『日産 アリア』中嶋光CVEに気になるあれこれ独占リモートインタビュー

7月15日に発表された日産のクロスオーバー電気自動車『ARIYA(アリア)』。スペックや実質500万円~という価格はアナウンスされていますが、EVユーザー目線で気になることがいろいろあります。お盆休み明けの8月19日、CVEの中嶋光氏に、リモートで独占インタビューの時間をいただきました。

『日産 アリア』中嶋光CVEに気になるあれこれ独占リモートインタビューV

発売まで1年待つために、知っておきたいことがある

アリアの日本発売が発表されたのは2020年7月15日。ただし、実際に発売されるのは「2021年半ばから」です。つまり、まだおよそ1年先のこと。8月27日にはホンダeが発表されたし、7月29日にはDS3クロスバックE-TENSEの日本発売も発表されました。今年から来年にかけては、レクサスUX-300eや、マツダMX-30といった、アリアと同じCセグメントSUVの電気自動車のデビューが控えています。

はたして、アリアには1年先の発売を待ちながら、せっせと頭金を貯める価値があるのでしょうか。先進技術のアピールがどうしても主役になるオンラインプレゼンテーションだけでは今ひとつわからなかったこともあります。そこで、EVsmartブログではアリア車両開発主管(CVE=チーフ・ビークル・エンジニア)である中嶋光氏へのインタビュー取材をオファー。発表直後でご多忙中でしたが、お盆休み明けの8月19日、オンラインでリモートインタビューを行う時間をいただきました。

オンライン取材なので写真撮影はできません。PCでお話ししながらトーク画面をキャプチャさせていただこう、と思っていたら、話に夢中になって忘れてました。中嶋さんの顔写真は、YouTubeで公開されている動画からのキャプチャで失礼します。

約1時間の独占リモートインタビュー。EVユーザー目線で知りたかったいろんなことを伺いました。一問一答スタイルでご紹介します。

2グレードの電池容量を決めたポイントは?

●まず、電池について伺います。アリアに搭載する駆動用バッテリーのサプライヤは中国のCATLといわれていますが、それで間違いないですか?

電池サプライヤーがどこかということは、公表していません。ただ、複数のサプライヤーから調達することは考えていません。

●ケミカルは三元系(電極にニッケル、マンガン、コバルトの化合物を使用したもので、現在の電気自動車用バッテリーの主流)ですよね。NMC811など最新の電池なのでしょうか。

はい、三元系のバッテリーを採用します。でも、ケミカルなどの詳細はこれもまた公表していません。

●では、容量について伺います。アリアには65kWhと90kWh、2グレードが用意されました。この容量に決定した理由を教えていただけますか。

電池容量を考える際、まずベーシックなグレードでも日産リーフe+の一充電航続距離である450kmは確保したいと考えました。e+は62kWhですがアリアはリーフよりも重いですから、65kWhになっています。

ロングレンジのグレードについては、一充電航続距離600km以上をターゲットにしました。その結果、90kWh必要だったということです。

●電池の温度管理システムは水冷式とのこと。温めるのも液体ですか。

そうです、冷却、加熱ともにいわゆるクーラントを用いています。

●リーフにはなかった温度管理システム。苦心した点はありますか。

電気自動車の駆動用電池は、おおむね30~40度くらいで一定の温度に保つことが大切です。また、室内空間も乗る人が快適な温度に保つ必要があります。電池温度管理はエアコンとともにヒートポンプ式ですが、電池、室内をともに最適な温度に保ちながら、静粛性を確保するために工夫しました。コンプレッサーの仕事量など試行錯誤して、電池温度を保ちながら快適で静かな室内空間を確保することを目指しています。

●そういえば、グローバル本社に展示されているアリアに「バッテリー急冷」ボタンがありました。

展示車のメーターなどはまだ完全に仕上げていない状態なのでこのまま市販するかどうかは未定ですが、「バッテリー急冷」は隠しコマンドのような機能です。ある程度の音が室内まで聞こえてしまうことは許容して、コンプレッサーをMAXパワーで動かします。

●でも「バッテリー温度計」は見つけられませんでした。

細かくチェックしてますね。まだ断言はできませんが、おそらく市販モデルではバッテリー温度計も備えることになると思います。

●温度管理の配管などがあっても、電池リサイクルは大丈夫ですか?

もちろんです。アリアのバッテリーには温度管理システムのクーラント配管があるわけですが、ケーシングを工夫して、モジュールごとに温度管理できる設計にしています。バッテリーリサイクル時の工程は、リーフとさほど変わりません。

充電リッドの位置がリーフから変わった理由は?

●急速充電の最大出力が130kWとなった理由はなんでしょう。

充電速度と急速充電による電池へのダメージなどを熟慮して、ベストバランスを目指した結果の対応出力です。たとえば130kWで急速充電を行う際も、SOC(電池残量)が70%程度まではフル出力で充電できる性能を与えています。

●日産で130kWの高出力急速充電インフラ整備も進めるのでしょうか。

充電インフラの整備は担当部署からお答えさせて頂くのが良いかと思いますが、将来的には、高速道路のSA/PAに150kW器が増えるといいですね。

●充電リッドの位置がリーフから変わったのはなぜでしょう?

シンプルにスタイリングのためです。ご存じのようにリーフはフロントの中央部に充電リッドがありますが、アリアのフロント部分には幾何学模様を組み込んだ透明感のあるシールドを配置しています。リーフと同じ位置に充電リッドがあると、造形の自由度が極端に制約されてしまうので、位置を変更することを選択しました。

テスラに勝てますか?

●車格や価格は、たとえばテスラモデルY(日本未発売)と競合すると思います。やはり、ライバルはモデルYですか?

もちろん、モデルYやモデル3といったテスラ車はベンチマークとして研究しました。ただ、他社のEVがどうこうというよりも、日産が専用プラットフォームでCセグメントのSUVを開発する上で、EVとして最善のパッケージングを実現することに注力しました。たとえば、ロングホイールベースでショートオーバーハング、Cセグメントの車体サイズでありながら、上位セグメントに匹敵する余裕ある室内空間を実現できています。

また、エアコンのユニットなどの配置を工夫して、運転席と助手席を隔てる部分をなくしたり、センターコンソールを可動式にするといった機能を実現することができました。

●床面がフルフラットなのかと思ったら、展示車はセンタートンネル部分にわずかな盛り上がりありました。アレは、何があるんですか?

あの部分には『プロパイロット2.0』をはじめとして、サブバッテリーの電力を必要とする機器のためのハーネス(配線)などが通っています。

●モデルYなどのテスラ車に優る部分はなんですか?

テスラも魅力的な電気自動車を出していますが、自動車メーカーとしてのノウハウは我々のほうが豊富です。とくに、静粛性や操作性など、自動車文化として磨き上げてきたものは、まだまだ勝っていると感じます。EVとしての長所は大切にしながら、自動車としての質を高めることを目指して開発を進めてきました。

●テスラも2モーターのAWDをラインアップしています。アリアが搭載する「e-4ORCE」の強みはありますか。

日産はもともとGT-Rなどでスポーツ4WDの技術を磨き上げてきました。また、リーフの経験でモーター制御技術の蓄積もあります。EVの制御はエンジンよりも緻密で速いのが特長です。1万分の1秒単位でコントロールできますからね。e-4ORCEは、日産だからこそ実現できた完成度の高い4WDシステムに仕上がっています。雪道だけでなく、普通のワインディングでも痛快な走りを楽しんでいただけるはずです。

ソフトウェアアップデートで何ができるのか?

●「リモート・ソフトウェア・アップグレード」機能では、どんなことができるのでしょう

端的にいうと、常にリフレッシュを繰り返していくというイメージですね。ITは日進月歩で進化します。たとえば、アリアにはおよそ30個ほどのECU(Electronic Control Unit)が搭載されていて、さまざまな機能をコントロールしています。このECUを動かすためのファームウェアを常に最新の技術にアップデートしていけるようにしたいと考えています。

●EVとスマホを連携するアプリはリーフとは別モノになるのでしょうか?

『NissanConnect EV』というアプリであることは同じですが、リーフでも初代と現行型で少し使い勝手などがアップデートしているように、アリアのための専用バージョンが用意されます。具体的には「スマートルートプランナー」などの機能が追加される予定です。

●AZE0(旧型リーフ)のアプリは、たとえばテスラのアプリに比べて反応速度がやや遅いのが気になっているのですが

アリアではもちろん改善します!

リーフでは比較的慎重にアプリと車両のやりとりを行っているので、そのあたりが「遅い」と感じる理由なのかも知れないですね。アリアでは信号が効率的にアプリと車両の間を行き来できるように信号の経路を改善しています。

発売まで、まだ1年ほどもありますが……

●展示車で、AC100Vのコンセントが見当たりませんでした。装備されないんですか?

そうですね、今のところACのアウトプットを装備する予定はありません。もちろん、V2H機器との連携には対応します。

●非常時だけでなくアウトドアでのちょっとしたケースでも、手軽にACが取り出せると便利なんですけど。

なるほど。ご意見ありがとうございます。将来のオプションを含めて検討してみます。

●ところで、発売まで1年も前倒しの発表となったのはなぜですか?

もともと、東京オリンピックの開催に合わせて発表し、オリンピックのための車両として使っていただく準備を進めてきました。オリンピックは延期になってしまいましたが、アリア発表の計画はそのまま実施したということです。

●発売までの1年間でさらにやるべきことはありますか。

ITやインターフェースに関わる部分の完成度をさらに高めていくことですね。あとは生産面、量産のためのノウハウを磨き上げていくことも大切です。

(以上)

迷えるのはうれしい悲鳴。でも、値段にも悲鳴の庶民感覚

アリアは実質500万円~とアナウンスされました。先日発表されたホンダeも、まあざっくり500万円。どちらも「先進技術満載」がセールスポイントであることを天秤にかけると、電池容量35.5kWhのホンダeよりも、65kWhのアリアのほうがお買い得な印象です。ただ、自宅が面した道が狭い我が家では、コンパクトなホンダeも魅力的。日常的な電池容量は35.5kWhで十分と思っているので、アリアはいろいろでか過ぎる印象があることも否めません。

ちなみに、グローバル本社へアリアの実車を見に行った際のレポートでは、90kWhモデルの価格をおよそ800万くらい? とあえて高めに予想してみたことを中嶋さんに伝えると「そんなに高くはないですよ」とのお答えでした。65kWhで2WDのベースモデルが約540万円(補助金を抜くと約500万円)だとすると、25kWh分の電池増量で約80万円、e-4ORCEやプロパイロット2.0などの装備充実分が70万円として、アリア最上級グレードの価格は実質650万円くらい? と予想をアップデートしておきます。

プジョーe208は約400万円、同じPSAグループのDS3がおよそ510万円。日産リーフやモデル3なども含めて、日本市場にも400~500万円くらいの価格帯にさまざまなEVの選択肢が増えてきました。どれにしようか迷えるのはうれしい悲鳴ってところですが、400〜500万円級のマイカーを買うのは、庶民にとっては思わず「ヒーッ」と悲鳴が出てしまいそうな決断です。

ひとまず、ヒーッと叫びつつ、65kWhでe-4ORCEのアリアを目指して頭金の貯金を始めるか……。まだまだ悩みを楽しんでみます。

中嶋さん、お忙しい中ありがとうございました!

【関連動画(YouTube)】
●新型車 #日産アリア 車両概要

●【中継】新型車「#日産アリア」発表記者会見

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)7件

  1. 参考になるレポートありがとうございました。
    プロパイロット2を2AWDにもオプション装備できればいいですね。

  2. とても気になる部分を確認いただいて助かります。
    そして100Vコンセントが無いという1点で購入は先送り決定にしました。どんな判断があっての事かはわかりませんが、このご時世に走る蓄電池に100Vコンセントが無いのはあり得ません。

  3. コンセントはとても知りたかったので助かります。記事ありがとうございます。

    まさにアウトドアで使いたかっただけに残念です。キャンプ時に “隣にこんなに優良電源があるのにー” といつも思っていますw (ZE1オーナーです)

  4. これは良記事ですね。evsmartさんだから質問できる内容のように感じました。日産さんも回答した内容をもっとyoutube等でPRしていけばいいのに。

  5. 専門的な参考になる取材ありがとうございました。
    大変参考になりました。
    電池メーカーも回答なしでしたが、保証期間も知りたかったです。

  6. 中嶋さんへの貴重なインタビュー、とても参考になりました。
    一つだけ、噂では来年中ごろの発売は65kWhの2WDということですが
    待つ者の信条としては甚だ残念で、90kWhのAWDを早く販売してほしいです!

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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