メルセデス・ベンツ『AMG EQE 53 4MATIC+』試乗レポート/俊敏さと作りの良さが印象的【諸星陽一】

メルセデス・ベンツの電気自動車、EQシリーズの中核モデルとなるEQEのハイパフォーマンス仕様、メルセデスAMG EQE 53 4MATIC+に試乗した。EQEのスタンダードモデルはEQE350+で、それに比べるとかなりのハイパフォーマンスとなっているのが特徴的だ。

メルセデス・ベンツ『AMG EQE 53 4MATIC+』試乗レポート/俊敏さと作りの良さが印象的【諸星陽一】

2モーターの4WDでシステム出力は505kW/1000Nm

EQE350+は215kW/565Nmのスペックのモーターをリヤに搭載する1モーターのRWD。一方AMG EQE53 4MATIC+はリヤに295kW/609Nm、フロントに165kW/346Nmの2モーターの4WD方式。通常のシステム出力は460kW/950Nmだが、レーススタートというモードを選んだ場合、オーバーブーストのような状態となり、じつに505kW/1000Nmのシステム出力を得ることが可能。

しかし、試乗前にはレーススタートモードの存在は知らず、体感できたのは460kW/950Nmまでであった。505kW/950Nmの出力を得られるのはスポーツ+というモード。このモードの状態でアクセルを床まで踏み込むと、爆発的な加速感でスタートする。驚くべき加速感なのだが、それ以上に驚くべきはタイヤのグリップがまったく失われずにしっかりとしていること。シャシをきっちりと作れているところは、さすがメルセデス・ベンツ。さすが自動車メーカーという印象だ。

スポーツ+モードでアクセルペダルを煽ると、それに反応してクルマがグングンと動く。メーター右側にはパワーが何%出ているかを示すメーターが装備されるが、この針が信じられないような速度で100%まで跳ね上がる。エンジンで言えば、レッドゾーンまで一気にという表現となるが、その俊敏さはエンジンの10倍といったイメージだ。

走行モードはもっともパワフルなレーススタート、スポーツ+、スポーツ、コンフォート、そして自分で設定ができるインディビデュアル、スリパリーの6モードということになる。スリパリーも頭文字がSということもあり、アルファベッドではなく雪の結晶マークで表されていて、かなりわかりやすい。

回生の強さも普通回生、強化回生、インテリジェント回生、回生なしの4つから選択が可能。インテリジェント回生は先行車の速度を考慮した回生を行うもので、交通の流れを乱すことなくスムーズに走ることができる。強化回生は勾配のきつい下り坂が続くときなどに積極的な回生ブレーキ活用を行うことができるだろうし、回生なしはゆるい下り勾配などで無駄にエネルギーを使うことを避けられる。こうなると、普通回生を使う機会はあるのか? 疑問に思うのだが、きっと先行車が安定しない運転をしているときなどは、普通回生を使うことになるのだろう。

スポーツ+モードに強化回生という組み合わせを使うと、普通に走っていてもけっこうギクシャクしてしまう。強化回生でも完全停止のワンペダルにはならないのだから、強化回生はやはり急な下り坂でのみ使えばいいだろう。走りやすかったのはスリパリーモード。聞けばスリパリーモードは出力を50%に制限するとのこと。それでも300kWプラスアルファの出力があるのだから、普段使いとしては十分といえる。

乗り心地は良好でノイジーな面も感じない。EVはエンジン音でのマスキング効果がないだけに、タイヤノイズや風切り音などが気になる傾向にあるが、EQEについてはそうした傾向もなかった。コンフォートモデルの作り方を知っているメルセデス・ベンツが手がけるモデルなのだから、そのあたりはしっかりとしていて当たり前だが、それにしてもよくできている。

ただし、スポーツ+モードでは不思議な効果音が発するようになっている(資料によれば数種の音が用意されているとのことなので、スポーツ+モード以外でも音の発生は可能だろう)。設定されていた音は、エンジン音を再現したものでもなく、モーター音やインバーター音を強調したものでもなかった。とはいえ、高揚感のある音である。こんな音は不要だという人は消せばいいだろうし、気持ちいいと思う人は使えばいい。こうしたことについて、絶対こうあるべきだということはない。

後輪操舵を備えており取り回しも良好

さて、EQEは全長×全幅×全高が4970×1905×1495(mm)。ホイールベースは3120mmとかなりビッグなボディであるが、逆位相の後輪操舵を備えるため、最小回転半径は5.7mに抑えられてる。リヤタイヤの切れ角は3.6度で、EQE350+の10度(最小回転半径4.9m)には及ばないが、使い勝手はよくなっている。逆位相による違和感もなく、ごくごく普通に運転できるのである。

車重は2.5トンを超えているのでタイトなコーナーでは、大きくロールが発生するはずだが、可変ダンパーがしっかりと働き、ロールはよく抑えられている。とはいえ、重量級のボディが踏ん張っている感覚は伝わってくる。大きなバッテリーを積まざるを得ない、重量級のEVではこの感覚は付きものとなる。私はどうもこうした感覚が好きではない。もし、この先の路面が急に滑りやすくなっていたら……などと考えるとやはり重量のあることが不利に働く。重い車体は道路へのインパクトも強いし、タイヤに求める性能も厳しくなる。重量増はEV化の宿命でもあるが、克服しなくてならない課題でもある。

さて、ユーティリティをみてみよう。3mを超えるホイールベースを持つモデルだけに、後席もゆったりしたラゲッジルームの作りもよく、しっかりと荷物を積めるようになっている。4WDの駆動方式を採用するモデルでもあるので、しっかり荷物を積んで遊びに行ける仕様というものいい設定だ。

走行用バッテリーはEQE350+と同じ90.6kWhのリチウムイオンで、WLTCモードでの航続可能距離は526km(実用に近いEPA推計約421km)。交流普通充電は6.0kW、CHAdeMOでの急速充電は150kW対応としている。CHAdeMO対応としてことでV2H可能となっているところが、EQEのいい部分ではあるのだが、V2Lに対応したAC100Vコンセントはなく、これが残念な点となる。

試乗したモデルの車両価格は1922万円(税込)。オプションを含めると2093万1000円となる。

取材・文/諸星 陽一

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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