メルセデス・ベンツ新型『E350e』試乗レポート〜電気だけで100km走れるPHEVの可能性

メルセデス・ベンツの中核を担うモデルがEクラス。そのEクラスがフルモデルチェンジをうけて6代目へと移行した。モータージャーナリスト、諸星陽一氏によるプラグインハイブリッド車(PHEV)の新型『E350e』の試乗レポートをお届けする。

メルセデス・ベンツ新型『E350e』試乗レポート〜電気だけで100km走れるPHEVの可能性

PHEVモデルの価格は988万円〜

初代Eクラスの誕生は、1985年に登場したミディアムクラスと呼ばれた124シリーズが、シリーズ途中でEクラスとネーミング変更したものだった。2009年に登場した4代目のシリーズ途中からハイブリッドモデルを追加。2016年からの5代目シリーズでは2017年にプラグインハイブリッドを追加している。

新型Eクラスは2024年1月12日に日本で発表された。用意されるボディはセダンとステーションワゴンの2種。日本仕様に用意されるパワーユニットはセダンが2リットルガソリン、2リットルディーゼル、そして2リットルガソリン+モーターのプラグインハイブリッドとなっている。ステーションワゴンは2リットルガソリン、2リットルディーゼルのみ。つまりセダンにだけプラグインハイブリッドが設定されている。現在のところすべてのパワーユニットに対して、1グレード設定となっている。

試乗車のグレード名は「E350e スポーツエディションスター」という。スポーツエディションスターはAMGラインのエクステリア&インテリアやコンフォートサスペンションなどが標準となる仕様。車両本体価格は988万円で、ガソリンエンジン仕様のE200アバンギャルドの894万円より94万円高となる。ただし補助金(令和5年度実績)として国から44万円、東京都の場合なら都から36万円の計80万円が交付されるのでその差はぐっと縮まる。

試乗車にはデジタルインテリアパッケージ(40万4000円)、ドライバーズパッケージ(40万9000円)、リモートパーキングアシスト(15万5000円)、アドバンスパッケージ(61万6000円)、レザーエクスクルーシブパッケージ(75万9000円)と総額234万3000円のオプションが付き、合計の車両価格は1222万3000円となっていた。なおスポーツエディションスターの装備であるコンフォートサスペンションはドライバーズパッケージが装備されるため、エアサスペンション&リア・アクスルステアリング(4WS)に変更されている。

電気だけで100km近く、時速140km/hまで走行可能

新型E350eに搭載されるエンジンは2リットルガソリン4気筒で、150kW/320Nm、モーターは95kW/440Nmのスペック。バッテリーはメルセデス・ベンツが開発したパウチタイプで容量は25.4kWh。EV走行可能距離はWLTCモードで112km(実用に近いEPA換算推計値は約90km)、140km/hまではエンジンのアシストなしに走れる設定だ。

今回、セダンでプラグインハイブリッドのE350eに乗る前に、マイルドハイブリッドでステーションワゴンのE200にも試乗した。ワゴンの試乗車は軽快なドライビングフィールでまるでCクラスに乗っているような印象。それでいて高級感は失われていないのだから、作り込みの上手さはさすがといえる。

対してセダンのプラグインハイブリッドに乗った際の第一印象は重厚でどっしりとしたもの。セダンの車両重量はワゴンに対して300kg強重い2240kg。この重さももちろんだが、バッテリーという重量物が低い位置に搭載されることによる重心位置の低さも重厚な乗り心地に大きく影響しているのだろう。

試乗車はドライバーズパッケージが装着されているので、エアマチックサスペンションとリア・アクスルステアリングが装備される。エアサスというと、ゆったりした乗り心地で機敏さに欠けるブワブワしたものだという先入観で毛嫌いする方もいるが、最近のメルセデスのエアサスはまったくそういう印象がなく、しっかりとしている。

エアサスは空気をバネとして使う方式なので、初期の動きは柔らかく圧縮が進むに従って硬くなる。つまり、微少な凹凸などには柔軟に対応し荷重の掛かるコーナーなどでは硬いバネとなる非線形特性でクルマのバネとしては理想的だが、今まではなかなかうまくマッチすることがなかった。それがEVの台頭によって車両重量が重くなり、エアサスが乗用車でもマッチするようになってきたという印象だ。

ハンドリングの正確さとコーナリングのしっかり感はかなり高いレベル。微少舵角のステアリング操作でも、しっかりとそして急すぎずにタイヤが反応。じつに快適にレーンチェンジをこなす。この動きの良さにはリア・アクスルステアリングと呼ばれる4WS機構の恩恵もある。低速では逆位相に、中速以上では同位相に切れるリヤタイヤのおかげである。低速でのレーンチェンジでは前輪のみのステアよりも早くレーンチェンジが終わり、中速以上のレーンチェンジではリヤのスタビリティが高いというわけだ。

回生コントロールのパドルスイッチも装備

試乗車を乗り出した際はバッテリー残量がおよそ50%であったが、EL(エレクトリック)モードで走れば、そのままEV走行が可能だった。EV走行時における加速感に不満はない。普段走り+α程度であれば十分に力強い加速で、交通の流れをリードできるだろう。140km/hまでEV走行が可能というのだから、高速道路への流入加速も基本的には問題なく行えるレベル。ELモードではステアリグスポーク裏にあるパドルスイッチで回生量の調整が可能だ。回生量はD-、D、D+の3段階で、D-がもっとも強くワンペダルに近い減速感が得られる。D+にするとコースティングに近い状態だ。

勾配が急な下り坂で回生量を調整しながら走ることを考えると、もう少し段階があったほうが使いやすそうだが、そうもいかない事情がE350eにはある。E350eには9段のATが組み合わされていて、回生中にはギヤダウンも行われる。ギヤダウンも含めてということになれば、段階を増やすことはさらに複雑さを増すことにつながるので、3段階が適当なのだろう。走行モードは、B(バッテリーホールド)、EL(エレクトリック)、H(ハイブリッド)、S(スポーツ)、I*(インデビディアル)の5種。Sモード(I*モードでの設定次第)ではパドルスイッチはATのマニュアルモード(シフトアップ&シフトダウン)として機能する。

急速充電口の位置は左後部。
普通充電口はリアバンパーの右側。

先代Eクラスのプラグインハイブリッドは急速充電機構を備えていなかったが、新型はCHAdeMOでの急速充電に対応した。プラグインハイブリッドに急速充電機構は不要だと思うが、V2HやV2Lへの対応を考えてのことだろう。CHAdeMOはそろそろ充電&給電対応タイプと給電のみ対応タイプに分けてもよい時期が来ているような気もする。

実用値でも100kmに迫る電気での航続距離、そして140km/hの最高速度を誇るE350eに乗って感じたのは、プラグインハイブリッドの今後の姿。現在のプラグインハイブリッドは電気で走れる距離よりも、エンジンを始動して走れる距離が圧倒的に長い。しかし電池のエネルギー密度が上がれば、電気で長く走りもしものときにエンジンで足りない距離をカバーするという、レンジエクステンダー的なプラグインハイブリッド車が主流になるかもしれないという予感だ。充電インフラの普及速度にもよるが、EVシフトの過程にはそんな時代が挟まれる可能性があるのかもしれない。

取材・文/諸星 陽一

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 9段ATは本当に残っているのですか?
    140kmhまで対応できるモーターを搭載しているのなら無駄なように思うのですが。欧州で200kmhで巡航るためなのでしょうか?

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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