【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧
100km/h巡航で約502kmの航続距離性能
アリアはB6(66kWh)とB9(91kWh)の2種類のバッテリーサイズに、駆動方式はFWDかAWD(e-4ORCE)を選択できる。今回検証を実施したのはB9 e-4ORCEをベースに、プロパイロット2.0、20インチホイール、本革シートなどを標準装備した最上級グレードのB9 e-4ORCE プレミアだ。これらの5グレードとは別に、現在はNISMOの2グレードもラインナップされており、車重やタイヤサイズ、価格をまとめると下記表になる。
グレード | バッテリー | 駆動方式 | 一充電走行距離 | 車重 | タイヤサイズ | 価格 |
---|---|---|---|---|---|---|
B6 | 66kWh | FWD | 470km | 1920kg | 235/55R19 | 659万100円 |
B6 e-4ORCE | 66kWh | AWD | 460km | 2050kg | 235/55R19 | 719万5100円 |
B9 | 91kWh | FWD | 640km | 2060kg | 235/55R19 | 738万2100円 |
B9 e-4ORCE | 91kWh | AWD | 610km | 2180kg | 235/55R19 | 798万7100円 |
B9 e-4ORCE プレミア | 91kWh | AWD | 560km | 2210kg | 255/45R20 | 860万3100円 |
NISMO B6 e-4ORCE | 66kWh | AWD | 414km※ | 2080kg | 255/45R20 | 849万9300円 |
NISMO B9 e-4ORCE | 91kWh | AWD | 504km※ | 2210kg | 255/45R20 | 944万1300円 |
※NISMOの一充電走行距離は非公表だが、スタンダードグレードの10%減ほどになると日産に確認済みのため、それぞれB6 e-4ORCE、タイヤサイズが同一のB9 e-4ORCE プレミアの10%減の数値にしている。 |
B9の4グレードの一充電走行距離に注目すると、FWDのベースグレードが640km、AWDかつ車重が120kg重くなると30km減の610km、プレミアはさらに30kg重く20インチタイヤになるため、50km短くなり560kmに、そこからNISMOになると56km減の504km(推定値)になるといった変化が見られる。
今回の検証の注目点は、今年3月に外気温0〜9℃と相当厳しい状況で実施したB6 FWD(関連記事)の結果に対して、車重(プラス290kg)でも駆動方式でも不利なB9 e-4ORCE プレミアの記録はどうなるのかという点だった。
カタログスペックである一充電走行距離560kmを、バッテリー容量の91kWhで割った目標電費は6.15km/kWhになる。8月某日、計測日の外気温は最高32℃、電費検証に臨んだ深夜は25〜27℃だった。
各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。
【今回の計測結果】
目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路と往復のBとC区間の計5区間だった。往復では80km/hが7〜8km/kWh台、100km/hが5km/kWh台、120km/hが4km/kWh台になった。
【巡航速度別電費】
各巡航速度の電費は下表の通り。「航続距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、560kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率だ。
各巡航速度 の電費 km/kWh | 航続距離 km | 一充電走行距離 との比率 |
|
---|---|---|---|
80km/h | 7.70 | 701.1 | 125% |
100km/h | 5.52 | 502.7 | 90% |
120km/h | 4.60 | 418.4 | 75% |
総合 | 5.69 | 517.5 | 92% |
(注)80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って算出した。100km/hと総合の電費も同じ方法で求めた。
総合電費の5.69km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続距離は約517kmになる。100km/h巡航はそれよりも少し短い約502km。80km/h巡航であれば、カタログスペック(WLTC)の一充電走行距離よりも25%も多い約701kmを走り切れる結果になった。
「東名300km電費検証」企画において、この表の100km/h巡航と総合の達成率が90%台だと優秀、100%を超えると相当優秀な電費性能であることが見えてきた。B9 e-4ORCE プレミアはともに90%以上を記録。さらに80km/hの125%はBMW『iX』と並ぶトップタイの成績だ。ただし80km/hと100km/hの比率をiXと比較すると、iXの125%と98%に対して、B9 e-4ORCE プレミアは125%と90%と開きが大きい。
巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると28%電費が悪化する、さらに120km/h上げると40%減になってしまう。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.7倍(168%)に伸ばすことができる計算になる。
ベースの速度 | 比較する速度 | 比率 |
---|---|---|
80km/h | 100km/h | 72% |
120km/h | 60% | |
100km/h | 80km/h | 139% |
120km/h | 83% | |
120km/h | 80km/h | 168% |
100km/h | 120% |
上記のiX(Cd値0.25)の達成率よりも開きが大きいこと、高速化に伴う電費の悪化をみるとアリアのCd値はあまり良くないのかもしれない(日産はCd値を公表していない)。
ここでB6 FWDの記録と比較してみる。状況を整理するとB6 FWDは外気温0〜9℃の悪条件だが、290kg軽くFWDであることがアドバンテージ。B9 e-4ORCE プレミアは、外気温は25〜27℃と有利だが、車重と駆動方式でハンデを抱えている。
B9 e-4ORCE プレミア | B6 FWD | 電費差 km/kWh | 航続距離の差 km | 電費上昇率 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
80km/h | 電費 | 7.70 | 6.81 | 0.89 | 13% | |
航続距離 | 701.1 | 449.2 | 251.9 | |||
100km/h | 電費 | 5.52 | 5.18 | 0.34 | 7% | |
航続距離 | 502.7 | 342.1 | 160.6 | |||
120km/h | 電費 | 4.60 | 4.30 | 0.30 | 7% | |
航続距離 | 418.4 | 283.6 | 134.8 | |||
総合 | 電費 | 5.69 | 5.25 | 0.44 | 8% | |
航続距離 | 517.5 | 346.3 | 171.2 |
結果は全4項目でB9 e-4ORCE プレミアの方が7〜13%良い電費だった。車重と駆動方式の不利を吹き飛ばすほど、外気温による悪影響が出る可能性が高いことを改めて認識させられる。
最強のADAS
東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航するため、巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用する。さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意している。
今回5ヶ月ぶりに日産のプロパイロット2.0を使用し、改めて現在日本の市販車で最も高度なシステムであることを再確認した。プロパイロット2.0の「すごさ」は手放し運転ができること。新東名の120km/h区間でも使用できる(法定速度の+10km/hまで設定可能)。手放し運転ができるシステムはBMW(60km/hまで)とトヨタ・レクサス(40km/hまで)にもあるが、速度の制限が低い。ACCだけでも運転を楽にしてくれるが、特に渋滞中は手放し運転ができるとさらに楽になる。
プロパイロット2.0の操作はステアリングホイール右スポークのスイッチで行う。右上のプロパイロットスイッチを押すと機能がスタンバイになり、上下に動くキャンセルスイッチを下(SET−)に動かすとその時の速度でプロパイロットを開始する。設定速度を上げたい時はキャンセルスイッチを上へ(SET+)、下げたい時は下に動かす。1回動かすごとに5km/hずつ変わっていく。
キャンセルスイッチの右側が「車線変更支援スイッチ」で、プロパイロットから車線変更、出口や分岐への進行の提案があった時に、その提案を承認するボタンだ。その下は先行車との車間距離設定ボタンで、3段階から選択できる。
その他、アリアのプロパイロット2.0についてはB6 FWDの記事でレポートしている。
スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は大きめで7〜8km/hだった。実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を107km/hに合わせる必要がある。
80km/h 巡航 | 100km/h 巡航 | 120km/h 巡航 |
|
---|---|---|---|
メーターの速度 km/h | 87 | 107 | 128 |
ACC走行中の 室内の静粛性 db | 66 | 68 | 65 |
巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hが66dB、100km/hが68dB、東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hが65dBだった。
30分間で約30kWhを充電
今回の急速充電での注目点は、冬にB6 FWD(外気温5℃)で、150kW器を使用し30分間で21.298kWhの充電にとどまった記録が、夏のB9 e-4ORCE プレミアではどれほど向上するかであった。
駿河湾沼津SA下り到着時点ではSOCが61%と高い状態だったので充電はスルーした。120km/h巡航を終えて、駿河湾沼津SA上りの充電器に向かったところ、なんと150kW器には「This charger is out of order. The problem has been reported.」と表示されており使用できなかったため、隣の90kW器を使用せざるを得ない状況だった。
その充電結果が下記表で、出力の推移は充電開始直後に72kW、その13分後に75kWの最高値を記録、さらにその7分後に42kWに下がった。そして30分間でSOC 34%分、29.859kWhをチャージし、90kW器でもB6 FWDの150kW器の記録を上回ってみせた。この充電量ならば、検証結果の総合電費である5.69km/kWhでは約170km分、80km/h巡航の7.70km/kWhであれば約230km分を補給できたことになる。
なお、アリアでの150kW器充電は、後日NISMO B9 e-4ORCEでも行い、49.922kWhをチャージした。電費を含め詳細は別途報告予定。
充電結果
タイヤ・ホイールは20インチ
B9 e-4ORCE プレミアのタイヤサイズは、前後ともに255/45R20でNISMOを除く5グレードで唯一20インチが標準になっている。メーカーはダンロップ、商品名はSP SPORT MAXX 050。空気圧は前後ともに240kpaだった。
GT-Rと同じような方向性の明確化
B6 FWDの記事では、同車を「スポーティな空飛ぶ絨毯」と表現した。それは割と固めの足回りとそれによるハンドリングの良さに加えて、滑空感の高い走りを体験したからだった。
そして今回のB9 e-4ORCE プレミアはどうだったかのか。やはり街中を走らせてすぐに滑空感の高さを実感した。そして乗り心地は良くなっているように思えた。運転席からでもリヤの突き上げ具合が少なくなっているように感じたからだ。
実際に日産関係者からも、明確にスペック表に表れたり、プレスリリースで発表したりはしないけれども適宜手は加えられていると聞いた。アリアには発売当初からリアの突き上げ感への指摘が多かった。技術者たちも「悪い」と評されたまま黙っている訳にはいかないだろう。
まとめると今年3月から発売が開始された言わば「新生アリア」は、乗り心地が良くなって気持ちいい走りに磨きがかかったスタンダードの5グレードに加えて、よりスポーティな走りを極めたNISMOの2グレードというラインナップになった。
この流れは奇しくも2014年にNISMOが加わったことで、スタンダードはよりロードカーとしての質を磨き、サーキットでのタイム向上はNISMOが担うことで、それぞれの性格分けを明確にしたR35型GT-Rと同じ方向性に思える。
日産は2010年に『リーフ』においてグローバルで量産BEV発売の先陣を切った。さらに同社の歴史をひも解けば、1947年発売の電気自動車「たま号」にまで行きつく。これからも日本電気自動車界の雄として、電動化に進んでいく業界を引っ張って行ってほしい。
日産 アリア B9 e-4ORCE プレミア | 日産 アリア B6(FWD) |
|
---|---|---|
全長(mm) | 4595 | ← |
全幅(mm) | 1850 | ← |
全高(mm) | 1655 | ← |
ホイールベース(mm) | 2775 | ← |
トレッド(前、mm) | 1575 | 1585 |
トレッド(後、mm) | 1580 | 1590 |
最低地上高(mm) | 170 | 180 |
車両重量(kg) | 2240 | 1960 |
前軸重(kg) | 1090 | 1050 |
後軸重(kg) | 1150 | 910 |
前後重量配分 | 49:51 | 54:46 |
乗車定員(人) | 5 | ← |
最小回転半径(m) | 5.4 | ← |
車両型式 | ZAA-SNFE0 | ZAA-FE0 |
交流電力消費率(WLTC、Wh/km) | 187 | 166 |
一充電走行距離(km、WLTC) | 560 | 470 |
EPA換算推計値(km) | 448 | 376 |
モーター数 | 2 | 1 |
モーター型式、フロント | AM67 | ← |
モーター型式、リヤ | AM67 | |
モーター種類、フロント | 交流同期電動機 | ← |
モーター種類、リヤ | 交流同期電動機 | |
フロントモーター出力(kW/ps) | 160/218 | 160/218 |
フロントモータートルク(Nm/kgm) | 300/30.6 | 300/30.6 |
リヤモーター出力(kW/ps) | 160/218 | |
リヤモータートルク(Nm/kgm) | 300/30.6 | |
バッテリー総電力量(kWh) | 91 | 66 |
急速充電性能(kW) | 130 | ← |
普通充電性能(kW) | 6 | ← |
V2X対応 | V2H、V2L | ← |
駆動方式 | AWD | FWD |
フロントサスペンション | ストラット | ← |
リアサスペンション | マルチリンク | ← |
フロントブレーキ | ベンチレーテッドディスク | ← |
リアブレーキ | ベンチレーテッドディスク | ← |
タイヤサイズ(前後) | 255/45R20 | 235/55R19 |
タイヤメーカー・銘柄 | ダンロップ SP SPORT MAXX 050 | ← |
荷室容量(L) | 408 | 466 |
フランク(L) | なし | ← |
0-100km/h加速(秒) | 5.1 | 7.5 |
最高速(km/h) | 200 | 160 |
Cd値 | 未公表 | ← |
車両本体価格 (万円、A) | 860.31 | 659.01 |
CEV補助金 (万円、B) | 85 | 85 |
実質価格(万円、A - B) | 775.31 | 574.01 |
※車両重量は車検証に記載の値 |
取材・文/烏山 大輔