東名300km電費検証【18】日産『アリア』B9 e-4ORCE プレミア/冬のB6より電費良好

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第18回は日産『ARIYA(アリア)』B9 e-4ORCE プレミアで実施した。外気温が電費に与える影響の大きさを改めて実感した。

東名300km電費検証【18】日産『アリア』B9 e-4ORCE プレミア/冬のB6より電費良好

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

100km/h巡航で約502kmの航続距離性能

アリアはB6(66kWh)とB9(91kWh)の2種類のバッテリーサイズに、駆動方式はFWDかAWD(e-4ORCE)を選択できる。今回検証を実施したのはB9 e-4ORCEをベースに、プロパイロット2.0、20インチホイール、本革シートなどを標準装備した最上級グレードのB9 e-4ORCE プレミアだ。これらの5グレードとは別に、現在はNISMOの2グレードもラインナップされており、車重やタイヤサイズ、価格をまとめると下記表になる。

グレードバッテリー駆動方式一充電走行距離車重タイヤサイズ価格
B666kWhFWD470km1920kg235/55R19659万100円
B6 e-4ORCE66kWhAWD460km2050kg235/55R19719万5100円
B991kWhFWD640km2060kg235/55R19738万2100円
B9 e-4ORCE91kWhAWD610km2180kg235/55R19798万7100円
B9 e-4ORCE プレミア91kWhAWD560km2210kg255/45R20860万3100円
NISMO B6 e-4ORCE66kWhAWD414km※2080kg255/45R20849万9300円
NISMO B9 e-4ORCE91kWhAWD504km※2210kg255/45R20944万1300円
※NISMOの一充電走行距離は非公表だが、スタンダードグレードの10%減ほどになると日産に確認済みのため、それぞれB6 e-4ORCE、タイヤサイズが同一のB9 e-4ORCE プレミアの10%減の数値にしている。

B9の4グレードの一充電走行距離に注目すると、FWDのベースグレードが640km、AWDかつ車重が120kg重くなると30km減の610km、プレミアはさらに30kg重く20インチタイヤになるため、50km短くなり560kmに、そこからNISMOになると56km減の504km(推定値)になるといった変化が見られる。

今回の検証の注目点は、今年3月に外気温0〜9℃と相当厳しい状況で実施したB6 FWD(関連記事)の結果に対して、車重(プラス290kg)でも駆動方式でも不利なB9 e-4ORCE プレミアの記録はどうなるのかという点だった。

カタログスペックである一充電走行距離560kmを、バッテリー容量の91kWhで割った目標電費は6.15km/kWhになる。8月某日、計測日の外気温は最高32℃、電費検証に臨んだ深夜は25〜27℃だった。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。

【今回の計測結果】

往復の電費は、各区間の往復距離を、その区間の往路と復路で消費した電力の合計で割って求めている。

目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路と往復のBとC区間の計5区間だった。往復では80km/hが7〜8km/kWh台、100km/hが5km/kWh台、120km/hが4km/kWh台になった。

【巡航速度別電費】

各巡航速度の電費は下表の通り。「航続距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、560kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率だ。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h7.70701.1125%
100km/h5.52502.790%
120km/h4.60418.475%
総合5.69517.592%

(注)80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って算出した。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。

総合電費の5.69km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続距離は約517kmになる。100km/h巡航はそれよりも少し短い約502km。80km/h巡航であれば、カタログスペック(WLTC)の一充電走行距離よりも25%も多い約701kmを走り切れる結果になった。

「東名300km電費検証」企画において、この表の100km/h巡航と総合の達成率が90%台だと優秀、100%を超えると相当優秀な電費性能であることが見えてきた。B9 e-4ORCE プレミアはともに90%以上を記録。さらに80km/hの125%はBMW『iX』と並ぶトップタイの成績だ。ただし80km/hと100km/hの比率をiXと比較すると、iXの125%と98%に対して、B9 e-4ORCE プレミアは125%と90%と開きが大きい。

巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると28%電費が悪化する、さらに120km/h上げると40%減になってしまう。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.7倍(168%)に伸ばすことができる計算になる。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h72%
120km/h60%
100km/h80km/h139%
120km/h83%
120km/h80km/h168%
100km/h120%

上記のiX(Cd値0.25)の達成率よりも開きが大きいこと、高速化に伴う電費の悪化をみるとアリアのCd値はあまり良くないのかもしれない(日産はCd値を公表していない)。

ここでB6 FWDの記録と比較してみる。状況を整理するとB6 FWDは外気温0〜9℃の悪条件だが、290kg軽くFWDであることがアドバンテージ。B9 e-4ORCE プレミアは、外気温は25〜27℃と有利だが、車重と駆動方式でハンデを抱えている。

B9 e-4ORCE プレミアB6 FWD電費差
km/kWh
航続距離の差
km
電費上昇率
80km/h電費7.706.810.8913%
航続距離701.1449.2251.9
100km/h電費5.525.180.347%
航続距離502.7342.1160.6
120km/h電費4.604.300.307%
航続距離418.4283.6134.8
総合電費5.695.250.448%
航続距離517.5346.3171.2

結果は全4項目でB9 e-4ORCE プレミアの方が7〜13%良い電費だった。車重と駆動方式の不利を吹き飛ばすほど、外気温による悪影響が出る可能性が高いことを改めて認識させられる。

最強のADAS

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航するため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用する。さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意している。

今回5ヶ月ぶりに日産のプロパイロット2.0を使用し、改めて現在日本の市販車で最も高度なシステムであることを再確認した。プロパイロット2.0の「すごさ」は手放し運転ができること。新東名の120km/h区間でも使用できる(法定速度の+10km/hまで設定可能)。手放し運転ができるシステムはBMW(60km/hまで)とトヨタ・レクサス(40km/hまで)にもあるが、速度の制限が低い。ACCだけでも運転を楽にしてくれるが、特に渋滞中は手放し運転ができるとさらに楽になる。

プロパイロット2.0の操作はステアリングホイール右スポークのスイッチで行う。右上のプロパイロットスイッチを押すと機能がスタンバイになり、上下に動くキャンセルスイッチを下(SET−)に動かすとその時の速度でプロパイロットを開始する。設定速度を上げたい時はキャンセルスイッチを上へ(SET+)、下げたい時は下に動かす。1回動かすごとに5km/hずつ変わっていく。

キャンセルスイッチの右側が「車線変更支援スイッチ」で、プロパイロットから車線変更、出口や分岐への進行の提案があった時に、その提案を承認するボタンだ。その下は先行車との車間距離設定ボタンで、3段階から選択できる。

その他、アリアのプロパイロット2.0についてはB6 FWDの記事でレポートしている。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は大きめで7〜8km/hだった。実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を107km/hに合わせる必要がある。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
87107128
ACC走行中の
室内の静粛性 db
666865

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hが66dB、100km/hが68dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hが65dBだった。

30分間で約30kWhを充電

駿河湾沼津SA上りでの充電中に通り雨に降られた。同じ充電器(最大90kW。2台同時充電時は100kWを分割)でリーフもチャージ中だったが、最高出力は75kWまで上がった。確認はしなかったが、隣のリーフはすでに充電が終了していたか、満充電に近く出力が下がっていたと思われる。

今回の急速充電での注目点は、冬にB6 FWD(外気温5℃)で、150kW器を使用し30分間で21.298kWhの充電にとどまった記録が、夏のB9 e-4ORCE プレミアではどれほど向上するかであった。

駿河湾沼津SA下り到着時点ではSOCが61%と高い状態だったので充電はスルーした。120km/h巡航を終えて、駿河湾沼津SA上りの充電器に向かったところ、なんと150kW器には「This charger is out of order. The problem has been reported.」と表示されており使用できなかったため、隣の90kW器を使用せざるを得ない状況だった。

充電中のドライバーディスプレイ。アリアの航続距離表示は直前の電費に合わせる方式のようで、120km/h巡航で悪化した電費(左側に見える4.7km/kWh)をもとにして、SOC 53%で229km(100%換算で432km)と短めの数字になっている。

その充電結果が下記表で、出力の推移は充電開始直後に72kW、その13分後に75kWの最高値を記録、さらにその7分後に42kWに下がった。そして30分間でSOC 34%分、29.859kWhをチャージし、90kW器でもB6 FWDの150kW器の記録を上回ってみせた。この充電量ならば、検証結果の総合電費である5.69km/kWhでは約170km分、80km/h巡航の7.70km/kWhであれば約230km分を補給できたことになる。

なお、アリアでの150kW器充電は、後日NISMO B9 e-4ORCEでも行い、49.922kWhをチャージした。電費を含め詳細は別途報告予定。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。

タイヤ・ホイールは20インチ

B9 e-4ORCE プレミアのタイヤサイズは、前後ともに255/45R20でNISMOを除く5グレードで唯一20インチが標準になっている。メーカーはダンロップ、商品名はSP SPORT MAXX 050。空気圧は前後ともに240kpaだった。

GT-Rと同じような方向性の明確化

B6 FWDの記事では、同車を「スポーティな空飛ぶ絨毯」と表現した。それは割と固めの足回りとそれによるハンドリングの良さに加えて、滑空感の高い走りを体験したからだった。

そして今回のB9 e-4ORCE プレミアはどうだったかのか。やはり街中を走らせてすぐに滑空感の高さを実感した。そして乗り心地は良くなっているように思えた。運転席からでもリヤの突き上げ具合が少なくなっているように感じたからだ。

実際に日産関係者からも、明確にスペック表に表れたり、プレスリリースで発表したりはしないけれども適宜手は加えられていると聞いた。アリアには発売当初からリアの突き上げ感への指摘が多かった。技術者たちも「悪い」と評されたまま黙っている訳にはいかないだろう。

まとめると今年3月から発売が開始された言わば「新生アリア」は、乗り心地が良くなって気持ちいい走りに磨きがかかったスタンダードの5グレードに加えて、よりスポーティな走りを極めたNISMOの2グレードというラインナップになった。

この流れは奇しくも2014年にNISMOが加わったことで、スタンダードはよりロードカーとしての質を磨き、サーキットでのタイム向上はNISMOが担うことで、それぞれの性格分けを明確にしたR35型GT-Rと同じ方向性に思える。

日産は2010年に『リーフ』においてグローバルで量産BEV発売の先陣を切った。さらに同社の歴史をひも解けば、1947年発売の電気自動車「たま号」にまで行きつく。これからも日本電気自動車界の雄として、電動化に進んでいく業界を引っ張って行ってほしい。

日産
アリア
B9 e-4ORCE プレミア
日産
アリア
B6(FWD)
全長(mm)4595
全幅(mm)1850
全高(mm)1655
ホイールベース(mm)2775
トレッド(前、mm)15751585
トレッド(後、mm)15801590
最低地上高(mm)170180
車両重量(kg)22401960
前軸重(kg)10901050
後軸重(kg)1150910
前後重量配分49:5154:46
乗車定員(人)5
最小回転半径(m)5.4
車両型式ZAA-SNFE0ZAA-FE0
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)187166
一充電走行距離(km、WLTC)560470
EPA換算推計値(km)448376
モーター数21
モーター型式、フロントAM67
モーター型式、リヤAM67
モーター種類、フロント交流同期電動機
モーター種類、リヤ交流同期電動機
フロントモーター出力(kW/ps)160/218160/218
フロントモータートルク(Nm/kgm)300/30.6300/30.6
リヤモーター出力(kW/ps)160/218
リヤモータートルク(Nm/kgm)300/30.6
バッテリー総電力量(kWh)9166
急速充電性能(kW)130
普通充電性能(kW)6
V2X対応V2H、V2L
駆動方式AWDFWD
フロントサスペンションストラット
リアサスペンションマルチリンク
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(前後)255/45R20235/55R19
タイヤメーカー・銘柄ダンロップ SP SPORT MAXX 050
荷室容量(L)408466
フランク(L)なし
0-100km/h加速(秒)5.17.5
最高速(km/h)200160
Cd値未公表
車両本体価格 (万円、A)860.31659.01
CEV補助金 (万円、B)8585
実質価格(万円、A - B)775.31574.01
※車両重量は車検証に記載の値

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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