クロスオーバーと近場の足の1台2役『RANGE ROVER EVOQUE PHEV P300e』

JAIAが主催する輸入EV試乗会で『RANGE ROVER EVOQUE AUTOBIOGRAPHY PHEV P300e』に試乗する機会を得た。試乗コースが都内の限られた範囲だったが、市街地走行とPHEVの性能について可能な限りレポートしたい。

クロスオーバーと近場の足の1台2役『RANGE ROVER EVOQUE PHEV P300e』

EV走行はWLTCで63km

『RANGE ROVER EVOQUE AUTOBIOGRAPHY PHEV P300e』(以下P300e)は、ジャガー・ランドローバーのオフロード車の代表格「RANGE ROVER」のプラグインハイブリッド版だ。パワートレインとしてはガソリン、ディーゼル、マイルドハイブリッドがすでにラインナップされていたが、EV走行も可能はストロングハイブリッドとして、充電可能なプラグイン車として開発、市場投入されたものだ。

パワートレインは1.5Lのガソリンエンジンにモーターを2基搭載する。モーター1基は、フロントエンジンと一体化したeAxle用だ。ハイブリッドパワートレインとしてエンジンのアシストと発電を担当する。これにバッテリー(+管理システム)とACチャージャーを搭載すれば、一般的なPHEVを構成することができる。P300eはリアにも独立した駆動モーターを搭載するAWD方式のPHEVだ。P300eのEV走行は主にリアモーターが担当する。

リアモーターの出力は80kW・260Nm。搭載されるバッテリーは15kWhの容量を持つ。WLTCではバッテリーのみで63km(実用に近いアメリカのEPA基準換算推計値=約50km)のEV走行が可能となっている。システム総合出力は147kW(5,500~6,000rpm)。280Nm(2,000~4,500rpm)となっている。トランスミッションは電子制御の8ATだ。

PHEVは急速充電よりAC普通充電

充電は、走行中の充電制御、回生システムによる充電の他、AC200Vの普通充電が可能だ。DC急速充電には対応しないが、PHEVは、バッテリーが0%になってもエンジンでの走行および充電が可能なので問題ない。また、EVよりバッテリー容量が少ないPHEVは、CHAdeMOによるDC急速充電との相性がよくない。

急速充電の出力は受け入れ側のバッテリー容量や制御によって決まる。時間課金のCHAdeMOの場合、小さいバッテリーは出力を絞ってゆっくり充電することになる。しかも、急速充電ではバッテリー保護のため100%までの充電は行われない制御が一般的だ。PHEVは、わざわざ急速充電を使うメリットがほとんどない。

もちろん、今後PHEVのバッテリー容量が増えたり、急速充電環境が変わったりすればその限りではない。

EV感覚で運転できるP300e

最近の内燃機関(ガソリン・ディーゼル)車は、イグニッションボタンで2ペダルが主流だ。シフトセレクターもバイワイヤー制御でレバーというよりセレクターやボタンで切り替える。パーキングブレーキも電動となり、始動手順、降車手順はEVとあまり変わらない。P300eもブレーキを踏みながらイグニッションボタンを押してシフトレバーをDに入れれば発進可能だ。発進にエンジンは必要ないので、そのままEV走行を開始する。

降りるときもそのままドアを開けて施錠すれば電源OFFやその他の処理は車がやってくれる。ただし、安全のためブレーキの自動ホールドやパーキングブレーキのランプは確認する必要がある。

EV走行はリアモーターだけが基本となるが、トルクが260Nmあるので2トン以上ある車体の重さは感じない滑らかな発進をしてくれる。横幅が1.9メートルあるが取り回しのしにくさを感じることはない。低速で障害物などを検知すれば、センターコンソールのモニターがアラウンドビューに切り替わる。狭い道、車庫入れもあまり苦にならない。

街中ではエンジンはほぼかからなかった

パワートレインの走行モードは「ハイブリッド」「EV」「セーブ」の3種類が選べる。「ハイブリッド」と「EV」は文字通り、エンジン+モーターを組み合わせて走行するか、モーターだけのEV走行を優先するかの選択肢。バッテリーのみで走行するかの違いだ。「セーブ」はバッテリーの消費をなるべく抑えてエンジン走行を優先させるハイブリッド走行となる。

結論からいうと、今回の試乗コース(都内一般道)では、平均的な運転をするならエンジンがかかるシチュエーションはなかったといってよい。上り坂などでエンジンをかけるという意識をしたうえでアクセルを踏み込まないと、エンジンはかからなかった。モーター走行でトルクが足りない、運転がしにくいということはない。

プラグインで充電する以外、走行中に積極的に充電をしたい場合は、シフトレバーを「S(スポーツ)」モードに入れるとよいそうだ。Sモードは、レバーかステアリングのパドルでトランスミッションの変速が可能になるモードだ。変速を手動でしなくてもSモードに入れておけば(レバーを助手席側に倒す)、エンジン車の電子制御ATと同様な状態となり、ほぼエンジンがかかりっぱなしとなる。

試乗したP300eは、走行開始時にバッテリー容量(SOC)が96%。走行可能距離の予測が42kmだった。ハイブリッドシステムとしての航続可能距離(予測)は477kmだった。カタログ・緒元表によるバッテリー走行の航続距離は63kmとなっているので、SOC表示の割には距離が少ない感じだが、短距離の試乗コースを参加者がそれぞれ試しながら運転しているので、燃費・電費が悪くなっているからだろう。もっとも、実用に近いとされるアメリカEPA基準に換算したEV航続距離の推計値は約50kmなので、日常的にはこのくらいの航続可能距離が実用値とも推察できる。

ロングツーリングと近所の買い物を1台でこなす

限られた時間での試乗だったが、市街地での走行はEV感覚で運転できることが確認できた。家族で利用する場合、通勤、送り迎え、買い物などはほぼEVモードでこなせるだろう。そしてこのようなシチュエーションこそEVの得意分野でもある。騒音や振動が少なく、トルクフルなパワートレインは、坂道、信号や一時停止の多い市街地でのストレスは確実に下がる。ボディサイズや重さを意識しない運転が可能だ。

不安がある長距離、長期旅行はPHEVの良さが出る部分だ。オフロードもこなせるレンジローバーで、週末やオフを満喫する。ボディサイズからくるキャビンの広さと荷室の広さ(2列目後方の最大積載容量=591L)を考えるとミニバンとSUVを足したような使い方、便利さが期待できる。平日は、家族の足として気軽に乗り回す。EV走行の比率が高いPHEVならではの特徴だろう。

(取材・文/中尾 真二)

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					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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