『キャシュカイ』や『ジューク』がEVになる
日産自動車の子会社、欧州日産は2023年11月24日に、イギリスでのEV化のスピードをさらに早める計画を発表しました。サンダーランド工場で生産する3つの新型EV、バッテリー工場、インフラに対して最大30億ポンド(約5600億円)を投資します。2021年には同工場などに10億ポンドを投資する計画だったので、20億ポンド(約3730億円)を追加したことになります。
日産は9月に、ヨーロッパでこれから発売する新車はすべてEVにすることを宣言しました。今回の投資増額は、新型車の100%EV化を現実にし、電動化を加速するための具体的な動きのひとつです。
発表の要点は次の通りです。
●英国で第2、第3のEVを投入する(現在はリーフのみ)。
●日産のEV化宣言で、3モデルのEV、バッテリー生産、インフラに対する30億ポンドの投資機会が生まれる。
●将来的に主力モデルの『キャシュカイ』『ジューク』をEV化する。
日産の内田誠社長は新たに発表したプロジェクトについて「エキサイティングだ」と述べ、EVは「カーボンニュートラルを達成するための我々の計画の中心」と位置付けています。
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リーフの新型車も生産予定
サンダーランド工場は1986年に稼働したイギリス最大の自動車の生産拠点です。2023年6月までに『リーフ』『ジューク』『マイクラ』など累計1100万台を生産しました。
日産のプレスリリースによれば、サンダーランド工場で最も多く生産したのは『キャシュカイ』で、累計400万台以上になります。現在は『キャシュカイ』のe-POWERなどを生産しています。
この9月に、2030年までにヨーロッパ市場で全車種をEVにすることを表明した時には投入車種の説明はなかったのですが、今回の発表ではキャシュカイやジュークなどの主力車種をサンダーランド工場で完全EV化することを明示しました。
ヨーロッパ市場でのフラッグシップモデルを真っ先にEV化する計画は、モビリティーのEV化に向けた日産のハラの座り方を示しているように感じます。
またサンダーランド工場ではこれまでにリーフを25万台以上生産してきました。今回の欧州日産の発表には、追加投資によってキャシュカイとジュークの他、リーフの新型車も生産することが盛り込まれています。
ジャパンモビリティショーでは新型リーフのアナウンスがなかったので、少しやきもきしていた所でしたが、計画は進んでいるようです。ただ、今回の発表でも新型車の投入時期は明示していないので、まだしばらくはやきもきが続きそうです。
英政府がバッテリー産業に大きな期待で全力支援
英国日産によるサンダーランド工場への追加投資については英政府も大きな期待を表明していて、リン・スナク首相は投資について次のようにコメントしています。
「日産の投資は、英国経済に年間710億ポンドもの巨額の経済効果をもたらしている自動車産業に対する大規模な信任投票になる。この新規事業は間違いなく、電気自動車のイノベーションと、英国のシリコンバレーとしてのサンダーランドの将来を確実なものにするだろう」
そしてスナク首相は、「我々はあらゆる段階で、日産のような企業が英国で事業を拡大し成長できるよう、明るい未来のために長期的決断をしながら支援を続けていく」と述べています。
英政府は日産発表の1週間前、11月17日に、地方経済の活性化に対して2025年から5年間にわたって総額45億ポンドを投資し、このうち20億ポンドを自動車産業に割り当てることを発表しました。
さらに11月26日には、英国初のバッテリー戦略リポート「UK battery strategy」を公表。英政府がバッテリー産業への投資を継続することを約束しています。
このリポートでは、AESCがサンダーランドで計画している第2のギガファクトリーで12GWh、インドのタタグループが新たに発表したギガファクトリーで40GWh、合計52GWhの生産能力が新たに確保されるとしています。
ちなみにAESCは2021年に、2030年までに最大18億ポンドを投資して25GWhの生産能力を確保することを表明しています。またタタグループのバッテリーはジャガー・ランドローバーブランド用に供給されると思われます。
一方、BBCは11月21日に、英国の超党派の国会議員らが、2030年までに100GWhの生産能力を確保しなければ数十万人の雇用が失われると警告したことを報じています。
日産単体の話からは逸れてしまいますが、英国の官民ともにEV化の拡大をキャッチアップできなければ大きな経済損失が生じるという危機感を持っているのは確実です。そうしたことから、英国に残る大規模な自動車メーカーとしての日産に対する期待値は非常に大きいようです。
次期『マイクラEV』は新会社『アンペア』で生産
ところで日産は、これまでのルノーとの資本関係を見直す中で、ルノーグループとして新たに立ち上がったEV専業会社『アンペア』にも投資をしています。
ルノーグループは2023年11月1日に、同社のEV部門を独立させる形で設立したアンペアが正式にスタートしたことを発表しました。さらに11月15日には、2024年上半期にアンペアを上場させる計画も公表しています。
このアンペアに、日産は最大6億ユーロ(約970億円)を出資します。またルノー、日産とアライアンスを組んでいる三菱自動車も最大2億ユーロを出資します。
日産はサンダーランド工場でCセグメントのキャシュカイなどを生産する計画です。ではそれより小さなBセグメントの『マイクラ(日本名マーチ)』はどうするかというと、アンペアから供給することが明らかになっています。アンペアはまた、三菱自動車へも小型車1車種を供給する予定です。
ちなみにアンペアのリリースによれば、今後のEV投入計画は次の通りです。
●『シーニック(Scenic E-Tech)』=2024年初めに発売予定。4万ユーロのファミリーカー。WLTPで625km。
●『ルノー5(Renault 5)』=2024年第1四半期発売予定。2万5000ユーロで航続距離は400km目標。
●『ルノー4(Renault 4)』=2025年発売予定。
この他、10kWh/100km(10km/kWh)の電費を目指す『レジェンド(Legend)』も投入される予定で、2031年までに7モデルを市場に送り出すことを目指しています。生産台数は2025年に30万台、2031年に100万台が目標です。
目標の数字は驚くほど大きいという感じではないですが、筆者としてはなんと言っても、ルノー5やルノー4がどんなEVになって復活するのかがとても楽しみです。
EV産業の中ではテスラ社が大きな注目を集めていますが、現時点での主力『モデル3/Y』は庶民にとっては高嶺の花です。そんなテスラ社も普及価格帯のEV開発を進めていて、モビリティー全体を大きく変革し事業を拡大、継続するためには、現行の内燃機関(ICE)小型車に匹敵するくらいの価格競争力を持ったモデルが必要であることを認識しています。
だからこそ、日産のサンダーランド工場で生産されるジュークやキャシュカイ、次期リーフは今後のモビリティー変革にとって重要な位置を占めると思います。おまけにアンペアから計画通りにルノー4やルノー5が出てきたら、ワクワクドキドキが高まります。
問題は今の日本にこれらのEVがすんなり入ってくるかどうかですが、さて、どうなることか。これから1~2年で日本の社会情勢も変わってほしいと切に願う今日このごろです。
文/木野 龍逸