三菱『アウトランダーPHEV』がフルモデルチェンジ〜バッテリー容量は20kWhに大増量

急速充電可能なPHEVとして欧州でもヒットした三菱アウトランダーPHEVのフルモデルチェンジが発表されました。駆動用バッテリーは20kWhに大きく増量。急速充電の対応出力は約37kW(推定)に向上しました。自動車評論家の諸星陽一さんが紹介します。

三菱『アウトランダーPHEV』がフルモデルチェンジ〜バッテリー容量は20kWhに大増量

アウトランダー誕生への系譜

かつての三菱の代表的車種と言えばパジェロであった、しかしパジェロのイメージはヘビーデューティなクロスカントリーだということで、1996年にオンロードテイストをアップしたチャレンジャーというモデルが設定される。このチャレンジャーがモデルチェンジしエアトレック(日本以外はこの時点でアウトランダーの車名となる)へと進化、2005年にアウトランダーが登場した。

一方、電動化技術を推し進めていた三菱は2009年に電気自動車のi-MiEVを市場導入した。2012年10月、アウトランダーはフルモデルチェンジし2代目となる。当初はピュアエンジンモデルのみの設定だったが、12月にはプラグインハイブリッドモデルであるPHEVをラインアップに登場。世界初の4WDプラグインハイブリッドSUVとして、日本はもとより欧州やアメリカでも大きな支持を獲得した。この初代アウトランダーPHEVにはi-MiEVのパワートレインも流用されている。

新型アウトランダーはPHEVモデルのみ

さて、初代アウトランダーPHEV登場から約9年、ついにアウトランダーPHEVがフルモデルチェンジの時期を迎えた。正確に言えばアウトランダーがフルモデルチェンジして、PHEVモデルのみになるという構図だ。北米ではピュアエンジンモデルも存在するが、日本では(とりあえず)PHEVのみの展開である。新しいアウトランダーはルノー-日産-三菱のアライアンスのなかで開発されたモデルで、プラットフォームは日産のローグ(日本名ではエクストレイルとなるはず)と共有する。

新型アウトランダーは先代に比べてボディサイズがグッと大きくなった。ホイールベースは35mm延長の2705mm、全長は15mm、全幅は60mm、全高は35mmの拡大となった。また、トレッドは53mmもワイドとなっている。この大きくなったボディサイズを生かして行われたのがサードシートの増設だ。先代モデルはピュアエンジンにはサードシートが存在したがPHEVにはサードシートがなかった。しかし、新型にはサードシート仕様も用意。多くのユーザーが待ち焦がれたサードシート仕様がついにラインアップに加わったことになる。

スペック比較

新型アウトランダーPHEV現行アウトランダーPHEV
全長/全幅/全高(mm)4710/1860/17454695/1800/1710
ホイールベース(mm)27052670
フロントモーター最高出力85kW60kW
リアモーター最高出力100kW70kW
バッテリー容量20kWh13.8kWh
総電圧350V300V

新型のボディは三菱としては初となるホットスタンプ式の超高張力鋼板をキャビンまわりやフロントクロスメンバーに採用。環状構造部位を増やすことで、ボディ剛性、ねじり剛性を向上している。サスペンションはフロントがストラット、リヤがマルチリンクとなる。従来のパワーステアリングはステアリングシャフトそのものをアシストする方式であったが、新型ではピニオンギヤを追加してそのピニオンギヤをアシストするデュアルピニオン方式を採った。

バッテリーは大増量でも価格はほぼ据え置き

注目の動力系統も大きく変わった。エンジンは従来どおりの2.4リットル4気筒だが、出力は94kWから98kWに向上されている。電動系は刷新された。フロントモーターは85kWh/255Nm(先代は60kW/137Nm)、リヤモーターは小型化をしたうえで100kW/195Nm(先代は90kW/137Nm)と出力を大幅にアップしている。

駆動用バッテリーも刷新。体積を小型化しつつエネルギー密度を高めたリチウムイオン電池で、従来の80セルから96セルになり、総電圧は350V、総電力量20kWh(先代は300V/13.8kWh)となった。

急速充電の対応出力も、従来は「総電圧300V×最大対応電流60A=約18kW」であったのが、新型のリリースでは「急速充電器の最大出力電流が105A以上の場合=約38分で80%充電」と説明されている。つまり急速充電の対応出力も従来の18kW程度から「350V×105A=約36.8kW」へと倍増していると推察できる。バッテリー容量も急速充電性能も、BEV並みに大きく向上したと言えるだろう。

WLTCモードのEV走行換算距離は83〜87km(グレードにより異なる)と発表されている。実用値に近いEPA基準では20%程度差し引いた66〜70km程度と思われるが、実用で「50kmはキツいかな」という印象だった前モデルと比べて、日常的にEVとしての実用性も向上したと評価できる。

もちろん、従来通りV2Hに対応。フロアコンソールボックスとラゲッジルームの2カ所には最大出力1500WのAC100V電源を標準で装備する。バッテリーの増量は、アウトドアレジャーや非常時の電源としての頼もしさも向上させている。

昨年12月、三菱から『エクリプスクロスPHEV』が発表されて、ボディサイズやバッテリー容量を中心としたPHEVとしての性能に大きな違いがなく、アウトランダーとどう差別化するのか疑問に感じたのだが、今回のフルモデルチェンジで納得できた。発表のリリースには開発者一同のメッセージとして「威風堂々」という言葉が紹介されている。サイズも、電動車としての性能も威風堂々、三菱のフラッグシップとして登場したということだ。

ちなみに、新型アウトランダーPHEVの価格は4,621,100円~5,320,700円。先代モデルと比べるとボトムグレードで約25万円アップだが、トップグレードでは約2万6000円のアップにとどまっている。バッテリーの容量増大をはじめ全体的な進化を見れば価格アップは妥当、トップグレードにおいてはサードシートを備えての約2万6000円アップは、価格ダウンと言ってもいいほどだ。

価格表

グレード車両本体価格(税込)
M5人乗り4,621,100円〜
G5人乗り4,904,900円〜
7人乗り4,996,200円
P7人乗り5,320,700円
(リサイクル料金、保険料、消費税を除く税金、登録等に伴う費用は含まれません)

走りの魅力も大きく向上

実は、この刷新されたアウトランダーPHEVに乗るチャンスが与えられた。発表前のクルマなので、あくまでもプロトタイプへの試乗という形だ。試乗フィールドはもはやプロトタイプ試乗の聖地となった千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイである。

走り出した瞬間に感じたのは、乗り心地が圧倒的によくなっていることだ。ボディ剛性が大幅に向上されたことで全体としてシャキッとしたフィーリングが出てくるのは当たり前なのだが、EVは今までそうしたことで解決できてきた乗り心地や静粛性が解決しきれないことがある。

というのも、エンジン車の場合はエンジンから出るノイズや振動があり、それが煙幕のようになってネガティブな音をカバーできる。エンジンを搭載するPHEVとはいえ、EV走行領域ではそうした音が目立ってしまう。だが、アウトランダーPHEVはフロントまわりのガラスを高遮音性のモノに変更、さらにリヤサスペンションのクロスメンバーをブッシュを介してボディ取り付けにしたほか、リヤコントロールユニットをリヤモーターと一体化してインバーターからの高周波音をカットするなどしている。こうした手の入れ方が功を奏し、じつに快適で乗り心地のいいフィーリングを得ている。

加速にはさらに磨きが掛かった。もともとアウトランダーPHEVの加速感は爽快で気持ちのいいものであったが、モーター出力が大幅に向上したことで、その加速感はさらに高いレベルに引き上げられている。モーターは非常に力強いトルク感で、2トンオーバーのボディをしっかりと加速する。加速時に各部が引き締まっている感覚を感じるのもいい部分だ。

アウトランダーPHEVのトランスアクスルは変速機構を持たない1段固定式減速機構のシンプルな構造だ。原動機とタイヤの間にギヤなどの介在が増えればふえるほど、各部にクリアランスが必要になる。原動機からタイヤまでの介在物が少ないことも、アウトランダーPHEVに引き締まった感覚を覚える理由だろう。

走行モードは「ノーマル」を基本に路面状況に合わせたモードが、マッド(泥濘や深雪)、スノー(雪道)、グラベル(砂利道)、ターマック(舗装路)の4種あり、さらに燃費を重視した「エコ」とアクセルレスポンスと最高出力を向上させる「パワー」の計7種となる。すべてのモードを試したが、サーキット試乗では当たり前だがターマックもしくはパワーのマッチングがよかった。

アウトランダーPHEVの走行モード変更は、パワーユニットの出力特性とステアリングのアシスト量を調整するだけでなく、S-AWCと呼ばれる4輪のタイヤを統合制御する機能も調整する。サーキットではコーナーの入り口からしっかりと曲がっていき、アンダーステアもよく抑えられ、ねらったラインをしっかりとトレースする走りを披露してくれた。S-AWCは滑りやすい路面などで、さらに効果を生み出すが、その報告はまたの機会に報告しよう。

今回のフルモデルチェンジはその進化度があまりに多く幅広いので、一度に紹介するのは難しい。ひと言で表現すると、この進化によって得られた最大の魅力は「上質感」という言葉にまとめていいだろう。三菱は「1クラス上」という表現を使っているが、これは間違いで1.5クラスから2クラスは上がったイメージである。

EVモードでの走行距離は従来の1.5倍、PHEVとしての航続距離は1.3倍となり最長1000kmにもなる。大幅な性能向上にも関わらず価格帯は先代と同レベルに抑えたというのだから驚きそのもの。さまざまな理由で、まだEVには移行しきれないというユーザーにとってアウトランダーPHEVは最良のクルマになりうるだろう。

(文/諸星 陽一)

この記事のコメント(新着順)9件

  1. 日産傘下に入ってからの開発で部品選定の主導権も日産側ですからね
    日経にも出てましたがAESC製で確定して、LEJは失注しているようです
    正直耐久性と出力に優れた角型からラミネートに替えているので初期型は避けたいです
    流石に燃えたりはしないでも、出力や熱設計が大幅に変わって5年も持たないとかありえますから
    逆にAESCは問題を出さないことが必須で、ラミネートはダメだという印象を持たれると致命傷です

  2. 最近i-MiEVで立ち寄ったディーラーの充電器が86Aだったんで気になってましたが、裏にはアウトランダーPHEVの電池容量アップがあったとは。
    それはともかく20kWhの数値にピン!ときました。日産三菱軽EVの電池容量と同じやないですか!?
    ※こうなれば電池製造元もLEJの可能性が出てきますよ?
    アウトランダーPHEVへのサードシート設置はかねてからの課題やったと思います。商品力アップの切り札になりそう。ただ全幅増大は狭い道路でネックになりそうですな。

    1. MiEVシリーズのバッテリーとアウトランダーのバッテリーは違いますのでどうでしょうかね?
      明後日お披露目会がありますので聞いてみましょう。

    2. ヒラタツさんのご明察どおり
      新型アウトランダーPHEVの20kWhバッテリは、
      日産三菱軽EVのバッテリと共用です。
      電池の製造元はLEJではなく、リーフとおなじエンビジョンAESCとのこと。
      電池に関しては日産色が出てますね。

  3. 自分には(お高くて)買えない車ですが、
    試乗だけでもお願いしたいなぁ、と思っています。

    いち電気自動車ユーザーとしては、
    販売店の方々に是非とも「充電のルールやマナー」を改めて伝えていただけると有り難いです(他の充電車両含む)。

    そしてこの技術が5ナンバーサイズ以下に落とし込むことができる(販売される)と嬉しいです(ミニキャブミーブ乗りなので)。

  4. ハイブリッド車

    トヨタさんも、電気自動車EVへの過渡期の車として。
    ストロングハイブリッド車を出したと考えましたが。
    下手に成功したか?(笑)

    トヨタ自動車の豊田章男氏が、テスラ社のイーロン・マスク氏と接触して援助しましたが。
    氏は、EVへ乗り気満々だったのでは?(笑)

    例の副社長の妨害を受けたか?(泣)

    副社長の推す!水素燃料自動車は最早、沈没寸前だが?(笑)

  5. 三菱と日産

    日産自動車が、EVへの切り替えを前提として!
    シリーズ式ハイブリッドのe-power車を全面に出して!

    三菱は、同じくPHEVを出すか?(笑)

    三菱のシリーズ式ハイブリッド車は、EV切り替えが差し迫る今は必要無いか?(笑)

    1. どこがシリーズハイブリッドなん?情弱。このコメント欄で開発担当でもないのに分かった風に四の五の言ってる人にとにかくおすすめしたい。一回乗ってから言った方が良い。

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この記事の著者


					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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