国産EVのフラッグシップ『アリア NISMO』に試乗〜風格と電撃のクロスオーバー

2024年1月の「東京オートサロン 2024」で公開されたアリアのNISMO版である『日産アリア NISMO』に試乗した。開発コンセプトとして「風格と電撃のクロスオーバー」を掲げた同車の詳細と、実感できた走りの実力をレポートする。

国産EVのフラッグシップ『アリア NISMO』に試乗〜風格と電撃のクロスオーバー

NISMOの魅力を詰め込んだ内外装デザイン

日産が2024年3月8日に発表、発売は6月を予定している『日産アリア NISMO(以下、アリア NISMO)』のプロトタイプに試乗した。同車は搭載するバッテリー容量が異なる2グレードを用意、駆動方式はAWD(NISMO tuned e-4ORCE)のみで、主要スペックと価格は以下の通りだ。

日産アリア NISMOスペック&価格表

NISMO B6 e-4ORCENISMO B9 e-4ORCE
全長4650mm
全幅1850mm
全高1655mm1650mm
ホイールベース2775mm
トレッド(前)1585mm
トレッド(後)1585mm
車両重量2080kg2210kg
前後軸重前1060.8kg、後1019.2kg前1082.9kg、後1127.1kg
前後重量配分51 : 4949 : 51
乗車定員5名
一充電走行距離390km(参考値)520km(参考値)
システム出力270kW(367ps)320kW(435ps)
システムトルク560Nm600Nm
バッテリー総電力量66kWh91kWh
モーター数前1基、後1基前1基、後1基
駆動方式AWD(全輪駆動)
フロントサスペンションマクファーソンストラット
リアサスペンションマルチリンク
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキベンチレーテッドディスク
最小回転半径5.4m
タイヤサイズ(前後)255/45R20
車両本体価格842万9300円944万1300円
※前後軸重は資料に記載の比率から求めた

試乗会場は『リーフ』が生産されている追浜工場(神奈川県横須賀市)に隣接する「グランドライブ」。ここはあえて一般道を模した作りで、サーキットのように平滑な路面ではなく、うねりも段差もあるコースとなっている。だからこそ今回の試乗でNISMOが作り上げたタイヤとサスペンションの路面への追従性の良さとそこから生まれる安定性、トラクション性能の良さを堪能できた。

実際に運転する前にまず外観をチェックする。「アルテリアマグマ」と名付けられたボディを一周する下部の赤いラインと専用の前後バンパーなどにNISMOならではの精悍さを感じる。このデザインはR35型『GT-R』の2024年モデルも担当されたグローバルデザイン本部アドバンスドデザイン部の森田充儀氏によるものだ。

フロントではバンパーサイドのエアカーテンやカナードにより、サイドはドアフィニッシャー下端の延長・拡幅により、リヤもスポイラー(ルーフとデッキ)やバンパー下部の専用デザインにより、ダウンフォースを生み出している。さらにスタンダードモデルよりもCd値(空気抵抗)を6%低減(スタンダードモデル、NISMOともにCd値は公表していない)し、CL値(揚力係数)は40%も低減することに成功したという。

タイヤとホイールも専用品を装備。タイヤはミシュランと共同開発した「PILOT SPORT EV」で、サイズは前後ともに255/45R20。サイドウォールのチェッカーフラッグのようなデザインは、フォーミュラEの2013-2022シーズンのタイヤサプライヤーだったミシュランのフォーミュラE専用タイヤからインスパイアされたものだ。

ホイールはエンケイ製を採用。同社のMAT工法(鍛造ホイールにも匹敵する材料強度を実現したことでリムの薄肉化による軽量化)を用い、かつドラッグを低減するリム部のフラットデザインや大開口部からのエア排出とブレーキ冷却を実現する薄型スポークデザインを採用している。

内装にも数々のNISMO専用のパーツやデザインが取り入れられている。外装と同じ赤いパーツに注目するとステアリングのセンターマーク、ダッシュボードを水平に横切るメタルフィニッシャー、スタータースイッチ、その横にはNISMOエンブレムが光る。

ドライバーを支えるシートも新たに開発された。サイドサポートの形状変更や内部パッドのチューニングでしっかり体を支えるホールド感を、スエード調表皮はコーナリング時に体が滑りにくくなることを実現した。スタンダードモデルのシートをベースにすることでパワーシートやシートヒーターなどの快適装備は残されたままだ。

NISMOロードカーならではの最上級を実感

内外装の観察が終わったところで試乗の時間になった。試乗時はS字区間の30km/hなどコースの速度制限を厳守することに加え、ほとんどの区間でパイロンにより進路が区切られており、全開にできるのはストレートのみ、急激な加減速などは禁止されていた。

まず走り出して気づいたことはステアリングの軽さだった。「スポーツモデル」と言えばずっしり重い操舵感という先入観だったこともあり、余計に軽く感じられた。しかしさすがのNISMOで、タイヤの接地感は豊かに伝えてくる。スラローム区間でも2.2トンの車体を軽快に操ることができた。高速域では「適度な手応え」を得られるとのことなので、高速道路走行時はまた一味違った操舵感を味わえるはずだ。

足回りは10%引き上げられたモーター出力(290kW/394ps→320kW/435ps ※B9 e-4ORCE)や、そのパワーを支えるタイヤとホイールの性能を活かすためにスプリング、フロントスタビライザー、リヤのショックアブソーバーなどに手が加えられている。段差などはきちんとストロークしつつも揺れを一発で収め、路面追従性を保つことで挙動を安定化させ、トラクションを確保していることを実感できた。

乗り心地は相応にスポーティなものではあるが、資料によると車重が500kgも軽い「スカイライン NISMO」と同等のしなやかさも実現しているとのこと。後席にも試乗したが前席と同じ乗り心地で、発売当初のB6 limitedで指摘されていたような「後席での突き上げ感がきつい」などといった不満は感じなかった。

リヤシートは6:4の分割可倒式、フロントシートと同じ表皮を採用している。

なおモーターはスタンダードモデルと同じ(モーター型式AM67)だが、インバーターの出力を上げて10%のパワーアップを果たしている。その向上分は80km/h以上の速度域で発揮されるので、高速道路での追い越し加速などで体感できるはずだ。

ミシュラン製の専用タイヤはパターンノイズが多少大きめに感じられた、一般道での試乗が叶ったら改めて確かめてみたい。航続距離は前述のように外装の専用装備によるCd値の低減によるプラス面よりも、タイヤの転がり抵抗の増加分によるマイナス面が上回っているそうで、目安としてはスタンダードモデルから最大でも10%以内の短縮(B6で390km、B9で520kmほどの予測になる)を想定しているそうだ。

「匠ドライバー」神山氏のドライビングを体験!

さらに、試乗会の現場にいらっしゃったアリアNISMO開発ドライバーの神山さんに運転をお願いしたところ快諾いただき、同乗できた。そしてこのクルマがもつ「本来の性能」を体感することになった。

神山さんならではの速度で駆け抜けるS字やスラローム区間は、車重2.2トンで背の高いSUVボディを持つとは思えないほどの旋回性能で文字通りヒラリヒラリとクリアしていく。ハイスピード(神山さんによると7割くらいの力加減)のスラロームでも、同乗していて抜群の安定感を確認できて、タイヤが鳴くことさえなかった。

ホームストレートの手前にある2つの左コーナーも「高速道路」を走るような速度で旋回しても安定したまま、まさにオンザレールのコーナリングだ。出口に向けた加速ではNISMOがチューニングした「専用e-4ORCE制御」が効いている。この制御はスタンダードモデルのフロントタイヤへの駆動力配分を減らし、その分リヤの駆動力を上げることで、フロントタイヤのコーナリング性能に余裕を持たせつつ、リヤからの気持ちいい蹴り出し加速を実現するというものだ。

日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社 カスタマイズ事業部 カスタマイズ開発実験部 第1実験評価グループ 神山幸雄氏。

試乗後、NISMO担当者からも聞いたように、この車の真の実力を満喫するにはサーキットイベントなどに参加するのがよさそうだ。なお、筑波サーキット(TC2000)のラップタイムは1分8秒とのこと。車重があるため、あの「GT-R NISMO」よりもハードなコーナリング時の横Gを受け止めてのタイムであり、SUVとしては抜群の速さといえるだろう。

ベースモデルの注文受付も再開

アリアNISMOの正式な発表(6月発売予定)と併せて、現在受注停止となっている「B6」をはじめとするベースモデルの注文受付を、3月下旬から再開することも発表された。

バッテリー容量66kWhの「B6」、91kWhの「B9」に、FWDモデルとAWDの「e-4ORCE」が用意されるのは従来通り。さらに「B9 e-4ORCE プレミア」と名付けられた最上級グレードが揃うことになる。アリアNISMOとともに価格表にまとめておく。

日産アリア価格表(税込)

グレードバッテリー容量価格
B666kWh659万0100円
B991kWh738万2100円
B6 e-4ORCE66kWh719万5100円
B9 e-4ORCE91kWh798万7100円
B9 e-4ORCE プレミア91kWh860万3100円
NISMO B6 e-4ORCE66kWh842万9300円
NISMO B9 e-4ORCE91kWh944万1300円

装備変更などの詳細は未確認だが、今まで539万円だったB6が約660万円と、B6 limited(660万円)と同じような価格になっているのが気になるところ。アリアNISMOについては、いわば、欧州プレミアムブランドのSUV電気自動車と真っ向勝負の価格帯となる。アリアNISMOの商品企画を担当した饗庭貴博氏(日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会ニスモ商品戦略・企画部チーフプロダクトスペシャリスト)に聞くと「(風格と電撃のクロスオーバーを具現した)上質さと気持ちのいい走りを高次元で両立しているアリアNISMOの価値を理解してくれるお客様にお届けしたい」とのことだった。

饗庭貴博氏のプレゼンテーション。

アリア NISMOは、専用の内外装パーツを装備するだけでなく、タイヤとホイールも専用品、モーターも出力アップ、ブレーキパッドも強化、e-4ORCEにも手が加えられている。この内容でスタンダードモデルのプラス120万円〜140万円の値付けはむしろ安いと言えるのかもしれない。生産を担当している栃木工場との調整を実施し、供給量はこれまでよりも増えるとのことだが、アリア、そしてアリア NISMOを手に入れたい方は早めにオーダーを入れた方が良さそうだ。

取材・文/烏山 大輔

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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