車椅子の元世界GPライダー青木拓磨選手がEVレース『アイペイスeトロフィー』に参戦

2020年2月6日、二輪の世界GPライダーとして90年代に活躍し、98年の事故で脊髄損傷、車椅子生活となってからも四輪でレース活動にチャレンジする青木拓磨選手が、『TEAM YOKOHAMA CHALLENGE』のドライバーとして、『Formula E』 のサポートレースである『JAGUAR I-PACE eTROPHY』に参戦することが発表されました。

車椅子の元世界GPライダー青木拓磨選手がEVレース『アイペイスEトロフィー』に参戦

2019-2020シーズンの全9戦にチャレンジ

現在、6シーズン目が開催中の電気自動車レースの最高峰ともいえる『Formula E(フォーミュラE)』。『JAGUAR I-PACE eTROPHY(ジャガーアイペイス eトロフィー)』は、そのサポート(前座)レースとして世界各地を転戦します。

左から、青木選手、JLJのマグナス・ハンソン社長、チーム代表の津山氏、コーディネイターの渡辺氏。

今シーズン(2019-2020)のフォーミュラEは全14戦の開催予定でしたが、3月に予定されていた中国・三亜市(海南島)での第6戦はコロナウィルスの影響で開催延期が決定して全13戦。すでに、サウジアラビア・ディルイーヤでの開幕戦と第2戦、チリ・サンティアゴでの第3戦は終了しており、残り10戦が世界各地で開催される予定です。

eトロフィのレースは、フォーミュラEのカレンダーからチリ(終了)、モロッコ、韓国、インドネシアを除く全10戦が開催予定でしたが、中国の延期で全9戦の予定。『TEAM YOKOHAMA CHALLENGE(チーム横浜チャレンジ)』と青木拓磨選手は、2月15日にメキシコ・メキシコシティで開催される第3戦(フォーミュラEは第4戦)からの参戦となります。

青木選手はここから基本的に「フル参戦」となりますが、4月4日の第6戦(イタリア・ローマ)は、このシリーズとは別に青木選手が挑戦している『ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ』の開幕戦(スペイン・バルセロナ)と日程が重なるため他のドライバーが代替出場となる予定。青木選手は7月26日にイギリス・ロンドンで行われる最終第10戦まで、全部で7レースに出走する計画です。

Rd開催日都市
12019/11/22サウジアラビアディルイーヤ(終了)
22019/11/23サウジアラビアディルイーヤ(終了)
32020/2/15メキシコサンディアゴ
42020/3/21中国三亜(中止)
52020/4/4イタリアローマ
62020/4/18フランスパリ
72020/6/21ドイツベルリン
82020/7/11アメリカニューヨーク
92020/7/25イギリスロンドン
102020/7/26イギリスロンドン

会場はみなとみらい地区のジャガーショールーム

会見が行われたのは『ジャガー・ランドローバー横浜 みなとみらいショールーム』でした。『eトロフィー』は、2016年にジャガーがフォーミュラEに参戦したことを機にスタートした、市販車であるジャガー アイペイスのワンメイクレースです。チーム横浜チャレンジも、ジャガーからの車両提供などの協力を得て、シリーズ参戦が実現したそうです。

会見ではジャガー・ランドローバー・ジャパン(JLJ)のマグナス・ハンソン社長も登場。「青木選手とチーム横浜チャレンジ、そしてジャガーというブランドがもつレースへのDNAと、フォーミュラEで培ったノウハウを詰め込んだアイペイスとのコラボレーションに期待している」と激励しました。

チームの代表である津山覚氏は、青木選手をドライバーとしてこのシリーズに参戦することについて「私たちのチームはたんなるレーシングチームではなく、フォーミュラEのイベントである『e-PRIX』の横浜誘致を実現させることが目標です。ハイレベルな国際ライセンスをもつ障がい者は青木選手が日本で唯一。青木選手の活躍によって、サステイナブルなレースへの日本国内での関心を高めたい」と、フォーミュラEの日本誘致、いや、横浜誘致への意欲を語りました。

ご存じの方も多いでしょうが、フォーミュラEは全戦が市街地コースで開催されます。新しい開発地域で区画などにゆとりがある「みなとみらい」は市街地サーキットを設営するにもうってつけ。チームのコーディネイターである渡辺洋三氏によると「開発当初からF1誘致などを想定していたこともあり、みなとみらいの道にはマンホールがない(未確認です)」そうで、来季から正式な世界選手権への昇格も発表された電気自動車最高峰のレース開催に期待したいところです。

ちなみに、渡辺氏にいただいた名刺の肩書きは『伊勢佐木町1・2丁目地区商店街振興組合 副理事長』にして『街づくり委員長』。この日お披露目された参戦する車両のボディには、伊勢佐木町の『イセザキ・モール』をはじめ、元町や馬車道の商店街のステッカーが並んでいました。チーム横浜チャレンジは、横浜市内の商店街、ひいては市民の応援に支えられて世界に飛び出していく、ということですね。

電動のポテンシャルは「ラジコン」で学んだ!

青木拓磨選手は、1974年生まれの45歳。2月24日が誕生日なので、もうすぐ46歳、おめでとうございます。

1990年に本格的にロードレースデビュー。1997年には世界選手権ロードレースの最高峰である500ccクラスで参戦初年度にしてシリーズランキング5位となり、さらなる活躍を期待された二輪ライダーです。ところが、1998年、テスト中に転倒して脊髄損傷。下半身不随となって車椅子の生活となりました。

でも、モータースポーツに背を向けることはなく四輪でのレースへのチャレンジを開始。2007年から『アジアクロスカントリー』というラリーへのチャレンジを続けてきました。そして、車椅子のレーシングドライバーとして活躍の舞台を広げ、今シーズンはこのEVレースへの挑戦に加え、『ル・マン24時間レース』への参戦も予定されています。

イギリスのテストコースでEVレーシングカーを初ドライブ。

参戦に先駆けて、イギリスにあるジャガーのテストコースでレース仕様のアイペイスに乗ったのが、実は完全なEVをドライブする初体験だったそうです。

「EVを運転するのは初めてでしたが、圧倒的な加速などへの驚きはなかった。ポケバイに乗り始めたのは8歳の時ですが、それ以前からラジコンが大好きで、電気モーターの加速力や優れたポテンシャルは知っていましたからね。ラジコンはあたかも自分が乗っている感覚で操縦しますが、アイペイスで走ってみて、実物のクルマでラジコンのような加速を感じられることが感慨深かった」(青木選手)

プライベートでは「EVじゃないけど、ハイブリッド車はもってます」という青木選手。EV普及については「充電インフラなど企業と社会が協力して解決すべき課題もある。通行区域にEVの優遇策を設けるとかの工夫も必要。まだまだ行政の姿勢が甘いのではと感じます」と、的確な指摘を語ってくださいました。

ハンドドライブ装置は市販品を使用

さらに「電動の可能性として『速さ』はラジコンで知っていて驚きはなかったけど、運転操作がシンプルなEVは、ハンドドライブ装置を使って運転する車椅子の人間、障がいをもった人がモータースポーツに挑戦する可能性を広げてくれることを感じた。電動化によって、たとえばハンドルは丸いといったような固定観念がどんどん変わっていくのかも知れない。運転の『手段』が増えるんです」と青木選手。

今回参戦するマシンを含め、青木選手が四輪のレース活動で使っている「ハンドドライブ装置」は、イタリアの『グイドシンプレックス』というメーカーのもの。レース用のアイペイスには「ツイストレバー」式の「ワンハンドコントロールシステム」が搭載されているそうです。

ステアリング左側のレバー1本で、アクセル&ブレーキ操作を行うそうです。

レース用の特別仕様なのかと尋ねたら「市販品をそのまま使っています」とのこと。総輸入販売元である株式会社ジー・エス・ティのパンフレットによると、グイドシンプレックスの身障者用運転補助装置は、主要自動車メーカーの純正品として採用されていて、同社が製品の販売から取り付けまで行っているそうです。詳しいことは、『Guidosimplex JAPAN』公式サイトをご覧ください。

パワートレインは市販車のまま

この日、お披露目されていたレース車両。ワンメイクというので、足回りや空力を改造してある程度、かと思ったら、ボディのパネルなどは徹底的に軽量化されていて、サイドウィンドウの素材もガラスではなく樹脂、充電口も見当たらず、市販車とはまったく違うクルマに仕上がっていることがわかりました。

ただし、電池やモーターなどのいわゆるパワートレインは市販車のまま、ということです。

充電口(赤いステッカーが貼ってあるところ)はボンネットの中でした。確認できませんでしたが、たぶん、Combo規格だと思います。

電気自動車レースの最高峰といえるフォーミュラE。私も1年目(2015年4月)のアメリカ・ロングビーチでの開催に取材に行きました。ずっと注目はしてますが、フル参戦する日本人ドライバーがいない、日本のナショナルフラッグを背負ったチームがない(日産はフランスのチーム)などの状況もあって、なかなか日本での関心は高まりません。

サポートレースとはいえ世界的イベントでの年間シリーズ。さらに、コンクリートウォールに囲まれたタイトなサーキットでのエキサイティングな市街地レースです。『eトロフィー』での青木選手の活躍が、1人でも多くの日本の自動車ユーザーに「EVってスゴくて面白いじゃん!」という気付きをもたらしてくれることを願っています。

(取材・文/寄本 好則)

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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