メルセデス・ベンツとNVIDIAの協業に関する私見と疑問

先週メルセデス・ベンツとNVIDIAが次世代モデル車両用のソフトウェアに関し協業することを発表しました。ラグジュアリー車両の雄と半導体業界でリードを取る企業がタッグを組むということで日本でも複数メディアに報じられましたが、その実態はどうなのでしょうか。『CleanTechnica』から今回の発表に関する考察が届きましたので、全文翻訳でお届けします。

メルセデス・ベンツとNVIDIAの自動運転技術などの協業に関する私見と疑問

Mercedes-Benz & Nvidia Partner On Autonomous Driving — Numerous Thoughts & Questions by Alex Voigt on 『CleanTechnica

テスラと比べてみると遅すぎる

メルセデス・ベンツCEOのオラ・ケレニウス氏とNVIDIA(エヌビディア/本社:アメリカ)のCEOジェンスン・フアン氏は今日プレス向けイベントを開き、ケレニウス氏によるところの「運転アシストと自動運転用の、ソフトウェアを中心に据えた画期的なハイパフォーマンス・コンピューター・アーキテクチャが、2024年終盤を目途にローンチされる次世代のメルセデス車両群に投入」されることを発表しました。

簡単に言えば、CEO達は頻繁に言及されているSクラス用のOTA(Over The Air=無線)アップデートができる車両用セントラル・オペレーション・アーキテクチャを共同開発し、サブスクリプション・ベースのビジネスモデルを実現したい、ということになります。このアーキテクチャをベースに車両はより良いものにアップデートされ続け、今から5年以内に運転アシスト機能や完全自動運転を含めた多様なサービスを提供したいとCEO達は説明しました。

今日メルセデス・ベンツとNVIDIAが話したのは、7年前の2013年にテスラCEOのイーロン・マスク氏が言ったような内容でした。悪くはないのですが、遅いのです。発表されたようにすべてが上手くいったとして、 テスラの10年後、ベンツが初のトラック用ハブ交通システムを2024年後半までに構築できたとしたら大きなニュースです。しかし2020年の今日、家の前に停めてある私のテスラはケレニウス氏とフアン氏が言ったすべてではないにしても、ほとんどを既に実現しており、個人的に今回のパートナーシップとそのアプローチを歓迎しますが……、遅いという表現では足りず「遅すぎる」のかもしれません。

テスラの自動運転。画像はテスラ公式より。

今日のイベントでケレニウス氏が説明しなかったのは、以前似たようなパートナーシップをベンツと組むと発表したBMW、ボッシュ、アウディという企業が「なぜ今回の発表に軒並み揃って現われなかったのか」ということです。さらにもう1つ説明されなかったのが、ほんの数ヶ月前にVWやBMWとパートナーシップを結び作ろうとしていたソフトウェア機能を「ダイムラーがどうやって独自に開発しようとしているのか」です。そしてこの2つの企業どちらも、ケレニウス氏が別の相手とも話していたことを知らなかったのです。

最後に、自己学習アルゴリズムを訓練するためのデータが必要な自動運転ソフトウェアを、実際のドライビングデータやデータ収集に必要なカメラやセンサーを備えた車両群なしでどうやって開発するのかの説明もありませんでした。正直言って、今日のパートナーシップ発表により、メルセデス・ベンツが10年以上遅れを取っていることが明らかになりました。方向性は良いかもしれませんが、社のタイムラインは現実的でなく、ケレニウス氏も認めたように、センサーなどのハードウェア部品も持たず、実際に動くソリューションを構築するのに必要な才能を集めるために必要不可欠な要素を持ち合わせていません。

画像はダイムラー公式より。

ダイムラーのプレスリリース「永久にアップグレードをし続けられるマシーン:すべての車両はソフトウェア・アプリケーションとサブスクリプション・サービスを開発する、AIとソフトウェア・エキスパートのチームに支えられています。車両の寿命が来るまで、無線ソフトウェア・アップデートを通じてカスタマー・バリューと車両の改善を続けます。」

ほんの4日前に、メルセデス・ベンツとBMWはレベル4自動運転まで対応できる運転アシスト・システムの共同開発計画を中止すると発表しました。両社からは、最近よく耳にするような説明がなされました。コロナによりファクターコストや経済危機の影響が出たのが、パートナーシップを終わらせた根本的な原因だと言うのです。もしコスト高が要因だとしたら、メルセデス・ベンツは開発をすべて自分で(もしくはNVIDIAとだけ)する方が良いのでしょうか?

さまざまなパートナーシップが迷走している?

ドイツ自動車メーカーが新しい自動運転技術を約束する際には、コストだけではなく関連技術と経験が足りないことが、間違いなく多くの問題となって表れています。

WaymoのCEOも「(自動運転を実現するには)より多くの資金、より多くのソフトウェア・リソース、より多くのハードウェアのノウハウが必要となります」と語っています。

この話に関してこれ以上ないくらい説得力があるのが、2019年にアウディが前出のパートナーシップ開発協議に組み込まれていたにも関わらず、去年後半には消えていたという事実です。アウディは2020年4月に新しいアウディA8フラッグシップ車両が、マーケティング部が期待を煽り立てて約束していた、レベル3自動運転機能なしで生産されると発表しました。研究開発部門トップで、アウディの執行役員でもあるHans-Joachim Rothenpieler氏は、規制の問題により(レベル3自動運転)機能は付けられない、とアナウンスしました。

Rothenspieler氏は統一された国際法規制がなく、特に事故が起きた際の法的責任の所在が不明瞭であることが問題だったと説明しました。しかしこれもアウディA8にレベル3自動運転機能がつかないことと関係があるようには見えません。メルセデス・ベンツのように、他の自動車メーカーが法規制問題に対処しようとしているのは明らかです。なぜアウディだけができないのでしょう? アウディの前研究開発部門トップであるPeter Mertens氏は、2020年6月のインタビューで彼の後継者達が約束したことは「少し盛り過ぎていたのかもしれない」と話しました。

2020年4月からアウディのCEOを務めるMarkus Duesmann氏は4日前に、彼が研究開発部門の責任者となることを発表し、これを受けて34年間フォルクスワーゲングループに勤めたRothenspieler氏も、自身がアウディを去ることを発表しました。VWグループCEOであるHerbert Diess氏は、友好的な別れのPR文書を書きましたが、彼がDuesmann氏をBMWからVWに連れてきて、研究開発職に就かせたのは周知の事実です。一連の出来事に関しての結論は、読者ご自身で導き出してください。

アウディ、BMW、メルセデス・ベンツという3つのドイツ自動車メーカーは、元々2019年9月のIAA会議で自動運転パートナーシップを発表する予定でした。9か月後の現在、メルセデス・ベンツだけが残りました。ケレニウス氏はBoschとのロボタクシー開発用パートナーシップも保留中であると言及しました。

昨年のパートナーシップの目的は、「それぞれレベル4まで対応の、運転アシスト・システムと高速道路上での自動運転、さらに自動駐車機能を共同で開発」することで、2019年の計画は、これらの機能を顧客に2024年に届けるというものでした。今回の発表と、どこか似ているように聞こえませんか?

さらに面白いのが、元ダイムラーCEOであるDieter Zetsche氏と、元BMWのCEOであるHarald Krüger氏の下で始まった会議が、ダイムラーがVWと秘密裏にソフトウェアに関する協力会議をしていたことがリークされたせいで悪い方向に影響が出たかもしれないのです。 BMWとVWの関係は天敵同士という表現がピッタリでしょう。

BMWの苛立ちは相当なものでした。よって、メルセデス・ベンツが密かに2つの競合と同じトピックの協力体制について話していたせいで信頼関係を構築できなかったのは、驚くに値しないことなのです。

強力な運転支援機能がない車両を、私はもう買わない

ドイツの自動車メーカーのこれまでを私達がどう批評するかに関わらず、非常に明確なことが1つあります。基本的な運転アシストを超える機能がなければ、消費者は今のテスラのように頼れるソリューションを提供するメーカーを選び、ドイツ車両を却下する強力な理由を持つことになります。

私は1年にわたり、ドイツのアウトバーン上にいる98%以上の時間にテスラ・モデル3の完全自動運転を利用してきました。その時間には、時速150kmでの自動車線変更も含まれており、この機能がとてもよく作動していると自分の経験から保証できます。またテスラの自動運転システムは、自分で運転していたら反応が遅れていたであろう、多くの状況で助けてもくれました。

リラックスできる運転だけではなく、安全性のためにも、私は似たような機能を持たない車両を一生買うつもりがないことを、ここに宣誓します。言い換えれば、もしドイツ自動車メーカーが、自分達がした約束を実現できないのであれば、たとえ良い電気自動車を作ったとしても選択肢からは外すでしょう。

BMWのiNext。画像はBMW公式より。

ダイムラーが新しいSクラス、BMWはiNextでレベル3自動運転機能を付けるとアナウンスしたため、私は少なくとも2つのドイツ自動車メーカーの次の発表を楽しみにしています。いずれにせよ、これらのシステムで使われている自己学習アルゴリズムは本物の路上を走る車両で学習をする必要があり、バーチャルやシミュレーション上の環境ではそれができません。

さらに、NVIDIAのよく知られている自動運転チップのエネルギー消費量は非常に高く、車両航続距離にはマイナスの影響を与えるでしょう。ハードウェアとソフトウェアの必然的なバランスを達成するにはオーダーメイドのソリューションが必要不可欠となります。しかしNVIDIAのように、多くの自動車会社の多種多様なハードウェアシステム向けにチップを開発提供するサプライヤーでは、その達成は難しくなります。

NVIDIAはデータの処理や計算用にはベストなチップを持っているかもしれません。しかし、多くの要件に応えるためにチップは複雑なシステム内の他のパーツと完璧に作動しなければならない部分です。NVIDIAが出てきたゲーム産業では違いますが、電気自動車業界ではエネルギー使用量が重要なのです。もしメルセデス・ベンツが新しいSクラスのように、化石燃料車両用の自動運転機能を開発しようとするならば、それも別の戦略的ミスを冒すことになります。

画像はダイムラー公式より。

ダイムラーのプレスリリース「メルセデス・ベンツとNVIDIAは、未来のベンツ車両群すべてに配備される、最先端の自動運転を可能にするADAS(Advanced Driver Assistance System=先進運転アシスト・システム)用の、新しいソフトウェアを中心に据えたアーキテクチャを構築する計画です。」

ドイツのメーカーはテスラに追いつけるのか?

垂直統合によってこのサプライヤー関係の問題は変えられたかもしれませんが、ドイツの自動車メーカーは現在に至るまで垂直統合の推進を試みようともせず、近年どこにも行きつくことの無い交渉に時間を費やして、貴重な時間を失ったのです。

運転データの収集も重要で、ドイツでもテスト車両は時々見かけるのですが、信号機の認識、そして青信号を確認無しで通過するというように、時間が経つにつれ一歩ずつ新しい機能を出してくるテスラの段階的アプローチと同じスケールには達していません。様々なシチュエーションで何百、何千という車両を運転してデータを集めるのもメルセデス・ベンツが何年もかけて取り組まなければならない要素ですが、今日ケレニウス氏が話したように、彼らはセンサーに関しての決定すらできていません。この決定なしに、どうやって2024年末までに完成するタイムラインを作れるのか、想像するのは難しいところです。

ドイツ人の私にとって、最も重要なのは過去12ヶ月テスラの自動運転を経験し、自分の運転よりも安全だと分かったことです。私は35年運転しており、事故にあったり、起こしたことは一度もなく、皆私をとても安全なドライバーだと認めています。

それを念頭に置いて、主観ではありますが、事実とデータに裏打ちされてテスラがリリースする自動運転は、何年も先を行っており、既に誰も追いつけない速度になっているかもしれないと言えます。

完全自動運転についてですが、ケレニウス氏はトラックのハブ交通システムをメインのユースケース(システムがどのように機能するか見るためのケース)として始めたいと発表しました。その理由は、テスラが最新の発表でセミトラックの生産をもうすぐ始めることをアナウンスしたからかもしれません。テスラが自動運転技術と、1km当たりのより低いTCO(Total Cost Ownership=所有のトータルコスト)でベンツ製商業車両用の注文伝票と要求水準に深く切り込んでくる可能性があるからです。地方で展開する予定のロボタクシーも今回の計画の後半で出てくるとケレニウス氏は見ており、ということはメルセデス・ベンツまたはダイムラー社の自動運転技術付き自家用車は2024年より前に見られないということになります。

画像はダイムラー公式より。

ダイムラーのプレスリリース「プレミアム自家用車の最も大きなメーカーの1つであるメルセデス・ベンツと、加速するコンピューター業界の世界的リーダーであるNVIDIAは、革命的な車載コンピューター・システムとAIコンピューター・インフラを共同で作り出そうと計画しています。これらのシステムは2024年から、アップグレード可能な自動運転機能付きで次世代のメルセデス・ベンツ車両群に本格展開されます。2つの企業は自動車に搭載されたコンピューター・アーキテクチャとしては、最も洗練された最先端のものを共に開発しようとしています。ソフトウェアを中心に置いた新しいアーキテクチャはNVIDIA DRIVETMを基に構築され、メルセデス・ベンツの次世代車両群のスタンダードになり、最先端の自動運転機能を可能とします。」

今日私が聞いたのは、またしてもドイツ自動車メーカーが人々の口に上り続けられる目的で、永遠に日の目を見ることの無いソリューションを開発するための、多くの約束をした発表でした。

私が間違っていることを願いますが、今日のプレゼンテーションはしっくりこないものでした。※私はテスラの株主です。

(翻訳・文/杉田 明子)

この記事の著者


					SugitaMeiko

SugitaMeiko

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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3 thoughts on “メルセデス・ベンツとNVIDIAの協業に関する私見と疑問”

  1. https://r.nikkei.com/article/DGXMZO61060490S0A700C2L91000
    トヨタとマツダ、デンソーらのev開発会社が開発終了とのことで会社をたたむようですね

    このニュース、evsmart様はどのようにお考えでしょうか?

    目的を達成した、とのことですが一体何の?という感じですが、これからは各社それぞれで開発してねということでしょうか

    1. なにわナンバー様、こちらも気になるニュースですね。記事を拝見する限りは発展的解消ってことのようにも見えますが、当方でも何か取材で追加情報が得られるようでしたら記事にしたいと思っています。推測ではありますが、今までの技術者が集まっても、新しいものは作れないってわかったからでは、、と思います。巨大な電池パックの効果的な組み立て方法、BMS、強制液冷、電池寿命の予測方法、巨大パイロヒューズ、シャーシと電池パックの一体化、大型インバーター、前後モーター駆動の自動トルク配分アルゴリズム、大型高効率モーター、大型車載充電器、そしてモーターと車載充電器の液冷とエアコンの統合制御など、今までにはない部品・技術が必要になります。

  2. ガラケー的なアプローチ、というかもっと言うと家電的な「専用のチップ、組み込み用のプログラム」的な発想がまだ残ってるのかもしれないですね。
    1機種(車は車種か)ごとにアプローチするいかにもデジタルゼネコン的なエンジニアリング。デカものだったら最後はまあオーダーメイドに近いのでそういうやり方もいまだに通用する、

    スマホ的な「チップは汎用だが、汎用ゆえに量産効果も応用性も豊富。既存ソフト資産の流用もできる」なそれに負けるという。
    車といえども量産品で民生品なので

    そういう時に生き残れるのは、テスラのようにほぼ自前でやる(アップルなどのやり方)か、あるいはトップシェアでデファクトスタンダードをとる。パソコンで言えばウィンドウズやインテルのCPU,スマホで言えばandroidやクァルコム(ARMとcellular通信モジュールとの組み合わせか)あたりのやり方ですけど、ドイツのボッシュや日本のデンソーは

    携帯電話でのノキアや組み込み系全般のルネサス(元は日立・三菱・NECの半導体部門)のように一時こそ世界一だったのにその後没落していった企業のほうに入ってしまう気がしなくもない。

    無論自動車というのはEV化で部品が減ったとはいえ、スペックや画面サイズの違いで吸収できるPCやスマホよりさらに複雑で、例えばたくさん運べる大型車からリーズナブルで小回りが利く軽自動車に趣味性の高いSUVなど車種は豊富ゆえに
    テスラ以外(あるいはテスラの対抗馬となりうるほどの巨大EVメーカー)のメーカーもおそらくは生き残るとは思います。

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