ヒョンデが高性能EV『IONIQ 5 N』を発売〜楽しい電気自動車への新たなチャレンジ

ヒョンデ・モビリティ・ジャパンが、高性能EV『IONIQ 5 N』を正式に発表、発売しました。そのままサーキットに飛び出せる車の価格は858万円。発表会でわかったことや、「Nブランド」の今後などについてお伝えします。

ヒョンデが高性能EV『IONIQ 5 N』を発売〜楽しい電気自動車への新たなチャレンジ

価格はかなりお買い得感ある858万円から

2024年6月5日、ヒョンデ・モビリティ・ジャパンが、高性能EV『IONIQ 5 N』を発売。横浜市内のHyundai Customer Experience Center 横浜で「Hyundai N Day | IONIQ 5 N Japan Premier」を開催しました。IONIQ 5 Nは4月に「First Edition」の予約受付を開始していました。それに合わせて、ハイパフォーマンスブランド「N」のお披露目としてサーキットでの試乗会を実施。その様子はEVsmartブログでもお伝えしてきました。

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前の記事が出た時点では発表されていなかった価格は、税込みで858万円からと発表されました。

50台限定の「First Edition」は900万円前後という数字が出ていましたが、それよりもちょっと安くなります。まあ限定バージョンは、車本体の他にいろいろな特典があるので単純比較はできませんが。

それでも858万円という価格は、例えば日産アリア「NISMO B9 e-4ORCE」の944万円より90万円近く安くなります。IONIQ 5 Nの性能から考えると、戦略的な価格設定と言えるかもしれません。

なお日本への「IONIQ 5 N」導入は、韓国、オーストラリア、アメリカ、欧州の4つの国と地域に続いて、5番目の国・地域になります。

なお、「N」の由来ですが、よく知られているようにドイツのニュルブルクリンクの頭文字の他に、ヒョンデの研究所がある韓国の南陽(ナムヤン)からとっているそうです。ちょっとトリビアでした。

オートバックスでアフターパーツ販売予定

ヒョンデは横浜の「Hyundai Customer Experience Center 横浜」でIONIQ 5 Nの詳細を発表するとともに、販売開始や販売戦略についてアナウンスしました。また、これまでも協業してきたオートバックスセブンとの連携を深めることも発表しました。

ヒョンデはIONIQ 5 Nの販売開始に合わせて、実車の展示、「N」ブランドとモータースポーツ関連の取り組み、Nに取り付け可能な「N Performance Parts」の展示などをするショールーム「N Space」を、横浜、名古屋、京都に設置します。

N Space 横浜(Hyundai Customer Experience Center横浜内)
N Space 名古屋(Hyundai Citystore名古屋内)
N Space 京都四条(Hyundai Mobility Lounge京都四条内)

このうち「N Space 京都四条」は、「A PITオートバックス京都四条」に設置されます。オートバックスは2023年2月、PITオートバックス京都四条に「Hyundai Mobility Lounge京都四条」をオープンし、ヒョンデの車両展示や点検整備を行うなど、協力関係を続けています。

今回、オートバックスは、IONIQ 5 N用のオリジナルチューニングパーツの開発、販売にも取り組むことを発表しました。パーツ開発は、ドリキンで有名なレーシングドライバーの土屋圭一さんが監修します。

プロトタイプのお披露目は、来年の東京オートサロンになる予定です。これは見に行かないとですね。まだ、だいぶ先ですが。

新たにわかったノーマル版との違い

IONIQ 5 NIONIQ 5
Lounge AWD
全長×全幅×全高4715×1940×1625mm4635×1890×1645mm
ホイールベース3000mm
最低地上高バッテリー:152mm/アンダーカバー:142mm160mm
車両重量2210kg2100kg
最小回転半径6.21m5.99m
定員5人
駆動AWD
モーター交流同期電動機
前後輪最高出力前175kW/4600-10000rpm
後303kW/7400-10400rpm
前70kW/2800-6000rpm
後155kW/4400-8600rpm
システム最高出力N Grin Boost使用時/478kW、通常時/448kW
前後輪最大トルク前370Nm/0-4000rpm
後400Nm/0-7200rpm
前255kW/0-2600rpm
後350kW/0-4000rpm
システム最大トルクN Grin Boost使用時/770Nm、通常時/740Nm
一充電航続距離(WLTC)561km(自社測定値)577km(自社測定値)
EPA推計値約429km約441km
タイヤサイズ275/35R21255/45R20
駆動用バッテリー
種類リチウムイオンバッテリー
総電圧697V653V
総電力量84kWh72.6kWh
V2L室内外対応室内外対応
車両価格(税込)858万円〜599万円〜

正式に発表となったスペックについても見ていきましょう。まず最高出力は、フロントモーターが175kW、リアモーターが303kWです。

最大トルクは、前370Nm、後ろ400Nmです。

ただし、システム上の最高出力は前後合わせて448kW、最大トルクが740Nmです。前後モーターのフル性能は、「Nグリンブースト」を使用すると出てきます。

ノーマルIONIQ 5との違いはパワーだけではありません。Nでは、車体をホワイトボディから見直し、スポット溶接を42カ所増加、ボディの接着面を2.1m延長するなどにより、ねじれ剛性を約11%向上しています。

加えてサブフレームの接合部を強化し、前輪横方向で約15%、後輪横方向で約16%、剛性を高めているそうです。

まあ、こうした剛性の数字が実際のパフォーマンスにどの程度影響しているかを言葉で言い表すのは、筆者には至難ですが、IONIQ 5 Nの車体やパワートレインなどをほぼそのまま使用した「IONIQ 5 N eN1 Cup」というプロドライバー向けのワンメークレースが韓国で始まったことを考えると、基本性能の高さが感じられます。

eN1 Cupのタイヤはスリックを使用しています。車体が量産とほぼ同じ車で本格的なレースができるというのは、例えが極端かもしれませんが、ポルシェを思い起こさせます。公道を走る車としては高くても、レース車両として考えると実はお買い得、なのかもしれません。

実際、ヒョンデがIONIQ 5 N eN1 Cupを始めた理由のひとつは費用でした。チューニングで多くの費用がかかってしまって、レースや車そのものに手が届かなくなるユーザーも多いので、改造を最小限にとどめてより多くのユーザーの手が届くようにしたそうです。

メーカー製EVのワンメークレースは希少です。IONIQ 5 N eN1 Cupに準ずるヒョンデのイベントだけでなく、日本で言えば、これから軽EVのバリエーションが増えていったら(ホンダの「N-ONE」EVなど、増えそうか気がします)、ワンメークレースというのもおもしろいような気がします。

昔の車で申し訳ないですが、例えばスズキの2人乗り軽ピックアップ「マイティボーイ」みたいなEVのワンメークレースとか、ちょっと参加してみたいかもと思うのです。

Nでパイクスピークに出場予定

IONIQ 5 Nは、7月18日開幕のパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(PPIHC)に出場することが決まっています。

エントリーリストを見ると、エキシビションでIONIQ 5 Nが4台エントリーしています。そのうち2台は「TA SPEC」とありますが、ほかの2台はノーマルのままなのか、車名がIONIQ 5 Nです。

ドライバーは、WRC(世界ラリー選手権)にも出ているダニ・ソルド、PPIHC後輪駆動の部門でレコードを記録したことのあるロビン・シュートらがエントリーしています。

ちなみにPPIHCのコースレコードは、プロトタイプEVの「Volkswagen I.D. R Pikes Peak」に乗ったロマン・デュマが2018年に記録した7分57秒148です。

EVで他に目を引くのは、2023年のフォードのバンタイプEV「SuperVan 4.2」で、なんと8分47秒682を記録しています。テスラ「モデルS Plaid」も9分54秒901と、10分を切っています。

PPIHCで10分を切るのは容易ではなく、エンジン車では数えるほどしかありませんが、こんな感じで上位タイムにはEVが名を連ねていました。

IONIQ5 Nがどんなタイムを叩き出すのか、かなり楽しみです。

サーキット試乗会で高評価だった疑似サウンド

今回の発表会後、ヒョンデ・モビリティー・ジャパンの趙源祥(チョ・ウォンサン)最高経営責任者(CEO)、同じくヒョンデ・モビリティー・ジャパンの佐藤健シニアプロダクトスペシャリスト、そしてヒョンデのNブランド事業戦略チームのパク・ジェイソンさんに、短い時間ですが話を伺うことができました。

まず聞いてみたのは、少し意地の悪い質問ですが、EVで走りの楽しさを追求するというのは理解できる一方で、パワーを上げて速くしていくのは既存の内燃機関(ICE)の車と同じ道を追いかけているだけにならないのかということでした。

これについてパク・ジェイソンさんは、こう話しました。

「(IONIQ 5 Nは)ICEのユーザーも楽しさを追求できるようにすることが第1の目標でした。第2の目標は、ソフトウエアの部分で新しい機能を使って新しい楽しさを提供することで、例えばガソリン車にあったサウンドなどを追加する形で新しい楽しさを表現した。サウンドとシフトを通じて車がどれくらい速く走っているかを感じると思う。ドライバーが車を共感するのはとても大事なこと。高性能EVでもこの感覚を突き詰めて、新しい走りを楽しんでもらえればと考えている」

IONIQ 5 Nは疑似サウンドを出すことができます。音は、宇宙船のような音、エンジン音などから選ぶことができます。疑似サウンドはアクセル開度や速度に合わせて変化するのですが、この調整は簡単なことではなく、かなり突き詰めているそうです。

確かに音の変化はそうとうにリアルで、加速感と一体になっていると感じます。EVに乗り慣れてしまうと音がなくてもいいかなと思ってしまうのですが、これまでに開催したサーキット試乗会では疑似サウンドの評判は高く、多くの人に喜んでもらえたそうです。

「楽しい」は大事なこと

他方、これも少し意地悪な視点ですが、もともと環境問題を解決するというのがEV普及の根本にあったことを考えると、モータースポーツ、あるいは早さを追求するチューニングとはどうバランスをとっていくのでしょうか。

これについて佐藤健シニアプロダクトスペシャリストは、「自動車業界に35年いて、私もEVの目的と(モータースポーツは)違うのではないかと思った」と述べつつも、「実際にイベント(サーキット試乗会)をやってみると、EVの試乗会に来ていたのに「環境」と言う言葉は出てこなくて、素晴らしいって言ってもらえた」そうです。さらに佐藤さんはこう話しました。

「そこは本音だと思っていて、やっぱり皆さん、環境のためというのはわかりつつも、ハートは違っていて、もっと違っていて(楽しいクルマがあって)いいんじゃないのと思っている部分があるのではないか。また、今はこうした(IONIQ 5 N)商品が適しているのかなと思うが、確かに5年後、10年後はまた違うニーズが出てきて、違う「N」が出てくるのかもしれない。そこはお客様の声を聞きながら変わっていくのだと思う」

また趙源祥CEOは、「(車は)環境や経済性に限られる(縛られる)とおもしろくないじゃないですか。車は多様だと思います。今は(Nで)ヒョンデがひとつのカテゴリーを開拓しました。これが呼び水になって、新しい機能が車に搭載されるなどして、EVが楽しいものになったらいいなという、そういう希望を持っている」と、将来の考えについて述べました。

趙 源祥(チョ・ウォンサン) Hyundai Mobility Japan 代表取締役 CEO

環境にいいことを訴えても商品性が伴わないと、なかなか数は出ません。その点、IONIQ 5に「N」ブランドが追加されたのは自然な成り行きに思えます。

それに数が増えなければ環境問題の解決にはなりません。でも現状で売れているICE車のように、速い、パワーがある、大きなSUVばかりになってしまうと環境問題の解決から遠のいてしまう懸念もあります。

そんなわけで、バランスは難しいですが、試行錯誤しながら課題解決に向かって収束していくことを願いたいと思います。

あとは、実はインフルエンザにかかってしまっていくことができなかった、IONIQ 5 Nのサーキット試乗会に、機会があったら行ってみたいと思いました。やっぱり商品にとって、楽しい要素は大事だと思うのです。

文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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