【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧
80km/h巡航なら約570kmの航続距離性能
アイオニック5は今回電費検証に使用したラウンジAWDグレードのほかに4グレードがあり、電費に関係しそうなスペックをまとめると次の表になる。ベースグレードだけが、駆動用バッテリーの容量が小さい。駆動方式はRWDに加えて、Voyage(ボヤージュ)とLounge(ラウンジ)はAWDも選択できる。ボヤージュとラウンジは、ガラスルーフやBoseプレミアムサラウンドシステム、助手席の電動シート、後席の電動シートとシートヒーターなどの装備が、ラウンジには標準装備、ボヤージュはオプションでも選択できないという仕様設定の差がある。ラウンジAWDの詳細なスペックは記事末の表を参照いただきたい。
グレード | バッテリー kWh | タイヤ | 一充電走行距離 km、WLTC | 出力 kW/PS | トルク Nm | 車重 kg | 価格 万円(税込) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
(ベースグレード) | 58 | 235/55R19 | 498 | 125/170 | 350 | 1870 | 479 |
ボヤージュ | 72.6 | 235/55R19 | 618 | 160/217 | 350 | 1950 | 519 |
ボヤージュAWD | 72.6 | 235/55R19 | 未発表 | 225/305 | 605 | 2060 | 549 |
ラウンジ | 72.6 | 235/55R19 | 618 | 160/217 | 350 | 1990 | 559 |
ラウンジAWD | 72.6 | 255/45R20 | 577 | 225/305 | 605 | 2100 | 599 |
カタログスペックである一充電走行距離577kmを、バッテリー容量の72.6kWhで割った目標電費は7.95km/kWhになる。7月某日、計測日の外気温は最高34℃、電費検証に臨んだ深夜は29℃だった。
各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。
【今回の計測結果】
目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路のBとC区間、往復のB区間の計4区間だった。往復では80km/hが7〜8km/kWh台、100km/hが5〜6km/kWh台、120km/hが4km/kWh台と、高速化に伴う電費の変化幅が比較的大きい。
【巡航速度別電費】
各巡航速度の電費は下表の通り。「航続可能距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、577kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率だ。80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って求めている。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。
各巡航速度 の電費 km/kWh | 航続可能距離 km | 一充電走行距離 との比率 |
|
---|---|---|---|
80km/h | 7.94 | 576.2 | 100% |
100km/h | 5.94 | 431.4 | 75% |
120km/h | 4.84 | 351.2 | 61% |
総合 | 6.00 | 435.4 | 75% |
総合電費の6.00km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続可能距離は約435kmになる。100km/h巡航もほぼ同等の約431km。80km/h巡航であればカタログスペックの一充電走行距離である577kmとほぼ同じ、約576kmを走り切れるという結果になった。
巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると25%電費が悪化する、さらに120km/h上げると39%減になる。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.6倍(164%)も伸ばすことができる計算になる。
ベースの速度 | 比較する速度 | 比率 |
---|---|---|
80km/h | 100km/h | 75% |
120km/h | 61% | |
100km/h | 80km/h | 134% |
120km/h | 81% | |
120km/h | 80km/h | 164% |
100km/h | 123% |
滑らかな自動車線変更が可能なACC
東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3パターンの速度で定速巡航する。そのため巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用し、さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意している。
アイオニック5のACCはステアリングホイール右側スポークにあるスイッチで操作する。一番右上がACC走行スタートのスイッチ。その下が速度調節用の上下に動くスイッチで、1クリックで1km/hごとに、長押しすると10の倍数の速度で変わっていく、一番使いやすいタイプ。その下は先行車との車間距離調整スイッチ(4段階)。その左は車線逸脱防止アシスト機能のオン/オフスイッチだ。
ボヤージュとラウンジグレードには自動車線変更機能もある。ウインカーを出すと3回点滅の後に、じわーっと滑らかに上品な動きで車線変更してくれる。ウインカーは車線変更完了まで点滅を続ける。どの速度でも13回点滅の間に車線変更を完了させた。ドライバーに求められることは最初のウインカー操作のみで、ステアリングを切る動作は必要ない。
車速と操舵の制御能力は高く、鮎沢PA手前の300Rも問題なく曲がれる。それだけに残念だったことが3点あった。1点目はステアリングを持っているのに「ハンドルを握ってください」警告が最短12秒ほどの間隔で出ること。2点目は、左車線走行中は車線の右側を、追越車線走行中は車線の左側に寄る傾向があること。特に隣車線に大型トラックがいると距離が近すぎて少し怖い。3点目はACCによる停車が「かっくんブレーキ(完全停止時に少しノーズダイブする印象がある)」で停まること。ワンペダルモードである「i-Pedal」を使用中はテスラ車のように完璧な「0G停車」を実現しているので、ACCではかっくんになってしまうのが非常に惜しい。
スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は、どの速度でも3km/hだったので、実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を103km/hに合わせた。
80km/h 巡航 | 100km/h 巡航 | 120km/h 巡航 |
|
---|---|---|---|
メーターの速度 km/h | 83 | 103 | 123 |
ACC走行中の 室内の静粛性 db | 68 | 68 | 65 |
巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hと100km/hが68dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hが65dBだった。アイオニック5のCd値は0.32と大きめだが、風切音は120km/hでもドアミラーあたりから「かさかさ」と聞こえるくらいで静粛性は高いと感じた。
安定して良好な急速充電性能を実感
アイオニック5の急速充電は「抜群の一貫性」を見せてくれた。ヒョンデは車両側の急速充電性能を「最大100kW」などといった出力値では公表していないが、事前に確認したところ、405V × 250A = 101.25kW(車両から充電器への要求値)で、250Aは充電開始から8分間限定との回答をいただいた。
そして駿河湾沼津SA下りの150kW器で充電した結果が下記表の「1」で、出力は81kW、30分で40.144kWhを充電できた。これは検証結果の総合電費である6.00km/kWhでは約240km分、80km/h巡航の7.94km/kWhであれば約318km分を補給できたことになる。
充電結果
「抜群の一貫性」を実感したのは、150kW器30分間の出力表示が終始81kWだったこと。SOCが上がってもこれほど出力が落ちないのは、さまざまなEV車種で同様に検証を行ってきたなかでも初めての体験だった。そして実際の充電量も81の半分に相当する40.144kWhだった。
これまでに行った急速充電の出力はSOCやバッテリー温度によって変動するため、出力数値のきっちり半分の充電量になることはなかった。バッテリー温度をCar Scannerアプリで確認していたが、41℃を超えることはなかった、つまりバッテリー温度管理システムも高性能であることがうかがえる。
また、駿河湾沼津SAの上りの90kW器での充電でも出力は81kWをキープ、バッテリー温度も最高41℃のままだったが、SOC87%になると出力が11kWに急激に落ちたので、アイオニック5の急速充電はSOC87%までがいいかもしれない。30分の充電で37.628kWhをチャージできた。
IONIQ 5がこのように安定した急速充電性能を発揮できるのは、充電器に対して「405V」を要求し、車載装備で800V級のシステム電圧に昇圧するメカニズムをもっていることによる。受け入れ可能な電流値は前述の通り充電開始から8分間は250A。以降は200Aとなる。90kW器、150kW器による30分間の充電で、安定して40kWh程度を補給できる性能は圧巻だ。
タイヤ・ホイールは20インチ
タイヤとホイールは、ラウンジAWDグレードだけが20インチで、他のグレードは19インチ。今回の検証で使用したのはラウンジAWDなのでタイヤサイズは前後ともに255/45R20、メーカーはミシュラン、商品名はパイロットスポーツEVだった。
空力性能の向上でさらなる高みへ
アイオニック5を運転して感嘆したのは、とにかく静かであることだった。EV専用のタイヤを装着しているとはいえ、遮音材にも相当こだわっていないとここまでの静粛性は実現できないのではないかと思う。
タイヤを観察するとサイドウォールに「GOE」と刻まれていた。これはヒョンデの高級ブランド「GENESIS」(ジェネシス)の承認タイヤの証だ。さらにこのタイヤには「アコースティックテクノロジー」も取り入れられており、段差などを通過時の空洞共鳴音を低減するそうだ。タイヤに注目しただけでも、ここまでこだわっているからこその静粛性なのだろう。
乗り心地に関しては、下道では3000mmと長いホイールベースを活かし、かつサスペンションが良く動いている印象で、悪いとは思わなかった。さらに高速道路では路面のうねりをワンバウンドでふわっといなしてくれて、特に高速ドライブ時に最適な乗り心地になるようなサスペンションセッティングの狙いであると感じた。
それだけに少しだけ残念なのは、高速道路で速度を上げた際の電費低下だ。多くのメーカーがBEV化にあたりCd値の低減に懸命になっているが、アイオニック5は0.32とライバルよりも少し大きめだ。
これが100km/hや120km/hに高速化した時の電費の悪化につながる要因の一つではないかと思う。例えばCd値にこだわるメルセデス・ベンツ「EQSセダン」(関連記事)、テスラ「モデルS」(関連記事)、SUVではトップクラスのBMW「iX」の3モデルと一充電走行距離との比率を比較してみる。これらのライバルは100km/h巡航で100%に近い数値なのに対して、ヒョンデの2車種は75%と落ち込みが大きいことが分かる。
メーカー 車名 グレード | ヒョンデ アイオニック5 ラウンジAWD | ヒョンデ KONA カジュアル | メルセデス・ベンツ EQSセダン 450+ | テスラ モデルS プラッド | BMW iX xDrive50 |
---|---|---|---|---|---|
80km/h | 100% | 101% | 115% | 113% | 125% |
100km/h | 75% | 75% | 95% | 98% | 98% |
120km/h | 61% | 61% | 85% | 86% | 78% |
総合 | 75% | 76% | 97% | 98% | 97% |
Cd値 | 0.32 | 0.27 | 0.20 | 0.208 | 0.25 |
検証年月 | 2024年7月 | 2024年7月 | 2024年4月 | 2024年7月 | 2023年8月 |
外気温 | 29℃ | 25〜26℃ | 18〜20℃ | 27〜32℃ | 25〜27℃ |
それにもかかわらず、コナ・カジュアル(関連記事)が全車種中トップクラスの電費を、アイオニック5もそこそこ良好な電費を記録しているのは、モーター、インバーター、バッテリーなどのパワートレーンの効率の良さからくるものだと思う。つまり空力が良くなれば、ライバルと比肩する電費性能を実現する可能性を秘めている。今後ヒョンデが空力性能をどう捉えて開発に繋げるのか、新型車の発表に注目したい。
ヒョンデ アイオニック5 ラウンジAWD |
|
---|---|
全長(mm) | 4635 |
全幅(mm) | 1890 |
全高(mm) | 1645 |
ホイールベース(mm) | 3000 |
トレッド(前、mm) | 1630 |
トレッド(後、mm) | 1635 |
最低地上高(mm) | 160 |
車両重量(kg) | 2100 |
前軸重(kg) | 1060 |
後軸重(kg) | 1040 |
前後重量配分 | 50.5:49.5 |
乗車定員(人) | 5 |
最小回転半径(m) | 5.99 |
交流電力消費率(WLTC、Wh/km) | 142.4 |
一充電走行距離(km) | 577 |
EPA換算推計値(km) | 461.6 |
最高出力(kW/ps) | 225/306 |
最大トルク(Nm/kgm) | 605/61.7 |
バッテリー総電力量(kWh) | 72.6 |
急速充電性能(kW) | 101.25 |
駆動方式 | AWD(四輪駆動) |
フロントサスペンション | マクファーソンストラット |
リアサスペンション | マルチリンク |
フロントブレーキ | ベンチレーテッドディスク |
リアブレーキ | ディスク |
タイヤサイズ(前後) | 255/45R20 |
荷室容量(L) | 527 |
フランク(L) | 24 |
0-100km/h加速(秒) | 5.2 |
Cd値 | 0.32 |
車両本体価格 (万円、A) | 599 |
CEV補助金 (万円、B) | 45 |
実質価格(万円、A - B) | 554 |
取材・文/烏山 大輔
このモデルのデザインは1974年に発売した自社のレジェンドモデルでジュウジアロがデザインを担当した、ポニー(PONY)のオマジュですね。言って見ればニューポニーのような車であって、だから本国では特にノスタルジーなインパクトがあったと思い出す。空力よりもデザイン性を優先した車ではないかな。一回り大きいアイオニック6は空力性能は良さそうで確かに欧州のCOTYにもなったが、今一つ人気はないような。
ベレット大好き、いすゞ大好き さん
記事をご覧頂き、ありがとうございました。
おっしゃる通りアイオニックはCd値0.21と優れた空力性能を実現しております。
ヒョンデに空力性能を磨く実力はありますので、今後のモデルが楽しみです。
検証に使用された車両は充電性能のソフトウェアアップデートを実施していない車両だったのではないでしょうか。
従来のバージョンですと最大81kwで制限される仕様でしたが、現在お問い合わせで得られた回答のとおりの性能になっています。約25%の改善がみられます。
真田崇 さん
記事をご覧頂き、ありがとうございました。
充電性能とともにプレコンディショニングについて、確認したところ、今回のテスト車両は「プレコンディショニングモード」が採用される前に生産された車両となります」との返信を得ていましたので、日本導入初期モデルである可能性が高く最新のソフトウェアではない可能性が高いです。
取り急ぎ、ご報告いたします。