自動車問題の究極の解決策はEV
2023年9月25日、日産自動車の子会社、欧州日産がニュースリリースを更新し、「Nissan counts down to electric-only sales in Europe」と題して、今後はヨーロッパに投入する新型車はすべてEVにし、2030年にまでにヨーロッパでは全車種をEVにするカウントダウンが始まったことを発表しました。
発表の中で日産は、EVを「究極のモビリティーソリューション」と位置付けています。現代のモビリティーの課題を解決するもっとも適切かつ合理的な方策がEVにある、と考えていることになります。
ニュースリリースで日産の内田誠・社長兼最高経営責任者(CEO)はこう述べています。
「再生可能エネルギーをエネルギー源とするEVは、長期ビジョン『Ambition2030』の中核であるカーボンニュートラル達成のための鍵となります。日産は2030年までに欧州で完全電気自動車に切り替える予定です。私たちは、それが日産のビジネスと顧客、そして地球にとって正しいことであると信じています」
長期計画を前倒しして目標を拡大
日産は2021年に発表した2030年までの長期目標『Nissan Ambition 2030』の中で、2030年までに15車種のEVを市場に投入し、グローバルでの電動車(PHEV、HEV含む)のモデルミックスを50%以上にすることを宣言していました。
その後、2023年2月27日に電動化の推進戦略を更新し、2030年までのEV投入数を19車種に増やし、モデルミックスでの電動車の割合の目標を55%にしました。
同時に2026年までの地域ごとの電動化率も引き上げています。
欧州:98%(←75%)
日本:58%(←55%)
中国:35%(←40%)
米国:2030年度までにEVのみで40%以上(変更なし)
(かっこ内は当初目標)
この時にはEV単体での目標はアメリカしか出ていなかったのですが、今回は、ヨーロッパ市場で100%をEVにするという具体的な数字を掲げています。ちょっと急展開です。
ヨーロッパの自動車市場でEVが急伸
ヨーロッパ市場でEVを100%にする目標を設定した背景には、EU議会やヨーロッパ各国で議論が進む、内燃機関(ICE)モデルの販売禁止の動きや、EV市場の拡大が背景にあると思われます。
今回のニュースリリースで欧州日産は、「多くの国で、いつ内燃機関の販売を禁止するかが議論されている中」で、100%EVに向けた計画を進めていると説明しています。
気候変動対策を喫緊の課題としているEUでは欧州議会が、2035年にICE車を全面禁止にする法律を承認した後に、欧州委員会などがCO2フリーの合成燃料(e-Fuel)に限って使用できることに合意。目標設定に関する議論が続いているものの、EVを気候変動対策の中心に置く方針に変化はありません。EUに隣接するイギリスも、当初目標の2030年が2035年に延期はされたものの、ICE車の全面禁止の旗は降ろしていません。
さらにACEA(欧州自動車工業会)が2023年9月20日に発表したデータによれば、8月に前年比21%増と拡大したEU域内の自動車市場で、EVの登録台数が前年比118.1%増と大きく伸びています。
これにより8月の燃料別市場シェアは、EVが21%、ガソリン車が32.7%、HEV(ハイブリッド車)が23.9%、PHEV(プラグインハイブリッド車)が7.4%、ディーゼル車が12.5%になり、EVがHEVに迫る勢いです。
とくにドイツでは、EVのシェアが31.7%となり、27.6%だったガソリン車を初めて超えました。
2022年8月のシェアは、EVが11.6%、ガソリン車が38.7%だったので、EVの伸びが顕著なのがわかります。なお2023年7月のEVのシェアは13.6%だったので、1か月で急伸したことになります。
登録台数も増えていて、8月単月では16万5165台、1~8月では100万台近くになっています。
欧州市場で急加速するEVの動きに対応
市場の動きは欧州日産のニュースリリースでも触れていて、「2018年から2022年までの5年間で、EVおよび電動車両の販売は市場全体の5%から44%に増加し、BEVの販売は市場全体の1%から12%に増加」し、「欧州の自動車市場は急速に進化した」と評価しています。
さらに、現状でEVは、欧州での日産の総売上高の16%を占めていて、HEVを含む電動車に占めるEVの割合は今後3年間で98%に上昇すると予想しています。つまり、電動車のほとんどがEVになる可能性があるわけです。
こうした現実がある以上、イギリスに本拠地を置く欧州日産がより一層、EVを重視するようになったのは自然な流れだと思えます。もちろん日産に限った話ではなく、欧州メーカー全体に同じことが言えます。
ちなみにPHEVの市場は、2022年8月の8.5%が、2023年8月には7.4%に縮小しています。新規登録台数は5.5%増だったものの、自動車全体の登録台数の伸び率に追いついていません。オランダ、フランス。スウェーデンなどではプラス成長になったものの、ボリュームの多いドイツでは41.1%減になったと、ACEAのリポートでは指摘しています。
コンパクトEVの市場投入も間近
日産は、長期計画『Nissan Ambition 2030』の中で、電動化に向けて2兆円を投資することを決定しています。その一環として、イギリスに本拠地を置く日産デザイン・ヨーロッパ(NDE)と日産テクニカルセンター・ヨーロッパ(NTCE)では4000万ユーロ以上の投資計画が進行中で、設備の更新、リソースのアップグレード、人員増などを進めています。
またNTCEでは電動化プロジェクトに2600万ユーロ(約41億円)を投資して最新設備の導入をしつつあります。
4000万ユーロを投じる開発計画の中では、コバルトフリー技術を活用して2028年までにEV用バッテリーのコストを65%削減することや、独自の全固体電池を搭載したEVを2028年までに発売する目標、将来的にバッテリー価格をkWhあたり65ドルまで下げることなどが含まれています。
65ドルになれば、ガソリン車と同等の価格設定にできるそうです。筆者的には、リン酸鉄でもいいのでもう少し下がったりしないものだろうかとか、SCiBのように長寿命のバッテリーが出てきたりしないだろうかなどとも思うのですが、これは個人の願望です。
また欧州日産は、コンパクトEVの導入も決定しています。ベストセラーになった『マイクラ』(日本名マーチ)の新型はEVになりそうです。
今回の電動化プロジェクトの発表の中で、欧州日産は、新型EVのコンセプトカー『コンセプト 20-23』をお披露目しました。2ドアのホットハッチのような外観なので、新型マーチなのではないかという見方もあるようですが、詳細は不明です。10月のジャパン・モビリティー・ショー(旧東京モーターショー)で何か出てくるかもしれないと思いつつ、100%EV化はヨーロッパの話なので日本での展示はないとも思えます。
そういえば日産とルノーは2023年7月26日に、これまでの提携関係を見直して、ルノーの日産に対する出資比率を43%から15%に引き下げるとともに、ルノーが設立予定のEVとソフトウエアの新会社『アンペア』に日産が最大6億ユーロ(1ユーロ156.22円で約937億円)を出資することで合意しています。
そしてルノーは、2024年に『ルノー 5』をEVで復活させる計画を発表しています。
今回の『コンセプト 20-23』との関係はわかりませんが、同じくらいの車格なら共通する部分はいろいろありそうです。かなり楽しみです。『FIAT 500e』の強力なライバルになりそうです。
というように、欧州市場は議論を継続しながら次世代モビリティーの導入に向かって歩みを止めていません。昭和と変わらない旧来の政治と政策の中で、失われた〇〇年がどんどん伸びている日本とのコントラストがはっきりしています。
ようやく秋の空気を感じるようになってきた中、今回のような発表が日本でも早く出てきてほしいなあと思う今日このごろです。
文/木野 龍逸