど車におまかせである。
左車線をひたすら定速走行。ドライバーがやることは巡行速度の調整ぐらい。ま、でもこれが一番大事だったりする。高速域で電費を左右するのは空気抵抗だからだ。遅いほど航続距離は伸びるはず。でも法定最低速度の50km/hで走るのはさすがに怖いし危ない。スローペースの大型車並みの75km/h前後で、車の流れに合わせて調整することにした。
ソロドライブなら300kmぐらいノンストップで走っちゃったかもしれないが、子供が同行していたために休憩は必要。トイレに行きたい、お菓子が欲しい、といろいろ注文があり、1時間に1回ぐらい休憩を挟む。EVドライブでは充電タイムが休憩時間なので、SOCに余裕があるのにSAPAへ入るのは不思議な感じ。いやいや、本来は身体の疲れに配慮して休むのが本筋。EV慣れし過ぎてきたかも…。
諏訪湖SAの手前でSOCは20%台。そろそろ心細くなってきた。普段ならチャージしているタイミングだったが、スルーして岡谷JCTから長野自動車道へ。意外に伸びて次の充電スポット、梓川SAまでたどり着いてしまった。充電を迷ったが、どうせここからは一般道。スマートICから出る。行けるところまで行こう。
上りの往路は264.8km。子供の指摘で充電を選択
と、その前に寄り道。梓川SAの近くにある温水プールの「ラーラ松本」だ。造波プール、流水プール、ウォータースライダーを備えていてエンタメ度抜群。去年、EVラリーの道中に訪ねて、親子ですっかり気に入ってしまった。なので今年も立ち寄ろうと決めていたのだ。
プールの駐車場で確かめた走行距離は238.1kmで、SOCは12%。しっかり自己記録は更新した。もう白馬も近い。とりあえずはプールを楽しもう。水着になって波に揺られたり、プカプカ流されたりしてすっかりリラックス。2時間以上のんびりしてから再スタートした。
とはいえ白馬までは届かない。SOCがひとケタになったところで「父ちゃん、早く充電しなよ」と子供から指示が飛ぶ。以前にドライブしていた時、当てにしていた充電器が営業時間外で電欠寸前に陥ったことがあって、それ以来「経験から学ばないとダメだよ」とよく言われる。小学生の子供に説教される親もどうかと思うが。
白馬に向かう国道147号沿いにある松本日産自動車あずみ野店で充電。SOCは4%まで使った。走行距離は264.8km。うーん、惜しい。WLTCモード値の283kmにはわずかに届かず。でも、下りが多くなる復路は期待できそう。30分で16.3kWh(SOC4→69%)チャージできて、無事に白馬に到着。往路の平均電費は10.3km/kWhだった。
白馬では Honda e オーナーズクラブ結成で意気投合
ジャパンEVラリー白馬では、試乗会やデジタルスタンプラリーなど数々のイベントを2日間楽しませてもらった。盛会だった様子は他の参加者がレポートしてくれているので省略するけれど、いろいろなEVユーザーと出会えるのがなによりうれしい。個人的に最大の収穫だったのは、Honda eで来ていたみなさんとオーナーズクラブを結成できたこと。
EVsmartブログにも寄稿しているHonda eオーナーの石川温さん、試乗会の同乗アドバイザーとして参加していたモータージャーナリストの片岡英明さん(マイカーは黄色のHonda e)にも加わってもらえることに。まだ準備レベルだけど、参加募集やイベント企画などをそのうちお伝えします。
下り基調の復路で300km超えを達成!
さて、復路。いよいよWLTCチャレンジの本番と言っていい。白馬には充電器完備の宿がたくさんあるのに、今回は予約がギリギリになって充電器レスの宿だった。なのでまずは満充電にするための充電器探しから。ところが白馬村役場も道の駅白馬も充電渋滞。EVが白馬に大集結しているのだからこれは仕方ない。
20kmぐらい離れた長野日産自動車大町店まで移動して、SOC98%までチャージ。スタート地点に決めた。地理院地図で調べると標高は708m。自宅は海沿いなので、ハンディをもらったようなもの。充電中にグーグル先生が中央道は事故渋滞していると教えてくれたので、上信越道を目指す。
帰りの道中もほとんどACC頼りの定速走行(75km前後)だった。ハイライトは、佐久平PAのハイウェイオアシス「パラダ」で楽しんだ日帰り温泉。夕刻の露天風呂は絶景。おすすめします。夕食はハイウェイオアシスららん藤岡で。メーターを確かめると、180km走っても充電量は半分近く残っている。やっぱり下り基調だと電費は伸びる。
関越道から首都高速まで戻ってきたところで、WLTCモード値はあっさり達成。さらに300kmを超えて自宅前に到着。そこで思い立ったのがJC08モード308kmへのチャレンジだ。またまた電欠を心配する子供を「あんまり遠くには行かないから」となだめ、追加で自宅周辺をぐるぐる周回。一充電(SOC98→5%)で308.5kmを達成できた。平均電費はなんと12.6km/kWh。だからといってカタログ値はウソではない、とは言わない。こんな特殊な走り方をする人、めったにいないので。
とはいうものの、2年前に初めてEVラリー白馬に参加した時には、自宅マンションに充電器が設置されていなかったり、途中で25kW充電器を使ったりしたこともあって、往復ともに3回充電が必要だった(関連記事)。同じ距離を無充電で帰り着けたと言うのは、じつに感慨深い。
クルマの性能について、ドライブの仕方について、充電インフラのことについて、あれこれ考える機会にもなったWLTCチャレンジ、よかったらみなさんもいかがでしょう。だけど無理は禁物。やたら電欠を心配する同乗者とかがいた方がいいかもしれません。
Honda e(2023/8/16現在)
総走行距離4万1988km
平均電費9.0km/kWh
取材・文/篠原知存
ACCを使うほうがマニュアルより電費が落ちるようです。使わなければもっと電費が伸びましたね。以前、私がディーラーのEV担当者に聞き、このサイトでも安川氏がそれを認められています。
N.O.L.A.さん
コメントありがとうございます。
そうなんですね! だとすると私のドラテクの問題でしょうか。
これまで何度か試していますが、ACCを超えられたことがなく……ううむ。
また探究する材料が増えました。
今回の放浪記も楽しく読ませていただきました。下り主体とはいえ、復路の電費はすごいと思います。経験がそれを可能にさせてくれたのでしょう。
BEVって、内燃車と比べると、慣れによるスキルの上達の度合いが大きいですよね。それがまたBEVの魔力性と言うか…、ハマる要素ですね。
箱守さん
コメントありがとうございます!
先日はお会いできてうれしかったです。
経験はまだまだの域を出ませんが、たしかに気づかされることが多いですね。
無意識にやっていたことが言語化されたりして、
バイクやクルマに乗り始めた頃のような、新鮮な感覚があります。
すっかりハマってます!
いくら省エネ走行とはいえ、平均電費:往路10.3km/kWh、復路12.6km/kWhはすごいです。SAKURAの記事とか今回のHONDA-e の記事を拝見して、日本メーカーのEV戦略のひとつに、「低電費の追及」という方向性が、欧州EV車との差別化という意味で、あるのではないかと思いました。繊細な設計が要求されると思うので、日本の伝統(まだ残っていれば)に合うような気がします。かつては、HONDAもパワーウエイトレシオとかにこだわっていたような、かすかな記憶があります。
江部広治さん
コメントありがとうございます。
ほんとにおっしゃる通りですね。電欠知らずの大容量バッテリーや強烈な加速が味わえるハイパワーモーターも魅力的ですが、運転の楽しみはいろいろ。なぜEVシフトなのか、ということを考えても、効率化や低電費はいいアピールポイントだと思います。
ホンダの歴史には、CVCCエンジンというのもありました!まさに日本の伝統ですね。
モード値を超えてしまうのがEVの不思議でもありますね。
私も2016年に三菱ミニキャブミーブトラックで実験しており、その時もJC08モードを越えました。
https://evnews.blog.jp/archives/13746962.html
ガソリン高でネット上は賑わっており節約運転記事も出ていますが、EVにはさらにモード値を超える運転という楽しみもあります。
Eddyさん
コメントありがとうございます。
電気自動車ニュース、拝読しました。ミニキャブミーブ優秀ですね!
今回は下り坂参考だしACCにまかせっぱなしだし……ちょっと楽をさせてもらいましたが、モード値チャレンジが面白いのは間違いないです。