日本でのEV普及には軽自動車が必須
今回のテーマは、日本国内で購入可能な低価格EVのコストパフォーマンスです。現在日本国内では日産アリアやトヨタbZ4X、テスラなど数多くのEVが発売されているものの、売れ筋モデルは軽自動車の日産サクラです。直近は月間2000-3000台の販売台数で安定しており、すでに発売がスタートして2年以上が経過していることを踏まえると、日産リーフ以上の大成功と言えるのかもしれません。
やはり日本国内のEVシフトを推進するためには、新車発売台数の4割を占める軽セグメントに、コスト競争力の高いEVを投入する必要があるわけです。
軽セグメントに対しては、すでにホンダやトヨタ連合も新型EVを投入する方針を示しています。特にホンダはN-VAN e: の詳細スペックや値段設定を公表済み。2024年10月の発売スタートを予定しています。
N-VAN e: が該当する商用軽セグメントは、ラストワンマイル向けの配送車両としてバッテリーサイズが大きくないEVの性能でも多くのニーズをカバーすることが可能ですので、最新のN-VAN e:を導入したいと考えている人(や会社)はかなり多いのではないかと思います。
さらにトヨタもダイハツやスズキとタッグを組んで、商用軽EVを開発済みです。ダイハツの認証試験不正問題などの影響で2025年以降に発売が後ろ倒しとなっているものの、すでに発売されている三菱ミニキャブEV、日産クリッパーEVとともに、商用軽EVのラインナップが国内主要メーカーから出揃うことになります。
さらにホンダは、2025年中にもN-ONEのEVバージョンを発売する方針を発表しており、日産サクラの競合という位置付けになりそうです。
コンパクトなEV車種にも要注目
そして、ヤリスやノートといったコンパクトカーも人気である日本国内では、このセグメントにもEV車種のラインナップが欲しいところです。でも、国産車としてはHonda eがすでに販売終了となり、事実上日産リーフしか存在していませんでした。
欧州ブランドでフィアット500eやMINIのEVなどが登場してきたものの、価格は500万超えレベル。日本のユーザーがイメージするコンパクトカーとは呼べない値段です。
このコンパクトEVのカテゴリーに一石を投じ、現在注目されているのがBYDドルフィンでしょう。リーフよりも一回り小さいサイズと、リーフよりも安価な値段設定によって、コンパクトEVセグメントの新たなベンチマークとなっています。
そして2025年中にも、韓国のヒョンデが日本市場のコンパクトEVセグメントに、先だって韓国で発表されたインスター(キャスパーEV)を投入する可能性が噂されています。
インスターは全長3825ミリ、全幅1610ミリ、ホイールベースが2580ミリというサイズ。日本の規格では軽自動車とコンパクトカーの中間に該当します。日本市場にはとても相性が良いサイズ感であり、すでに韓国国内では先行受注がスタート。日本国内でもカモフラージュを施したテスト車両が複数回目撃されているなど、日本導入に期待が集まっている状況です。
お買い得な低価格EVは、どれ?
それでは、2025年にかけて日本国内で購入可能なコンパクトで安価なEVを、そのEV性能、そして標準装備内容という両面でコスト競争力を考察していきたいと思います。
まずEV性能について、今回比較したい車種が、軽自動車セグメントからN-VAN e:と日産サクラ、そしてコンパクトセグメントからドルフィンとリーフ、そして2025年登場が期待されているヒョンデインスターの5車種としました。
まずN-VAN e:はサクラよりも9.6kWhもバッテリーを増量することで、航続距離も245km(WLTC)とサクラよりも長距離を確保。しかも注目するべきは市街地モードの電費性能が85Wh/kmと、サクラをはるかに上回る効率性を実現している点です。つまりN-VAN e: は、市街地走行の効率性に特化して磨き上げた設計思想であると推測できます。
ドルフィンは44.9kWhという大容量バッテリーを搭載。航続距離も余裕を感じる400kmを確保しています。これは40kWhのリーフ(ベースモデル)と比較しても80km近く長い航続距離。電費性能でもドルフィンが優位を保っています。
しかもドルフィンの場合、全長はリーフよりも短いものの、ホイールベースが2700mmとリーフと同等。リーフオーナーである私の実感としても、ドルフィンの方が車内スペースの開放感はワンランク上だと感じます。この点もEV専用プラットフォームを採用するドルフィンに分があります。
そしてドルフィンの価格は363万円(税込)から。令和5年度のCEV補助金(35万円)を適用すると、実質的に328万円から購入可能です。対してリーフは408万円からのスタートであり、補助金額(85万円)がかなり優遇されていることから、実質の購入金額は323万円と、ドルフィンとほとんど同じ水準となります。
しかしながら、同じ価格帯である一方で航続距離がさらに長く、しかもバッテリーの温度管理機構を搭載。何よりも耐久性に強みを持つLFPバッテリーを採用するドルフィンは、EV性能という観点でリーフよりもコスト競争力が高いと結論づけることができるでしょう。
次にN-VAN e: を確認します。4人乗りを選択可能なL4グレードの場合、284.2万円からのスタートです。サクラのXグレードは260万円(補助金はともに55万円)ですので、9.6kWhのバッテリー容量の差が、ほぼそのままサクラとN-VAN e:とのEV性能の差(N-VAN e: が優位)になると言えそうです。サクラの充電性能は普通充電が3kW、急速充電は30kWに対して、N-VAN e: が普通6kW、急速50kWでの充電が可能な点も無視できない性能差と言えるでしょう。
インスターには攻めた価格設定が必要か?
このように比較していくと、2025年にも日本発売が期待されるヒョンデ インスターは極めて難しい立ち位置となるかもしれません。というのも、日本市場でのインスターの難しさは、軽自動車に近いスモールカーでありながら軽自動車には該当しないことで、税制の優遇などは適用されないことにあります。
エントリーグレードで42kWhの大容量バッテリーを搭載していることで、EV性能ではドルフィンと同等の性能を実現しています。でも、日本市場で広い支持を得るためには、やはりドルフィン(363万円)を下回るような値段設定、つまり350万円以下という値段設定が絶対条件となります。
日本再進出を果たしたヒョンデはディーラー網を展開せずに直販体制を採用していることから、アフターサービス体制という観点で心理的ハードルが高いのも事実。しかも2022年に再参入したばかりの韓国メーカーとくれば、なおさら心理的ハードルは高く、そもそもインスターに触れる機会すら作り出すことが難しいでしょう。
これまではIONIQ 5という500万円級のプレミアムセグメントの販売が中心だったことで、ある種マニアックなEV好きが自分で調べて購入検討する場合が多かったと思います。ところがインスターのような大衆車となれば、やはり身近にサービス拠点が存在したり、そもそも気軽にブランドと接点を持てる環境がないと、購入に踏み切ることが難しいはず。
よって、かなり攻めた価格設定で勝負をするなどのインパクトがないと、2025年末までに100店舗以上の販売ディーラーを整備する予定のBYDと比較して、あえてインスターを購入する動機が生まれてこないのではないかと、率直に感じます。
実はヒョンデがIONIQ 5 に続く2車種目のBEVとして日本に導入したコナ(EVモデル)は、韓国国内で4584万ウォン、日本円で499万円で発売されています。対する日本国内では399.3万円から発売中。つまり現時点においても、相当攻めた価格設定を行なっている状況が見て取れます。
インスターのロングレンジグレード(バッテリー容量が49kWh)は、現在韓国国内で3150万ウォン、日本円で327万円から先行受注を開始しています。コナのように戦略的値付けを行なってくるとすれば、もしかしたら日本国内ではロングレンジでも300万円以下、42kWhのエントリーグレードはさらに低価格で発売してくる可能性にも期待できます。また、そうでなければ日本市場では苦戦が必至と言えるかも知れません。
標準装備内容をチェック
まだ詳細がわからない点が多いインスター以外の4車種について、コスト競争力を評価する上で重要な観点である標準装備内容についても比較していきましょう。
まずN-VAN e:とサクラの違いは、N-VAN e:では運転席のシートヒーターが標準装備。さらにホンダセンシングとしてレベル2のADASを搭載している点です。よって商用配送車としてに限らず、個人が高速道路を走行してロングトリップしたいという需要を満たすという意味でも優位性があると感じます。
N-VAN e:の最大の懸念点が、暖房にヒートポンプシステムが搭載されていないという点でしょう。よって冬場における電費が悪化することが予想できます。特に車中泊などを想定して購入検討していた方は注意が必要だと思います。
ドルフィンはリーフと比較しても、タッチスクリーンが12.8インチと大型。スマートフォンのワイヤレス充電器を搭載。電動でのシート調整が可能。さらにスピーカーの数も6つと多いなど、アドバンテージが大きい印象です。
レベル2自動運転支援も標準設定。リーフのプロパイロットはオプション設定です。またエアバッグの数も、リーフと比較して、さらにファーサイドエアバッグを追加しており、運転手と助手席の安全性にさらに配慮しています。
もちろんEuro NCAPはどちらの車種も最高評価の5つ星を獲得しています。車両保証も4年10万kmとより手厚い保証期間を設定するなど、EV性能で優れているだけでなく、装備内容という観点でもドルフィンに優位性があると言えるでしょう。
BYDシーガルもインスターのライバルになる?
改めてインスターについて考察すると、コンパクトEVのベンチマークといえるドルフィンを競合と位置付ける場合は、やはりドルフィン並みに装備内容を充実させる必要があるでしょう。
また2025年から2026年にかけて、BYDはさらに安価なシーガル(ドルフィンミニ)を日本に投入してくる可能性もあります。仮想ライバルとしてはシーガルも念頭に入れながら、少なくともドルフィンよりはコスト競争力が高いと思わせるようなインパクトが求められると感じます。
このように、2024年から2025年にかけてラインナップされる、日本国内の大衆EVのEV性能や装備内容を比較していくと、軽自動車セグメントではN-VAN e:、コンパクトカーではドルフィンのコスト競争力が高い様子が見て取れます。
とはいえ、ドルフィンですら補助金込みで320万円程度と、ガソリン車と比較するとコンパクトカーとしての割高感は否めません。
はたして、2025年に導入が期待されるヒョンデインスターが、コンパクトEVとしてどれほどの価格設定を実現してくるのか。そしてBYDがさらなるコンパクトEVとしてシーガルや、シーガルよりもコンパクトな新型EVを投入する可能性はあるのか。今後も最新情報をしっかり注視していきたいと思います。
文/高橋 優(EVネイティブ※YouTubeチャンネル)