メルセデス・ベンツがラグジュラリーSUVの電気自動車『EQE SUV』を日本発売

メルセデス・ベンツ日本は2023年8月25日に、ラグジュラリーSUVの電気自動車(EV)『EQE SUV』を発表し、予約注文の受け付けを開始しました。価格は1369万7000円(税込)で、すでに納車も始まっています。発表会で明らかになったことをお伝えします。

メルセデス・ベンツがラグジュラリーSUVの電気自動車『EQE SUV』を日本発売

発表会にはケレニウス会長も出席

暑い夏が続く中、世の中でも熱い出来事がいろいろ起きているようですが、EV市場を熱くするEVがまたひとつ日本市場に登場します。

2023年8月25日、メルセデス・ベンツ日本は東京都港区のホテル、オークラ東京で新車発表会を実施し、昨年に日本でも発売したEVセダン『EQE』のSUV版となる『EQE 350 4MATIC SUV ローンチエディション』の日本導入を発表しました。

発表会には、メルセデス・ベンツ グループのオラ・ケレニウス代表取締役会長も登壇。メルセデス・ベンツ グループの代表が来日するのは14年ぶりだそうで、売れ筋のSUVタイプEVへの期待感の大きさを物語っていました。

グレードは当面、AWDの「Launch Edition」のみで、追加グレードの投入時期は未定です。AWDは前後の2モーターなので、いずれ1モーターのRWD仕様が出てくるのではないかと思います。プラットフォームはセダンの『EQE』と同様にEV専用です。

価格は『EQE 350 4MATIC SUV ローンチエディション』が1369万7000円(税込)で、同時発売のAMG仕様『メルセデスAMG EQE 53 4MATIC+ SUV ローンチエディション』が1707万円(税込)です。

また『EQE 350 4MATIC SUV ローンチエディション』は発表会のあった8月25日から納車が始まっているそうです。AMGのモデルは10月から納車される予定です。

大型の車格に似合わない小回りの良さ

『EQE SUV』のサイズは、全長4880mm、全幅2030mm、全高1670mmで、ホイールベースは3030mmです。『EQE』よりも全長が75mm、ホイールベースが90mm短くなっていますが、全幅は125mm広がっています。

この車格で最小回転半径が4.8mになっているのは、最大10度の切れ角を持つリア・アクスルステアリングを採用しているためです。車幅が2mを超えているので狭い道での転回は容易ではないでしょうが、それでも乗りやすそうな印象を受けます。

プレゼンテーションで強調されていた外観上の特徴は、ドアミラーがAピラーではなくドア側に付いていることや、ドアノブが格納式になっていることなどでした。いずれも走行時の風切り音対策になっています。

ディスコネクトユニットで走行時の負荷低減し航続距離を伸ばす

パワートレインは永久磁石式同期モーターを、前後アクスルに設置しています。3相交流ですが、3相の巻線を2つ備えているのでシームレス、かつパワフルになりそうです。システムの最高出力は215kW(290PS)で、最大トルクは765N・mです。

回生ブレーキは、ステアリングホイールのシフトパドルで3段階に調整可能なほか、「D Auto」モードにすると先行車に追従しながら自動で回生の強度がコントロールされます。

大きな特徴は、ディスコネクトユニット(DCU)を搭載していることです。永久磁石式のモーターは、磁力が強力なのでフリーで回転させたときでもけっこうな大きさの抵抗が発生します。『EQE SUV』は2モーターなので、なおさらです。

この回転負荷を軽減するため、DCUはアクチュエーターを使ったクラッチを設けることで、空走が必要な時には駆動側と動力側を機械的に切り離してしまうのです。これによりモーターの抵抗を極力減らすことができます。

『EQE SUV』は前輪にDCUを搭載し、必要に応じて前輪をフリーにします。どういう状況で作動するのか、また航続可能距離の延長効果がどの程度なのかなど詳細は乗ってみないとなんとも言えませんが、とくにコースティングが効果的になる高速走行時には威力を発揮しそうです。モーターのコギングも抑えられるので、乗り心地にも影響するかもしれません。

どんな具合なのか、試乗する機会があったらリポートしたいと思います。なおDCUは、『EQS』の最新モデルにも搭載することが発表されています。

89kWhのバッテリー容量で500kmの航続距離確保か

バッテリーはリチウムイオンで、おそらくNMCです。製造メーカーは非公開とのことでした。

バッテリー容量は89kWhで、システム電圧は330Vです。セダンの『EQE』は90.6kWhになっていますが、実用域の違いかもしれません。ただ、米国の『EQE SUV』もバッテリー容量は90.6kWhで「usable」と表記されているので、詳細を確認できたら報告します。

航続可能距離は、日本のWLTCモードで528kmとなっています。

アメリカのEPAは、2024年モデルの『EQE SUV 4matic+』について、235マイル(約376km)としていますが、最高出力などの仕様が違っている可能性があるので単純比較はできなさそうです。仮に、EVsmartブログの独自評価ですが実用的航続距離がWLTCの8割とすると、約422kmになります。

急速充電は、最大150kWまで対応しています。メルセデス・ベンツ日本による検証では、32.5度の室内で急速充電器メーカー開発施設の150kW急速充電器で充電した場合、10%から80%にするのに49分かかるそうです。

なお150kW器での30分の充電では、10%から57%まで、バッテリー容量に対して47%を充電することができます。同じく90kW器の場合、気温31度の屋外で自社施設の急速充電器(メーカー不明)で充電した場合、30分でバッテリー容量の40%(10%⇒50%)を充電することができます。

こうして比べると、90kW器と150kW器であまり違いがないなあと感じてしまいます。もちろん車側の受け入れ能力に依存するのですが、普及に向けたインフラ設備や車のコスト、バッテリーを増やして重たくなることでの総合効率の悪化、電力系統への負荷、使い勝手など、生まれたばかりのBEVが進化していく中での評価ポイントが、まだまだいろいろあることを少し感じました。

スペック

EQE 350 4MATIC SUV Launch Edition
全長×全幅×全高(mm/全幅はミラー除く)4880×2030×1670
全幅(mm/ミラー含む)2140
ホイールベース(mm)3030
車重(kg)2630
駆動方式AWD
最小回転半径4.8m
システム最高出力245kW(292ps)
システム最大トルク765Nm
フロントモーター最高出力71kW/2682-16031rpm
フロントモーター最大トルク251Nm/0-2682rpm
リアモーター最高出力144kW/2662-15913rpm
リアモーター最大トルク514Nm/0-2662rpm
モーター種類永久磁石式同期モーター
バッテリー容量89kWh
総電圧330V
バッテリー種類リチウムイオン
1充電走行可能距離(WLTC)528km
乗車定員5人
価格(税込み)1369万7000円

ヒートポンプを標準装備

この他の特徴をざっと見ていきます。

製品紹介でも強調していたのが、ヒートポンプを標準装備していることです。発表によれば、ヒートポンプにより航続可能距離が最大で10km伸びるそうです。

またフロントタイヤとリアタイヤの前にスポイラーを装備していて、これも最大6km、航続距離を伸ばす効果があるそうです。

上位クラスの『EQS』同様、『EQE SUV』もV2H、V2Lに対応しています。外部に100Vを供給するには、ニチコンなどの給電用ユニットが必要です。今のところメルセデス・ベンツ日本で推奨しているのはニチコン製だけになっています。

省資源化も進めていて、『EQE SUV』のコンポーネントのうち70kg以上は、一部がリサイクル材や再生可能原材料などから作られています。

バッテリー保証は10年間、25万km以内で、SOHが70%未満になった場合に適用されます。

なおメルセデス・ベンツ日本では、メルセデス・ベンツ グループが世界各国で進めている急速充電器の設置計画に沿って、日本にも自前の急速充電器を設置して行く予定です。世界各国で1万カ所という計画で、地域別の数は発表されていませんが、EVの販売台数が伸びれば数も増えると思われます。

また発表会では、メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎代表取締役社長兼CEOから、10月に開催されるジャパンモビリティーショーで、GクラスのEVをお披露目することも発表されました。

ゲレンデヴァーゲンのEVって、どんなものになるんでしょうか。自分で買えるわけではないですが、珍しいもの見たさの興味がわきます。

メルセデス・ベンツ日本が日本に導入したEVは、『EQE SUV』で7車種目になります。販売台数は内燃機関に比べれば限定的とはいえ、2022年には約2000台が売れたそうです。メルセデス・ベンツ日本の2022年4月~2023年3月までの日本での登録台数は約5万2700台(乗用車)なので、EVのシェアは3.8%くらいです。

これを多いとみるか少ないとみるかは人それぞれだと思いますが、個人的には、アッパークラスでEVがこれだけ出るのは、ちょっと驚きでした。車種が揃えばまだ伸びそうで楽しみです。

ところで、『EQE SUV』の発表会には14年ぶりにメルセデス・ベンツ グループのトップのケレニウス会長が来日し、自ら発表会でプレゼンテーションをしたり、質疑に応じたりしました。その中で、興味深い発言もいくつかありました。メルセデス・ベンツの考え方がよくわかるコメントだったので、日を改めてお伝えしたいと思います。

取材・文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 私の環境下ではコピペしますが、
    トップmケレニウス会長
    って表示されているんですが、
    名前で小文字のmはあんまり使用されないとおもうんですが、
    私の頃は小文字で名前表記するなよ、喧嘩売って居る位失礼だからな、博士号とかの小文字表記は.つくからな、と習ったんで上げたんですが、私のPCが異常なんでしょうね、大きなお世話でしたね、失礼しました。

    1. oyabun さま、重ねてありがとうございます。

      記事末のところですね。
      執筆時のタイポがそのまま残ってしまったようです。

      修正しました。

      お知らせいただきありがとうございました。

    1. oyabun さま、コメントありがとうございます。

      が、ごめんなさい。「m表記」というご指摘が理解できません。
      >オラ・ケレニウス
      さんで、間違いはないと思うのですが。。。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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