電気自動車でWLTC超えの電費を達成〜省電費の奥義は回生パドル活用

EV放浪記2.0【007】 衝動買いした愛車のHonda eでEV関連の話題をレポートする連載の第7回。前回、読者に節電ドライブ法を助言してもらいJC08モード値の航続距離を達成(下り坂参考)できたのだが、助言の主であるばにらさんも同じHonda eで私を軽々超えちゃう記録をマークしたという。ランデブーして話を聞かせてもらった。

電気自動車でWLTC超えの電費を達成〜省電費の奥義は回生パドル活用

WLTCモード値の1.28倍の好電費

ばにらさんが送ってくれた電費記録の表示写真。

送ってくれた写真を見て目を疑った。一充電での走行距離が361.1km。日産アリアやテスラ モデル3、ヒョンデ IONIQ 5のような大容量バッテリー車のオーナーは、たったそれだけ? と思うかもしれない。だけど「街なかベスト」Honda eのバッテリー容量は35.5kWh。

比較しやすいように概算すると、WLTCモード値の約1.28倍にあたる。日産アリアの66kWhモデルで一充電601km、リーフの40kWhモデルで412km、サクラで230kmほど走るぐらいのイメージといえば、EVユーザーのみなさんにもありえなさが伝わるだろうか。平均電費は13.8km/kWhと表示されていた。

同じHonda e(ベーシックグレード)乗りとして、ぜひ話を聞いてみたい。ばにらさんは愛知県在住の会社員。たまたまそっち方面に取材があったのでランデブーをお願いしたところ、快諾してもらった。

待ち合わせは、宿泊していたホテルの駐車場。シルバーのHonda eが入ってくる。それだけでなんかうれしい。そういえば先日も、たまたますれ違った見知らぬHonda eドライバーと手を振り合ったっけ。レア車ゆえの連帯感。ばにらさんもやはり、普段はHonda eをほとんど見かけることがないという。並んでるだけでニヤニヤしてしまいますね。

パドルを使って減速量をコントロール

レアなHonda eでのランデブー走行は楽しい時間。

近くの喫茶店に移動して、早速話を聞かせてもらった。日常でも節電走行は意識しているそうだが、360km超え達成は特別なチャレンジで、一充電でどこまで走れるか試してみた結果だという。

航続距離を伸ばすためにまず、なるべく標高の高い場所にある充電器を探した。岐阜・長野県境の安房峠に近い平湯バスターミナル(岐阜県高山市)をスタート地点に決定。なんと標高1258m。交通量の少ない時間帯を狙って、出発は夜遅めに。気温もほど良く、エアコンオフで走ることができた。

安房トンネルを抜けて長野県松本市へ下り、国道147、148号で大町市を経由して新潟県糸魚川市へ。そこから日本海沿いにひたすら北上し、新潟市に入ったところで内陸部に折り返した。国道17号で三条市に到達したところでSOC1%になり、急速充電器にギリギリ滑り込んだそうだ。チャレンジ終了は午前4時。前述の一充電361.1kmを達成した。

私のWLTCチャレンジの成否も約700mの標高差がカギになったが、加えてばにらさんは、電費を伸ばすドライブ術も実践。これについては、メッセージをやり取りする中で、コースティング(惰性走行)の活用法を助言してもらっていたが、さらに詳しく教えてもらう。

まず、私と違ってワンペダルは未使用。これ、私が勘違いしていたポイントで、回生ブレーキを積極的に使うことが電費向上に役立つと思っていた。でも回生といっても運動エネルギーを100%回収してくれるわけじゃない。減速時に充電できちゃうのはEVならではの面白さだけど、それでもブレーキは控えたほうがいいようだ。もちろん公道を走る以上、減速は必要。

「僕はパドルでパタパタやってます」(ばにらさん)

ステアリングの裏にある回生パドルスイッチ。こっちの「−」で回生が強くなり、反対側の「+」で回生が弱くなる。

ああ、なるほどなるほど。って、EVユーザー以外には意味不明ですね。Honda eには「減速セレクター」という機能があって、ハンドルについたパドルスイッチで回生ブレーキの効き具合(減速量)を調整できる。ICEのAT車で「2」や「L」にシフトして、エンジンブレーキをかけるのと似た感じ。ワンペダル時に便利な機能なのだが、ワンペダルを使っていない時もパドルブレーキは作動する。

つまり、アクセルワークはなめらかに、なるべくコースティングを生かして走り、減速時にはパドル操作で回生ブレーキを優先して使う。フットブレーキは補助的に、といった感じだ。話を聞いたあと、実際に街中で試してみたが、ちょっとした惰性走行で節約を重ねるイメージ。たしかに電費は伸びそうだけど、完全停止までしてくれるワンペダルの気楽さも捨てがたい。発進と停止を繰り返す市街地では、今後もワンペダル派かなぁ。

ちなみにこの回生パドル、Honda eを買って良かったと思わせてくれるポイントのひとつ。回生ブレーキ量を手元で簡単にコントロールできることは、間違いなくドライブの楽しさに直結する。

急速充電多用も劣化せず。100万km乗るつもり

「チャレンジをしてみてわかりましたが、10万kmぐらいでは充電によるバッテリー劣化はそれほどないと思います」。ばにらさんのHonda eは2021年1月納車。自宅充電ができない環境なので、約2年半、急速充電中心で運用してきた。すでに10万km以上走行している。それでいてカタログ値をはるかに超える航続距離があることを実証したのだ。劣化ゼロというわけにはいかないだろうが、同じHonda eユーザーとしては心強い限り。

どうしてEVを選んだのかも聞いた。「じつは、車が好きというわけではなくて、旅行が好きなんですよ。どこかに行くための方法の一つが車なんです」。以前のマイカーはスズキのワゴンRだった。あちこちを旅行して、35万km(!)走ったがオイル漏れがひどくなって、買い替えを迫られた。EVにしたのは、モーターなら壊れにくいと思ったからだという。

「なので実用的な理由が大きいかもしれません。電車は何百万kmも走っていますよね。車も頑丈で壊れないで動いてくれればいい。100万km乗るつもりで買いました」。EVの中でもHonda eを選んだのは「新しい物好きだから。スマホもそうですけど、FOMAとか5Gとかは出てすぐに買いました。いわゆるアーリーアダプターです。次世代的な感じがするものが好きなんですよ」。たしかにHonda eにもありますね。近未来的なガジェット感。

うれしかったのは、ばにらさんと話して、Honda eとは長く付き合えそう、と再確認できたこと。この車は、急速充電の受け入れ電力(充電器出力)が最大30kW程度に制限されている。150kWや90kWの高速充電器の恩恵も受けられない。何もわからずに衝動買いして、少しEVに関する知識が増えてきた当初、もう少し高出力で充電できればいいのに、と不満を感じたこともあった。でも、最近は少し考え方が変わってきた。温度管理システムも含め、先々のことを考えてくれている仕様なのだ、きっと。ほんとに100万km走ってくれるといいなぁ。

私のHonda e(2023/8/28現在)
総走行距離4万2546km
平均電費9.0km/kWh

取材・文/篠原知存

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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