寄贈したのは最上級グレードの Lounge AWD
2024年1月29日、Hyundai Mobility Japan 株式会社(ヒョンデ)が愛知県豊橋市に電気自動車『IONIQ 5(アイオニックファイブ)』1台を公用車として寄贈。災害時にはヒョンデが提供可能な電気自動車であるIONIQ 5と『KONA(コナ)』を移動式電源として活用する「電動車災害時派遣協定」を締結しました。
寄贈されたのは、ヒョンデが日本再進出とともに第一弾のEVとして発売(2022年5月)したIONIQ 5で、最上級グレードの「Lounge AWD」です。駆動用バッテリーの容量は72.6kWh。日本国内で普及しているCHAdeMO規格の急速充電でも高い充電性能を発揮するのが特長で、グローバルで発売された2022年には「ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」など各国の賞を受賞、日本でも「2022-2023 インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど、世界中で高い評価を受けている電気自動車です。
EVsmartで『石川県内で充電可能なEV急速充電器速報』(テスラがスーパーチャージャーを一週間無料開放のニュースを含む)をお知らせしたり、『e-Mobility Power の急速充電器無償開放が被災4県の62カ所に拡大/1月15日まで』など、地震や洪水などの災害時に電力インフラは比較的早く復旧する傾向があるのに加え、電気自動車であれば少し離れた場所で利用可能な急速充電器から、避難所などに「電気を運ぶ」ことが可能です。AWDなので、災害時や降雪時などにも高い機動力を発揮してくれることでしょう。
豊橋市では寄贈されたIONIQ 5を平時は公用車として活用。また、「市内で開催されるイベントで電源として活用することで、EVの新しい使い方について市民の理解を広げることを期待している」としています。
別売機器不要で「V2L」が可能
大容量バッテリーを搭載したEVは、「走る蓄電池」と呼ばれることがあります。日本発の急速充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)の場合、機能として対応している(輸入車には非対応が多い)車種の充電口に外部機器を接続することでAC100Vの電気を取り出せます。
さまざまな場所でEVから電気を取り出すことを「V2L=Vehicle to Load」、これも専用機器を介して家庭(系統電力)と電力をやり取りするのが「V2H=Vehicle to Home」で、こうした電力供給機能を総称して「V2X」などと呼ぶのはEVの基礎知識、ですね。
ただし、チャデモ充電口から電気を取り出すには別売の高価な外部機器が必要です。シェアが高いニチコン『パワー・ムーバー』は、最大で4.5kW(1.5kW×3口)の電気を取り出すことができますが、価格は68万円(税別)。重量は約38kgもあります。出力3kW(1.5kW×2口)の『パワー・ムーバー ライト』でも、48万円(税別)で約21kgなので、全ての避難所に備えることは困難でしょう。
日産『リーフ』や『アリア』などの場合、V2Lで電気を取り出すためにはこうした専用機器(DC/ACインバーターで12Vバッテリーから取り出す方法もあります)を使うことが必要です。一方、ヒョンデのIONIQ 5やKONAは、「室内V2L」(車室内にACコンセントを装備している)や「室外V2L」(普通充電口からAC100Vを取り出せるアダプタを標準装備)といった機能を備えているので、高価で重い専用機器がなくても電気を取り出すことが可能です。
取り出せる電力はIONIQ 5で最大1600W(1.6kW)、KONAは1360W(1.36kW)と、パワー・ムーバーより小さくはなりますが、手軽にAC100Vを取り出せるメリットは絶大です。
豊橋市防災危機管理課の佐藤実課長にお話しを伺うと、豊橋市にもリーフやi-MiEVなどのEV公用車、またパワー・ムーバー(台数は確認し忘れたけど、おそらく1〜2台でしょう)の備えはあるそうです。とはいえ「(豊橋市内には165ヵ所の指定避難所があり)多くの避難所で、とくに必要な夜間の照明、スマートフォンの充電などを手軽に行えるのはありがたい」と、ヒョンデEVのV2L機能に期待していました。
車室内のコンセントや普通充電口からのアダプタは、車中泊やアウトドアでの遊び、移動中にパソコンで作業をしたい! なんて時にも便利です。トヨタの場合、プリウスPHEVやbZ4Xなどにコンセントやアダプタを用意しています。電気自動車のパイオニアである日産にも、今後はぜひ用意して欲しいと、改めて(今までにもいろんな記事で書いてきましたけど)叫んでおきたいと思います。
今後はさらに災害時連携やEV普及へ前進
式典後の囲み取材で、ヒョンデの趙社長にお話しを聞くことができました。
日本国内でヒョンデがEVを寄贈したり、災害時の協力協定を締結するのは初めてのこと。豊橋市にはヒョンデのPDI(Pre Delivery Inspection=納車前点検整備)センターがあることから、今回の連携はヒョンデから提案したそうです。
韓国では国内最大級の企業として多くの自治体を支援しており、日本でもこうした連携の拡大に向けて検討や協議を進めているとのこと。また、昨年秋に発売した第二弾EVのKONAに加えて、「日本市場に合った小型EVの投入も前向きに検討中」ということでした。
IONIQ 5はとても高性能かつ魅力的なEVですが、ヒョンデはディーラー網展開をしていないことなどもあり、日本国内での販売はなかなかに苦戦しています。さらなる小型EVの投入は、ヒョンデ・ジャパンの躍進のみならず、日本のEV普及にとって意義あることだと期待しています。
取材・文/寄本 好則