新型IONIQ 5発売とともに小型EVインスター日本発売を正式発表/販売台数を10倍に!

Hyundai Mobility Japan(ヒョンデ)は2024年11月8日に、電気自動車(EV)の『IONIQ 5』を一部改良した新型『IONIQ 5』を発表しました。発表会では同時に小型EV『インスター』を2025年春に発売することもアナウンスされました。期待が広がった発表内容のポイントをお伝えします。

新型IONIQ 5発売とともに小型EVインスター日本発売を正式発表/販売台数を10倍に!

新型バッテリーに変更などで航続距離が延伸

ヒョンデは日本の乗用車市場に再参入するに際して2022年に発売したEV、『IONIQ 5』を一部改良し、バッテリー容量を増やすなどした新型IONIQ 5を発表しました。IONIQ 5は2022-23年の日本カー・オブ・ザ・イヤーでアジアブランド初のインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど高い評価を受けています。

新型IONIQ 5の変更点は、バッテリーを新しく開発したものに載せ替えると同時に容量を増やしたほか、サスペンションのセッティングの見直し、運転支援機構(ADAS)の改善、モーターの出力アップなどです。

変更ポイントの注目点はやっぱり、バッテリーの変更です。新型IONIQ 5では、『IONIQ 5 N』に搭載しているバッテリーと同じ第4世代バッテリーを採用しています。ヒョンデの発表によれば、第4世代バッテリーは、容積あたりの電気量がこれまでのIONIQ 5に使われていた第3世代の617Wh/Lから、670Wh/Lに約15%増加しました。

さらに搭載するモジュール数を増やし、バッテリー容量はこれまでの72.6kWhから84kWhに増え、一充電での航続可能距離はWLTCモードで618km(IONIQ 5 Voyage/Lounge)から703kmに伸びました。

IONIQ 5のプラットフォーム、E-GMPはモジュラータイプなので、バッテリーのセル数を比較的自由に変更できるのが特徴です。モジュール数を増やせば重量増になりますが、今回はそれよりも航続距離を優先したということなのでしょう。

それにしても700kmオーバーは、余裕あります。机上ですが、東京〜名古屋を無充電で往復できそうな性能です。

現行モデルオーナーからの要望が多かったリアワイパーも標準装備されました。

バッテリー容量はロングレンジタイプのみに

ちょっと気になったのは、韓国などではバッテリー容量が2種類あるのに、日本では容量が大きい84 kWhタイプのみになることです。これまでは日本でも58kWhと72.6kWhの2種類あったのに、なぜなのでしょう。

答えは「日本ではほとんど58kWhタイプが売れなかったから」とのこと。

日本のユーザーは「もし止まったらどうしよう」を想像することが多いようで、容量が小さなタイプはほとんど出なかったといいます。安心や、気持ちの余裕をお金で買うと言うことでしょうか。

そんなわけで、新型IONIQ 5のバッテリー容量は84 kWhの一択になったのでした。

バッテリーに関しては、ちょっと驚くべき情報が出てきました。IONIQ 5については、京都のタクシー会社で15万km走った後の容量(SOH)が当初の97%あったそうです。

タクシーの利用なので頻繁に急速充電を繰り返しています。充電回数については説明はなかったのですが、かなりの回数になっているはずです。急速充電はバッテリーの負担になると言われているにも関わらず97%を維持しているのは驚きです。

IONIQ 5のバッテリーを供給しているのは韓国のSKです。第4世代でさらに耐久性がアップするのか、それとも違う結果になるのか、今から気になってしまいます。

ちなみに、急速充電性能については発表の中で「800V対応」が強調されました。現行モデルも車両の基本性能としては800Vに対応(韓国や欧州では350kW器で充電可能)していますが、日本仕様ではチャデモの実状に合わせて400V級に受け入れ電圧を制御しています。でも新型では改めて800Vを強調するということは、何かしら進化があったのかと推察できます。質疑応答のなかで寄本編集長が「新型はチャデモの350kWにも対応済み?」と確認したところ「国内でも350kWの充電器については各メーカーが動き始めていて(我々も)協業は始めています。(本来のIONIQ 5は)350kWに対応する能力は持っているので、検証で確認できしだい、お客様に案内したいと考えています」との回答でした。

確実ではありませんが、IONIQ 5はe-Mobility Powerが開発中の350kWの性能を存分に引き出せる日本で最初の市販EVになる可能性はあるかもしれません。

日本の道路事情に合わせた細かな改良も

この他、モーターの出力は後輪駆動で約5%、全輪駆動で約6%向上しています。また走行モードは、これまでのスポーツやエコなどに加えて「マイドライブモード」が追加されました。ユーザーの好みに合わせてモーター出力、ステアリングのアシスト量などを調節できるそうです。

乗り心地に関連する点では、モーター駆動音の遮音性を向上して静粛性を高めています。足まわりも日本向けに、少しずつセッティングを変更しています。

ヒョンデのシニアプロダクトスペシャリスト、佐藤健さんによれば、欧州市場がメインになっているので足回りは硬めのセッティングにはなっているそうです。台数が限られる日本市場の弱いところではありますが、日本ユーザーの満足度を高めるための改良が進んでいるようです。

シニアプロダクトスペシャリストの佐藤健氏。

さらに改良点を列記すると、スマートフォンの接続がブルートゥースに対応しました。加えて非接触充電のトレーがセンターコンソールに移動しています。これまで、妙に奥まったところに充電トレーがあったのですが、とても使いやすくなりました。

またADASがナビ連動になったのも大きな変更点でしょう。

少し残念なのは、ナビ連動ADASの採用などソフト面での改善点があったものの、従来のIONIQ 5へのOTAでのアップデートはできないことです。OTAでアップデート可能なのはナビデータだけで、付随する運転支援システムなどは対象外とのことでした。

なお新型IONIQ 5の乗り味や急速充電性能については寄本編集長がすでに東京から岡山までの長距離試乗を完遂しているので、近日中にお届けできると思います。お楽しみに!

小さなEVが日本登場、間近!

インスター

この日の発表会では、「お!」と刮目すべき注目の発表がありました。今年夏までに韓国と欧州で市場投入された新型の小型EV『インスター』を、2025年春に日本で発売することが正式にアナウンスされたのです。

筆者だけではないと思うのですが、待っていたのはこういう「安価でコンパクトなBEV」ですよね。以前から日本市場投入の噂はありましたが、意外に早かったなと思います。

日本での発売価格は未定ですが、欧州では英国で2万3495ポンド(約466万円)から、韓国では車両価格が3229万3670ウォン(約355万円)からになっています。

韓国では補助金や割引などを合わせると、2325万9517ウォン(約256万円)で購入できることが公式HPで示されています。300万円を切るとお買い得な感じが出てきますね。

これなら、BYDのドルフィン(363万円から)より若干、安くなります。ただドルフィンはバッテリー容量が44.9kWhと58.56kWhの2種類で、航続可能距離は最長で476kmあります。こうなると単純に価格だけで中国製EVに対抗するのは難しそうですが、はたしてどうなるでしょうか。

運転席&助手席までフルフラットになって車中泊でも便利そうです。

ちなみにですが、新型IONIQ 5の最も上のグレードは、韓国では700万円以上します。一方、日本で販売しているIONIQ 5は、ラウンジのロングレンジだとBOSEのスピーカーや20インチホイールなど、ほぼフル装備状態ですが613万8000円と、韓国本国より100万円以上も安い戦略的な価格設定になっています。

そう考えるとインスターも日本ではかなり挑戦的な価格になる可能性はあります。シニアプロダクトスペシャリストの佐藤さんは囲み取材の中で、「今、日本で自動車がいちばん売れている価格帯は250万円から350万円の間。そこにほとんどEVがないので、その価格帯の間で提供したいという思いはあります」と話しました。

加えてもうひとつ、価格が安くなるかもしれない理由があるのでした。

日本での販売台数を10年で10倍に

販売台数を10倍にという目標を明示したマネージングダイレクターの七五三木敏幸氏。

発表会では、ヒョンデ・ジャパンの今後の事業戦略についての説明があり「今後10年間で販売台数を10倍にする」という目標が明示されました。

2022年の再参入からこれまでで、ヒョンデ・ジャパンでは『KONA(コナ)』とIONIQ 5をあわせて1500台を販売したそうです。コナとIONIQ 5でほぼ、半々の台数だそうです。これの10倍だと一気に、年間1万5000台になります。このくらいまで増えると、道で見かけることも増えそうです。

ヒョンデ・ジャパンではこれまで一貫して、台数を追い求めることはしない、まずは信頼を醸成していくという方針を強調してきました。

今回の発表会でも、いつもの趙源祥社長にかわって登壇した、マネージングダイレクターの七五三木敏幸さんは、最高の品質と安心を届けることなどを約束すると述べていました。

その考え方に変化はないようですが、さすがに2年で1500台は少ないということになったのでしょう。小型EVのインスターで、普及スピードを速めたいと考えているようです。

だとすると、インスターの価格を戦略的に設定することは十分に考えられます。

少し話は逸れますが、ヒョンデ・ジャパンは今回の発表会でもうひとつ、新しいEV『KONA Mauna Loa(コナ・マウナロア)』を発表しました。コナをベースに、タイヤを全天候型にしてルーフキャリアを標準装備した、30台限定の日本専用モデルです。

こうした特別仕様車を用意できるのはヒョンデが日本市場を重視していることの表れでもあります。それなら、ヒョンデの日本市場における普及拡大にとって重要な存在になるインスターで、もっと攻めてくる可能性はありそうです。

小さな車体をどう感じるかは未知数

インスターのスペックは記事末の表をご覧ください。

特徴的なのは車体サイズで、全長が3825mmと4mを切っています。トヨタで一番売れている小型車の『ヤリス』が全長3940mmなので、さらに10cm近く小さいです。

ホイールベースはヤリスの2550mmに対して、インスターは2580mmと、少し長くなっています。

大きく違うのは車幅で、インスターは1610mmしかありません。5ナンバー規格は最大1700mm。ヤリスもぎりぎりの1695mmあります。幅が8cm違うと、乗り込んだ時の印象もだいぶ違うかもしれません。

他方で軽自動車規格の車幅1480mmよりは13cm広いので、これも乗り込んだときの印象は大きく違うと思われます。このあたりは実車で確認したい部分です。

バッテリー容量は欧州や韓国では42kWhと49kWhの2種類ありますが、IONIQ 5がグレードを絞ってきたので、インスターも多い方の49kWhだけになるかもしれません。

インスターの足まわりのセッティングについて、シニアプロダクトスペシャリストの佐藤健さんは、首都高の継ぎ目で跳ねないように収束を良くするなどの調節をしていると話しました。まだ調整中だそうです。これもどうなるのか、楽しみです。

なにはともあれ、日本の道路事情にも合った小型EVが出てくるのは大歓迎です。価格が抑えられていれば、なおさらです。急激に寒くなり冬が近づいた感が強い今日このごろですが、春よこい、早くこい、インスターも早くこい、って歌いたくなるのでした。

新型IONIQ 5 主要スペック

IONIQ 5 VoyageIONIQ 5 LoungeIONIQ 5 Voyage AWDIONIQ 5 Lounge AWD
全長×全幅×全高4655×1890×1645mm
ホイールベース3000mm
車両重量2010kg2060kg2110kg2170kg
最小回転半径5.9m
定員5人
駆動RWDRWDAWDAWD
モーター交流同期型
最高出力56kW81kW
一充電航続距離(WLTC)703km703km648km616km
駆動バッテリー
種類リチウムイオン
総電力量84kWh
総電圧697V
急速充電90kW
車両価格523万6000円574万2000円554万4000円613万8000円

インスター(欧州仕様)主要スペック

インスターインスター
(ロングレンジ)
全長×全幅×全高3825×1610×1575mm
ホイールベース2580mm
最高出力71.1kW84.5kW
最大トルク147Nm
最高速度140km/h150km/h
0-100km/h加速11.7秒10.6秒
駆動バッテリー
種類リチウムイオン
総電力量42kWh49kWh
総電圧266V310V
急速充電120kW
普通充電11kW
一充電航続距離(WLTC)300km355km
V2L対応
車両価格(英国)2万3495ポンド〜2万6745ポンド〜
(約466万円)(約530万円)

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取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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