東名300km電費検証【09】『EQS 450+』~量産車最高「Cd値0.20」の実力を確認

市販電気自動車の実用的な電費性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第9回はメルセデス・ベンツ『EQS 450+』で実施した。100kWh以上のバッテリーを搭載し、2.5tを超える車重でありながら、120km/h巡航で過去最高の電費を記録。Cd値0.20の実力を確認できた。

東名300km電費検証【09】『EQS 450+』~量産車最高「Cd値0.20」の実力を確認

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
東名300km電費検証【INDEX】検証のルールと結果一覧

80km/h巡航の電費なら航続距離は800km超

EQSセダンはメルセデス・ベンツブランドで初めてBEV専用プラットフォームを採用したモデルだ。日本で発売された2022年9月時点で、航続距離700km(WLTC)は市販車最長だった。

BEV化にあたり各社がこれまでよりもさらにCd値を気にするようになった。Cd値が0.1小さくなれば、航続距離を2.5%伸ばせると言われているからだ。量産車最高のCd値0.20を誇るEQSセダンが、どんな電費を記録するのかは、ずっと気になっていた。そして、このクルマはその答えを明確な結果として示してくれた。

今回検証するEQSセダンのスペックは、全長5,225mm、全幅1,925mm、全高1,520mm、ホイールベース3,210mm、車重2,560kg。出力245kW(333ps)とトルク568Nmを発揮するモーターをリヤに搭載するRWDだ。

カタログスペックの一充電走行距離である700kmを、バッテリー容量の107.8kWhで割った電費(目標電費)は6.49km/kWhになる。4月某日の計測日の外気温は最高23℃、電費検証に臨んだ深夜は18℃〜20℃だった。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。

【今回の計測結果】

目標電費を超えたのは、往路のAとD区間、復路と往復のBとC区間の6区間だった。6区間での目標超えは、BMW『iX xDrive50』に続く、最高記録タイだ。さらに特筆すべき点は個別の電費で、往路D区間の19.2は過去最高、120km/h巡航のE区間に至っては往路(5.4)、復路(5.6)、往復(5.5)のすべてが過去の電費検証取材史上最高だった。

往復では80km/hが7km/kWh台、100km/hが6km/kWh台、120km/hが5km/kWh台ときれいな階段状になっている。これも空力とパワートレインの効率の良さが実現する特徴だと思う。

これまで計測してきた車種の中で、このきれいな形、かつ数値も同等以上だったのは、『EQEセダン』の7→6→5のみで、ここでもメルセデス・ベンツの優位性が光った。EQEセダンのCd値も0.22で優秀だ。

120km/h巡航でも約590kmの航続距離性能

各巡航速度の電費は下記の表の通り。「航続可能距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、700kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率だ。

【巡航速度別電費】
巡航速度別の電費計測結果を示す。80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って求めている。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続可能距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h7.49806.9115%
100km/h6.15662.895%
120km/h5.50592.785%
総合6.28676.997%

総合電費の6.28kmで計算すると、満充電からの実質的な航続可能距離は約677kmになる。100km/h巡航では約663km。80km/h巡航であれば約807kmを走り切れる結果だ。

一充電走行距離との比率が総じて高いもの立派で、総合の97%はまたしてもBMW「iX xDrive50」(2023年8月に計測、計測時の外気温は25〜27℃)と同値の最高記録だ。

各巡航速度の比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げても18%しか電費は悪化しない。120km/hから80km/hに下げても航続距離を伸長は1.3倍(136%)ほどにとどまる。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h82%
120km/h73%
100km/h80km/h122%
120km/h89%
120km/h80km/h136%
100km/h112%

この比率の変動の小ささもEQSの特徴だ(小さい方が、速度変化が航続距離に与える影響が少ない)。iXの場合は21%(80から100km/h)と60%(120から80km/h)、EQEセダンは、18%(80から100km/h)は同じだが、46%(120から80km/h)はEQSセダンと10%の差がついた。

ACCはさらなるレベルアップを望みたい部分も

この東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航することをルールとしているため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用する。また、交通量の少ない深夜の検証とすることで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ。ブレがでないように留意している。

EQSセダンのACCは、ステアリング右スポークの下側にあるスイッチで操作する。走行中に「SET −」スイッチを押すと、その時点の速度で定速走行をスタートできる。速度調節は「SET +」か「SET −」スイッチを押すと10の倍数で増減する。「SET +」か「SET −」スイッチをスワイプすると1km/hごとに調整できる。先行車との車間距離は左上のスイッチで、4段階で調整可能。

自動車線変更機能はこれまでで最も滑らか、かつ反応も迅速に感じた。特に、100km/hまでの車線変更と比べて120km/hの車線変更では、ステアリングの切り方がさらに滑らかになり、安心して任せることができる。

また、東名高速のカーブの連続する区間でも、性能の良いLKA(レーンキープアシスト)により、ステアリング操作を気にせずに安心して乗っていられる。ただし、鮎沢PAを過ぎたカーブが続く区間では、ハンドルの切り過ぎや戻し過ぎがあった。

なお、渋滞中のACCによる停車はブレーキを抜かずキュッと停まり、前後に2回揺れ残りが発生するため、もう少しスムーズな停止の方がブランドの性格とも合っていると思う。4段階の車間距離を最長に設定しても減速の挙動に大きな違いは見られなかった。自動発進に関しては、停止から30秒以内であれば自動的に発進する。この発進は穏やかで快適だったが、停止時の挙動と比べるとギャップを感じた。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差はどの速度でも3km/hだった。実速度を100km/hにしたい場合は、メーター速度を103km/hにセットする。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
83103123
ACC走行中の
室内の静粛性 db
696963

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hと100km/hで69dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hは63dBだった。

30分で300km以上の走行分を充電

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。

急速充電は1回しか行っていない。107.8kWhの大きなバッテリーと700kmの一充電走行距離のおかげで1回しか行う必要がなかったと言った方がいいかもしれない。

EQSセダンを受け取った時のSOCは99%、そこから電費計測を開始するまでに200kmほど走ったにもかかわらず、まだ77%にしか減っていなかった。通常は駿河湾沼津SA下りにおいて150kW器での充電をチェックする。ところが駿河湾沼津SA下りまで100km走行してもSOCは16%しか減っておらず61%。これでは最大150kWで充電可能なEQSセダンの実力を確認できないと思い、さらに100km走行して120km/h巡航を終えた駿河湾沼津SA上りで150kW充電を行った。

結果は上記の表の通り30分で49.218kWhをチャージし、航続可能距離表示は304km増えた。「30分で49.218kWh」もこれまでの最高記録だった。検証結果の総合電費である6.28km/kWhでは約309km分、80km/h巡航の7.49km/kWhであれば367km分を補給できたことになる。

充電出力の経過は、開始直後に150kWを記録、その後は10分後に137kW、20分後に90kWと徐々に下がっていき、SOC 80%を超えてからは下がり方が大きくなり、充電終了直前は35kWだった。

充電中のセンターディスプレイ。電池マークの下に出力が表示される。「150kW」を撮ろうとしたが、間に合わず149kWになった。

タイヤ・ホイールはオプションの21インチ

タイヤとホイールは68万円のパッケージオプション「AMGラインパッケージ」に含まれる21インチだった。標準の20インチの場合のタイヤサイズは前後ともに255/45R20だ。

リムの内側に黒い「インナーのリム」がある特殊なデザイン。これも「エアロダイナミクスを考慮」した結果なのだろう。

【装着タイヤ】
メーカー/GOODYEAR
ブランド(商品名)/EAGLE F1 MO ASYMMETRIC 5

サイズ空気圧製造週年
左側右側
フロント265/40R21 105H26020222022
リヤ265/40R21 105H26020222022

※製造週年は「2022」の場合、2023年の22週目に製造されたことを意味する。

「鬼に金棒」のEQSセダン

BMW『i7』の試乗記(関連記事)で、ICEとBEVのプラットフォームを同じにするのか別にするのかでメーカーの戦略が分かれていると書いた。EQSセダンは、ICEと別プラットフォームで、この空力性能を実現できている。それが今回のような素晴らしい電費につながるのであれば、BEV専用プラットフォームを作る意味は大いにある。数十年後にBEVのみの世界になった時を見据えれば、今からBEV専用プラットフォーム作りと空力に関するノウハウを蓄えられることも一つのメリットだ。

EQSセダンに標準装備のエアサスは、120km/hを超えると自動で車高を10mm下げて、空気抵抗を低減させる。これも120km/h巡航で記録した過去最高の電費に貢献しているのだろう。160km/hを超えるとさらに10mm下げるそうだ。

EQSセダンはドイツ本国ではマイナーチェンジを受けた。顔のブラックパネルはICEのラジエターグリルのようなデザインになり、駆動用バッテリーは118kWhへと10kWhも増強された。優れた空力性能による航続距離の長さに、さらにそれを伸長するバッテリーの大型化。鬼に金棒とはまさにこのことだろう。新型EQSセダンがどんな記録を叩き出すのかが今から楽しみだ。

斜め後ろから見るとフロントからルーフを通りリヤまでが一筆書きのデザインで、いかにも空気の流れが良さそうに思える。

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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