東名300km電費検証【14】日産『サクラ』/全項目で最高電費を記録〜街乗りがベストな6つの理由

市販電気自動車の実用的な電費(燃費)性能を確かめる「東名300km電費検証」シリーズ。第14回は日産『サクラ』で実施した。BEVとしては圧倒的に軽い車重をいかし、最高記録を塗り替えてみせた。

東名300km電費検証【14】日産『サクラ』/全項目で最高電費を記録〜街乗りがベストな6つの理由

【インデックスページ】
※計測方法や区間などについては、下記インデックスページ参照。
電気自動車の実用燃費「東名300km電費検証」INDEXページ/検証のルールと結果一覧

80km/h巡航なら約200kmの航続距離性能

サクラはXとGの2グレード展開、現在はXをベースとした90周年記念車もある。この2つのグレードはざっくり言うと、Gにはナビやプロパイロットが標準で、Xはオプションという装備の違いがある。価格はGが308万2200円、Xが259万9300円と48万2900円の差があるが、バッテリーやモーターなどのBEVとしての主要機構は変わらない。

今回の検証の注目点は、ちょうど1年前の7月に行った三菱「ekクロスEV」と同等の結果になるのかどうかだった(正直、最高記録の更新は期待していなかった)。

カタログスペックである一充電走行距離180kmを、バッテリー容量の20kWhで割った目標電費はジャスト9km/kWhになる。7月某日、計測日の外気温は最高31℃、電費検証に臨んだ深夜は21℃~23℃だった。

各区間の計測結果は下記表の通り。目標電費を上回った区間を赤太字にしている。

【今回の計測結果】

目標電費を超えたのは、往路のD区間、復路と往復のBとC区間の計5区間だった。往復では80km/hが9〜10km/kWh台、100km/hが7km/kWh台、120km/hが5km/kWh台と、これまでの計測で最も速度による数字の開きが大きく、高速化に対する電費の悪化が顕著だった。

また、初めて往復電費が10km/kWhを超えた。それがB区間だったので、この検証の条件の中では、サクラは「平坦な80km/h巡航」が最も電費が伸びると言えそうだ。

【巡航速度別電費】

各巡航速度の電費は下表の通り。「航続可能距離」は実測電費にバッテリー容量をかけた数値。「一充電走行距離との比率」は、180kmとするカタログスペックの一充電走行距離(目標電費)に対しての達成率だ。80km/hの電費は、80km/hの全走行距離(97.4km)をその区間に消費した電力の合計で割って求めている。100km/hと総合の電費も同じ方法で算出した。

各巡航速度
の電費
km/kWh
航続可能距離
km
一充電走行距離
との比率
80km/h10.01200.2111%
100km/h7.71154.386%
120km/h5.85116.965%
総合7.51150.283%

やはり特筆すべき点は、すべての項目で過去最高を記録したこと。80km/h巡航がBとC区間の合算でも10km/kWh台に入ったことも初めてだった。

総合電費の7.51km/kWhで計算すると、満充電からの実質的な航続可能距離は約150kmになる。100km/h巡航もほぼ同等の約154km。80km/h巡航であればカタログスペック(WLTC)の一充電走行距離を超える約200kmを走り切れる結果になった。

巡航速度比較では、80km/hから100km/hに速度を上げると23%電費が悪化する、さらに120km/hまで上げると42%減とほぼ半分になってしまう。1年前のekクロスEVではそれぞれ27%と44%だったので、少し差が縮小した。反対に120km/hから80km/hに下げると航続距離を約1.7倍(171%)も伸ばすことができる計算になる。

ベースの速度比較する速度比率
80km/h100km/h77%
120km/h58%
100km/h80km/h130%
120km/h76%
120km/h80km/h171%
100km/h132%

ここで1年前のekクロスEV(外気温:24〜26℃)と比較してみる。

サクラekクロスEV電費差
km/kWh
航続可能
距離の差
km
80km/h電費10.019.110.90
航続可能距離200.2182.218.0
100km/h電費7.716.631.08
航続可能距離154.3132.621.7
120km/h電費5.855.100.75
航続可能距離116.9102.014.9
総合電費7.516.580.93
航続可能距離150.2131.718.5

80km/hや100km/hで電費がおおよそ「+1km/kWh」も良くなっていることが大きい。この差が生じた要因として考えられるのは、今回のサクラの広報車が今年6月4日に発売されたマイナーチェンジを受けた車両、かつ登録したての新車だったこと。マイナーチェンジの内容はバックビューモニターを標準化、Gグレードのシートヒーターを助手席にも拡大などとプレスリリースで発表されており、性能向上の内容はないと車両受取時にも確認している。

しかし、(公表はしていないが)スペック表の数字には表れないランニングチェンジが行われた可能性はあるし、パーツ製造や車両組立時の成熟度は間違いなく向上しているだろう。そういった見えない部分の性能向上がこの結果に結びついたのかもしれない。

ACCで120km/h走行はできない

東名300km電費検証では、毎回同じ区間を3つの速度で定速巡航する。そのため巡航中は基本的にACC(アダプティブクルーズコントロール)を使用し、さらに交通量の少ない深夜に行うことで、渋滞に遭遇する可能性を極力低下させ、ブレがでないよう留意している。

サクラのACCはステアリングホイールの右スポークにあるスイッチで操作する。水色の「プロパイロット」スイッチを押してスタンバイ、「SET−」スイッチを押すと、その時点の速度でACC走行をスタートする。速度調節は「RES +」か「SET−」スイッチを押すごとに5km/hごとに上下させることができる(スイッチ長押しも同様)。先行車との車間距離設定は左側のスイッチで3段階から選択できる。ただしサクラのACC速度設定は115km/hまでなので、120km/h巡航はドライバーがアクセルペダルを操作する必要があった。

アリアで120km/h巡航でも手放し運転が可能な運転支援技術「プロパイロット2.0」(関連記事)を実現している日産だけあって、軽自動車であるサクラの「プロパイロット」でも、手放し運転こそできないが、車速コントロールと車線キープの能力は高い。道中で最もRがきつい鮎沢PA手前の300Rも難なく曲がり切った。

ドライバーがステアリングを持っているかどうかはトルクセンサーによる判定だが、ステアリングを持っているのに「持ってください」警告が出る頻度も、他社よりも低く快適だった。

ブレーキについては、踏み始めの反応が過敏すぎる。ブレーキペダルの踏み込み量10%に対して、制動力は30%も立ち上がるような感じだったので、ペダルの踏み込み量に対してリニアな制動力になるようにしてほしい。ACCによる停車はかっくんブレーキだった。

スピードメーター表示とGPSによる実速度の差は大きめの5~7km/hだった。実速度を100km/hにする場合は、メーター速度を106km/hに合わせる必要がある。

80km/h
巡航
100km/h
巡航
120km/h
巡航
メーターの速度
km/h
85106127
ACC走行中の
室内の静粛性 db
707171

巡航時の車内の最大騒音(スマホアプリで測定)は、80km/hが70dB、100km/hと120km/hが71dBだった。これまでは東名よりも路面がきれいな新東名での120km/hは、100km/h巡航よりも静かなことが多かったが、サクラは同じだった。これは120km/hだとドアミラーやAピラー、ルーフあたりからの風切り音が100km/hと比べて明らかに大きくなることが原因だと思う。

30分で10kWhの充電

サクラの急速充電は6回行った(1回目は検証に向けて、6回目は広報車返却に向けた「念の為充電」)。この6回の充電で分かったことは、充電開始時のSOCが30%前後までと低ければ、30分で10kWhほどを充電できること。逆に60%以上では同じ30分でも半分の5kWhほどの充電にとどまってしまうことだ。SOCが低ければ、最大30kWの車両の充電性能をきっちりと発揮することも確認できた。10kWhの充電は、検証結果の総合電費である7.51km/kWhでは約75km分、80km/h巡航の10.01km/kWhであれば約100km分を補給できたことになる。

充電結果

●クリックすると拡大表示します。
※「外気温」は車内メーター表示の温度。
※「充電時最大出力」は、車両もしくは充電器で確認できた数値。
※「航続距離表示」は、エアコンオフ時に確認。
※「SOC推計充電電力量」は、充電前後のSOC値から算出した電力量。
※「充電器表示充電電力量」は充電器に表示、もしくはアプリなどに通知された電力量。

サクラが最近の他車での検証と異なっていたのは、120km/h巡航のE区間の往復を確実に走破できるか不安なため、往路終わりで充電が必要になることだった。片道47.8kmのE区間でのSOCの減りは、往路で46%、復路で50%だった。E区間往路手前の駿河湾沼津SA下りでSOC 82%まで充電できたが、折り返し地点の新静岡IC到着時点でのSOCは36%で、このままでは復路を走破できないので、50kW器がある日産・昭府店に立ち寄った。

これはサクラの120km/h巡航電費が悪いこと、20kWhとバッテリーが小さいことによる事態だが、クルマは悪くない。こんな走り方をしなければいいだけのことだ。

なお、広報車の引き取り、電費検証の実施、返却までに4〜6回の充電が必要なことからも(他車は1〜2回の充電で十分)、長距離走行には向いておらず、自宅で充電を行う街乗り専用車として活用するのが良いことがうかがえる。

タイヤ・ホイールは15インチ

タイヤとホイールは4.4万円のオプションである15インチ。タイヤサイズは前後ともに165/55R15、メーカーはブリヂストン、商品名はECOPIA EP150だった。標準サイズは155/65R14で幅が10mm異なるがスペック表に記載の一充電走行距離に変化はない。

やはり街乗りベストの電気自動車

ヒョンデ「KONA(コナ)のカジュアルグレード(車重1650kg)に更新されるまで、80km/h、100km/h、総合の3つの電費は三菱「ekクロスEV」がトップだった(120km/hはEQSセダン、車重2560kg)。そして今回、サクラが「兄弟車」の仇をとり、120km/h電費も含めた全項目でトップに立った。これは1090kgと圧倒的に軽い車重が奏功していると思う。

KONAカジュアルの検証レポート

EQSセダンの検証レポート

さらに軽自動車としては格段に大きい195Nmのトルクによって、アクセル開度を大きくしなくても速度を上げられることが電力消費を抑えることにつながっているのではとも考える。ACCが作動しない120km/h区間では、アクセルを踏んで車速をコントロールするが、この大トルクのおかげで楽に速度を維持できた。

ただし、速度上昇による電費の悪化も過去最大だった。これはタイヤの外径が小さいため、同じ速度でもサクラはKONAカジュアルの約1.23倍、EQSセダンの約1.32倍もタイヤの回転数を上げなければならないことが一因だと思う。

そんな中でサクラの「真価」を思い知ったのは、広報車を返却に行った時だった。20kmの混んだ真夏の下道を、1時間13分もかかり、もちろん冷房はかけた状態で走っても電費10km/kWhを記録した。つまりこの数値なら一充電走行距離の180kmを超える200kmを走行できることになる。この素晴らしい電費性能こそがサクラの魅力であり、「街乗り」に関しては扱いやすいサイズも含めて現状でベストなBEVだと実感できた。

ドライバーディスプレイの写真、中央に電費表示がある。安全に停車できる場所まで移動し撮影した瞬間に9.9km/kWhになった。

街乗りがベストであり、高速道路での長距離走行には向いていないと感じた6つの理由を列記しておく。
●急速充電は30分で10kWhしか入らない=時間課金制度では圧倒的に不利。
●高速走行すると電費が極端に悪くなる。
●高速道路では実質的に100kmごとくらいで充電を考える必要がある。
●ACC速度設定が115km/hまでなので、120km/h(メーター速度127km/h)に合わせることができない。
●100km/hまでと比較して120km/hは風切音が途端に大きくなる。
●大型トラックの横を通過する際や横風で影響を受けやすい。

ただサクラはそれでいいと思う。街乗りベストに割り切られた設計なのでなんの問題もない。セカンドカー、サードカー需要にもってこいの1台だ。

日産とホンダに三菱も加わり、電動化の技術革新を進めていくことが発表された。各社でパーツを共通化し量産効果によるコスト削減ができれば、最大のユーザーメリットになるのではないだろうか。そこにトヨタ連合が加わってもいい。バッテリーやモーターには、VTECやVVT-iのようなエンジンの個性はないし、街乗り車にそんな個性は必要ない。

自動車業界に訪れた100年に一度の大変革期に、グローバルでは従来の自動車メーカーの枠を超えた強力なライバルと戦う必要があるのなら、オールジャパンで立ち向かった方がいいのではないか。各社の個性は内外装デザインとインフォテイメントシステムなどで出せばいいだろう。

そしてファーストカーだけで全てを満たしたいという需要に応えるためにコンパクトな和製BEVの登場も待たれているのではないかと思う。日産には「リーフ」があるが全長は4480mmと少し大きい。「ノート」(全長4045mm)やホンダ「フィット」(同3995mm)、トヨタ「ヤリス」(同3950mm)くらいのサイズで、一充電走行距離300〜500kmくらいのクルマが出てくれば、日本のみならずグローバルでも台数が出る大本命になるのではないだろうか。

フィアットからはもうすぐ「600e」(全長4200mm、一充電走行距離493km)が日本に投入される。BYD「ドルフィン」(同4290mm、同400〜476km)は、2021年8月に中国で発売を開始し、わずか2年4ヶ月の間にグローバルで約53万台がデリバリーされている。

日本メーカーの協力による、コスパに磨きをかけた「軽EV」と、グローバルで勝負できる「コンパクトEV」の登場を期待したい。

日産サクラG スペック
全長(mm)3395
全幅(mm)1475
全高(mm)1655
ホイールベース(mm)2495
トレッド(前、mm)1300
トレッド(後、mm)1295
最低地上高(mm)145
車両重量(kg)1090
前軸重(kg)590
後軸重(kg)500
前後重量配分54:46
乗車定員(人)4
最小回転半径(m)4.8
車両型式ZAA-B6AW
交流電力消費率(WLTC、Wh/km)124
一充電走行距離(km)180
EPA換算推計値(km)144
モーター型式MM48
モーター種類交流同期電動機
最高出力(kW/ps)47/64
最大トルク(Nm/kgm)195/19.9
バッテリー総電力量(kWh)20
急速充電性能(kW)30
普通充電性能(kW)3
駆動方式FWD(前輪駆動)
フロントサスペンションマクファーソン式
リアサスペンショントルクアーム式3リンク
フロントブレーキベンチレーテッドディスク
リアブレーキドラム
タイヤサイズ(前後)165/55R15
車両本体価格 (万円、A)308.22
CEV補助金 (万円、B)55
実質価格(万円、A - B)253.22

取材・文/烏山 大輔

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 軽EV はバッテリー容量が少ないので、街乗りメイン利用者がターゲット層だとは思いますが、安定感ある高速走行とコスパの良さで中距離(片道100km~300km)程度の外出にも充分使える気がしています。(実際に最近は観光地に中距離圏ナンバーの軽EV を見かける頻度が上がってきました) 特にエアコンの影響を受けにくい春秋はEVお出掛けベストシーズンです。
    兄弟車種による検証結果に差が出たのはとても興味深いですが一度ずつなので誤差程度のような感じがします。
    (充電器設置率の高い)高速道路を走行する際、サクラやeKクロス EVを時間課金制で30分フル急速充電する必要は無く、(低速になったら止める気持ちで)残量が多い時の予備充電なら5分10分位、10%程度に減ってしまっていても30分は無駄が多く20分程の急速充電がコスパ良い(長距離走行でも20分充電を100km前後で繰り返す方が充電所要時間や到着地までの総所要時間が短くなる)印象です。(急速で30分フル充電しても15kwh入ることはありません。)

  2. >グローバルで勝負できる「コンパクトEV」の登場を期待したい。

    三菱アイミーブMグレード(10.5kWh)がその「コンパクトEV」だったような気がします。
    私がMグレードで初めて急速充電したのは13年前です。最初のパーセント記録がないのですが、「航続可能距離表示」残り10km表示から始め、17分後には95%(114km表示)になりました。急速充電は17分で10kWh近く入ったということです。

    「空気抵抗は速度の2乗に反比例する」ため、速度を上げれば上げるほど電費は悪くなります。今日は久しぶりにMグレードで高速道路を走り、当然ながら時速80kmをキープしていました。そんな私のEVをあっという間に抜き去っていくエコカー車がいましたが、「その車の意味がないじゃん」と見送っていました。

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この記事の著者


					烏山大輔

烏山大輔

1982年生まれ、長崎県出身。高校生の時にゲームソフト「グランツーリスモ」でクルマに目覚め、 自動車整備専門学校を卒業後は整備士、板金塗装工、自動車カタログ制作、 自動車雑誌カーグラフィック制作、ALPINA総輸入代理店のNICOLEで広報・ マーケティングと一貫してクルマに関わる仕事に従事。 現在の所有車はインテグラ・タイプR、ハイゼットとガソリン車のみだが、BEVにもFCEVにもとても興味を持っている。

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