東名300km電費検証【23】ホンダ『N-VAN e:』/高速道路は100km/h以下で走るのが賢明

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。ホンダ『N-VAN e:』の検証結果を報告します。想定されている主用途はラストワンマイルの宅配など。この企画には一番不向きな1台だった可能性があります。

東名300km電費検証【23】ホンダ『N-VAN e:』/高速道路は100km/h以下で走るのが賢明

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

100km/h巡航で約155kmの航続距離性能

N-VAN e: は、ガソリンエンジンの「N-VAN」をベースとした電気自動車です。広大な室内空間を犠牲にすることなく、EV化を実現しています。

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N-VAN e:のスペック概要を確認します(記事末にスペック表掲載)。全長3395mm、全幅1475mm、全高1960mm、車重1130kg、モーター出力47kW/64ps、トルク162Nm、バッテリー29.6kWh、一充電走行距離(WLTC)245km、テスト車のグレードはe:L4で価格は269.94万円です。

今回の検証の注目点は、昨年7月に実施した同じ軽EVの日産『サクラ』の検証と比較して、どんな結果になるかでした。サクラはこの検証でベストの電費を記録しています。そんなサクラ(20kWh)の約1.5倍のバッテリーを搭載するN-VAN e:であれば、電費は多少悪くなっても航続距離はサクラよりも伸びるのではと予想していました。

N-VAN e:の一充電走行距離245kmを、バッテリー容量の29.6kWhで割った目標電費は8.28km/kWhになります。11月某日、計測日の外気温は最高18℃、電費検証に臨んだ深夜は8~14℃でした。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしています。往復の折り返しがいつもの新静岡ICではなく清水PAになっている理由は後述します。

【今回の計測結果】

往復の電費は、各区間の往復距離を、その区間の往路と復路で消費した電力の合計で割って求めています。

目標電費を超えたのは、復路のBとC区間の2区間のみでした。この2区間は巡航速度が80km/hでそれぞれ85m、347mの下り勾配と電費が伸びやすい区間です。巡航速度は100km/hになりますが、316mの下りである往路のD区間もこれまで多くのクルマが目標電費を超えていましたが、N-VAN e:は未達でした(目標電費との差も1.88km/kWh減と大きい)。往復では80km/hが6~7km/kWh台、100km/hが4~5km/kWh台、120km/hが4km/kWh台でした。

【巡航速度別電費】

各巡航速度の電費は下表の通りです。「航続距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、245kmの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率です。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h6.95205.784%
100km/h5.24155.263%
120km/h4.04119.649%
総合5.38159.265%

(注)80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って算出、100km/hと総合の電費も同じ方法で求めています。

総合電費の5.38km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続距離は約159kmになります。100km/h巡航はそれよりも少し短い約155km、80km/h巡航は、カタログスペックの一充電走行距離の約16%落ちですが、約205kmと200kmは超えました。

「東名300km電費検証」企画の独自の基準として、この表の100km/h巡航と総合の達成率が90%台だと優秀、100%を超えると相当優秀な電費性能であることが見えてきました。N-VAN e:はそれぞれ63%と65%ですので、大きな開きがあります。

巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると25%電費が悪化します、さらに120km/hにすると42%減とほぼ半分になります。逆に120km/hから80km/hに下げると航続距離を1.7倍(172%)に伸ばすことができる計算です。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h75%
120km/h58%
100km/h80km/h133%
120km/h77%
120km/h80km/h172%
100km/h130%

ここでサクラの記録と比較してみます。両車のスペックを確認すると、最高出力は47kW(64ps)で同じ、最大トルクはN-VAN e:が162Nm、サクラが195Nmとサクラの方が大きく、タイヤサイズはN-VAN e:が145/80R13、サクラが165/55R15の違いがあります。車重はN-VAN e:が1130kg、サクラが1090kgで、バッテリー容量に約10kWhの差がありますが、航続距離の差は大きな開きにはなっていません。検証時の外気温はN-VAN e:が8~12℃、サクラは21~23℃とサクラに有利な条件でした。

N-VAN e:サクラ電費差
km/kWh
航続距離の差
km
比率
80km/h電費6.9510.01-3.065.569%
航続距離205.7200.2
100km/h電費5.247.71-2.470.968%
航続距離155.2154.3
120km/h電費4.045.85-1.812.769%
航続距離119.6116.9
総合電費5.387.51-2.139.072%
航続距離159.2150.2

結果は電費で1.81~3.06km/kWhもの差(下落率約30%)がつきましたが、約1.5倍のバッテリー容量の差がその分をカバーし、航続距離の差は最大でも9kmとわずかでした。しかし外気温の不利があるとはいえ、バッテリーのアドバンテージを活かしてもう少しN-VAN e:にはリードを広げて欲しかったと感じます。

ACCは115km/hまでしか設定できない

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航するため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用します。さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意しています。

N-VAN e:のACCはステアリングホイール右スポークにあるスイッチで操作します。設定速度は1クリックで1km/h、長押しで10km/hごとに変わります。ただしACC速度設定は115km/hまで(サクラと同じ)なので、120km/h巡航時はアクセルペダルを操作する必要があります。先行車との車間距離設定は左下のスイッチで4段階から選択できます。

LKA(レーンキープアシスト)の制御性能は高く、この検証コース中で最もきついカーブである鮎沢PA手前の300Rも曲がり切れました。ドライバーがステアリングを持っているかどうかはトルクセンサーによる判定ですが、ステアリングを持っているのに「持ってください」警告が出る頻度が低く快適に感じました。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は、3~4km/hで、実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を104km/hに合わせました。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
83104124
ACC走行中の
室内の静粛性 db
747573

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hが74dB、100km/hが75dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hが73dBでした。70~71dBだったサクラを超えて、この検証ではもっとも騒がしいクルマになりました。数字的にはサクラとは4~5dBの差で、体感としては1.2~1.3倍ほどに感じました。

100km/hではフロントガラス全体から風切音が聞こえてくるイメージで、120km/hになると、その音量が1.5倍くらいに大きく感じます。dBの数字的には120km/hの方が静かなはずですが、数字には現れない音が車内で反響することもこの印象につながっているのではないかと思います。

別日の雨上がりに、リヤタイヤの巻き上げるスプラッシュノイズが天井で跳ね返りドライバーに聞こえてくる印象を持ちました。静粛性については商用車であることを考えれば当然の結果だと言えます。荷室には何か物を積んでいた方が静かになる可能性があるとも思いました。

電費が悪く足柄SAと清水PAに緊急ピットイン

ここまでの報告のようにN-VAN e:の高速電費は良いとは言えません。そのため今回は充電のためにイレギュラーなピットインが3回必要になりました。

そのイレギュラー充電は、足柄SA下りと清水PAの下りと上りです。往路スタート時の航続距離表示は127kmでした。DとE区間の境目、かつ充電も可能なため、いつも立ち寄る駿河湾沼津SA下りまでは99.4kmです。この工程の半分は電費が良いであろう80km/h区間ですので、無事に駿河湾沼津SAまで到着できるだろうと考えていました(充電性能も確認したいため、駿河湾沼津SAにはなるべく低いSOCで到着できるようにしています)。

しかし2つの80km/h区間を終えて、電費が悪くなる100km/h区間がスタートする御殿場ICまであと2kmの足柄SA直前で航続距離表示は27kmでした。ここから駿河湾沼津SAまでは26.5kmなので数字的にはギリギリ、巡航速度が上がることを考えると電欠になるのは必至だと思い、足柄SA下りに入りました。東名川崎ICから足柄SAまでは73.4kmですが、航続距離表示は100km減りました。

足柄SAで充電中のN-VAN e:。この時の30分で15.525kWhの充電が今回の検証中に記録した最高の充電量になりました。

足柄SAでの30分の充電で航続可能距離表示は27kmから144kmへ117km分をチャージして駿河湾沼津SAへ出発。駿河湾沼津SAでも7分の継ぎ足し充電をして航続距離表示を127kmまで回復させました。この余裕があれば約50kmの120km/h区間を走り切り、サクラでも充電にお邪魔した日産ディーラーに辿り着けるだろうと思っていたのですが……。

駿河湾沼津SA下りから清水PAまでの29.2kmで航続距離表示は69kmも減って58kmになっていました。つまり1kmの実走行で表示は2.36kmも減ったことになります。この電費性能では、残りの120km/h区間の18.6kmだけで約44kmも減ることになるため、新静岡IC到着時に、航続距離表示が14kmになる計算。日産ディーラーまでの下道の4.6kmはここまで電費は悪化しないでしょうから、航続距離表示が10kmほどで日産に到着できた可能性が高い、と結果を見ればこのように振り返ることもできます。

しかしACCが使えないため、自分で120km/hに速度を維持しながらの走行中にここまでの計算をできた訳ではなく、駿河湾沼津SAから20km地点で、その倍以上の46kmも減った航続距離表示から、さらにその2.5倍の50kmプラス日産までの距離を走るのは無理かもしれないというざっくりとした暗算の結果、清水PAに緊急ピットインした次第です。清水PAは駿河湾沼津SAよりも標高が80m高いため、往路(3.6km/kWh)が復路(4.6km/kWh)よりも電費が悪いことも納得できます。

清水PA下りから新静岡ICで折り返し、上りの清水PAまでは本来の120km/h巡航は諦め、ここまでの往路の結果から速度と電費のバランスが良さそうな100km/h巡航にして、無事に復路も走り切れるようにしました。したがって「いつもと同じ条件で走行した区間」で考えると今回はある意味「東名260km電費検証」になります。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※SOCは最大12個の目盛表示。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。表示がない場合は不明としています。

今回の充電結果の中で一番充電電力量が多かった足柄SA下りの15.525kWhであれば、検証結果の総合電費である5.38km/kWhでは約84km分、80km/h巡航の6.95km/kWhであれば約108km走行分を補給できたことになります。

充電中のドライバーディスプレイには「残充電時間」や「バッテリー温度」の表示がありますが、充電出力表示はありません。

タイヤ・ホイールは13インチ

N-VAN e:のタイヤサイズは145/80R13、メーカーはヨコハマ、商品名はブルーアースバンです。空気圧は前が300kPa、後が350kPaと、軽商用車に多い設定値です。

N-ONE EVモデルの登場が楽しみ

冒頭でも書いたようにN-VAN e:はラストワンマイルを担う宅配用メインに作られたクルマです。発売前には宅配業者と組んで実証実験を行っていたくらいです。そして真冬でも一日50~100kmの業務を問題なく行える性能を実現するために29.6kWhのバッテリー容量が決められたそうです。

従って、一気に300kmを走るこの検証企画は「想定外」かも知れません。とはいえ2040年にBEVとFCEVのみのメーカーになると宣言しているホンダ初の軽EVとして、その実力を確かめることは一定の意味があると思いますし、購入を検討している方やオーナーの参考になればというこの検証企画の目的にも合っていると考えます。

広報車の返却のため、ホンダ青山本社に向かった21kmの下道での電費は7.2km/kWhでした。これなら単純計算で213kmは走れることになるので、街乗りベースのクルマとしては十分な航続距離性能で、セカンドカーやサードカーとしての需要も満たせると思います。

そしてホンダは今年、N-ONEベースの電気自動車を発売することを発表しています。1960mmとほぼ2mに達する全高のN-VAN e:とは違い、電費性能などはさらに改善されることが期待できます。サクラ以上の電費、つまりこの企画の最高電費を狙えるはずのN-ONEのEVが、サクラと同等以上の売れ行きを記録して、新たな軽EVのスタンダードになる可能性も秘めているのではないかと思っています。

Honda N-VAN e: スペック

ホンダ
N-VAN e:
e : L4
ホンダ
N-VAN e:
e : FUN
全長(mm)3395
全幅(mm)1475
全高(mm)1960
ホイールベース(mm)2520
トレッド(前、mm)1310
トレッド(後、mm)1315
最低地上高(mm)165
車両重量(kg)11301140
前軸重(kg)650-
後軸重(kg)480-
前後重量配分58:42-
乗車定員(人)4
最小回転半径(m)4.6
車両型式ZAB-JJ3
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)127
一充電走行距離(WLTC、km)245
EPA換算推計値(km)196
電費(目標電費)8.28
モーター数1
モーター型式、フロントMCF7
モーター種類、フロント交流同期電動機
フロントモーター出力(kW/ps)47/64
フロントモータートルク(Nm/kgm)162/16.5
システム最大トルク(Nm/kgm)162/
バッテリー総電力量(kWh)29.6
総電圧(V)358
急速充電性能(kW)50
普通充電性能(kW)6kW
V2X対応V2H、V2L
駆動方式FWD(前輪駆動)
フロントサスペンションマクファーソン
リアサスペンション車軸式
フロントブレーキディスク
リアブレーキリーディング・トレーリング
タイヤサイズ(前後)145/80R13
タイヤメーカー・銘柄ヨコハマ・ブルーアースバン
フランク(L)なし
Cd値(空気抵抗係数)非公表
車両本体価格 (万円、A)269.94291.94
CEV補助金 (万円、B)55
実質価格(万円、A - B)214.94236.94

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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