メルセデス・ベンツ『EQE』試乗レポート〜プレミアムEVセダンの実力は?

2月初旬に開催された日本自動車輸入組合(JAIA)のメディア向け試乗会には、各社の最新EVが集結しました。メルセデス・ベンツとして、EQSとともに初となるEV専用プラットフォームを採用したプレミアムEVセダン『EQE』を、自動車評論家の御堀直嗣氏がレポートします。

メルセデス・ベンツ『EQE』試乗レポート〜プレミアムEVセダンの実力は?

EQSにはやや扱いづらさを感じたが……

メルセデス・ベンツ日本は、昨2022年9月に、EQSとEQEの発売と発表を行った。両車は、メルセデス・ベンツが電気自動車(EV)専用にはじめて開発した記念すべきEVといえる。メルセデス・ベンツはそれらに先んじて、SUV(スポーツ多目的車)のEQCや、EQB、EQAなどを日本国内でも販売してきた。それらはエンジン車からのコンバートEVだったが、EVとしてよく作り込まれており、さすがと思わせる性能を備えていた。

EQSについては、EV専用車の第1弾として、2019年の東京モーターショーにビジョンEQSを持ち込み、公開し、方向性を明確にしていた。来日したアドバンスデザインのシニアマネージャーは、「バッテリーを床下に搭載するEVで、いかに4ドアセダンとして背を低く見せるかがカギを握る」と話し、現実的にエンジン車のSクラスに比べ2~3cm車高が高くなるところ、ホイールベースを長くし、オーバーハングは短くすることで、セダンらしい姿に見える造形にしたと語っていた。メルセデス・ベンツにとって、フラッグシップはあくまでも4ドアセダンの最上級車種であるSクラスであり、それを正確に伝えるEVでなければならないとの意志が、デザイナーの言葉から伝わった。

市販されたEQSは、現行のSクラスに比べわずか1.5cmの車高の上積みに抑えられている。EQSコンセプトからさらに造形が練り込まれたことを思わせる。

EQSの試乗を私はすでに済ませているが、EVならではの室内外の造形という意味で、これまでのSクラス以上に室内全体が包み込まれるような湾曲した車内の造形の影響か、車両感覚の掴みにくさを覚えたのにはやや落胆した。過去、1997年に発売されたマイバッハ62という、車体全長が6.2m近いクルマを運転したことがあるが、あたかもSクラスを運転するかのように手の内にある感覚であり、それも含めこれまでメルセデス・ベンツのあらゆる車種を運転しても、扱いにくいと感じたことはなかった。だが、EQSは、車体寸法の大きさもあるが、車両感覚をつかみにくいことによる運転のしにくさを感じたのだ。

今回のJAIA試乗会では、Sクラスに次ぐ車格としてEクラスがあるように、EQSより一回り小型のEQEに試乗する機会を得た。EQEは、果たして扱いやすさが身上のメルセデス・ベンツの価値を体感させてくれるだろうか。

扱いやすく4輪操舵機構の感触も上々

EQEは、車両全長でEQSに比べ27cm短く、5mを切る。車幅も2cm短く、1.905mである。外観の様子は両車とも似ており、EV専用車としての存在感はもちろん、EQEでも十分に貫禄がある。室内の造形も共通性を持つ。

運転席に座って実感するのは、大きすぎないという感触だ。室内の様子は、やはり乗員を包み込むような湾曲した造形でEQSと通じるのだが、視界のなかに捕らえられる車外の景色がより広範におよび、車内に閉じ込められた印象が軽減される。そして身近な印象をもたらすのである。

運転をはじめても、身近さというか、手の内にある感触は変わらず、いつも通りのメルセデス・ベンツの扱いやすさを伝えてきた。安心して利用できるクルマの感覚がある。

EQSもEQEも、そしてエンジン車のSクラスも、後輪を操舵する4輪操舵機構を備えており、低速で小回りするときには後輪と前輪を逆位相(逆向きに操舵)にすることで最小回転半径を小さくする。最小回転半径は、4.9mだ。ちなみに、日産リーフは5.2~5.4m(タイヤ寸法で差がある)である。高速になったら、同位相に後輪を操舵し、カーブでの安定性を高める。4輪操舵の後輪の切り替えにはまったく気づかないほど自然な仕上がりだ。EQEとはいえそれなりに大柄なクルマであるにもかかわらず、路地から高速道路まで、あらゆる道を苦もなく走らせることができた。後退して駐車する際にも違和感はない。

車両重量は、EQSより200kg軽い2360kgである。車載のリチウムイオンバッテリー容量はEQEが90.6kWhであるのに対し、EQSは107.8kWhで、一充電走行距離はEQEが624km、EQSは700km(ともにWLTCモード)におよぶ。EQEのほうが距離は短いが、600km以上走れれば十分ではないか。逆に、日常での走行距離がそれほど長くなければ、十分すぎるほどの容量であり、使い切ってから充電するにはEQEでさえ時間を要する。
(編集部注/アメリカEPAモードでの一充電航続距離は、EQE 350+が305mi(約491km)、EQS 450+が350mi(約563km)となっています)

メルセデス・ベンツ日本は、急速充電時間の目安を自社での実験結果として公開している。EQEは、出力50kW器での10~80%の充電時間が105分(1時間45分)であったという。EQSは、同じ条件で110分ということだ。

回生ブレーキの強弱はパドルで調整可能

EVとしての運転感覚は、日常的な利用においても、高速道路本線への加速などでも、EQEの215kWのモーター出力で十分に満足できる。565Nm(ニュートン・メーター)の最大トルク値は、SクラスのV型6気筒ターボエンジンより高く、EQEの加速性能が優れるのも当然だ。

回生の強弱は、ハンドル裏側のパドルで3段階に調節できる。基準となるのが普通と名付けられた状態で、エンジン車からの乗り換えでも違和感のない回生具合だ。マイナス側のパドルを操作すると強い制御になり、ワンペダル的なアクセル操作の運転ができる。プラス側のパドルを操作すると回生をきかせない制御になり、滑空するように走る。

ダッシュボード中央の画面操作で、ブレーキペダルを離すとゆっくり走り出すクリープの有無を選択でき、これをクリープなしに設定することで、アクセルのワンペダル操作で停止までできるようになる。

私は、ワンペダル操作を好むので、回生は強めで、クリープなしの設定で主に運転した。走行中はもちろん、赤信号での停止など含め、自在に速度調整することができ、電力の制御がよく仕上がっていた。

そのほか様々な設定をダッシュボード中央の画面で行うことができ、たとえば走行中に擬音を室内に出す機能をEQEもEQSも備えるが、これを消すことができる。それらを含め、画面を使っての操作や切り替えは直感的に行うことができ、そのあたりの仕上がりも、EV専用車としてメルセデス・ベンツが世に送り出す第1弾(EQS)、あるいは第2弾(EQE)として、十分に練られていると感じた。

EQSでは、車両寸法の大きさで扱いにくさを覚えたのは事実だ。しかし、EQEでは従来通り、メルセデス・ベンツへの信頼と安心を実感しながら運転することができた。メルセデス・ベンツはプレミアムブランドだと世間で思われているが、伝統的な哲学は「究極の実用車」をつくることである。そのうえで、小型車もあれば高級車、あるいはスポーツカーもあるという考えだ。したがって、スポーツカーのSLなどでさえ、多くの人が容易に運転できる。

EQEは後席の快適性も文句ない。足を下ろし、きちんと着座する姿勢をとることができ、床下にバッテリーを搭載することによる、床の高さを意識させられることもなかった。ただ、EQSで採用されている肌触りの柔らかいヘッドレストに頭をゆだねる快適さはEQEにはなく、唯一それが残念でもあり、車格の差を感じさせるところでもあった。

EQSとEQEは、欧州EVでは初のV2H機能を備える。欧州では、CCSの充電方式であることによりV2Hへの適応が進んでいない。しかし、日本に導入されるEQSとEQEはCHAdeMO仕様なので、車両側に電力供給のプログラムを設定すれば実現可能になるはずだ。そこを、メルセデス・ベンツ日本がこだわり、尽力して実現させた。この点でも、注目すべきEVと私は考える。

取材・文/御堀 直嗣

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この記事の著者


					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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