東名300km電費検証【11】ヒョンデ『コナ カジュアル』~軽EVを超えて過去最高を更新

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第11回はヒョンデ『KONA』のCasualグレードで実施した。今年3月に実施したラウンジツートングレード(関連記事)とはどんな差が出るのだろうか。

東名300km電費検証【11】ヒョンデ『コナ カジュアル』~軽EVを超えて過去最高を更新

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

64.8kWhの上位グレードと航続距離は同程度?

今回テストしたKONA(コナ)のCasual(カジュアル)グレードはEVsmartブログ編集長である寄本さんのマイカーだ。バッテリー容量は48.6kWh。寄本さんは以前、コナのラウンジ(Lounge)ツートンで三重県へ取材(関連記事)に行っており、その際に「ラウンジツートンの方がバッテリーは大きい(64.8kWh)けど、カジュアルの電費がいいから航続距離は変わらない」との感想を記していた。ここで改めてコナの全4グレードの電費に関わりそうなスペックをまとめてみる。

KONA グレード別スペック比較

グレードバッテリー
kWh
タイヤ一充電走行距離
km(WLTC)
出力
kW/PS
トルク
Nm
車重
kg
カジュアル46.8215/60R1745699/1352551650
ボヤージュ64.8215/60R17625150/2042551730
ラウンジ64.8235/45R19541150/2042551790
ラウンジ ツートン64.8235/45R19541150/2042551770

上記のように4グレードの中でバッテリーはカジュアルだけが小さく、タイヤはカジュアルとボヤージュが17インチ、ラウンジの2グレードは19インチ(タイヤ幅も異なる)だ。一充電走行距離はカジュアルが一番小さいのはバッテリーの差があるから当然として、同じバッテリー容量なのに、ボヤージュとラウンジで84kmも差があるのは、タイヤサイズの差によるものではないかと想像できる。

搭載するモーターは4グレードともに型式「EM16」で同じ、出力に1.5倍の差があるがトルクは同値なので、カジュアルも上りの坂道は力強く登っていく。

それを踏まえた上でカジュアルとラウンジツートンに注目すると、バッテリー容量は約1.4倍、一充電走行距離は約1.2倍の差がある。カジュアルはこのビハインドを覆すほどの電費を記録し、ラウンジツートンと同等の航続可能距離を実現できるのかという点が今回の注目ポイントだ。

全項目で過去最高の電費を記録

カジュアルのカタログスペックである一充電走行距離456kmを、バッテリー容量の48.6kWhで割った電費(目標電費)は9.38km/kWhになる。7月某日の計測日の外気温は最高31℃、電費検証に臨んだ深夜は25℃~26℃だった。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。

【今回の計測結果】

目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路のBとC区間、往復のB区間の計4区間だった。往復では80km/hが9km/kWh台、100km/hが6~7km/kWh台、120km/hが5km/kWh台と高低差の大きい階段状になった。

各巡航速度の電費は下記の表の通り。「航続可能距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、456kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率だ。

【巡航速度別電費】

巡航速度別の電費計測結果を示す。80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って求めている。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続可能距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h9.44458.9101%
100km/h7.04342.375%
120km/h5.69276.761%
総合7.10344.876%

コナカジュアルは全ての巡航速度と総合の電費で、これまで計測してきたEV車種の中で過去最高の数値を記録した。80km/hと100km/hおよび総合は昨年7月に計測した三菱「ekクロスEV」(80km/h:9.11、100km/h:6.63、総合:6.58)よりも良かった。100km/hと総合が7km/kWh台に入ったのも初めてだ。

そして驚くべきことに120km/h電費も、今年4月に計測したEQSセダン(Cd値0.20 ※関連記事)の5.50km/kWhを超えて過去最高値(5.69)を記録した。コナのCd値は0.27とEQSセダンと0.07もの差があり、特に最も高速である120km/h巡航は空力的に厳しいはずだが、見事な結果を残した。この記録を上回るクルマが現れるのはいつになるのだろうか。

総合電費の7.10で計算すると、満充電からの実質的な航続可能距離は約345kmになる。100km/h巡航では約342km。80km/h巡航であれば約459kmを走り切れる結果だ。

ラウンジツートンの記録を並べると下記の表になり、寄本さんの「カジュアルとラウンジツートンの航続可能距離はあまり変わらないのではないか」の予感は、総合電費での航続可能距離がわずか7.3km差であることからも的中したと言って良い結果になったと思う。
※本来は外気温を揃えて両車の計測を実施したかったが、諸般の事情によりこのタイミングになってしまった。

カジュアルラウンジツートン電費差
km/kWh
航続可能距離の差
km
80km/h電費9.446.552.89
航続可能距離458.9424.734.2
100km/h電費7.045.481.56
航続可能距離342.3355.0-12.7
120km/h電費5.694.591.10
航続可能距離276.7297.5-20.8
総合電費7.105.431.67
航続可能距離344.8352.1-7.3

各巡航速度の比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると25%電費が悪化する。120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.6倍(166%)に伸ばすことができる計算になる。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h75%
120km/h60%
100km/h80km/h134%
120km/h81%
120km/h80km/h166%
100km/h124%

コナカジュアルの120km/h電費(5.69)は、これまでの計測の過去最高ではあるが、目標電費の9.38km/kWhからすると4割減になってしまう。実際に120km/h巡航のE区間の往復は96kmの距離に対して、航続可能距離表示は163kmも減ったので、SOCが低い時の120km/h巡航は要注意だ。

ADAS(先進運転支援システム)の性能はピカイチ

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航する。そのため巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用し、さらに交通量の少ない深夜の検証とすることで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないように留意している。

コナのACC設定は、ステアリングホイール左側のスポークにあるスイッチで行う。一番左上がACC走行スタートのスイッチ。その下が速度調節用の上下に動くスイッチで、1クリックで1km/hごとに、長押しすると10の倍数の速度で変わっていく。その下は先行車との車間距離調整スイッチ(4段階)。その右は車線逸脱防止アシスト機能のオン/オフスイッチだ。

ACCは車間距離設定を一番短くしている状態でも、先行車に近付いていく際に、ドライバーが「もうそろそろ減速してほしいな」というタイミングで減速してくれるので安心感が高い。渋滞中の停止から発進の動きもとても滑らかで良かった。

LKA(レーンキープアシスト)使用時のステアリングアシストも高性能だった。東名下りの大井松田ICから足柄SAまでのカーブが連続する区間でも、先のカーブの曲がりに合わせて操舵してくれる。鮎沢PA手前の300Rも問題なく曲がれた。

ただし気になる点も二つあった。1点目はACCでの停車の際にブレーキを抜きながら止まろうとはするが、最後はややかっくんブレーキになってしまうこと。2点目はステアリングを両手で持っているのに、最短12秒ほどの間隔で「ステアリングを持ってください」の注意がドライバーディスプレイに表示される場合があることだ。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は4~5km/hだった。実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を104km/hに合わせる。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
84104125
ACC走行中の
室内の静粛性
db
717166

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hと100km/hが71dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hは66dBだった。

30分で26kWhを充電

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。

駿河湾沼津SA上りで行った急速充電は、SOC 16%から開始、約6分後に最大出力63kWを確認した。その後は緩やかに出力が低下していき、充電終了間際の出力は44kWだった。

充電の結果は上記の通り30分でSOC 53%分、26.599kWhをチャージして、航続可能距離表示は225km増えた。検証結果の総合電費である7.10km/kWhでは約188km分、80km/h巡航の9.44km/kWhであれば約251km分を補給できたことになる。

KONAの急速充電受入最大出力は80kW程度(最大230A)とアナウンスされている。ただし、カジュアルグレードはシステム電圧が269Vと低く、230Aと掛け算しても約62kWでしかない(SOCとともに電圧は変動するので、今回63kWを記録した時は約274Vになっていたと思われる)。したがって90kW器では最大電流が200Aなので「急速充電はできるだけ最大350Aの150kW器を使うのがオススメ」と寄本さんからアドバイスがあった。とはいえ、100kW以上の高出力充電が可能なEVがやってきたらすぐに移動できるよう、充電中は車内に待機していた。

充電中のドライバーディスプレイ。右下に63.0kWと出力表示がある。100%時の航続距離(棒グラフ右上の数値)は404kmとなっているが、これは120km/h巡航の直後だから少し短めになっている。100km/h巡航後に駿河湾沼津SA下りでの充電時(冒頭写真)は421kmと表示されていた。

タイヤ・ホイールは17インチ

タイヤとホイールは標準の17インチで、サイズは215/60R17。ラウンジの2グレードは235/45R19で幅は20mm、扁平率は15%違うが、乗り心地に明確な差があるとは思わなかった。

【装着タイヤ】
メーカー/KUMHO
ブランド(商品名)/ECSTA PS71

サイズ空気圧製造週年
左側右側
フロント215/60R17 96H25037233323
リヤ215/60R17 96H25037233323

※製造週年は「3723」の場合、2023年の37週目に製造されたことを意味する。

おすすめしやすい電気自動車

コナのカジュアルグレードは総合電費(7.10km/kWh)で345km走行できる実力があることを確認できた。途中で90kW以上の出力がある充電器でチャージすれば、30分で188km分を補給できる。つまり満充電でスタートし、途中で一回充電すれば500km超を走行できる。高速道路を使用しない街乗り電費は6.5km/kWhを記録した。これなら充電なしで315kmを走行できる。

「一回の充電で東京から大阪まで。街乗りなら充電なしで300km超」。寄本さんからは「この実力があれば十分でしょ」と聞いていた。まさにその通りだと思う。毎日300km(年間にすると約11万km)以上走る方には適さないだろうが、一般ユーザーにそんな走行距離の方は稀だろう。

そして何よりも全項目でこれまでの計測結果の中で過去最高を記録したことがすごい。Cd値も0.27であることから、ここまでの記録を出すとは全く予想していなかった。カジュアルの価格は400万円を切る399.3万円。35万円のCEV補助金を活用すれば、実質364.3万円で購入可能とコスパにも優れており、V2HやV2Lにも対応している。

電気自動車購入を検討中の方は、横浜、東京、千葉、名古屋、大阪、京都、富山、広島、福岡、沖縄のヒョンデの展示車があり、試乗もできる拠点で、コナの実力を体験してみてはいかがだろうか。

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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