日産『サクラ』、三菱『ekクロス EV』10万台突破! 軽EVで電気自動車普及が前進中

軽乗用電気自動車の日産『サクラ』と三菱『ekクロス EV』を合わせた生産累計台数が10万台を突破した。魅力的な軽EVの登場は、発売当時1%ほどに落ち込んでいたEVの新車販売シェアを一時期4%台にまで押し上げた。さらに魅力的で買いやすい新型EVが登場することを期待する。

日産『サクラ』と三菱『ekクロス EV』が生産10万台突破! 軽EVで日本の電気自動車普及が前進中

『サクラ』と『ekクロス EV』はどんな電気自動車?

2024年9月27日、三菱自動車工業(以下、三菱)は軽乗用EVの日産『サクラ』と三菱『ekクロス EV』の生産台数が、生産開始から2年5ヶ月で10万台を達成したと発表した。この10万台生産のニュースを機に、いくつかの数字を調べてみると日本におけるEV普及のシナリオが見えてきた。

『サクラ』と『ekクロス EV』は、2011年に設立された日産と三菱の合弁会社NMKVの企画・開発マネジメントにより2022年5月から三菱の水島工場(岡山県倉敷市)で生産されている。

両モデルともに20kWhの駆動用バッテリーを搭載し、一充電走行距離(WLTC)は180km。モーター出力は、軽自動車のガソリンターボモデルと同様に64馬力(47kW)に抑えられているが、最大トルクは195Nmと排気量2リッターのガソリンエンジン並みだ。

全高は1665mmでハイト系に属するが、バッテリーを床下に搭載することによる低重心化で、安定した直進性とコーナリング性能を有する。

ekクロス EV

充電に関しては、普通充電(3kW)の場合は8時間で満充電にできるので、夜帰宅して充電しておけば翌朝には満充電になる。最大出力30kWの急速充電の場合は、バッテリー残量警告灯が点灯してから80%までを40分で充電できるとアナウンスされている。筆者は過去にekクロス EVで20%から80%の急速充電を30分で完了できたことがある。

一充電走行距離(WLTC)の180kmは、実用値としては144km(EVsmartブログはWLTC値に 0.8を乗じたEPA換算推計値を紹介している)になるが、三菱は「軽自動車及びコンパクトカーのユーザーの約8割は一日あたりの走行距離が50km以下」と発表しており、多くの軽・コンパクトカーユーザーが満足できる性能ではないだろうか。なお、下道では実電費10km/kWh(単純計算だが航続距離200kmになる)を経験したことがある。

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「2年半で10万台」が示すEV普及へのヒント

「軽乗用EV」としては2009年発売の三菱『i-MiEV(アイミーブ)』が先駆者だ。そのi-MiEVの販売台数は12年間で約2万3000台だった、年平均では1900台ほどとなるため、サクラとekクロス EVの2年半で10万台の生産という事実がいかにすごいか、さらにはEVが日本社会でも受け入れられて、普及のスピードが上がってきていることが分かる。

i-MiEV

改めてi-MiEVを振り返ってみる。同車は2006年発売のガソリンエンジンモデル三菱『i』をベースにした電気自動車で、2010年4月、量産EVとして世界で初めて個人向け販売を開始。バッテリー容量は16kWh、価格は459.9万円の高級軽自動車だった。

その後、i-MiEVの価格は段階的に引き下げられるとともに、2011年にはバッテリー容量10.5kWhで価格を抑えた「M」グレードを追加。東芝SCiBという負極にチタン酸リチウム(LTO)を使ったバッテリーは充電性能や耐久性に優れており、今でも根強いファンが多い。また2018年に軽自動車から登録車への変更が行われるとともにMグレードが消滅。2018年当時の価格は298万8400円と現在のサクラやekクロス EVと変わらない水準まで下がってはいたが、2006年発売の車種がベースだったので、快適性やデザインに対して高価な印象となっていた。

サクラとekクロス EVは、バッテリー容量を20kWhに増えただけでなく、自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキシステム)などの運転支援機能を標準装備、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)などの装備も充実した「今のクルマ」に仕上げられている。

初代、日産リーフ。

またi-MiEVとともにEVの裾野を広げてきた日産『リーフ』は、2010年12月に販売を開始して、2022年10月までの12年で16万7000台を販売(日本国内。グローバルでは2023年7月に累計65万台達成を発表)している。こちらは年平均で1万4000台ほど、その3倍の勢いでサクラとekクロス EVは売れている。

リーフの現行モデルでは40kWhと60kWhのバッテリー容量を確保しているが、初代は24kWhと普通車としては心許ないサイズだった(2015年12月に30kWh搭載モデルも追加された)。また、バッテリーの温度管理システムを搭載しておらず、現在の水準からすればバッテリーの劣化が目立つ弱点があった。そのため世界に先駆けた量産EVという功績とともにEVのネガティブなイメージを広げてしまった側面もある。

そんなリーフに対して、サクラとekクロス EVは、バッテリー容量は20kWhと控えめだが、軽自動車ということで長距離ニーズの必要性が低く、はじめから日常使いを訴求することで支持を得た。さらに上質な内装や前述の先進装備もあり、ここまでの成果をあげることができたのではないか。こういったポイントがリーフとの販売台数の差になった可能性がある。

軽自動車としてどのくらい売れているのか

では軽自動車として2年半で10万台(1年平均で約4万台)という販売台数はどうなのだろうか。一般社団法人全国軽自動車協会連合会(以下、全軽自協)によると、2022年度の軽乗用車の販売台数は127万2480台で、サクラとekクロス EVのシェアは3.9%と、登録車のEV割合(2023年上半期)1.67%の2.3倍に達している。

なお、2015年から2023年まで軽自動車販売台数ナンバー1の座を9年連続で獲得しているホンダ『N-BOX』の2022年の販売台数は20万2197台、2023年は23万1385台であり、新車で販売される軽自動車のおよそ6台に1台がN-BOX(シェアは約17%)という状況だ。

先にも述べたが軽・コンパクトカーユーザーの約8割は、一日あたりの走行距離が50km以下であれば、実用値144kmのサクラとekクロス EVでも問題はないはず、つまり軽EVはまだまだ販売台数を伸ばせるポテンシャルがあるはずだ。

そのためには軽EVの選択肢の増加に加えて、主にバッテリーコストの低減による価格のさらなる引き下げが必要だろう。選択肢の増加という意味では後述するホンダ『N-VAN e:』に期待している。

左:日産の内田 誠社長、右:ホンダの三部 敏宏社長。

価格の引き下げについては、8月1日に日産とホンダが「次世代SDVプラットフォームの基礎的要素技術の共同研究契約を締結」を発表した。その詳細に「EVのキーコンポーネントとなるバッテリーについて、両社間での仕様の共通化、相互供給など、短期および中長期的な観点で協業範囲を検討する」とある。日本の自動車販売台数の4割を占める軽自動車の電動化を考えた場合に、サクラのノウハウがある日産、長年販売台数トップを獲得しN-VAN e:の発売も控えるホンダのタッグにより、軽EV用バッテリーの共通化で協力し、量産による大幅なコストダウンができれば、より低価格な軽EVの登場も大いに期待できる。

エンジン車と同等の価格帯で軽EVのバリエーションが増えたら、あえてエンジン車を選ぶ理由があるだろうか。

今後も軽EV比率が上がるであろう2つの理由

N-VAN e:

しかもこの3.9%という軽乗用EVの比率は今後も増えていくと思われる。その理由は2つある。1点目。今後は軽EVの選択肢が増えていく。ホンダは今月にも『N-VAN e:』を発売、さらに来年には『N-ONE』ベースの軽EVを発売すると発表している。

N-VAN e:は商用車の『N-VAN』をベースにしているが、N-VANと同様にFUNグレード(e: FUN、291.94万円)も用意されており、クルマを「趣味の相棒」や「家とは別の自分の部屋」として使うユーザーに受け入れられるだろう。個人ユース向けには「e: L4」グレード(266.94万円、急速充電は11万円のオプション)もある。

しかもN-VAN e:のバッテリーは29.6kWhかつ6kWの普通充電にも対応しており、実用的な使い勝手が格段に向上する。29.6kWhはサクラとekクロス EVの約1.5倍であるため、航続距離も245km(EPA換算推計値196km)が確保されており、より余裕のある移動が可能になるだろう。EV化に際して、助手席側ピラーレス構造やフラットフロアなどで使いやすいパッケージングも引き継ぎ、ICE車のN-VANから失ったものもないと言える。

2点目。ガソリンスタンド数に注目すると、1995年の6万421カ所をピークに、2023年3月末時点で2万7963カ所と半数以下になっている。全国1718市町村(東京特別区を除く)のうち348市町村がガソリンスタンド3カ所以下だ。

「ガソリンを入れるために片道20分」といった話を聞くこともある。そんな地域こそ自宅で充電できるEVはエンジン車以上に便利に使えるマイカーとなる。日常の足としてクルマが必要なので、家族の大人の人数だけ車があるという地域もある。用途は通勤や近所の買い物がメインであれば、これもEVにして問題はない。

今春、一部の輸入車には大きな減額があったCEV補助金は、サクラとekクロス EVについては55万円が維持された。実質価格はサクラ(Xグレード)が204万9300円、ekクロス EV(Gグレード)は201万8500円で購入可能。売れ筋のスーパーハイト系のターボ車と変わらない価格だ。なお、N-VAN e:の補助金も55万円なので、e: FUNグレードが236.94万円、e: L4グレードが214.94万円になる。

EVは静かで、走りもスムーズ、低重心による安定性が魅力だ。もちろんガソリン車に比べれば航続距離は短いが、セカンドカー、サードカーとしては十分ではないだろうか。

今後はさらに、適切な航続距離と実用的な充電性能を備え、価格を抑えた国産コンパクトEVの登場が日本の本格的なEV普及のトリガーになるのではないかと期待している。

文/烏山 大輔

この記事のコメント(新着順)2件

  1. この販売の数字。
    アレヤコレヤと600万円を超える高額車、数もそんなに出ている訳でもないのに
    何故かそういった車種の記事ばかりが重ねられています。
    (そうはいっても250~300万もするけど、、、)
    このサイトに於いても世間離れしたクルマの記事が量産されていますが
    むしろ小型でホドホドの容量のクルマで1,000km走った記事をもっと載せて欲しいです。
    20kWhで180kmあればいいのか?やはり30kWhで240kmは欲しいのか?
    もうすぐ出てくるN-VAN:eとの対決記事を楽しみにしています。

  2. 「ガソリンを入れるために片道20分」といった話は、よくネットでも目にします。私もそういうところに住んでいます。しかしこの言い方を大きな誤解を生みます。なぜなら、ガソリンを入れるためだけに出かけるわけではないからです。田舎でもGSがあるところはやっぱりちょっとしたスーパーやホームセンターなんかのある商業地域です。だから、買い物ついでにガソリンを入れにGSに立ち寄るわけで、ガソリンを入れるためだけにわざわざ出かける人などほぼいないと思います。あたかもガソリンを入れるためだけに往復40分も無駄に時間とガソリン代を掛けて出かけるのではないです。

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					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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