EV充電カード「日産ZESP3」サービス内容改定/3年定期割引はなくなります

日産自動車が電気自動車用充電カードを発行する「日産ゼロ・エミッションサポートプログラム3」のサービス内容改定を発表しました。一定時間の急速充電が含まれるプレミアムプランの3年定期契約割引が廃止され、課金方法が10分単位から1分単位に変わります。

EV充電カード「日産ZESP3」サービス内容改定/3年定期割引はなくなります

月額基本料金の割引がなくなり実質的な値上げ

2023年5月17日、日産自動車がEV充電カードを発行する「日産ゼロ・エミッションサポートプログラム3(ZESP3)」のサービス内容と料金設定の改定を発表。併せて、日産ディーラーなどでZESP3を利用して急速充電する場合の電力を100%再生可能エネルギー化することを発表しました。新たな料金への変更は2023年9月1日からとなります。

ディーラーなどの急速充電電力が再エネ100%になれば、そこで充電したEVは文字通りCO2排出なしで走れることになるので、カーボンニュートラル達成に向けて前向きな取り組みであることが評価できます。

一方、EVユーザーとして気になるのはサービス内容と料金の改定です。まずは、従来のZESP3と改定後のプランと料金の表を確認して、ポイントをピックアップしておきましょう。

新料金

旧(現行)料金

●3年定期契約の月額基本料金割引を廃止

今まで、一定の急速充電を含む「プレミアム」プランでは、3年定期契約をすると1,650円/月の割引があり、10分の急速充電回数10回を含む「プレミアム10」の場合で、4,400円(税込)の月額基本料金が2,750円、3年間で5万9,400円お得になる仕組みでした。今回の改定で割引が廃止されることで、月額基本料金が実質的な値上げになります。

●急速充電の課金単位が「10分」から「1分」に

従来のZESP3の場合、急速充電への課金単位が10分間となっていました。これは、急速充電はある程度充電が進むと効率が落ちる特性があり、10分、20分という切りのいいところで充電を切り上げることを促進し、限られた急速充電インフラをみんなで活用しようという意図を込めた施策でした。でも、ユーザーから不評の声もあり、1分単位とすることでユーザー各自が自由度の高い急速充電器利用ができるようにするための変更です。

課金単位の変更を受けて、プレミアムプランの名称が「10→100」「20→200」「40→400」に変更となりますが、割引なしの月額基本料金は同じです。

●シンプルプランの料金が倍増

一定時間の急速充電無料を含まない「シンプル」プランは、月額基本料金、急速&普通充電の都度料金ともにざっくり倍額への値上げになりました。これは、7月1日から変更されるe-Mobility Power(eMP)の料金改定の影響だと思われます。念のため、eMPの新料金についても後述します。

●「プレミアム」の普通充電無料に上限を設定

今までのプレミアムプランの場合、普通充電は「どれだけ使っても0円」だったのが、全プラン共通で600分の上限が設定されます。つまり10時間。宿泊施設で1泊して充電する程度までは月額料金内(実質無料)という仕立てです。

●加入できるのは日産車(EV)オーナーのみに変更

日本でEVを発売していても、独自の充電カードを発行していない自動車メーカー(ブランド)は少なくありません。今まで、ZESP3はメーカーや車種を問わず加入することが可能で、充電カードがないメーカー製EVオーナーが充電カードをもつ場合、eMPカードかZESP3かという実質二択(JTBのおでかけカードもありますが、少数派)になっていました。コストパフォーマンスはZESP3のほうが良かったので、テスラやヒョンデ、ステランティスグループなどのEVオーナーには、ZESP3カードを所有している方が少なくありません。

でも今後は、eMPカードを作るか、割り切ってカードは持たず、都度認証してビジター使用するかという選択を迫られることになります。

3年定期契約できるのは5月31日まで

さらに、ニュースリリースを一読したところいくつか疑問点があったので、日産のご担当者に確認してみました。ポイントを整理して紹介します。

●3年定期契約の新規申込は5月31日で終了

ZESP3への加入は、ディーラーなどで新しいカードをもらい、専用のウェブサイトで申し込みを行います。前述のように9月1日から新料金になりますが、3年定期契約の新規申込は5月31日で終了。6月1日以降の新規加入者は割引なしの月額基本料金しか選択できません。

●現在の契約カードの都度料金なども変更になる

すでにZESP3を所有していて3年定期契約(または5月31日までに新規加入)している場合、契約期間満了までは月額の割引が継続されます。ただし、都度料金などは新料金へ変更。普通充電無料にも600分の上限が適用されることになります。

ZESP2とZESP3は契約そのものが異なるプログラムだったので、月額2000円で急速充電は使い放題という恩恵が5年間の契約期間いっぱいまで有効でしたが、今回は少し仕組みが違います。

●法人契約は引き続きOK

ZESP3に法人で加入しているケースも多いと思います。ニュースリリースでは法人契約について言及がなかったのですが、引き続き法人契約は可能。ただし、現状で月550円(税込)の追加カード月額料金は、新料金の2,200円(税込)に値上げされます。

気になるポイントも聞いてみました

せっかくZESPご担当者にお話しを伺う機会だったので、いくつか気になったポイントについても質問してみました。

●20分1秒とかで終了しても21分の料金になる?

急速充電時、単位分数を超えて半端な秒数のところで自動的に充電が終了してしまうことがあります。たとえば、20分1秒とかで終了してしまった際に、21分の料金がカウントされてしまうのは、ユーザーとしてはすごく損した気持ちになってしまいます。

この点、日産としては「充電器や認証器のログに基づいて計算している」ということで、何秒経過すると分数が加算されるのかといった仕組み充電器や認証器のメーカーに確認するしかありません。新電元やABB、東光高岳などに、また何かの機会で確認してみたいと思います。

●従量課金は採用しない?

時間ではなく充電できた電力量(kWh)に応じた従量課金や、充電終了後も充電区画に車両を放置することへのペナルティ課金ができないものかという話もしてみました。

このあたりはそもそもインフラネットワークや課金システムの大元であるeMPがどうするか、ではあるのですが。日産のご担当者も大切な課題と考えているとのこと。従量課金については「制度としては進展しつつあるものの、具体的な計量器の仕様や課金システムの対応が整っていない」という現状認識が説明されました。

また、従量課金にした場合、充電出力が落ちても無意味に粘るユーザーが多くなるといった懸念もあり、駐車料金のような時間課金を併用するといった工夫が必要になることも想定できます。

ことに充電後放置など、限られた急速充電インフラの活用については、ユーザー側にも正しく使う知識やマナーを共有していくことが大切です。

そもそも、がんばれ! eMP です

ZESP3で利用できるのは、eMPネットワーク加盟の充電器。ZESP3をはじめ、自動車メーカー各社の充電カード料金は、基本的にeMPカードの料金設定をもとに設定されています。

前述のようにeMPカードの料金は2023年7月1日から改定されることが発表されています。eMPの新料金で気になるのが、ビジターの急速充電都度料金が、最大出力90kW以上が77円/分、50kW以下は55円/分と、出力別に設定されていることです。でも、この料金に紐付いていると思われるZESP3シンプルプランの急速充電都度料金は99円/分で、出力別になっていません。

出力別料金設定は従量課金などと同様に日本の充電インフラ改善方法としての懸案ではありました。eMPの新料金では90kW以上で高額になるわけですが、ちょっと心配な点があります。

今、eMPが設置拡大を進めている最大90kWの急速充電器は、ニチコンのマルチプラグ器(200kWの電源を4〜6口でシェア)や新電元の2口器など、1台だけで充電する際は最大出力90kW(200A)でも、複数台が同時に充電すると50kW(125A)以下に出力が制限されたり、最大出力が15分しか継続しないブーストモードを採用していたりします。

こうした「なんちゃって90kW器」に、ビジター利用で高額な料金を払うのはユーザーとしてやや納得しかねる気持ちになるのが否めません。また、90kW 2口器に辿り着き、1台だけの最大出力で充電を始めたのに、数分後、別のEVが充電に入ってきたら「(同時充電すると最大50kWに落ちてしまうので)やめてくれ〜!」ってな思いを抱いてしまいそうです。

ことに高速道路SAPAへ、EV普及を見据えて十分な数の高出力器複数台設置推進とともに、従量課金、充電後放置対策などを含めた合理的な「仕組み」の構築について、「もっとがんばれ! イーモビリティパワー」という思いを提示しておきます。

さらに、そもそも急速充電はEVにとって重要な性能の一部です。日産をはじめeMPに出資もしている国内自動車メーカーには、自社EVの利便製(性能)向上のためにも、お金も口も出していただいて、ユーザー本位の充電インフラ構築を目指して欲しいとお願いしておきます。

私はZESP3に切り替えてみました

ともあれ、ZESP3の料金改定によって、日本でEVを所有する場合、充電カードの月額4000円程度の基本料金が必須になるという現実は受け止めなければいけなくなりました。メーカーによって最初の1年は無料といったサービスはありますが、eMPカードの新料金、月額4,180円がベースになるということですね。

そもそも、なぜ月額料金が必要なの? という根本的な謎があるのですが……。ぼやいていても月額料金が安くなるわけではありません。

個人的に、2018年末に日産リーフを購入した私は、当時加入したZESP2(月額2000円)が今年の12月で契約満了になります。そろそろEVの買い替えも考え始めていて、次はZESP3にするかと思っていたところに、今回の料金改定と3年定期契約割引廃止のニュースです。

すでにディーラーからZESP3のカードはもらってあって、取材時など充電カードがないEVで使うためにシンプルプランで登録はしていたのですが、取り急ぎ、プレミアム10の3年定期契約に変更しました。

3年先、2026年5月までの月額基本料金累計は、今年12月までZESP2を継続して新料金でZESP3に加入する場合が14万1,600円。6月からZESP3に変更してZESP2を解約する場合が9万9,000円で、4万2,600円安くなる計算になります。

本来はZESP2が使える12月までに、急速充電を900分(15時間!)とかすると損してしまうことになりますが、まあ、あまり気にしないことにします。

インフラそのもの拡充はもちろん、課金システムなどを含めて、日本のEV社会が健全に発展することを願っています。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)6件

  1. 当家兼事務所のi-MiEVが買替え時期となり次期作業車をサクラ・eKクロスEV・リーフ中古のどれかで悩んでましたが…この話を知り候補はeKクロスEVへ一本化です。個人事業主につきeKクロスEVビジネスパッケージ入手可能、最廉価確定です。
    日産も売上利益不足かつEV充電インフラ投資で無理がきてるから値上げやむなしと思います。ただでさえ大出力充電が多いうえ、インフラ屋目線でも数百万円もする高圧受電設備設置イニシャルコストに加え、月間数十万円の高圧受電基本料金や月間数万円の電気管理技術者業務委託などのランニングコストもバカになりませんよ。ようやく適正料金になった感もあります。
    これからの充電インフラはエネチェンジなど目的地普通充電サービス拡充が主流になるんやないですか!?電気主任技術者国家試験の法規系問題にも需要率や平均率など効率的な電力運用指標があり、急速充電インフラの平均使用率は普通充電に比べて相当悪いですよ。急速1日30分8回としても4/24=0.167、方や普通充電1日8時間1回とすれば8/24=0.333…業界的にもどっちが良いかはすぐピンときますよ。

  2. 感覚的には2倍の値上げですね。特にシンプルプランは「誰が入るの?」と言いたくなります。
    プリウスや燃費の良い軽自動車が売れるでしょうね、EVの代わりに・・
    日産が自分で自分の首を絞めているのか、あるいはどこかの陰謀か?・・とまで思えてしまいます。

  3. これまでの充電し放題ZESP2が良すぎたのかもしれませんが、EVに乗り換える一番の魅力だったのですが、ガソリン車と同等の出費になるのが今後迷うところです。
    冬場の毎日急速充電を1回やることで計算しましたが、20km/lのガソリン車と同等の金額になりました。
    長距離ユーザーにはとても経済的な車だったのですが、燃料費がガソリン車と同じになってしまったら車両価格を考えるとガソリン車で少し良い車が買えちゃうくらいの価格のEV車とを比べたらガソリン車やHVに軍配が上がりそうですね。
    一般家庭の電気料も値上げが始まったら家充電もできなくなってしまいます。
    数日に1回の充電で済む方なら乗っていられるかもしれませんが、長距離ユーザーは乗り換えが必須になるかもしれません。

  4. ZESP3の3年契約終了はマンション住まいの私にとっては影響は大きいですが、昨今の電気料金値上げを見るとやむを得ないとは感じます。むしろ今回の実質値上げよりも、今後の電力料金変動に備えた動きと考えると更なる値上げも覚悟しなければなりません。
    そういう意味でも分単位での課金や従量制料金は誰しもが感じている課題ですので納得感のある料金体系は早期の実現を望みたいと思いますし、そのためには放置を抑制するような電気料金に占有料金を一部加算する仕組みも必要だと感じますし、その部分は金額的にわずかであっても場所の提供者へ還元に加えられるのであれば理解しやすいと感じます。
    再エネは買電が大きな比重を占めるのだと思いますが一部の店舗であってもディーラーや工場などへのソーラーパネルなどが実際に設置されれば視覚的なアピールにもなり、再エネ使用に現実感があります。合わせて複数台数の充電対応も進めていただければ、再エネ充電と合わせてディーラー充電の抵抗感が小さくなります。
    ZESP3加入の車種限定は、ディーラー充電での政策展開がしやすくなるでしょうし、BEVの増加など街中での充電需要の高まりを肌身に感じでいますのでユーザーニーズとマッチできる政策に期待します。

  5. 私はZESP2が約一年残ってます。
    今月中にZESP3に切り替えてしまって、さらにZESP2を解約しないで四年後までの支払いを計算すると、一年後にZESP3にするより安くなる計算となりました。解約すればもっと安くなるのは間違いないのですが、往復60kmの通勤のため保険が欲しいので悩みます。
    サクラとリーフ二台待ちだから悩むことが出来るのですが。サクラ用にシンプルプランで契約済みでしたし。
    サクラ用に中速機専用のプラン、出来ませんかね?

  6.  価格改定後のテスラスーパーチャージャーの料金は、充電電力によって4段階に価格が変わり、実感としては40円/1kwh位に落ち着いています。とても現実的で遠乗りの際は利用させてもらっていて、他の充電カードなく有料ビジター充電もなく何年も過ごせています。

     国産充電インフラで充電電力に応じた課金をすると、高性能充電器に受け入れ能力が低い電気自動車が接続してしまう問題があります。もっと充電器の性能を上げて、1000kwh位の充電器から20口位にシェア出来る充電器を設置出来ると電力に応じた課金がしやすいと思います。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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